第9話
一度冒険者ギルドに戻ることにした。
カティア教の拠点を再度訪れるにしても、夜までにはまだ時間がある。
他に調査に赴くめぼしい場所もないため、新たな情報を得るにはギルドを起点に動く方が効率的なのだ。
それに今はカティア教の件でのみ動いているが、いつ何時他の案件が飛び込んでくるかわからないのである。
俺の職務は誰かに与えられた任務をこなすだけのものではない。大事に至る前の防護線を引くこともあれば、逆に容疑者を泳がせて現行犯で捕らえるか抹殺するということも少なくない。どちらにせよ、自ら案件を探すという攻めの姿勢が必要だった。
その過程で必要な時は経過報告をするが、そうでない場合は事後報告だけでも問題にならないことが多い。
元の世界の常識からいえば杜撰な管理体制だといわれそうだが、それだけに調査や捜査における自由や裁量権はかなり大きかった。
当然のことだが、ギルドも報告に基づいた事後調査は念入りに行っている。
そうでなければ、私怨や私利私欲のために特命執行官のやりたい放題となってしまうからだ。
俺自身にそのような不正を働く意思はないが、過去にはそれで不正を働いた奴も少なからずいたと聞いている。
どの時代、どの世の中でもそういった輩は必ず存在するのだ。
間もなくギルドという所まで来ると、路地から男女がもめる喧騒が聞こえてきた。
ただの痴話喧嘩の可能性が高かったが、念のために聞き耳を立てていると気になるキーワードが出てくる。
「あんた、また町外れのあの家に行くつもり!?」
「うるせぇな。俺がどこに行こうが勝手だろうが!」
「夜中にあんな所に何をしに行ってるってのさ!」
町外れのあの家といわれると、カティア教の拠点ではないかと安直に考えてしまいそうだった。
女性の腕を振り払って飛び出して行く男性を見ながら、少し間を開けてから聞き込みをしてみようかと思う。
まったく関係のない痴話喧嘩に関わる可能性もあったが、聞かずに情報を逃すよりはマシである。
たまたまだが、あの痴話喧嘩にも関連性があった。
女性に聞き込んだところ、喧嘩の相手である旦那が毎週同じ曜日の夜に何も言わずに出かけるのだそうだ。
最初は他に女でもできたのかと尾行したらしく、あの町はずれの家にはすぐにたどり着いたらしい。
しばらくして少しげっそりとして出てきた旦那を見て問い詰めようとしたが、似たような風体の男ばかりが建物から出て来るのを見て躊躇したようだ。
何せ、その人数が二桁を超えるというのだから、不気味さを感じても仕方がないというものである。