第31話
ロープの張力を利用して外側へと駆け上がれば、それが崖のような斜面だろうが素早く登ることができる。
しかし、上方でこちらを注視している奴の動きを見て、すぐに方向転換することとなった。
膝のクッションを使い、開口部の上方位置に向けて大きく跳ぶ。
その瞬間、ロープが断ち切られたのを感じた。
後から降下してきていた男よりも、俺の方が少し上の位置にいる。相手は片手に剣を持って待ち構えていた。
腰の辺りに装備していた二本の棒を取り出し、手首のスナップだけで操る。
男がタイミングを計りながら突き出してきた剣をそれで弾き飛ばした。
攻撃を繰り出す度に奇妙な掛け声をあげたくなるその武器は、お手製のヌンチャクである。25センチメートル程度の二本の棒を紐でつないだ簡易なつくりだが、使用している木は太さ3センチメートル近い堅木のため刃物が相手でも有効だった。
そのままの勢いで無手となった相手のみぞおち付近に膝を入れる。
流石にガードされたが、体重がのっているためダメージは小さくない。相手がロープを掴む手が緩まないよう意識が散漫となった隙を見て、ヌンチャクの連結部分で思いっきり脇腹を突き上げた。
あばら骨の最下段は下から突き上げるように力を加えればあっさりと折れてしまうものだ。
相手の頭部よりも少し上でロープを掴んだ俺は、至近距離から男の顎を肘で打ち上げる。
脳が激しく揺らされた男はロープから手を離して落下していった。
すぐ近くにいるもうひとりの男が山刀のような剣を振るうのが見える。
俺よりもわずかに上にいたその男は、こちらを直接狙わずにロープを切ろうとしているようだ。
俺はすぐにその男の足もとへと跳び、ヌンチャクでくるぶし付近を強打する。
骨が砕ける感触が掌に伝わってきた。
落下しそうになる体を男の足先から垂れ下がったロープを掴むことで立て直すが、そこで想定外の出来事が生じる。
痛みに呻き声を上げながら這い上がろうとした男の体がロープごと落ちてきたのだ。
いや、さらに上部でロープが切られたのだろう。
まさか仲間ごと落下させようとするとは鬼畜にもほどがある。
「ナオさん!」
声の方に視線をやるとディレクがこちらに手を伸ばしていた。
ほんの一瞬の立ち回りではあったが、中でミオが気配を読んで状況を見守っていたのだから対応できたのだと察する。
俺は手を伸ばしてディレクに引き寄せてもらいながら、もう片方の手でヌンチャクを繰って上から落ちてくる男の顔面を容赦なく叩き、ひとりで落ちてもらうことにした。




