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異世界に転職するなら  作者: どるき
ケースNo.1 城之内ヒロシ
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いざ魔王城へ

「また泥棒が来たな。迎撃用のモンスターを出さないと」


 ギルド本部から魔王城付近に転移したフェイトたちに反応を示す一人の影。

 フレアと名乗るこの人物は、世間的には廃墟になり、今はダンジョンとして認識されている魔王城の中にいた。

 金髪でルビーの瞳を持ち牙がチラリと見える美少女。

 幼さと大人の色気が同居する彼女は、闖入者向けのトラップモンスターをフェイトたちの元へ向かわせた。

 一方、ギルドでも瑠璃色の髪を靡かせた少女が動く。

 フェイトたちの出発から40分ほど後に、異世界から来た神託者が魔王城のミッションを引き受けたことを知った彼女は魔王城に転移した。

 転移早々に全力疾走で二人の後を追う彼女の名はホリィ。

 オーザムでは冒険者ギルドよりも上の存在、デロリン神教会が認定した最年少勇者である。

 彼女は神託者の協力があれば、魔王城に残る魔王の痕跡を駆除し、元ファイガード王領土の安全が確保できると信じていた。


「そろそろ着きますよ。私が一緒で良かったでしょう?」

「そうですね。でもどうせならストラーストーンで連れて行ってくれても良かったのに」

「あれは直接行ったことがある場所にしか行けませんので。それにダンジョン攻略っていうのは、道中周囲にも気を配って、些細な点も見逃さないで行くものですよ。貴方は装備こそ立派だけど、駆け出しで素人同然。冒険者としては定番なアレの経験もまだですし、そろそろ出てきてほしいところなのですが──」

「あの……お姉さん?」


 二人は小一時間ほど魔王城に向かって歩いたわけだが、フェイトは地図やコンパスも用意していなければ、挙げ句歩くのは面倒と愚痴を言うヒロシに小言をチクリ。

 そんなフェイトの態度に自分の都合で辟易しながらも、彼女の顔を見たヒロシは不意にソレの存在に気がついた。

 半透明で薄っすらと青い塊の群れ。

 あれはもしや──


「なんかスライムみたいなのが居るんですが」

「!?」


 ヒロシの指摘でフェイトは周囲の気配に注意を払う。

 たしかに彼の言うように、スライムらしき群れが両サイドから押し寄せてくる。

 フェイトは自分一人だけならばまだしも、ヒロシを護りながらでは手が足りそうにない。

 そこで間に合わなくよりも先に彼に頼んだ。


「そのようですね。私に構わず城之内も戦ってください」

「よーし!」


 最初に気が抜けたリアクションしていたので不安に感じたフェイトだったが、戦うようにと伝えた途端、顔つきが変わるヒロシを見て一安心。

 ようやくお披露目である精霊の武器を取り出した彼はソレをスライムに向けた。

 精霊の武器は一見するとごく普通の短剣だが、その真価は精霊が認めた持ち主の手に握られることで発揮する。

 オーザムの世界に充満する精霊力を収束し、使用者が思い描いた事象を引き起こすことが出来るこの武器は、使用者に応じた限度こそあれオーザムという世界では如何なる武器よりもえげつない。

 駆け出し冒険者にはもったいない武器だが、逆に言えば駆け出しだからこそ良いモノを持つべきとも言える。

 そこまで過保護にするほど、オーザムの神にとって神託者とは希少で大事な存在のようだ。

 今までにもフェイトはオーザムへの転職を案内したことがあるが、これまでの人物は海外帰りの元傭兵兵だったり、些細な軽犯罪を切っ掛けとして職場には復帰不可能な制裁を受けた教師だったりと、社会的な居場所を失った技能保有者だった。

 だがヒロシは鬱になりかけた元営業マン。

 ブラフマンも絶対に転職させろと言っていたが、オーザム側の高待遇を見るに、彼には神託者ということ以外にも何かがあるようだ。


「堕ちろ! イカズチ!」


 精霊の武器を天にかざしたヒロシが叫ぶと、上空に現れた雷雲から落ちた雷がスライムの群れを焼き払う。

 フェイトが自分で対処する暇もない広範囲攻撃に、彼女の疑問は確信に変わった。

 以前に連れてきた元傭兵も同じ武器を与えられていたが、彼はこのように天候を操ることは出来なかった。

 もしかしたら当人の発想力が乏しかっただけかもしれないが、精霊の力を砲として合理的に飛ばして戦っていた元傭兵にはこの規模の攻撃は出来ていない。

 そういえば彼をオーザムび連れてきて半年くらいになるが、彼はどうしているだろうか。

 あっけなくスライムを倒したヒロシを見て、フェイトはふと心に思いを浮かべた。


「スライムなんてこの程度よ」

「初陣にしては出来すぎて怖いくらいですよ。オーザムのスライムって、ゲームのイメージよりもずっと強いんですから」

「そう言われても雷鳴一発で倒しちゃったから、俺には雑魚ってイメージだぜ」

「流石は神託者! 今度こそ本物のようね」

「あ、あなたは?」


 スライムの倒し残しが居ないかと注意をし、先に進もうとしたフェイトたちに呼びかける女の子の声が一人。

 ヒロシが小首を傾げるのは当然の流れだが、フェイトは彼女の顔に見覚えがあった。

 最年少女性勇者ホリィ。

 ギルドでも色々な意味で有名人であるし、フェイトとしては半年前に、当時ヒロシと同じく連れてきた神託者を、相棒にすると言って絡んできたことを憶えていた。


「こんなところで会うなんて、奇遇ですねホリィさん。それにお一人のようですが、相模さんは一緒じゃないのですか?」

「あら、居たのねフェイト。でも考えてみれば、異世界から来たばかりならブラフマーエージェントが一緒なのは当然か」


 ホリィはフェイトの疑問には答える様子がない。

 というよりも、今となっては相模なる人物のことなど知らぬ存ぜぬのようだ。

 その証拠のように彼女は新しい神託者であるヒロシにしか興味を示していない。


「あたしは勇者のホリィ。あなたが神託者というのならば、あたしとコンビを組みましょう。というか、つべこべ言わずに組んで♥」


 初対面のヒロシに飛びつくホリィ。

 初めて女性から抱きつかれたことでヒロシはしどろもどろである。


「待ってください。まだ彼はお試しですよ」

「あの小煩いのは放っておいて一緒に行きましょう。魔王城の探索なんでしょう? 他にもモンスターが隠れているから、皆殺しにしてこの辺りを平和にしちゃおう」

「おー!」


 見かねたフェイトは苦言をこぼすが暖簾に腕押し。

 ヒロシもすっかりホリィに乗せられており、腕に当たるホリィの果物を堪能しながら、ニヤけた顔で先に向かっていった。


(もう勝手にしろ! って、突き放したいけれど……それをやったら大目玉なんでしょうね。いい加減、恨むぞブラフマンめ)


 気持ちの上では、ヒロシを女の色気で自分のモノにしようとしているホリィに全て任せたいフェイトだが、ほぼ目的を達成していても途中放棄はブラフマンの反感を買う。

 そうなるとネチネチと面倒な手段で嫌がらせをしてくるのが目に見えているので、仕方なくフェイトも二人の後についていった。

 とりあえず早々にチート武器を使いこなすヒロシと腐っても勇者の一人であるホリィ。

 フェイトもそれなりに戦うことができるわけだが、この二人がいれば雑魚相手に出番はないようだ。

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