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第二十章 巨大な炎の人

金剛、白髪の祈祷師、そして若い三人の祈祷師が周囲の異変に気付いて振り返ると、ものすごい勢いで近付いて来る剣一、そしてその後を追う巨大な舌が目にとまった。三人は顔に恐怖の色を浮かべ、声を揃えて「あれは何だ」と言った。


 三人と剣一がバラバラになって逃げると、舌はなんと即座に四つ股に分かれ、四人をそれぞれ追い掛けた。若い祈祷師は黒煙に姿を変えようとした矢先、舌に巻き付かれた。彼は舌に引きずられロナの前まで連れて行かれ、大きな口を開けた頭に一口で飲み込まれてしまった。白髪の祈祷師は二筋の黒煙に姿を変えると、左右に分かれて逃げたが、舌は左側を全く構うことなく、右側だけに巻き付いた。死ぬ運命を悟った白髪の祈祷師は元の姿に戻り、目を閉じて「もういい!」と言うと、舌を道連れに自爆した。


 その後すぐ、金剛と剣一は氷織のいる方向の高台に向かった。金剛は逃げるためだったが、剣一は氷織を守るためだった。二人は玉座の階段を泳いで上がり、氷織と合流したが、火の壁に阻まれ、さらに上には行けなかった。


 氷織は絶望して首を振りながら言った。


「とっくに試したけど、この火の壁のエネルギーが大きすぎて、全然向こうに行けないのよ」


 三人はハアハア息を切らせ、玉座で沈思する炎はますます勢いを増した。


 剣一は急に顔を上げ、驚いて叫んだ。


「頭上を見ろ!」


 巨大な白い光球が空中で凝集し、光球の内部にはロナの陰鬱な声が響いていた。


「お前たちの運命はもう決まっている。わたくしの手から逃れられる者はいない、これで終わりだ!」


 「まだ終わらない!」


剣一は顔を上げ大声で怒鳴った。


「神殺第三式、無敵むてき閃電斬せんでんざん!」


 システムは警告を出し続けている。


「危険です!危険です!危険です!」


 ロナは眉を上げて冷笑すると、軽蔑した口調で言った。


「身のほど知らずが!」


 白い光が照らす中、剣一は突然その場で動きを封じられ、微動だにできなくなった。彼は剣を振りかざし突撃しようとする体勢のまま、内心ひそかに焦った。


「動けない、今度こそ本当にここで死ぬのか?」


 その時、剣一の背後の氷織と金剛も光に動きを封じられた。


 不気味な「ジージー」という音と共に、光球はますます大きくなっていった。突如炎が襲って来て、光球を散らし、中で術を施していたロナの姿が露わになった。剣一たちは自由を回復し、振り返って玉座を眺めた。バラバラになった光が玉座に座る炎の人の体で凝集すると、なんと炎の人が立ち上がり、バリアも消え去った。


 ロナは狼狽ろうばいして、


「なぜ彼は目を覚ました?」

と叫んだ途端、光電クラゲに姿を変えて酒に飛び込み、遠くへ泳ぎ去った。


 炎の人は大声で怒鳴って宮殿全体を三度揺らすと、素早く光電クラゲを追い掛けて行った。


 金剛は剣一と氷織のそばに座り、驚き恐れて炎の人を見つめた。


「暴風国の最後の君主、彼は生きた死人しびとだったんじゃないのか?どうして自ら目を覚ましたんだ?」

 

剣一は氷織を伴い、玉座の方へこっそりと近付くと、そそくさと何かを探し始めた。氷織が小声で尋ねた。


「何やってるの?」


 剣一が低い声で答えた。


「小説ではよく玉座の下に秘密の通路があったりするじゃないか」


 氷織は同意できかねるといった様子で口をとがらせた。


「そんなに都合のいい話あるわけないじゃない?」


 剣一は差し迫った様子で言った。


「見込みは無くても最後まで手は尽くす。あの炎のやつが戻って来ても、俺たちは生きていられると思うか?」


 それを聞いた氷織も、剣一と一緒に探し始めた。


 そばにいた金剛は通信機を取り出すと、急いで信号を送った。


 炎の人が勢いよく足を踏みならすと、即座に大殿が激しく揺れた。大殿中の酒は蒸発し、酒の中に潜んでいたクラゲが姿を現し、丸屋根を突き破って逃走を図ろうとした。クラゲは内心思った。


「大部分の人間を消耗させた後、金剛を捕らえ、第十二星殿殿主を脅迫するはずだったのに。まさか最後の君主が目を覚ますとは。急いでこの事を王様に報告しなくては」


 ホールの酒は全て蒸発し、ホールの中央に高く積み上がった死体の山と巨大な炎の人だけが残されている。炎の人はまるで天空に向かって何かを訴えかけるように、顔を上げて腕を広げた。彼の両腕に沿って二頭の巨大な龍の形になった炎は驚くほどのスピードでよじ登り、すぐに光電クラゲに巻き付いた。光電クラゲは悲鳴をあげ、ジュージューと燃え始めた。


 クラゲの体内にある紫色の電池が突然稲妻に変化して丸屋根を突き破り、


「復讐のために戻って来るぞ」

という言葉を残して逃げ去った。


 金剛は大きな穴の開いた丸屋根を見ていたが、外の遠い所から戦闘機の轟音が響いてくると、口角を上げてニヤリと笑った。


 剣一は緊張して小声で氷織に言った。


「あの炎の人はAランクだ」


 氷織は「Aランク?」と驚きの声をあげながら、玉座の肘掛けの先端にある龍の頭を握っていた手を力一杯引いた。すると、ガラガラと音を立て、思った通り玉座の下に秘密の通路が現れたのだ。


 剣一は驚きの声をあげた。


「さっき俺も少し試してみたが、なぜ見つけられなかったんだろう?」


 氷織は偉そうに口をとがらせた。


「私ってすごいでしょ!」


 遠くから金剛が薄気味悪い笑みを浮かべ突然襲い掛かってきた。剣一は慌てて氷織を抱きかかえ、通路に放り込んだ。氷織は顔を上げて無邪気に呼び掛けた。


「あなたも早く降りてきて!」


 剣一は降りようとせず、龍の頭を逆方向に引っ張り元の位置に戻して握り潰すと、すぐに地下通路の入口が閉まりだした。


「間に合わないわ!」


 氷織は驚きの余り顔を真っ青にし、叫んだ。


「剣一のバカ!」


 紅丸も徐々に幅が狭くなる隙間から剣一を見ると、驚いて鳴き声をあげた。


 氷織はわずかな隙間しか残っていない入口に突進し、手でこじ開けようとしながら、泣き叫んだ。


「いやよ!剣一、いやよ!剣一のバカ!私を置いて行かないと約束したじゃない!バカ…ううう…バカ…」


 紅丸もウウウと鳴きながら二本の前足で力一杯こじ開けようとし、その目にも涙があふれていた。


 剣一は諦めたようにささやいた。


「体に気を付けて!」


 入口は最後のわずかな隙間を残し、ほぼ完全に閉まり、扉の縁は血痕だらけだった。この血痕は氷織が扉を閉じさせまいと必死ですがりついた痕だ。ドアの向こうから絶望した氷織の甲高い叫び声が聞こえてきた。


「剣一!」


 入口は完全に閉まった。金剛は剣一のそばに立ち、薄気味悪い笑みを浮かべて言った。


「お前がこれほど義理堅いとは思わなかった。仲間のために自分の命さえ省みないとは、本当に感動的だな!」


 ちょうどこの時、炎の人がにわかに二人を望み見た。


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