第39話
カレンの魔力が一定量を超えると、指輪が少し熱くなり起動直前の兆候を伝えてくる。
そのまま指輪のセンターストーンを、さりげなくソフィアに向けてさらに魔力を注ぐ。
次の瞬間、普段は淡いブルーの宝石が台座の発光を集約して強烈に光り、ソフィアの目を射た。
「ぐっ!?」
以前にナオにプレゼントされた指輪である。
もらった瞬間、エンゲージリングと勘違いして頬を染めたものだ。
オーダーメイドで作られたセンスの良いデザインリングに、独特のカッティングが施されたセンターストーンと、それを取り巻く透明度の高いメレ石で構成されている。
一目で高価なものであるとわかる指輪は、ギルドの受付嬢からも羨望の目で見られていた。
普段使いでも邪魔にならず人目を引くデザインは、形は違えどエタニティリングではないかと思う者もいる。
カレン本人もその想いが強く、エンゲージリングではないにしても、特別に施された細工がナオの愛の深さゆえのプレゼントだと感じていた。
攻撃的なアイテムではない。
相手の目をわずかな時間だけ潰す閃光型の魔具なのだ。
対象に向けることで術者自身に被害は出ず、そこから離脱するためのルートに目を向けることができる優れ物だといえよう。
カレンはそのままドアに向かって走った。
ドアノブを掴んで引き開けながら、胸ポケットに入っていたペンサイズの簡易型巻物を取り出して魔力を流す。そのままそれを室内の床に放り投げて廊下へと出たカレンは、見知った顔がこちらに向かってくるのを見て安堵した。
発光型の目潰しで視界が定まらなかったソフィアは、ドアへと向かったカレンの気配を感じて自分も同じ方向に走り出した。
だが、あるはずのない所に壁のような障害物が出現しており、不用意に走り出したソフィアはそれに体をぶつけて跳ね返されたのである。
「くそったれが!」
容姿に似合わない悪態をつくソフィア。しかし、その様子に違和感を持つ者はすでにこの部屋にいなかった。
目を何度も瞬かせて失った視界を取り戻そうとするが、苛立たしさが伴い回復までが遅く感じる。ここでカレンを逃がすことは、厄介な事後処理を増やすことにしかならない。
肉眼ではなく魔力で気配を読むことに切り替えた。
軍人時代には気配を察知する能力に長けていたのだが、こちらに来てからは魔法というスキルが備わったことで、それに依存するようになったのは否めない。
魔力で気配を察知するというのはそれほど高度なスキルではなかった。周囲の魔力を読んで魔法による罠や障壁の所在を知ったり、他者の動向を知る基礎的な技法である。
ソフィアの身に備わっているのは、ミオが扱うほど広範囲な気配察知ではなかった。
それでも、目の前にある障壁が魔道具で一時的に発動された簡易的なものであることを知るには事足りたのだ。