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【冒険者ギルドの特命執行官】  作者: 琥珀 大和
第一章 the Only Easy Day Was Yesterday
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第46話

「厄災の顕在化というのは、具体的にどういった事象なんだ?」


これまでは負の感情が贄となり、こちらの世界で理外の存在が復活するものだとばかり思っていた。


それはすべてあのふざけた手紙に書かれていたことだ。


それがミューフの言葉では元の世界に厄災が訪れるという。


情報が錯綜していたのか、もしくはわざと虚偽の事実を知らされたのかはわからない。


「例えば、一国の首脳が狂気に走り、核のボタンを押したとしたら?」


「···まさか、その狂気がこちらの世界の負の感情によるものだとでも言うのか?」


「そうよ。宣戦布告もなしに戦争を始めたり、無抵抗な民を虐殺したり。私たちの世界には、これまでにも様々な人災がもたらされた。」


信じ難い話だった。


こちらの世界で蓄積された負の感情が地球に流れ込み、向こうの権力者を狂わせるといいのか。


「それはかなり以前からの事象だと考えられていると?」


「おそらくね。少なくとも盟主からはそう伝えられているそうよ。」


また盟主か。


その盟主に我々は翻弄されているというわけだ。しかし、その目的は何なのか。


いや、負の感情の流出が事実なら、そちらをどうにかしなければならない。あちらの世界には俺の家族がいる。


「有識者はこちらの世界をメタバースだと表現していたわ。そして負の感情はルナティック・シンドロームであると。」


メタバースというのは、定まった定義はないが仮想現実のことである。


超越(メタ)世界(ユニバース)から形成された造語で、現在とは異なる次元の世界をいう。言い得て妙だが、感覚として俺にはそういった風には思えなかった。


「メタバースということは、こちらの世界が仮想空間として考えられているということか?」


「いいえ···あれはたぶん、便宜上の言葉だったのよ。メタバースにしてはリアルすぎるし、それだと私たちが最後に記憶している前の世界での出来事が関連しづらい。」


「それについて詳しく聞いても構わないか?」


少し躊躇したが、踏み込んでみることにした。


それを知ったところで何かが解決するとも思えなかったが、やはり他人事ではない。


「···そうね。私たちがこちらに来ることが確定してから、見聞きした情報をモニターするために脳にチップを埋め込むことが決定したのよ。」


人間の脳へチップを埋め込む施術は、俺の記憶上まだ実現していなかったはずだ。


ある企業がその承認のために1500頭を超える動物に実験を行い死なせたとし、動物福祉法違反の疑いで米農務省の調査を受けていると聞いたこともあった。


それを軍務とはいえ、施したというのか?




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