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異世界に転職するなら  作者: どるき
休日編

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釣り堀

 ひとまず二人は遊歩道をひたすら歩く。

 公園を出ると遊歩道の道中には所々に東屋があり、ときには子供やお年寄りが一休みしていた。

 老いたる先人はまだいいが、子供は茶化したいのが見え見えの顔をしているため、それを見たときには流石にフェイトも腕から離れてしまう。

 沼の水面から吹き付ける風は少し冷たいが、フェイトも火照っているのでそれが心地がいい。

 掌に熱を帯びる開もフェイトと同じ気持ちなのだろう。

 風で頭を冷やしながら歩いていると5キロの道のりはあっという間に終わりを告げた。


「釣り堀か。こういうのはダンナ沼には無かったな」


 遊歩道の終点にあったのはフィッシュセンターという看板がかけられた施設。

 遠巻きに見えるのは釣り竿を垂らす人の影で、どうやらここは釣り堀のようだ。

 地元にいた頃でも魚釣りの経験はフェイトには乏しい。

 しかし普段は興味を抱かない事柄でも、観光地となると気持ちが変わってくる。


「ちょっとやっていこうよ」

「良いけれど……フェイトは餌とか触っても大丈夫か? ミミズとか芋虫とかだし」

「好き好んで触りたいものじゃないけれど、仕事柄そういうのには慣れているから平気よ。巨大ミミズとかに襲われることもあるし」

「うわぁ」


 聞くだけで顔が青ざめる開つられてフェイトも思い出し少し身の毛がよだった。

 開の前ではお姉さんぶっているだけで、巨大生物の類は自分でも化け物カテゴリーとして無心で倒さなければ思い出すだけで気色が悪い。

 ぶるりと震えて体を寄せるフェイトに強がりを感じた開はそっと彼女の手を取る。


「じゃあ餌付けは俺がやるよ」

「自分で言い出しておいてゴメン」

「別に良いって。それよりもせっかくの釣り堀なんだし、魚釣りを楽しもうぜ」

「そうね」


 開の態度に「彼のほうが乗り気で良かった」と思うフェイトだが、これは歳下の彼氏なりに相手を喜ばせようとした彼なりの優しさである。

 そのまま手を引いて受付を済ませた二人は係員から餌と釣り竿を受け取って、空いてるスペースに並んで陣取った。

 この釣り堀にいる魚はニジマスで、釣ったらそのまま買い取りになるという。

 開としては魚の買い取りは想定外だったので思わぬ出費に冷や汗。

 あまりにも釣れすぎてフェイトに代金を払ってもらうことになったら気恥しいからだが、フェイトの方はむしろそうなったら嬉しいとさえ思っていた。

 フェイトも誰かに貢ぐ趣味を持っているわけではないので、これはお姉さんとしてのサガであろう。

 このままでは恋人としての立場がないと感じた開は積極的に餌付けを請け負う。

 二人分の餌をつけてから並んで竿を垂らすと、フェイトの方には早速当たりがあったようだ。


「もう来た」

「気をつけろよ。慌てて引くと糸が切れるし」

「ナイロンの釣り糸って結構丈夫だし大丈夫よ……たぶん」

「だと良いけれど」

「ほら。大丈夫だった」


 開の心配は無事に外れて、フェイトは見事にニジマスを釣り上げられたが、早々に一匹目を釣り上げたことで大きくなったフェイトの気が伝わったのかもしれない。

 その後はサッパリで時間が過ぎていき、フェイトは次第に調子に乗っていた気が失せていった。

 だがその影で残念な状況なのは開のほう。

 フェイトがオケラでも自分が余計に釣り上げてみせようと思っていたので、逆に自分がオケラというのは気恥ずかしい。


「二人とも釣れないって自体は避けられたんだし、そうしょんぼりしなくても大丈夫よ」

「それでも気にするって」

「良いじゃない。私の竿にたまたまかかっただけで、仕掛けをやったのは開なんだし。むしろ釣らせてくれて、ありがとう」

「ね……」

「あっ! ようやくそっちにも来たよ。ほら、早く釣り上げて」

「そういうフェイトのほうも来てるぜ」

「あわわ」


 ラストの5分。

 ようやくの当たりを着実にモノにした開もニジマスを釣り上げた。

 その影で同時にかかったフェイトの方は、慌てて力強く引いたせいか糸を切らしてしまった。

 ちなみにその魚は程なく別の客が釣り上げたのだが、この日釣り上げられたニジマスで一番の大物だったらしい。


「残念だったな。せっかくもう1匹釣れそうだったのにさ」

「まあ……お互いに1匹づつになったんだからちょうど良かったじゃない。生魚で日持ちもしないから半端に3匹あっても余るし」

「たしかに考えてみると取れすぎても困るな」

「せっかくだしこの魚はここで食べていっちゃいましょうよ。機材は貸してくれるそうだしさ」

「よし! それじゃあこっちで挽回させてもらおうかな」

「そんなに凝ったモノじゃなくて良いからね」


 結局二人が釣り上げた魚は合計2匹。

 昼食を兼ねて塩焼きにして食べてしまうのにはちょうどいい量だろう。

 開は大量釣果でフェイトにいい顔をしようとしていたアテが外れたわけだが、相手が生魚ということを考慮したらむしろ丁度いい結果である。

 同棲してからは普段の食事も担当するほどに開は手慰みに料理をする趣味がある。

 シンプルと言いつつもワタ抜きや塩加減が的確に行われたニジマスの味はフェイトの頬が緩む美味さだった。

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