第一章 異星生物の侵入と第九星殿の壊滅
二十年以上前、異星生物が地球に侵入した。広大な星空のスクリーンにできた多くの割れ目から噴き出された無数の異星生物が地球に向かって直進し、人類史上最悪の災害を引き起こした。環境が激変する中、人類に秘められた太古の血が覚醒を始め、覚醒者の誕生は人類に生存の希望をもたらした。それぞれ異なるスキルを備えた覚醒者たちは結束し、異星生物と激しい戦いを繰り広げた。
地球を守るために、国連は十二の時空の割れ目付近に十二の駐屯地を設置し、「十二星殿」と名付けた。
十二星殿の主はいずれも世界屈指の実力者だ。その中で第九星殿に駐留していたのは、「大剣聖」と「小剣聖」と呼ばれる剣心とその息子だった。
剣心の息子は名を剣一といい、周りからは「小剣聖」と呼ばれていた。成人したばかりの若者だが、すでに父に従って数多の戦いを経験し、地球を守るという重責を担っていた。彼は生まれながらに守護の使命と責任を内に秘めていたのだ。
三日前、第九星殿に大災害が発生した。
「異星獣来襲、異星獣来襲!」
「戦闘員は配置に就いてください!繰り返します、戦闘員は配置に就いてください!」
けたたましいサイレンが、突如第九星殿の銀色の宇宙ステーションに鳴り響いた。
宇宙ステーションの外には広大な星空が果てしなく広がっていたが、この壮大で美しい星空では凄惨な殺戮が繰り広げられていた。
戦闘用の銀色の鎧に身を包んだ剣一は、巨大な青い剣を振りかざして異星獣とわたり合った。
鮮血で鎧は赤く染まり、冷たい光を放つ剣身には頑強で厳しい剣一の眼光が映し出された。血が顔に沿って流れ落ちて髪を濡らし、血痕は彼の輝かしい戦果となった。
もう三日だ。絶え間ない殺し合いはもう三日三晩続いている。傍らの戦友は次々に倒れ、あるいは命を落とし、美しかった銀河は血に染まっていた。天空には血色の月が懸かり、夜空は静寂に包まれていた。まるで創造主が眼前の出来事を全て冷ややかに傍観しているかのように、喜びも悲しみも存在しない静寂が広がっていた。
援軍、援軍はどこだ?
剣一は割れ目の方向へ顔を向けた。「いくら異星獣を殺してもまるできりが無い!誰だ、出口の封鎖に手間取っているのは?戦場では対応が遅れればそれだけ被害が大きくなるということを知らないのか!?」
「ガオォッ!」
狼のように巨大な異星獣が突進して来た。剣一は身を翻して剣を振い、彼の剣は上下へ動く間に異星獣の体を貫き、巨大な狼は苦しそうな悲鳴をあげた。剣一が巨大な狼の体から剣をぐっと引き抜くと、鮮血がまた体中に飛び散った。
周囲の異星獣を辛うじて全て始末すると、剣一は手に持った長剣を杖のように突き、もう片方の手で疲れ切った体を支え、口では絶えず荒い息をしていた。「もうだめだ」彼のように剛毅な若者でさえもう持ちこたえられないと感じていた。
父さんの状況はどうなっているのだろう?まだ傷は治っていないのに…。
剣一は微かな不安をお覚えた。
戦場が騒然とする中、凄まじい叫び声が大空を引き裂いた。
殿主様、背後に!
剣一が慌てて声のする方に目を向けると、少し離れた先で二匹の巨大異星獣が戦士の左右から纏わりついているのが見えた。金の鎧を身に纏い勇敢に戦うその戦士こそ、自身の父親であり、大剣聖の剣心だった。異星獣は凶暴残虐で、連携して剣心を足留めした。だが剣心も容赦を知らない男だ。剣を幾度か振り下ろすうちに、次第に優位に立っていった。ところが剣一が感服し笑みを浮かべた瞬間、枯れ枝のようなトゲ植物が突如現れ、背後から剣心の体を貫いた。その植物はどんどん成長して広がり、彼を高く宙に浮かび上がらせた。剣心の金の鎧は眩い光を放ち、これまでと変わらず神聖さに満ちていた。
剣一はその場から動けず、目の前の光景を呆然と眺めていた。
戦士たちは周囲の異星獣を次々と押し退け、謎の植物に貫かれた剣心を素早く取り囲んだ。誰もが自らの武器を振りかざし、涙ぐみながら枯れ枝を激しく斬りつけたが、枯れ枝は斬られても再生し、全く終わりが見えなかった。
「殿主様!殿主様!」
戦士たちは慟哭の声をあげ、その悲しみは天地を震撼させた。 悲しみを力に変え、目を真っ赤にして群れに突進する者もいれば、闘志を喪失して地面に崩れ落ち、もう終わりだとつぶやく者もいた。
剣一はしばらく呆然とした後、ようやく反応を見せた。目の前の全てを信じることができず、両目はかすませた涙は、知らず知らずのうちに顔の血痕を洗い流していた。剣の柄を握る手は震え始めたが、震えながらも握る力はさらに強くなった。剣一はカッと両目を大きく見開くと、「嘘だ――」と叫びながら父のもとへ流星のように駆け寄った。
「父さん!父さん!!」
少年はひざまずき、父親を見上げた。父親の鮮血が息子の顔に滴り落ち、涙と混ざり合った。
「いや、いやだ!」
剣一は涙に声を曇らせた。
厳しくあり続けた剣心は、この時、下で苦しむ剣一をひときわ優しい眼差しで見つめ、言葉を一つ一つ切りながら叫んだ。
「息子よ…しっかりするんだ…地球の、そして第九星殿のために、生き延びるんだ…」
剣一は父を見上げ、思わず首を振った。
剣心は口元にわずかに笑みを浮かべた。今際のきわに息子の顔を見ることができ、安心したのかもしれない。
剣一は勢いよく立ち上がると、手の伸ばし父をつかまえようとした。
「いやだ、父さん、置いて行かないでくれ。俺は父さんに…」
だが、剣一が手を伸ばす前に、冷たい閃光を放つ短剣が彼の心臓に突き刺さった。次の瞬間、背後から忍び寄った手が剣一の首を締め付け、剣一が振り向くのを阻止した。突然の出来事だったからなのか、それとも父の死により感覚が麻痺していたからなのか、苦痛は微塵も感じず、ただただ驚愕するだけだった。この黒い影はいつ自分の背後に忍び寄ったのか?なぜこんな時に自分の命を狙おうとする者がいるのか?
剣一の背後に立つ黒いローブを纏った亡霊の如き人物は、その顔を巨大なフードの影で隠し、黒いローブの下には何も人間らしい感情を持ちあわせていないかのようだった。その男は手にした短剣をさらに剣一に近付けると、剣一の耳元で冷ややかに言い放った。
「お前の父親が知ってはいけない秘密を知ったため、お前たちの死期は早まったのだ。第九星殿も彼と共に埋葬されなければならない!」
ガチャンッ!
剣一の巨大な青い剣が大きな音を立てて地面に落ちた。剣一の息遣いはどんどん弱まっていったが、その心に懐いた疑問はどんどん膨れ上がっていった。
「父さん?秘密?…なぜ???!!!」
大量の鮮血が喉に流れ込み、剣一の質問の機会は失われた。




