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第十八話 解酒丸と約束

 金剛こんごうは凶悪な笑みを浮かべ剣一けんいちの背後に立ち、左手で力の限り大きなハンマーを振り上げると、勢いよく叩き付けた。彼は不気味な笑みを浮かべて得意気に言った。


「ずっと前からお前の命をもらうつもりだった。長らく待たせてすまなかったな!」

 

剣一は後頭部にハンマーによる風圧が迫るのを感じ、歯を食いしばり急いで身をかわした。

 

この時、酒の水位は人々の胸の辺りにまで達していた。


 剣一は身を翻し大きな声で罵った。


「ばか者が!俺たちを互いに消耗させようと、誰かが背後で全てを操っているのに、まだ気付かないのか!」


 だが金剛は問題にせず、凶悪な表情のまま顔を上に向けて大笑いした。


「ハハハ、何が背後で操っているだ!お前ら部外者を始末してここの全てを手に入れ、俺が最後の勝者になる!」


 剣一は花蘇芳はなずおうの剣を緊張しながら握り絞め、手を伸ばして氷織を自分の背後にかくまった。だが氷織は突如意を決したように一歩前に踏み出すと、手のひらを伸ばし法術の構えを取った。


氷凍訣ひょうとうけつ!」


 迫り来る攻撃を食い止めようと、すぐに警戒の型を取った金剛だったが、脇を通り抜けて行ったのは涼やかな風だけで、狐につままれたような表情で氷織ひおりを見た。


氷織はばつが悪そうな表情で、再び法術の構えを取り「氷凍訣ひょうとうけつ!」と唱えたが、やはり涼やかな風が吹き抜けるだけだった。


 金剛は大笑いした。


「ハハハ、やはり類は友を呼ぶ、全員低レベルのクズだ!」


 金剛が得意になっていると、不気味な黒煙が突然彼の背後に現れた。黒煙は黒い法杖ほうじょうを振りかざし、金剛の頭頂部に勢いよく叩き付けた。


 金剛は頭を傾けて攻撃を回避し、冷ややかに笑った。


「あの一撃では目が覚めなかったようだな!いいだろう!最初にお前を始末してやる!」


 金剛は突然頭を百八十度回転させ、ハンマーを黒煙に向けて振り回すと、若い祈祷師が本来の姿を表した。若い祈祷師は驚きの表情を浮かべ、慌てて黒い法杖ほうじょうを横にしてハンマーを防いだが、後方に吹き飛ばされ、黒煙と化して姿を消した。


 金剛の頭は元の位置に戻り、固い決意を込めて言った。


「あいつを仕留めたら、今度はお前の番だ!」


そしてバク転をすると、身をかわして立ち去った。


 剣一は胸をポンと叩くと、ふぅっと長く息をつき、氷織はまだあちらで汗だくになりながら、氷凍訣ひょうとうけつを放ち続けていた。


 各勢力の覚醒者は入り乱れて戦い、お互いを殺し合っていた。瞬く間に血腥ちなまぐささが一面に広がり、酒の香りを覆い隠してしまった。薄絹をまとった女性たちは高い所からホールの全てを眺めながら、口元を手で隠しクスクスと笑い、得意気で見下した目つきをしていた。


 剣一は格闘する人々を見ながら、眉をひそめ、


「これ以上仲間同士を殺し合わせてはいけない、できるだけ早く彼らを止めねば」


と言うと、今度は氷織を見て言った。


「そうだ、君の氷凍訣ひょうとうけつはどうして効かなくなったの」


 氷織は力無く言った。


「地下から湧き出した酒は伝説の酒『天子笑てんししょう』で、そこに含まれる最良の陽の気が私の氷雪術を抑制したのかもしれない」


 氷織は格闘中の人々を急いで見ると、苛立ちながら言った。


「あの人たちは天子笑てんししょうを飲み、熱で浮かされたようね。敵も味方も区別できない状態よ」


剣一が出し抜けに尋ねた。


解酒丸かいしゅがんは後どれくらい残ってる?」


 氷織ほど利口であれば、彼の意図をすぐに察することができる。彼女はわざと眉をひそめて言った。


「六個だけよ。でもこれは普通の解酒丸かいしゅがんとは違って高価だから、むやみには使えないわ」


 剣一は氷織が本当に薬を渡したくないのだと思い、とても焦った様子で言った。


「こんな状況だ、人を救うのが最優先だろ!」


 氷織は「薬は渡さない」とでも言っているかのように首を振り、紅丸も氷織の服の胸元から顔を覗かせ、彼女と一緒に偉そうに首を振った。


 剣一は慌てて説明した。


「一人でも多く助ければ、自分たちの戦力は増える、さもないとみんなここで全滅だ!」


 氷織は急に笑って言った。


「二度と私たちを置いて行かないと約束できるなら、渡してもいいわよ」


 剣一は内心キレる一歩手前だったが、どうしようもなく言い訳をした。


「こんな状況なのに、笑っているなんて!俺が君を置いて行ったのは理由があるんだ!」


 氷織は顎を上げて、尊大に言った。


「私があなたに付いて行くのにも理由があるのよ!」


 周りで殺し合う声はどんどん聞こえなくなり、倒れている人数はますます増えていった。剣一は振り返って一望すると、どうしようもないといった様子で言った。


「わかった、約束するよ」


 氷織は剣一の目をじっと見つめて言った。


「二言は無しよ」


 剣一はしっかりとした眼差しで「二言は無い」と請け合うのと同時に、心中ひそかに考えた。


「彼女はきっと何か人に言えない隠し事があって俺に付いて来ているのだろうが、約束した以上、これからは彼女を守らなくてはならない!」


 赤い服を着た覚醒者が武器を振りかざし、大声で叫びながら重傷を負った黒衣の覚醒者に斬りかかった。


「すまない、死んでくれ!」


 黒衣の覚醒者は驚いて大声で叫んだ。


「俺には妻も娘もいる、美女を手に入れたいなんて一度も思ったことはない、殺さないでくれ!」


 この時、精神力で形成された小型のバーチャルな剣が突然赤い服の覚醒者の頭頂部に突き刺さった。彼が悲鳴をあげながら刀を投げ捨てた時、解酒丸かいしゅがんが彼の口に飛び込んだ。そばにいた中年の祈祷師も、虚を突かれて防ぐ間もなく丸薬を口に押し込まれ、丸ごと飲み込んでしまった。


 氷織は黒衣の覚醒者を助け起こすと、急いで彼の口に丸薬を押し込んだ。


「これは傷の治療薬よ、早く飲みなさい」


 相手のしっかりとした眼差しを見て、彼女は目を見張り、少しいぶかりながら言った。


「あなたはお酒の虜にならなかったの?」


 黒衣の覚醒者は丸薬を受け取らず、感謝の眼差しで氷織を見つめ、長い溜息をついた。


「ふう、下戸なのが幸いした。もう妻や娘にはもう会えないとも思ったが、本当にありがとう。感謝します。」


 剣一が十字の光を放つ剣を振りかざして乱闘を繰り広げる星殿の衛兵三人目がけて突っ込み、三人は悲鳴をあげた。それと同時に、解酒丸かいしゅがんが三人の衛兵の口にそれぞれ飛び込んだ。


 星殿の衛兵は口に入った解酒丸かいしゅがんを無意識に吐き出そうとし、小声でつぶやいた。


「これは何だ?」


 剣一は振り上げた拳で衛兵の顔を殴った。


「飲み込め!」


 その様子を見ていた氷織は、自分が殴られたように痛そうに顔を押さえて言った。


「そんな風に人を助けるのは初めて見たわ」


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