第8話
「ま、退役したのは随分と前だがな。」
退役後は民間人として暮らし、家庭と事業を持ったことまで話した。
「ふ~ん、大変だったんだな。それにしても借金で異世界送りとは、臓器を売るマフィアなんかの方がまだマシか。」
「借金じゃなく税金だ。」
他人事のように話す小鳥遊にイラつくことなくそう答えた。知り合ったばかりの奴に同情なんてされたくはない。
「ああ⋯⋯まあ、そっちの方が悪辣なのは世の常だわな。」
税金の取り立てが悪辣だといわれるのは、未納者の事情をかえりみずに取り立てようとする一部の奴らのせいだ。その辺りを柔軟にできれば、時間はかかっても回収はできるだろう。いいかえれば、もっと精神疾患や自殺に追い込まれる者たちも減るということだ。
ただ、彼らは法や規定にそって動いている。自己破産や弁護士すら通用しないのは、国税だから致し方ないのかもしれない。短期で実績を上げて上に昇ろうとする者にとって、他人の感情など大して気にならないのは世の常だ。そんな旧態依然とした組織は税務署だけにとどまらない。
「家族が路頭に迷わなくて済んだ。それだけが救いだ。」
「なるほど。あんたがフォース・リーコンを早々にやめた理由が何となくわかったよ。」
「好きに考えればいい。」
情に脆いとでも言いたいのだろう。
少なくとも現役の時はそうでもなかった。しかし、娘を持つと変わる。いや、それは息子でも同じか。
「まあ、退役から久しいあんたを採用したということは、優秀なんだろうな。」
「ただ使い勝手が良かったからだろう。」
「ま、そういうことにしておこうか。」
からかっているような表情ではなかった。
だが、何らかの含みがある物言いだ。それと、俺の外観と年齢についても深入りしてこなかった。ある程度の情報は共有されているらしい。
「何か要望でもあるのか?」
「話が早いねぇ。先のことはともかく、しばらくはこの街で暮らすと思う。」
「⋯⋯仕事を紹介しろと?」
まさか、金を貸せとは言わないだろう。それではあまりにも厚顔無恥過ぎる。
「いいね。勘の鋭い奴は好きだよ。」
この街で暮らすにしても、たいした持ち合わせがあるように思えなかった。着衣もくたびれている。
「何ができる?」
「調査の仕事、あとは簡単な悪魔祓いかな。」
「⋯⋯しばらく、冒険者として経験を積め。」
「え!?マジで言ってるのか?」
「紹介してやれる仕事はある程度の実績がいる。冒険者としてギルドの信用を得ろ。それからだ。」
「因みに、どんな仕事なんだ?」
「冒険者ギルドの調査員だ。内容は多岐に渡るし、どれを担当するかは適性による。ただ、公務員や団体職員のようなもので生活は安定するし、それなりに高給取りだ。調査員なら内勤で拘束されることも少ない。」
暗にこちらの世界に送られた目的や元の世界に戻る方法を探るなら、隠れ蓑としてオススメの職だと示してやった。
本人にやる気とセンスがあるなら推薦状を書いてもいいくらいの提案である。もちろん、その適性は今すぐ判明するものではないのだが。