第十六章 伝承が途絶えた酒「天子笑」
這いつくばって酒を飲む周囲の横で、金剛は冷笑するだけで何も言わず、ただそばで眺めている。星殿の兵士たちは金剛の背後に整列して立ち、微動だにしない。カリ祈祷師は彼らを見ながら静かに溜息をついた。
「さすがは過酷な訓練を受けた星殿の戦士だ」
ちょうど剣一が足元を眺めていた時、目の前に突如システムのパネルが出現した。
システムの通知:これは伝承が途絶えた酒「天子笑」です。七十二種類の稀少な材料から作られ、強力なエネルギーを含んでいます。飲むと精力がつくだけでなく、体のあらゆる資質を全面的に向上させることができます。この酒で酔うと、熱で浮かされたような状態になります。飲む場合は、三口までにしなければなりません。
酒を飲み終えたばかりの若い祈祷師は、すっかり酩酊してしまい、満足げに大声で叫んだ。
「なんて爽快なんだ!いい酒だぜ!」
宮殿ではみんなの訝しむ声が立て続けに響いた。
「彼はまさかレベルアップしたのか!?」
「なんて不思議なんだ!」
「俺も飲みたいぞ!」
あっという間に、ホールにいた氷織以外の全ての者がしゃがんで酒を飲み始め、中には地面に身を投げ出し、地面に向かって痛飲する者もいた。
金剛のいる辺りでは、年長の祈祷師が若い祈祷師の頭を叩き、けしかけるように言った。
「何ぼんやりしてるんだ、早く飲まないか!」
「ハハハ、俺も飲んでレベルアップだ!」
「今回は本当に超ラッキーだ」
剣一も酒を飲んでいた。彼は手のひらで酒を汲むと、心の中で「三口まで」と唱えた後、連続して二口飲んだ。酒を飲み干した剣一の顔はみるみるうちに紅潮し、瞳孔も少し開き、泥酔して卒倒しそうな様子だった。
システムの通知:Dランク低級の覚醒者に昇格しました。
剣一は間もなく眠気に襲われ、モゴモゴと「あと一口…」と言った後、酔いつぶれて倒れ込んだ。
氷織は下を向いて地面の酒を見ながら、手で口角を拭き、考えた。
「我慢よ!ただより高いものは無いと言うものね。まずは事態の推移を静観してからよ」
酒を飲んだ覚醒者たちは全員おぼつかない足取りで、フラフラの酩酊状態だった。中には大声で歌を歌い出す酒乱までいた。
他の勢力の覚醒者が突然大声で笑い出した。
「ハハハ、ついに十年間の停滞期を打破し、Dランクに昇格したぞ!俺を見下したやつらめ、皆殺しだ!皆殺し!」
グチャッ!
突然、背後から大きな両の手が近付き、彼の頭をつかんで一方に傾けた。
首は一瞬にして折れ、瞳孔は開き、口からは血が流れ、その覚醒者は地面に倒れた。背後にいた金剛は邪悪な笑みを浮かべながら、冷ややかに言った。
「一人も残さず、殺せ!」
それを聞いた星殿の兵士たちも声を揃えて叫んだ。
「一人も残さず、殺せ!」
以前、金剛に平手打ちを喰らった祈祷師の弟子は酩酊状態で、金剛を指差し、口汚く罵った。
「くそったれ、この前のビンタの借りを返してやる!」
金剛は軽蔑の表情を浮かべ、背後にいた戦士は激怒し、
「死にたいのか!」
と言うと、飛び出してその祈祷師の弟子に拳を振りかざした。しかしながらそのパンチは空振りに終わった。というのも、カリ祈祷師が黒い魂影と化して、弟子をぐいっと引っ張りその場から離れさせたからだ。カリ祈祷師は弟子を自分の背後で守り、金剛を見つめた。
金剛はほほうと冷たく笑った。
「老いぼれめ、どうした、刃向かう気か?」
カリ祈祷師は「ククク」と邪悪な笑い声をあげた。
「我々は互いを利用し合うためだけに一緒にやってきた。わしがこれまでお前に従っていたのは、星空の割れ目に入り、ここに来るためだ。目標が達成された今、我々のうち、ここから外に出られるのはどちらか一方だけ。もはやお前に従う必要はない。クククク…」
カリ祈祷師は振り返って祈祷師たちを見つめ、命令を下した。
「暴風国の宝物は、他の誰でもなく我々祈祷師のものだ。陣を構えよ!」
祈祷師たちは意気揚々と、即座に声を揃え「はい!」と答えた。
金剛はひどく憤慨し、高々と跳び上がると、カリ祈祷師に向け拳を振りかざした。
「お前をバラバラに吹き飛ばしてやろう!死ね!」
星殿の衛兵は後ろで声を大にして叫び加勢する。
「殺せ!殺せ!殺せ!」
カリ祈祷師は祈祷師たちを率いて構えを取り、素早く巨大なエネルギーシールドを形成して金剛の一撃を阻止した。
ドンッ!
金剛は反動で丸屋根に突っ込んだが、降りてきた時には雷光を放つ巨大なハンマーを手にしていた。彼は巨大なエネルギーシールドに向けてそのハンマーを振り下ろした!
ガラガラ!
エネルギーシールドは鏡のように無数の破片に砕け散り、最後は空気中に消えてしまった。金剛は星殿の衛兵を率い、祈祷師の魔方陣に突入し、両者入り乱れて戦いを繰り広げた。光と影が交錯する中、鬨の声だけが響き渡っていた。
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