第24話
ゴブリンは食料を奪う。
移動中の馬車などに対して集団による強奪を行ったり、小さな村に夜中に侵入して盗みを働くことが多い。
それ以外の被害についてはそれほど多くはないのだが、食糧難ともなればその残虐性が顕著となる。
最悪の場合、奴らは家畜だけでなく人を襲っては食らうのだ。
冒険者や傭兵、その地の領主に仕える衛兵などによる巡回警護が強固な地域ではゴブリンの被害は少ない。しかし、その代わりにゴブリン同士が共食いすることもあり、その雑食性や多様性は人々に恐怖や忌避感を与えるに十分だった。
「入口から可燃物を放り込んで燃やせば早そうですね。」
ディルクは俺と似たような思考を持っているようだ。
「確かにその通りだが、今回は冒険者の初級講座としてセオリーを踏んでもらう。」
「セオリーですか？」
「ゴブリンが強奪した家畜やさらった村人が洞窟内にいると仮定する。」
食料としてさらった場合、巣である洞窟内に囚われることもあった。
もちろん、そのすべてが生きたままとは限らないのだが、依頼として生存者の救出というのは意外と多かったりするのである。
「なるほど。ただの討伐よりも難易度が跳ね上がりますね。」
「基本をしっかりと守ればゴブリンの討伐自体はそれほど難しいものじゃない。ではその基本とは何かだが、ふたりは理解していると考えても大丈夫か？」
「各個撃破を迅速に行い、手に余るような数で襲ってきたら応戦せずに逃げるということですね？」
「他には？」
「狭い場所では死角からの襲撃に注意すること。それに長物が使用できる環境かの見極めが重要だったかと思います。」
冒険者にとっての長物とは、槍などの武器だけでなく剣も含む。要は洞窟などの狭い空間で振り回せるか否かで分類されるのである。
「正解だ。はっきり言ってゴブリンの討伐報酬はそれほど魅力的なものじゃない。無理に討伐しようとして命を危険にさらす必要はないし、討伐だけならディルクが先ほど言った手法がおすすめだ。だが、人の救出任務ともなると戦わずにいることなどできない。一番良いのは人をできるだけ多く集めて人海戦術で行うことだ。危険も減るし短時間で終わらすことができる。」
「でも、報酬を考えると割に合わない？」
「正解だよ、ミオ。人命救助だからといって、大赤字で依頼をこなすことはできない。」
このあたりは領地ごとの予算の影響や領主の意識によるものが大きい。
元の世界の警察機関のようなものがあれば、さらわれた人間の救助に報酬額を考慮する必要などないといえるだろう。
しかしこの世界では、人の命の価値というものが身分が低ければ低いほどそれに比例して下落するのである。
