第十九章 紫の薄絹を纏まとったロナ
紫の薄絹を纏った女性は剣一たちの様子を見ると、憤慨して独り言を言った。
「天子笑の誘惑に抗い、わたくしのお楽しみを台無しにする者がいるとは!」
彼女を取り囲む白い薄絹を纏った六人の女性たちは驚きの表情を浮かべ、中には凶悪な顔つきをする者や、
長い舌を出す者さえいた。
「ロナ姉さん、どうしましょう?」
紫の薄絹を纏ったロナは冷ややかに笑った。
「焦っちゃだめよ、まだ妙策があるわ」
この時、剣一と氷織に助けられた覚醒者たちが次々と目を覚ました。
星殿の衛兵は俯いて頭をさすり、納得がいかない様子で言った。
「俺はどうしていたんだ?なぜ自分の仲間に手を出したんだ?」
中年の祈祷師は頭を振ると、突然何かを悟ったように言った。
「この酒が悪いんだ。さっき誰かが解酒丸を飲ませてくれたのか?」
剣一と氷織は立ち上がり、星殿の兵士たちは二人を見つめた。
「薬は君たちの物か?」
氷織が先に話し始めた。
「そうです。誰かが漁夫の利を得ようと、背後で我々を操って殺し合いをさせたんです。私が持っていた薬はもうありません。ご自分の仲間を救いたいのなら、どこからともなく現れたあの奇妙な女性たちを私たちと一緒に始末しましょう!」
六人は互いに顔を見合わせ、ためらいの表情を浮かべた。
剣一が深刻そうに言った。
「あなた方がそれぞれ異なる勢力に属していることは知っています、しかし今心を一つにして協力しないと、全員ここで死ぬことになります」
星殿の衛兵の一人が歯を食いしばり、決意を固めて言った。
「あなたと共に行きます。普段から背後で陰険な策を巡らすようなやつは一番虫が好かないんだ」
その他の者も声を揃えて叫んだ。
「皆共に行こう!」
剣一はうなずき、
「結構!」
と言うと、剣を掲げて真っ先に飛び出し、薄絹の女性たちの方へ飛ぶように突っ込んで行った。
「殺せ!」
一同も突撃し、大声をあげた。
「殺せ!」
ロナは横を向き、そばにいた白い薄絹の女性に命じた。
「もういいわ、彼らを始末しなさい」
剣一たち以外の生存者は、少し先で戦っている金剛と盲目で白髪の祈祷師、そして若い三人の祈祷師だけで、あちこちに死体が浮いたり積み重なったりしていた。
剣一は十字の光を放つ剣を振りかざし、死体を踏みつけて高々と跳び上がり、白い薄絹の女性を一人斬り殺した。次の瞬間、白い薄絹を身に纏った別の女性の頭頂部に、精神力で形成されたバーチャルな剣がささり、「ああっ!」という悲鳴が響き渡った。
中年の祈祷師は法杖で白い薄絹を纏った女性の背中を強打した。星殿の衛兵の一人は頃合いを見計らってこの女性の腹部を拳で殴った。白い薄絹の女性は悲鳴をあげると息絶えたが、彼女の顔の半分は獣のそれに変化していた。
二人の覚醒者が白い薄絹の女性に向かって突進し、憤慨して叫んだ。
「お前たちは皆異星生物が化けているのだろう!皆自らの本領を発揮しろ!手加減するな!」
氷織は氷雪の術を使うことができないので、法杖を取り出して薄絹の女性の攻撃を防ぐしかなかった。
剣一は剣を振り回して白い薄絹の女性を斬り飛ばし、氷織に向かって叫んだ。
「ここで持ちこたえてくれ、俺はあの紫の衣の女をなんとかする」
氷織が焦った様子で叫んだ。
「バカ、早く戻って来なさいよ!あの女のレベルを知ってるの?」
剣一は酒に浮いている死体を踏みつつ前進し、しっかりとした眼差しで、考えた。
「Bランクだとしても、やってみるさ!」
しかし剣一がロナに向かって突進しようとした瞬間、システムが突然警告を表示した。
システム:危険です!相手はBランク高級の覚醒者です。近付いてはいけません、早く離れて下さい。
剣一はシステムの通知に構わず、
「俺たちの中でCランクの能力を持つのは金剛とあの白髪の祈祷師だけ、あの紫の衣の女をおびき寄せる方法を考えないと」
と胸算用した。
ロナは剣一に向かって邪悪な笑みを浮かべ、からかうように言った。
「封印が解けたばかりで退屈でたまらなかったからお芝居を見ようと思っていたのに、あなたに邪魔されちゃったわ」
酒が突然波立ち、「ザーッ」という音と共にロナの足元へ押し寄せた。酒は海の波のように高々と湧き上がり、ロナの周りに風も通さないバリアを形成した。
「Dランクに過ぎない虫けらに、このトラップが見破れるかしら?おもしろい、それじゃわたくしがお前を食ってやろう、お前は一体どんな味がするんだろうね!」
電光を放ち、棘を生やした巨大な舌が酒の中から飛び出し、まるでしなやかな蛇のように、剣一に巻き付こうとした。剣一は急いで後退し、ギリギリでその巨大な舌をかわし、酒に浮かぶ死体を踏み、舌の攻撃をかわしながら、金剛たち三人のもとへ急いだ。
ホール中の酒が激しく渦を巻き始め、他の人々は逃げる間もなく押し流されてしまい、水流で渦の中心へ押し流された大量の死体が足場を形成した。そして紫の衣の女性はその死体の山の最上部に立ち、狂暴さをむき出しにして舌を操り、剣一に追い討ちをかけた。
氷織と一緒にいた赤い服の覚醒者と中年の祈祷師は酒の波に飲み込まれ、酒の波と共にロナの目の前まで押し流された。ロナの肩から突如口が二つある大きな頭が生えてきて、二人はそれぞれの口に一人ずつ飲み込まれた。死体の山にいた氷織は二人の足をつかもうとしたが、波に引っ繰り返され、なんとか体を安定させた後、ロナに対し容赦なく怒鳴った。
「卑劣な女め、絶対許さないから!」
紅丸も氷織の胸元から顔を覗かせ、ロナに向かって恐ろしい形相で怒った。
氷織は振り返り、三人の星殿の衛兵と黒衣の覚醒者に向かって叫んだ。
「早く玉座の所まで泳いで行って!」
四人は氷織の言葉に従い、波が逆巻く酒の中を必死に泳いだ。しかし波に襲い掛かられ、四人はあっという間に波に飲み込まれてしまった。
「助けてくれ!」
氷織はすぐに黒衣の覚醒者の手をつかんだが、何かに後ろへ引っ張られているらしく、氷織も中に引っ張られていった。その様子を見た黒衣の覚醒者は突然手を緩め、氷織に告げた。
「俺の妻と娘は第十一星殿にいる…」
しかし言い終わらないうちに、他の三人と共に彼は酒の波に飲み込まれ、行方がわからなくなった。
氷織は
「いやっ!!!」
と泣き叫んだ。
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