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異世界に転職するなら  作者: どるき
ケースNo.3 相模カズト

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19/29

戦士ユルゲン

 落下した鞘が床板に落ちてゴトリと音を立てる。

 それに合わせて突進したユルゲンは上段から剣を振り下ろした。

 ビュンと風を切る音が周囲に響くので刃筋は良いようだ。

 だが剣速はさほどでもない。

 フェイトは棍の先端を使って横に弾こうとするのだが、そこは彼の誘い通りのようだ。


「ハァっ!」


 弾かれる勢いを利用して剣を回し、加速させた刃をフェイトに振るったのだ。

 緩急もあり刃の速さは目にも止まらぬほどである。

 風を切る音が遅れるほどの一撃はフェイトの右首筋を狙っており、「手加減はする」とはどの口が言ったことであろう。

 そのまま受ければ彼女の首は地面に落ちる。

 あっけない勝利を確信した様子のユルゲンは唇を綻ばせており、寸止めをする気配もない。

 かつて風の魔王を倒した勇者、家庭教師トライバンの正体見たり。

 主人に会う資格があるかを見定める腕試しと称して来客を殺そうとする快楽殺人者を野放しにする悪漢か。


(叢神流──体束木の葉落とし)


 ユルゲンが放つ渾身の一振りを躱すべく、フェイトは大事な人に習った古武術の体捌きで応戦する。

 棍の重みを利用して滑るように床に張り付いて、ユルゲンの横にスライディングしながら回り込んだ。

 避けられても動じない彼の刃は案の定、避けなければ首と胴が泣き別れするラインを通る。

 その上で密着しすぎている以上、長物では応戦できないとたかをくくっている彼は剣を構え直してから追撃を入れようとしていた。

 その油断をフェイトの両手は突く。

 彼女の使う武器はあくまでも鉄血という能力で生み出したもの。

 上限こそあれ形状はある程度自由自在のため、例えば一本の長い棍から三本の短杖にすることなどワケもない。

 分割し彼女の両手に握られている杖の間合いはユルゲンの剣の更に内側。

 起き上がりながら密着状態で彼の腹をフェイトは突いた。


「ごふっ!」


 ダメージはあるが、まだまだ余力は充分。

 ユルゲンはそんな表情で、フェイトの追撃を剣で受け止める。

 左右の攻撃を一振りでいなす彼の剣技は、なるほど充分に高いのだろう。

 トライバンの門下生として門番を務めるだけの実力は確からしい。

 だが彼はフェイトの棍が彼女の能力によるものと知らず、短くなったのもただのカラクリ仕込みとしか思っていない。

 だが……それならば余計に気にすべきことを彼は見落としている。

 一本あたりの長さは最初の棍の三等分。

 フェイトの手には左右に二本。

 ならばあと一本はどこにあるのかと。


「ビンゴ!」


 答えは彼の頭上だった。

 フェイトは予め空中に投げておいた三本目の落下地点にユルゲンを誘導し、狙い通りに彼の頭にそれを落とした。

 ゴツンと音を立てて頭を打たれるユルゲン。

 これだけで彼が気絶するほどのダメージではないのだが、彼の隙を生むのには充分である。

 不意の一撃に意識を取られたユルゲンは手首を打ち付けられて、剣を手放した時点で積んでいた。

 そのまま肩、こめかみ、顎、脇腹を左右の連打で打ち付けられたユルゲンはトドメの脳天で完全に意識を刈り取られた。

 確かに刃物ではないのでちょっとやそっとでは死ぬことはない。

 だが打たれた箇所の骨はヒビが入っていてもおかしくないほどに打ち付けられたユルゲンはピクリとも動かない状態になった。


「これでいいかしら──って、完全に伸びちゃってるか」


 殺されそうになったのもあるが、フェイトも逆に殺し返す勢いだった。

 当初の目的である「腕前を認めさせて、トライバンの居場所まで案内させる」という仕事には外れた行為に、後の祭りとなってからフェイトは少しだけ自己嫌悪。

 勝ったはいいが、この次はどうすればよいのか。

 いっそのこと諦めて帰ってしまおうかと踵を返して練武場を出た彼女の前に、お着付けのように新たな刺客が現れた。

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