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異世界に転職するなら  作者: どるき
ケースNo.1 城之内ヒロシ
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異世界の営業マン

「とりあえずお互いに戦うのはやめてくれ。話があるんだ」


 口で言っても止まりそうがない二人を先読みして、精霊の武器を用いて光の網を作り出したヒロシはそれを用いて二人を拘束した。

 高速移動中に不意打ちで出現した網に足を取られた勇者と魔王は一時休戦となり、しぶしぶヒロシの話を聞く。


「まず改めて自己紹介をさせて頂きます。私は今日から冒険者となったヒロシと申します」


 ヒロシは営業マンだったことを思い出しながら二人を説得しようとしていた。

 自然と口調が敬語になっており、先程までタメ口だったホリィからすれば笑いだしてしまうほどの違和感である。

 一方でこれが初めての会話となるフレアは、魔王を敬う礼儀正しい男と見て関心していた。


「今日はギルドの勧めで魔王城の探索に来たわけですが目的はモンスターの討伐と宝探し。なので二人が戦うことは無いのかなと」

「何を言っているのよ。相手は魔王を名乗っているんだからモンスターと同じよ。むしろあいつらの元締めじゃない」

「名乗っているだけなら魔王じゃないし、だったら危害を加えた私たちが悪いことになりますよ」

「なっ! キサマも我を魔王とは認めておらぬか? ならば勇者共々──」


 ヒロシは自称魔王が相手ならば、魔王じゃないので戦う理由がないと諭した。

 だがその扱いはフレアとしては不服のようで、ヒロシも攻撃しようと炎を出す。

 しかし自由に動き回れていた先程までとは異なり今は拘束中。

 精霊の力で編まれた網は魔力封じの効果があり、フレアはうまく炎を操れずもがくだけ。


「フレアさんも怒らないでください。別に私は貴女が魔王であることを認めていないわけじゃないんです」

「だったらさっきの言葉はどういうことじゃい」

「ホリィさんの勇者のように、貴方の魔王という地位が世間的に認定されているのならば、勇者は貴女を倒さなければいけないんでしょう。この世界に来たばかりの私にもそれくらいは察します」

「当たり前じゃない。だからあたしは魔王だと名乗るコイツも──」

「ホリィさんは黙って」


 話に割り込んできたホリィを黙らせるべく、ヒロシは追加した光のロープで彼女の口や体を触手のように縛った。

 塞がれた口からかすかに漏れた艶やかな声に、フェイトは何かを感じるが余計な手出しはしない。


「私が言いたいのは、社会的な意味での魔王と、貴女の自負としての魔王は意味が違うってことです。フレアさんは世間的に魔王と認められて、他の勇者もひっきりなしにこの城を襲ってくるようになって欲しいんですか?」

「それは──」


 元々フレアは父親のファイガードが討伐されてからは、この魔王城でひっそりと暮らしていた。

 しかし近年になって魔王を失ったこの近辺に再開発の話が持ち上がり、元々の領主の断りもなくギルドが主となって進められたそれにフレアは反発していたに過ぎない。

 他にも廃墟として認識されているように、墓場荒らしとして魔王城に忍び込んで財宝を狙う冒険者も居たため、彼女は防犯用にモンスターを差し向けてもいた。

 つまりフレアはギルドの側から手出しをしなければ無害な存在であり、世界から存在そのものが危険だと扱われた彼女の父とは状況が違っているわけだ。

 ファイガードの時代はまだ魔王と勇者の争いは激しく、大戦争に発展することもチラホラだったが、近年の魔王たちは人里とは距離をおいているため平和である。

 魔王を名乗るから討伐すべきというホリィの考えは他の勇者からも時代遅れの過激派扱いであろう。

 まあ、この土地を欲しがっている人間からすれば、ホリィは都合がいい勇者なのだが。


「──我の望みとは違うな。我はあくまでこの土地を荒らす盗人を成敗していただけだ」

「だったら今日の冒険はここまでにしよう。フレアさんは私と一緒にギルドまで来てくれませんか?」

「な、何をする!」


 フレアをギルドに連れて行くと言い出すヒロシの言葉に驚いたホリィは、かろうじて解いた縄の隙間から言葉を通した。


「申請ですよ。私と同じく彼女も冒険者としてギルドに登録してもらいます。住所として魔王城周囲を登録して、ダンジョン指定も取り下げてもらいましょう」

「お主はバカか? 今まで我を敵視していたギルドが、そのような戯言を聞き入れるわけがあるまい」

「そこは大丈夫。こっちには勇者もいますから」

「はぁ? じゃあ何さ。ヒロシはあたしを都合のいいパシリにするつもりってわけ? 不意打ちで縛り付けることができたからって、調子に乗らないでよ」

「それは言いすぎですよ。今はろくに手持ちがないので後払いになりますが、私からもできる限り報酬ははずみますから。ホリィさんに損はさせません」

「そ、そこまで言うのなら……」


 ヒロシの説得。

 できる限りの報酬と聞いたホリィは、何を思ったのか顔を赤らめてから頷いて、彼の要求を飲んだ。

 あとはフレアが承諾すれば話は次の段階に進むわけだが、この様子を傍目で見ているフェイトはあることを察した。


(まさか……ブラフマンはこの状況を見越した上で、彼をスカウトしたのですか?)


 いくら魔王の存在が軽視され始めていた平和ボケの始まっていたオーザムであろうとも、もしフレアが魔王としての強さ以外の要素まで兼ね備えれば、新たに炎の魔王となった彼女が火種となって争いが起きるだろう。

 案外オーザムという世界は薄氷のバランス感覚で成り立っている世界でもあり、炎の魔王と勇者の戦いから世界崩壊につながる可能性はフェイトにも否定できない。

 しかし魔王と勇者の間を取り持つヒロシは、もしかしたら世界を平和に導く存在ではないか。

 フェイトはそう思うとともに、もし妄想通りにことが進めば、彼は魔王と勇者二人とも同時に娶りそうだなと思いつつも、初対面での顔つきとの対比で「ナイナイ」と心の中で首を振っていた。


「我もその話に乗ってやろうじゃないか。よろしくな、ヒロシ」

「こちらこそ。では行こうか二人とも」


 フレアが承諾したことで、二人の拘束を解いたヒロシは踵を返した。

 そんな彼の右腕に、よろけたふりをして抱きつくホリィと、それを見て対抗意識から左腕に抱きつくフレア。

 早くも美少女二人に抱きつかれてニヤけるヒロシの後ろ姿を見たフェイトは、ちょっと彼に都合がいい展開過ぎやしないかと思わずにはいられなかった。

 そんなことはオーザムに連れてきた時点でわかっていたことではあるが。

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