第33話
依代である巫女。
それを起点に現世に影響を与えていた精霊。
カティアはそれを利用して自らの欲望を叶えていた。
今回の件はそう結論づけられて幕を閉じることになる。
すべて俺の報告による状況証拠でしかないが、この世界の理にかなっているのですぐに受理された。
ミユに対する措置に変更はない。
むしろ、経緯がある程度明確になったことで、調査部にとっても事後処理が楽になったようだ。
元の世界でもそうだったが、事後処理や書類仕事というのは面倒なものである。
その労力が減るのだから、喜ばれるのは当然かもしれなかった。
「アクアビットを。」
「かしこまりました。」
ギルドからの帰りに立ち寄ったバーで蒸留酒を頼んだ。
アクアビットとは、寒い地域でよく飲まれるものでジャガイモを主原料としたスピリッツに、ハーブやスパイスで香り付けされたものである。
アルコール度数は高めで、チェイサーにはエールが出された。チェイサーとは口直しに飲む飲料である。
アルコール度数が高い酒には、悪酔いや脱水症状防止のために出されることが多い。
アクアビットにはハーブやスパイスが入っているため、味覚をリセットする意味合いが濃いように思えた。
こちらのバーではハーブをブレンドしたものが入れられているようで、口に含むと爽やかなハーブの香りが鼻を抜けていく。
だが、アルコール度数が高いため喉を通り過ぎる時は熱っぽく、すぐに体がかっと火照った。
チェイサーを飲み、口内をリセットする。
これはあまり飲みすぎると喉が荒れるかもしれない。
こちらの世界にはあまり洗練された酒はなかった。
元の世界の多様な酒類と比較するのはナンセンスだと思いつつ、過去に好んで飲んでいたものを恋しくなるのは必然といえるだろう。
まして、酒類が増えるならともかく、激減して飲みたいものが制限されるのはなかなかにこたえる。
「それ、何ていう酒ですか?」
少し訛りのある言葉で急に話しかけられた。
入店時にチェックした際には店内の隅の方にいた男だ。マスターがワンオペで営業しているため、オーダーはカウンターに来て行うキャッシュオン式を採用している。男は新たなドリンクをオーダーしにきて、アクアビットに興味を持ったのかもしれない。
この店は照明が絞られているため薄暗く、近くで見るまで互いの容姿を認識できていなかった。ともにあっという声にならない驚きを発する。
この世界ではあまり見ることのない黒髪黒目の男がふたり、同じ店で顔を合わせた。
もちろん、この世界にも黒髪黒目がいないわけじゃない。
しかし、服装のセンスを見る限り似たような共通点を持ち、顔の造りも互いに日本人特有のものを持ち合わせていたのである。




