第十二章 南極の上空に現れた空間の割れ目
肉山の巨大な体は、小さな山のように地面に横たわっていた。彼は両目を見開き、剣一をじっと見つめ、手首に装着した通信用ブレスレットから剣一に向けて光を放った。
「若様、俺の仇をどうか…」
その時、物陰からこの前助けた少女と小さな狐が姿を現した。彼女は自慢気な様子で皮肉交じりに言った。
「あらら、私と一緒に行くのを拒んでいたから、どれほどの技量があるのかと思ってたけど、来るのがもう少し遅かったら、あなた死体になってたわよ」
小さな狐も同調して「うんうんうん」とうなずいた。
「君らが来なくても、逃げようと思えば逃げられたさ」
剣一はばつが悪そうに言い訳したものの、心の中では「全属性ポイントを敏捷性に割り振ってなければ、返り討ちに遭っていた可能性もあった」と思い返していた。
少女は得意気に笑いながら、
「もういいから、強がらないで。この前はあなたが私を助けてくれて、今回は私があなたを助けた。これでチャラね。そうそう、私の名前は氷織、この小さな狐は紅丸よ。あなたの名前は?なぜ私を振り切って一人で逃げたの?」
剣一は少し思案し、答えた。
「俺は剣一。一緒にいると君たちに迷惑がかかると思っただけだ。逃げたわけじゃない」
肉山の巨大な亡骸が地面に横たわり、強烈な血の臭いが放たれていた。剣一は歩み寄ると、しゃがみ込んで肉山の亡骸を物色し始め、すぐに通行証と電子リモコンを見つけた。
「南極第十二星殿の空間の割れ目に入るための特別な通行証だ。それから航空機のリモコン!こいつがこんな物を持っていたとは、なんてラッキーなんだ!」
氷織も様子を見に近寄ると、ちょうど剣一がリモコンと通行証をしまっているところだった。氷織は通行証を目にすると、持って回った言い方をした。
「それは第十二星殿の空間の割れ目を通るための通行証でしょ?国連は人々がパニックにならないように、地球にある二本の星空の割れ目について隠しているわ。この通行証は審査に合格した者だけが手にできるもの、この男の経歴も複雑そうね!」
剣一は表面上は平静を装いながら、心の中では驚嘆していた。
「まさかこの子は十二星殿内部の人間なのか?」
氷織は両手を腰に当て、不満げに尋ねた。
「なぜこっそり通行証を隠したの?私に取られると思った?」
剣一は淡々と答えた。
「知っても君にとってなんの得にもならないからだよ」
氷織は冷ややかに笑いながら、
「フンッ!誰が知りたいって言ったのよ。ところで、あなたの名前はある人物と同じだわ」
剣一はすぐに眉をひそめ、警戒しながら尋ねた。
「誰と?」
氷織は急に悲しげな表情になり、溜息をついた。
「残念ながら彼は戦死したわ」
剣一は少し呆気にとられた後、真剣な視線を彼女に向け、内心では疑いを抱かずにはいられなかった。この少年とは同じ名前だったが、まさか彼女は以前の俺を知っているのだろうか?彼女は一体何者だ?
氷織は気持ちを落ち着けると、悲しみをしまい込み、前のめりになって言った。
「あなたが今手に入れた通行証だけど、実は私もちょうど持ってるの。十二星殿が駐屯する星空の割れ目に一緒に入り、怪物を倒してレベルアップしましょうよ!」
彼女は先輩風を吹かし、
「第十二星殿の割れ目に入る今年の最終期限は一週間後、今からあそこへ行く方法を考えないとね」
紅丸は氷織の言葉を聞くと、大喜びで闘志満々な様子を見せた。
「この子は本をめくるよりも早く表情を変えるなあ」
剣一は小声でつぶやきながら、手を上げてそばの岩の辺りを指差し、ばつが悪そうに笑って言った。
「差し支えなければ、あそこで用を足したいんだが。ずっと我慢してたんだ」
氷織は少し嫌そうな顔で手を振り、早く行くように合図した。剣一は岩に向かったが、氷織は両手を胸の前で交差し、彼の後ろ姿を見ながら言った。
「彼がまた逃げ出さないように見張りなさい!」
紅丸はうなずき、真剣にその岩を見つめた。
剣一はその岩の背後に回ると、航空機のリモコンをこっそり取り出し、ボタンを押した。リモコンが「ピンッ!」という音を発した。
さほど遠くない所から、肉山の航空機が匍匐飛行し高速で近付いてきた。
氷織はすぐに接近してくる航空機に気が付き、
「気を付けて!また星殿の航空機よ!」
と大声で叫ぶと、紅丸と共に防御の構えをとった。
剣一は岩の背後から飛び出し、彼のそばで航空機はしっかり停止した。剣一は即座にコックピットを開け、乗り込んだ。
氷織は小躍りして喜んだ。
「あなたが操作していたのね!本当にラッキーだわ、すぐに南極へ向けて出発できるもの!」
剣一は取り合わず、黙ってとコックピットのドアを閉めた。
紅丸と氷織は顔を見合わせた。紅丸は氷織に向かって「コーンコーン!(彼はおそらくまた我々を置き去りにするつもりだ!)」と鳴いた。
氷織は信じられない様子だった。
「ありえない!」
彼女がそう言うやいなや、航空機は氷織たちの頭上を高速で飛んで行った。
氷織と紅丸はかんかんに腹を立て、
「剣一の! 大馬鹿者!」
氷織はと激しく罵り、紅丸も頭を上げ、恐ろしい形相で叫んだ。
南極十二星殿。
星空の割れ目の外にあるギャザリングホールに三十名以上集結した星殿の戦士の中には祈祷師が二十名含まれていたが、この時の彼らは、非常に不気味な雰囲気だった。
肉山が若様と呼んでいた金剛はホールの片側の高座に座り、ブレスレットが射出する仮想スクリーンを見ていたが、そこに映っていたのはまさに剣一の後ろ姿だった。彼は冷笑した。
「本当にクズだな!こんなFランクのゴミにやられた上に、厚かましくもこの俺様に仇を取ってほしいだと?」
祈祷師のリーダーである老祈祷師のカリが金剛に恭しく尋ねた。
「若様、肉山もやられたのですか?」
金剛は横目でカリを見ると、冷ややかに言った。
「お前は枯木のようなクズにはなるなよ。今回は何があろうと祈祷師団を率いて星空の裂け目のあの場所を探し出すのだ!」
「仰せのままに」
カリは右の手のひらを胸に置き、軽く頭を下げた。
傍らにいた祈祷師の弟子が大笑いしながら言った。
「ハハハ、ご安心ください、我々はあのようなクズとは違い――」
「バシッ!」
祈祷師の弟子が言い終わるよりも早く、金剛は勢いよく手を振りかざすと、離れた場所からその弟子の顔に強力な平手打ちを喰らわせた。
「誰が発言を許可した!?」
祈祷師の弟子はその一撃で口元から血を流してすぐにうなだれ、目はグルグル回ってしまっていた。
金剛は星殿の戦士たちを見ながら、冷たく厳しい口調で言った。
「今回の作戦は、この俺のCランク昇格、そして年末に行われる国連の星殿殿主継承者審査合格の成否に関わる。もし何か問題が起これば、お前たち生きては帰れないと思え」
「では、出発!」
金剛の背後で、祈祷師の弟子は赤く腫れた顔をさすりながら、うなだれて血を吐き、目にはわずかに憎しみが宿っていた。カリは表面的には見て見ぬ振りをしていたが、背中に回した彼の手は固く握り締められていた。
金剛は戦士と祈祷師を引き連れ星空の割れ目の入口に向かって進んだ。金剛が衛兵に向かって言った。
「この二日のうちに、肉山の航空機がやって来るだろうが、それに乗っているやつが肉山を殺した張本人だ。航空機が来たら撃墜させるから、そいつを引っ張って来い!生死問わずだ!」
「はいっ!」
守衛たちは一斉に返答した。
一方、肉山の航空機は海上を高速飛行していた。
剣一はコックピットに座り、真剣に操縦しながら思った。
「氷織、チビ狐、君たちは一体何者で、どこから来たんだ?俺は今命を狙われているし、共に行動するのはあまりにも危険だ。肉山の後ろ盾はおそらく第十二星殿…。もっと言うと、正直俺はまだ君たちのことを完全には信用していない」
シューッ!
航空機は南極の氷河へ向けて高速で飛行した。
第十二星殿の監視センターで、三角目の衛兵がレーダー画面を見て、けたたましく叫んだ。
「肉山の航空機です!」
そばにいたつぶらな瞳の衛兵が、三角目の衛兵を見て、緊張気味に言った。
「若様の予想はやはり正しかった。肉山を殺した犯人が本当に来たんだ!早く飛行隊を派遣し迎撃しよう」
三角目の衛兵は口角を上げ、にやりと笑った。
「慌てるな、飛行隊を派遣して万が一逃げられたら、後で俺たちはまた若様の鞭を喰らうことになる。若様は撃墜しろとはおっしゃったが、使用する武器の指示はなかった」
つぶらな目の衛兵が驚いたように目を大きく見開いて言った。
「つまり、俺たちが光子砲で攻撃するということか?」
三角目の衛兵は陰気な笑いを浮かべ、机の操作ボタンを押した。
「誰にも知られないうちに、一発の砲撃で相手を倒し、若様から与えられた任務を完璧に遂行する、悪くないだろう?」
つぶらな目の衛兵は親指を立て、感嘆した。
「いいっ!すごくいいぞ!」
二人は画面に表示される文字をじっと見つめた。
「ターゲットロックオン 光子砲エネルギー充填10%」
高速飛行する航空機はもう十二星殿の付近にまでやって来ていた。
第十二星殿の巨大な武器から、にわかに太い光線が放たれ、航空機に直撃した。ドンッという音と共に、航空機は完全に爆破され、激しい爆発光が世界を包んだ。
分不相応な宝は、その身に災いをもたらすのだ。
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