ヲタッキーズ88 アキバのロビンフット
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第88話"アキバのロビンフット"。さて、今回は銀行強盗がプライベートバンクの貸金庫を襲撃!
狙われたのは傭兵、故買商、麻薬売人の貸金庫。しかも、即日、全額がシングルマザーの支援基金へと匿名寄付されて…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 キャミソールから怒りをこめて
アキバの夜は早い。
市場があった頃から早かったが、萌え化しても変わらない。
深夜、ネオンの谷間を流れるのは首都高上野線の車列だけ。
Pi Pi Pi
ライト片手の警備員がパスコードを入力し地下金庫を解錠。
重い扉が左右に開き金庫内をライトで照らす…異常ナシだ。
「ガード09より本部。異常ナシ…勘弁してくれ。今夜はコレでもう3度目だぞ!」
「こちら、本部。おかしいな。システムが異常を感知したのだが…万世橋を呼ぶと10万かかる。一応、中に入って確認してくれ」
「ガード09、了解。どうせ俺の人件費は10万より安いさ」
不平タラタラで室内をライトで照らす。壁一面の貸金庫だ。
で、壁を隔てた下水本管でジッと息を殺す怪しい人影2つ…
ガスマスクに…おや?キャミソール?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。パーツ通り地下にあるSATO司令部。
「何やってンの?」
「だから、異次元人捕虜の尋問でしょ?文句ある?」
「私が追い詰めてるのを邪魔したくせに」
怒れるメイド服2人組は、ヲタッキーズのエアリとマリレ。
SATOは"リアルの裂け目"からアキバを護る防衛組織だ。
「私が何をしたって言うの?」
「だから、私が合図したでしょ?」
「ふん。アレのどこが合図ょ」
取りつく島もない。とりなすコレもメイド服のミユリさん。
「あぁ痴話げんかwお嬢様達、捕虜の供述は?」
「姉様、未だです。ゴメンナサイ」
「まるで再結成直後のバンドね。何もかも息が合ってナイ。
早くハモリを取り戻して欲しいな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
地下金庫と壁を隔てたアキバ地区の下水本管。
古いコンクリート壁の前に立つキャミソール女子達。1人は無線を傍受。もう1人は両手を壁に伸ばし精神を集中スル…
ゴリゴリ…ゴリゴリ…
暗闇で空気が波立つw共鳴して壁が細かく振動、四角く入った割れ目が徐々に大きくなって、やがて反対側に崩落スル。
ずっしーん!
ブロックとなり落ちた壁は大きな音を立て、警備員が慌てて地下金庫に取って返すと…眼前にキャミソールの女がいるw
「誰だ?…うぁ!うぁぁぁ!」
キャミソール女が指差すと、警備員は突然金縛りに遭い、絶叫しながらカラダが細かく震え出して…気を失って倒れるw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋警察署の夜間指令室。
「東秋葉原レタス銀行で問題発生。コード5」
「5?」
「既に警報が4回。システム故障との報告が上がってますが…」
「現場は?」
「スマホも無線も通じません」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「万世橋警察署から全ユニット!神田練塀町1356、東秋葉原レタス銀行へ急行せよ!」
パトカーの無線が流れる中、ラギィ警部は既に現場到着。
「あら、警部。遅かったじゃない?」
「夜食のカレーが絶品で…ヲタッキーズの考えは?」
「さっきから、あそこに工事車両が停車してルンだけど…でも、区役所に聞いたら今宵は工事の予定は無いって」
一足先に"舞い降りた"エアリとマリレが指差す。
マンホールの蓋が開き、ハシゴが地下へと消えるw
周囲に下水特有の腐卵臭←
「犯人がスーパーパワーを使ったとの通報ょ。ヲタッキーズと合同捜査になる。行って」
「え。私達?メイド服でハシゴを降りるの?」
「どーせ下から誰も見てないし」
アキバで異次元人、スーパーヒロイン、パワーの使い手などが絡む事件は、自動的に万世橋とSATOの合同捜査となる。
「下には誰もいないわ。クリア!…うぅ臭い」
「電源コードが伸びてる。誰かがこの先で作業を?」
「強盗?…あ、待て!」
下水道の角から…キャミソール?の人影がチラ見えw
ライトと音波銃のレーザーポインターの赤点が追う!
「万世橋警察署だっ!動くな!」
逃げるキャミソール、メイドが追う!コスプレ競争?笑
「見て!奴等は壁を崩してた。この先は…東秋葉原レタス銀行の貸金庫室だわ」
「え。どれどれ…あ!中で警備員さんが倒れてるし」
「犯人と遭遇して殺されたのね」
下水本管の壁にはハシゴがかけられ、その先に四角い穴w
かろうじて1人が通り抜けられる幅で貸金庫室に抜ける←
「警備員さん、未だ生きている。脈がアルわ」
「ラギィ警部。こちらヲタッキーズ。制圧したら直ちに救急隊員を地下金庫の入り口に待機させて!」
「了解、ヲタッキーズ。気をつけて」
先頭のマリレが地上に無線連絡をしていると、暗闇に火花が散り、貸金庫室のフロアに何かがコロコロと転がって来るw
「ガス弾だ!状況ガス!ガス!ガス!」
「装面してない警官は退避して!」
「あ、待て!ゴホゴホ…」
物陰からガスマスクにキャミソールと逝う終わったファッションの女?が飛び出して、音波銃を乱射しながら逃走スル!
「追え!追うのょゴホゴホ…」
「了解、追います…あぁダメだゲホゲホ」
「ダメです!逃げられました!」
やがて、ガスが晴れ、地下金庫も開き空気が入れ替わる。
「キャミソールは、ココに15分もいたのに、金庫1つ開けてナイわ」
「どーゆーコト?」
「銀行強盗じゃナイ?何しに来たのかしら」
第2章 プライベートバンクと逝うお仕事
「東秋葉原レタス銀行は、流行りのプライベートバンクで、貸金庫は年額1千万円だそうです」
「借りるだけで1千万?!中には何が入ってるの?」
「ソレを申し上げるコトは出来ません。当行の顧客は、守秘に金を払っている。こうした事態は、実に歓迎出来ナイ」
現場検証が続く現場で、ラギィ警部は東秋葉原レタス銀行のフリジ・エバス代表と逢う。眼鏡をかけた神経質そうな男。
「警察としては、ココに軍用ガスグレネードが転がってるコトが歓迎出来ないわ」
慇懃無礼なフリジ代表の前にビニールの証拠品袋に入ったグレネード弾を突きつけるラギィ警部。代表は平然としてるw
「出来れば24時間内の来客記録を1時間以内に御提出を」
「不可能です。録画も署名記録もありません」
「あの監視カメラは何なの?合鍵は?」
「全てのIDは匿名です。我々の守秘能力は、シンガポールのオフショア口座に匹敵スル。当行は、個人所有の銀行なので、銀行秘密法も適用外です」
「パナマ文書でケイマン諸島から逃げ出した客狙いね。ヤバい金を隠す人の数は増えこそすれ、減りはしない」
フリジ代表は、ニヤリと笑う。
「貸金庫をこじ開けた形跡は?」
「全くありません。最先端の網膜認証を採用しており、警部のおっしゃる"キー"はありません。貸金庫を開けられるのはオーナーだけです」
「どの貸金庫が開けられたか、どーしたらわかるの?」
「わかりません。2000を超える貸金庫があります。匿名の1人1人に事情を話して確かめろとでも?不可能です」
「…わかったわ。じゃ後ほど令状を持って伺います」
「どの金庫が狙われたのかわからないのに…疑いがあるだけで2000もの貸金庫全てに令状が出るのですか?」
「ぐっ…ま、まぁまた来るわ。覚えてなさい」
「どっちが警察かワカンナイなw」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
カレーメイドカフェ"キャミソ・アイ"。
「いらっしゃいませ。あ。貴方がリアルのテリィたん?」
「いかにも」
「キャー。抱いて」
大歓迎だ。姉妹メイドのリリィ&ルルゥがやってるメイドカフェ"キャミソ・アイ"は行列の絶えない繁盛店。
姉妹は、ヲタク殺しのインド系で褐色の肌に目鼻立ちクッキリのニュータイプ美少女。メイド長リリィに挨拶。
「友達の出版記念パーティなんだ。今日は下見。コチラは、ココに来れない友達の代理でスピア」
「はじめまして、スピアさん。メイド長のリリィです」
「スピアです。万世橋のラギィ警部の御紹介で参りました。出版記念パーティーは、出版社の主催で関係者全員を招待スル盛大なモノです。で、コチラが作者のルイナ」
ジャージ姿のスピアは、スマホの画像を見せる。
「こんにちわ、ルイナと申します。噂のカレーショップだそうね。ソレと数学王国のインドご出身というのもポイント高いわ」
ルイナは、史上最年少の首相官邸アドバイザーを務める、超がつく天才だ。車椅子なので"アキバのホーキンス"ともw
「ルイナさんのパーティを開いていただけるナンて誇りに思います。ご出版おめでとう」
「ありがとう!…で、スピア。来月のワークショップ、ヤメちゃったの?」
「え。だって、ルイナのパーティと同じ日だったから。貴女の御家族を神田リバーの水上空港でお迎えしたいから」
ルイナとスピアは、何やら話し始めそうだったが、通話アプリにさらに割り込みが入る。今度はラギィ警部からだ。
「どうも。ルイナにスピア、オンライン?」
「YES。今、警部に教わったカレーショップで出版記念パーティの打合せの最中ょ」
「ルイナ。プライベートバンクの貸金庫が襲われた。でも、数千の貸金庫の内、どれを襲った犯行か不明で」
「アセトンの汚れを調べて。経路予測に使うから。あと…」
「リスティングの法則も使えるわ。ね?ルイナ」
ルイナ&スピアの事件解決マシンが動き出すw
「ちょ、ちょ、ちょっと待った!ソレで何か突き止められるの?」
「YES。ラギィ、例えばゴルフのスイングをイメージして。スイングを見て分析すれば、ボールが飛ぶコースがわかる。ゴルファーが見えなくても、クラブの動きさえわかれば、ゴルファーの立ち位置まで見えてくるわ。この時、見るべき点は2つ。犯人の手は動いてる。暗闇の中で、目的の金庫を探しながらね」
「暗闇で姿が見えなくても、犯人の動きや速度がわかる?速さがわかれば、犯人の歩いた方向や立ち止まった場所、つまり、探してたモノまでわかるわ」
淡々と話す超天才ルイナ。ナゼか困惑顔のメイド長リリィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
SATO司令部。
SATOは、アキバに開いた"リアルの裂け目"からヲタクを護る首相官邸直属の防衛組織。ヲタッキーズを傘下に置く。
「Hiヲタッキーズ。こんな遺留品があるけど」
「え。ラギィ警部、その手袋は何処から?貸金庫室に開いたトンネルに落ちてた手袋ですょね?」
「YES」
万世橋からアプリ経由で呼びかけだ。
「てっきりウチで分析中かと思ってました」
「眠たいコト言わないで。昨日、万世橋へ行ったのは貴女でしょ?」
「遺留品の担当は貴女じゃない!」
「いつからょ?」
ヲタッキーズのエアリとマリレは今日も仲が悪いw
「待って。で、悪いけどウチの鑑識で調べさせてもらった。手袋の内側に指紋はなかった。2枚重ねて使ってたのね。プロょ。ソレとアセテートの指紋がついてた」
リモート画像に指紋の写真のUP。
「最新式の指紋認証システムも指紋の"型"さえゲットすれば簡単に欺ける。バイオ式のロックは脆い」
「指紋の"型"?」
「ターゲットが触ったガラスコップとセロテープがあれば、簡単に"型"は採れる。システムを欺くのは簡単ょ」
「あらあら。さすが3重スパイは悪知恵に長けてるわ」
「TVでやってたの!」
「…予め襲う貸金庫は決まってたのね。その金庫を突き止める必要があるわ」
「犯人は、貸金庫オーナーの指紋を入手できる奴。恐らく銀行従業員か顧客だわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
SATO司令部にあるルイナのラボに顔を出す。
「テリィたん!いつ宇宙から戻ったの?」
「昨日。また異次元人絡みの事件?あれ、1人?スピアは?」
「ソレがちょっと…」
車椅子のゴスロリ少女ルイナは、ストリート育ちのハッカーであるスピアとウマが合う。いつも一緒なのだが…その時!
「プロージット!…がっしゃん!」
「わ!びっくりした!何ゴト?」
「あら、テリィたん初めて?SATOが"月面戦線"で何か勝利したみたいね。乾杯した後でグラスを叩き割るのだけど、予め液体窒素に浸したグラスで破裂音を増大させるのが伝統なワケ」
「青春だなー。若さとは1時のモノ。でも、青春は永遠なるモノか」
「誰の言葉?」
「ライトさ。日比谷の帝國ホテルの設計をした」
「私、遅咲きの花は大歓迎ょ。うふふ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
スピアがラボに戻ったのは、僕が顔を出した後らしい。
「先日の話は…」
ルイナとスピアが異口同音で、思わず苦笑いだ。
「何?ルイナ?先に言って」
「スピアにハッカーサミットを休んで欲しくない」
「あら。代打を立てるから大丈夫。ソンなコトより…私を御両親に会わせたくナイとか?」
急に真面目な顔になるルイナ←
「わ!冗談だったのに!」
「ううん。もちろん会って欲しいの。信頼してる仲間だモノ。でも、パパはあるコトに少しこだわりがあって」
「どんな?」
「私と付き合う人は…人種のコトでね」
「私がヲタクだから?」
「そうじゃなくて…でも、リアルじゃないと」←
「ええっ?あ、そ」
「ルイナ。ねぇこんな話でケンカしたくないの」
車椅子をクルリと回すルイナ。
「モチロンょ!でも、急いでテリィたんに会わなきゃ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
東秋葉原レタス銀行へと急ぐミユリさんとラギィ警部。
「犯人の解析が、もうわかったとはサスガね」
「ルイナは超天才だモノ」
「万世橋ょ。フリジ代表を」
ロココ調のデスクに座る副代表に語りかけるラギィ。
「ミユリの部下もルイナを見習うべきカモ」
「何の話?」
「エアリとマリレ。前は息がピッタリ合ってたのに」
「2人はうまくやってるわ。色々あったし」
ラギィは、追求の姿勢を崩さない。
「ミユリ。悪いけど、貴女が何とかすべきょ」
「私にどうしろと?」
「抱きしめて慰めてやれとは言わないわ。首根っこ捕まえてどやしつけるまで」
「うーん任せてあるの。自ずとわかるわ」
スーツ姿の副代表が氷の微笑を浮かべて近づく。
「地下の金庫室へどうぞ」
「どうも」
「コチラです」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
地下の金庫室には…"傭兵"が待っている。
「貸金庫オーナーのピィナです」
「万世橋のラギィです」
「早速ですが貸金庫の捜索令状を拝見します」
ラギィは怯まない。
「おや?取る必要がありますか?」
「…強盗に入られたのは、確かです」
「では、一緒に中身を確認しましょう」
ピィナは、ラギィの背後で渋い顔でうなずく代表を見て、指紋認証で貸金庫を解除、中から木箱を取り出して開けると…
「everything is gone…」
「中身は何でしたか?」
「オフレコで?」
「えぇモチロン」
「金貨が数枚です」
「おいくら?」
ココで初めてバツの悪そうな顔をするピィナ氏。
「50万ドル近く」←
顔を見合わせるミユリさんとラギィ警部。
「ドル?失礼ですが、青い目の方には見えない。もしかしてルナランド金貨では?」
「だとしたら?」
「追跡の難しい金貨を、なぜ貴方が大量にお持ちなのか、聞かねばなりません」
ココで控えていたフリジ代表が遮る。
「以上で"捜査協力"は終了です。後は弁護士を通してお願いします」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「ピィナは傭兵でした。月面に開いた"リアルの裂け目"をめぐる第2次月面動乱に戦闘工兵として参戦」
「その報酬がルナランド金貨ね?世界各地で換金可能で足がつかないわ」
「最後の住所は…モナコですねw以来、世間から姿を消してる。まさか東秋葉原にいたとは」
東秋葉原は、昔から不規則に"リアルの裂け目"が現出スルので、異次元を絡めたマネーロンダリングが盛んな街だ。
そして、胡散臭いマネーが集まる街には、胡散臭い人間が集まる…次元を問わず。まるで吹き溜まりに集まるようにw
「モナコか。恐らく、月面で1生分稼いで、余生は遊んで暮らすつもりだったのね」
「特殊な金貨なので、秋葉原であの金貨を扱ってる両替商は6軒だけです」
「官邸経由で財務省から問い合わせたら、その内の4軒で12万5000ドルずつ換金して送金してました。コレが送金先のリストです」
ラギィ警部が渡されたファイルのページをめくる。
「なになに?"シングルマザー基金"に"明るい母娘"?"姉キャバ互助会"と"姉さん'sホーム"。ヤタラとシングルマザー流れの文字が並ぶんだけど」
「先ず銀行から金貨50万ドルを盗んで、ソレを全額チャリティーへ寄付?」
「まるで女ロビンフッドだわ。もしかして、アキバの女ロビンフットはシングルマザー?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
スピアが気不味くなって出て逝った後で、ラボを再度訪問。
「スピア!さっきはゴメン…あ、テリィたんか」
「御挨拶だな。迷惑?」
「ううん、ウレしい。で、何?」
車椅子のゴスロリ少女は明らかに悩んでる。
「うん。いや、絶対零度のグラス割りから逃げて来ただけさ。事件の方の進捗は?」
「銀行強盗が襲ったのは貸金庫。私の分析では、あと2つは開けられてると出たの」
「運動モデルで手の動きを分析したのか!この3D画像、スゴいな!」
「ソレが…アルゴリズムに修正を加えようとしたら、実は1人じゃ行き詰まってしまって」
「おや?スク水の相棒は?」
「スピアは忙しいの」
おやおやだ。ルイナもスピアも友達がたくさんいるタイプではないので心配だ。ソレでなくても女子は面倒臭いからなw
「ところで、ルイナ。コレって、犯人は進む道が決まってて、かつ一定のスピードで動くって前提だっけ?」
「YES…変則性を考慮すべきかしら?」
「ってか…リアル人生は、進む道が決まってる方が珍しいってコトさ」
「そー言えば、テリィたんは宇宙シフトが明けても、最近はカウンセリングとか受けてないね。お坊さんとの瞑想に切り替えたの?」
ヤバ。カウンセリング好きの心理作戦部長が出てきそうだ。
「えっと!ルイナ、君のシミュレーションモデルと僕達の人生には、どーやら同じ問題がアル」
「え。どんな問題?」
「制限が多いってコトさ。今回の銀行強盗も同じだろ?逝き先もわからズ、スピードもわからない」
第3章 ロビンフットが狙うのは
捜査本部。
「ルイナが、開けられた貸金庫をもう2つ見つけました。1つ目のオーナーは、アリカ・リミン」
「メソポタミアの骨董商?2001年バクダット出国。容疑はイラク国立博物館所蔵の古美術品の窃盗?ダメじゃん」
「まだまだ。2つ目の貸金庫の方が強烈ですょ」
「麻薬シンジケートのロドゲ?!捜査中の男だわ。半島に逃げたと思ってた」
「他の情報源では、シンガポールか上海とも言われてました」
「どこでも良い。秋葉原にいるなら、もう逃がさないわ」
「予想通り、2人とも女ロビンフットに盗まれ、貸金庫の中は空っぽらしいです」
「どうせ金か麻薬でしょ」
「最初は傭兵。次に盗品売買業者。最後は麻薬シンジケートの黒幕。女ロビンフットは、実にナイスなターゲットばかりを選ぶわね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラボ。ルイナは…完全に煮詰まってるw
「あぁスピアがいれば簡単なのに!彼女の専門分野なの!」
「さっきも聞いたな、そのセリフ」
「今回は、特に助けが必要なの!あぁいてくれたらな!」
「もしかして…僕に相談してる?いいょ何?」
「スピアの御両親が秋葉原に来るんだけど、問題発生なの。パパさんが私がヲタクなのを気にしてる。何だか拒絶された気がして傷ついたわ」
僕はのけぞる。
「バカだな。スピアはもっと傷ついてるょ!あのね。そもそも、親ってのは子供に色々理想を押しつけるモンなんだ」
「テリィたんのパパさんの理想は?」
「あれ?何だろう?SF作家になれとか逝ってたな」
「初耳ょ。でも、半分当たってるじゃない」
「半分と逝うより、SF作家以上にヲタクの役には立ってると思うけどな」
「テリィたん。私の代わりに御両親に会って?」
「ダメだ。ルイナが会えば大丈夫さ。きっとパパさんは納得する。ウチの娘は見る目があるなって驚くさ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
先ず、万世橋の取調室に呼ばれたのは盗品売買業者。つまり故買屋だ。お洒落なカフスボタンをいじりながら…
「捜査協力と言われても、大して捜査のお役には立てないと思いますねぇ」
「犯人は特定の貸金庫を狙ったと思われます。最近中身の確認はなさいましたか?」
「もちろん、事件の話を聞いて直ぐに調べに行きました」
「ソレで中身は?」
「ご想像通りだと申し上げておきましょう」
「おや?中身を教えていただかないと、出て来た時にお返し出来ませんょ?あくまで貴方が本来の持ち主なら、の話ですけど。最近、古美術商と取引されてますね」
故買商はウソぶく。
「警部さん。コレ以上アンタと話すくらいなら、黙って損する方がマシだょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
秋葉原オリエンタル博物館。学芸員がジュラルミンのアタッシュを開けると、中は赤い内張りに青銅器がハマっている。
「国連軍のピョンヤン侵攻の際に盗まれた青銅器ですわ」
「8億円の価値があるとか」
「値段はつけられません。青銅器が戻ると聞き、民族を挙げて大喜びです」
「突然、博物館の軒先に届けられてたのですね?届け人の名前も電話番号も不明?」
「YES。でも、考えてもみてください。紀元前3500年の青銅器を届けると連絡があったら、お前は誰だ?と職質しますか?感謝して報奨金の送金先を聞くだけです」
「報奨金?」
「時価の20%。でも"彼等"は、よくいる犯罪者とは違いました。ココへ分割送金してくれと言って来たのです。はい、送金先のリスト」
学芸員から渡されたメモを読み上げるラギィ。
「"母娘の夢財団""スマイル""シングルマザーを守ろう""より良き母娘"」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
お次は麻薬シンジケートの黒幕の番。
神田リバー沿いの古ぼけたMOTEL←
「今朝、ここでロドゲが取引があると匿名のタレコミがあったの。しかし妙ね」
梅雨明けの真夏日でラギィ警部はサングラスをかけてる。
モーテルの中庭を見下ろす場所でミユリさんと張り込み。
「国外に潜伏していた奴が、急に秋葉原で活動再開とは」
「例の金庫の中身を取り戻したいのでは?情報源が気になるけど大丈夫?」
「もしかして、女ロビンフッドかも。傭兵の稼ぎや盗品の売り上げを盗んではシングルマザーにバラまく。現代の"義賊"ょね。だから、今回もドラッグマネーを奪って、またまた関係NGOに大盤振る舞い…しっ!ロドゲが来た」
モーテルの駐車場にハデな"ヲヴァ"痛車がインw
ドアが開きサイレンサー付きの銃を持った男が3人←
「どう見てもビジネスじゃなさそー。コレは襲撃ね。誰かが死ぬわ」
「ソレが誰かはわからないけど、止めなきゃ!」
「ヲタッキーズ、突入!」
サイレンサー付きの銃を構えドアを蹴破るギャング。
同時に、エアリとマリレが空から"舞い降りる"。
「万世橋警察署!万世橋警察署!」
サイレンを鳴らしパトカーも続々集まる。
たちまち銃撃戦が始まりギャングを圧倒!
「ギブアップ!」
両手を挙げるギャング。2人は路面に倒れ、もう1人は…
「裏道へ逃げた!パトカーでは追えない!」
エアリは妖精で、マリレはロケットガールだ。
驚くギャングの眼前に飄々と"舞い降りる"。
「お前達が噂のヲタッキーズか?ホントにメイド服を着てルンだな」
「可愛いでしょ?さぁギブしなさい」
「ところで、貴方は誰?誰を襲うつもりだったの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。
「アンタが麻薬シンジケートの黒幕ロドゲね?しかし、アンタって人気者ね。秋葉原以外でも3通も逮捕状が出てる」
「ふん!はじめまして」←
「その態度じゃ次にアンタが投票スル参院選は2050年頃ね」
「くそっ!ワナだったのさ」
安物の金のネックレスをイジるロドゲ。
「アンタの貸金庫が襲われたコトはわかってる。他の奴等もやられた。みんな胡散臭い金持ちばかりょ。盗んだ奴に心当たりは?」
「あればとっくに殺してる」
「アンタが殺しに行けるのは、ずっと後になるわ」
「俺のヘロインを2キロ手に入れたと電話があった。証拠の目印付きの奴だ。欲しければ買い戻せとヌカしやがった。コチトラ信用第一の商売だ。ブツを盗まれたと知られリャ面目が丸つぶれだ。だから、片付けに行ったのさ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
御屋敷のバックヤードをスチームパンク風に改装したらヤタラと居心地が良くなって(僕を含むw)常連が溜まって困るw
「テリィ様。また早く宇宙に戻りたくなったの?」
「いや、ミユリさんを見てた。池袋女子が戸惑いながらもメイドになってアキバに羽ばたく」
「あら?僧院で瞑想は卒業ですか?」
僕は、第3新東京電力のサラリーマンなんだが、会社初の宇宙発電所長をやっている。
宇宙勤務が明けてアキバに戻ると、会社は僕にカウンセリングを受けるコトを求めるw
「宇宙から戻る度に自分の魂と向き合うのも苦痛だ。その前に先ず生きなきゃね。反省から進化は生まれナイ」
メイド長であるミユリさん自ら御給仕。しかも…
ナゼだかカウンター越しにキスのおねだり顔だw
据え膳食わぬは…
「テリィたん!メッセージは聞いた?」
アニメが流れてた御屋敷のモニターにルイナのアップがw
一瞬でキス待ち顔が何食わぬ顔へ早変わりのミユリさん←
「清く正しいシングルマザー基金群に心理学的な共通点がないか分析中なの!」
「そう?しっかりね。あら、マリレから電話だわ」
「姉様、SATO司令部で探してたわょ」
ビバヒルみたいに僕を指差しお出掛けするミユリさん。
「寂しい?テリィたん」
「え。ミユリさんなら今、会ってたばかりだ」
「キスしそうだった」←
見てたのかw
「姉様は、テリィたんの血中フェニルエチルアミンの分泌を盛んにスルね」
「情熱的な表現だな」
「萌えには、恋愛ホルモンよりタイミングを読む勘が大切だと思い知ったわ」
つきあってらんナイ。
「ところで、ストリート育ちのハッカーを見ないけど、ルイナも僕に対する共感が高まったンじゃナイか?」
「萌えとは、実に悩ましいモノだわ」
「量子実験では、意識の変革が物質自体を変えてしまう。考え方次第で、人間関係も変わるってコトだ」
「グレイソン?彼は、変わるには自分のエゴを捨てろ、とも言ってたわ。物事を大きく変えるためには、自分を取り巻く大いなる知性に心を開くべきだ、とか…そっか!ありがとう、テリィたん!」
唐突にモニターから消えるルイナw
「今のは…何の御礼だ?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌朝の捜査本部。
「弱気を助けて強気を挫く妄想性人格の持ち主?」
ルイナの話を聞いたラギィ警部は驚く。
「YES。多くの場合は、単なるパラノイアなの。でも、この犯人は細かくて計画性がある」
「計画性?昨日、見つかったドラッグにはロドゲ特有のスタンプが押されてた。つまり、犯人は盗んだモノを全く着服してない。全部シングルマザー向けにバラ撒いてる。まるで、盗みを楽しむ愉快犯ょ」
「バンクの全行員はポリグラフにかけてくれた?」
「全員問題なくパスしたわ。あの代表すら…」
ソコへ当の代表が捜査本部に飛び込んで来る。
「捜査は全く進んでないそうですね!」
「代表、そう簡単には…時間がかかるんです」
「その時間がありません。45分前にメールが届きました…"3つの秘密が暴露された。暴露は未だ続く。沈黙の代金1000万ドルで手を打つ"」
ちょうど、捜査本部の廊下をロドゲが連行されて逝く…
「犯人の要求に屈するコトは、お勧めできません」
「東秋葉原レタス銀行としては、もう顧客を失うだけで済む段階ではないのです。また、警察の助言に従う義務もありません。では、失礼」
そう言い捨てスタスタ出て行く代表。ミユリさんが自分の両目を差してから代表を指差す。ヲタッキーズが尾行を開始。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ヲタッキーズが出て逝った後の捜査本部。
「ミユリさん。僕は君を推してる。わかってるょね」
「はい。でも、何回でもおっしゃって」
「君を困らせたくない。ただ…前回エリスに敗北して以来、ミユリさんはムーンライトセレナーダーに変身しなくなったょね?」
エリスは、悪のスーパーヒロインで…僕の元カノ←
「いいえ。テリィ様の"地下鉄戦隊メトロん5"がSF大賞を取れるようにって願掛けしてるだけ」
「え。取れるかな」
「必ず取れます。だから、一緒にいるの。私、テリィ様の前では最強でいたい。だから、今はメイド服」
「僕の髪型への抗議かと思った」
「ソレもウソ。テリィ様は私を偽る時は、いつも左下をご覧になるの。今みたいに」
ミユリさんは、僕の肩に回した手で髪の毛を引っ張るw
そして、少し背伸びをして得意技のキスのオネダリ顔←
その時!
「ハイ!ソコまで!ミユリ姉様、テリィたん、離れて!アルゴリズムが反応した。分析結果が出たわ!」
またルイナだwモニターの画面の中からスゴい顔で見てる←
ミユリさんは、悪びれた様子もなく僕と身を離して咳払い。
「テリィ様。ルイナのラボまで逝って参ります」
「そっか。また話そうね」
「…キスの続きも。3度目の正直ですから」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
SATO司令部に併設されてるルイナのラボ。
「みなさん。お集まりいただいてスミマセン」
「関係者を召喚なんて珍しいわね」
「直接ご説明したくて」
ラギィ警部、ミユリさん以下ヲタッキーズが顔を揃える。
「何がわかったの?」
「シングルマザー関係の基金の関係性です。要は、機会学習とレコメンドシステムでした」
「そーだったの!って何ソレ?美味しいの?」
ルイナは苦笑い。
「例えば、最近流行りのスーパーヒロインとヲタクとのマッチングサイトです」
「あ。アレ、TO探しの時とか便利なの」
「え。ヲタッキーズも使ってるの?」
エヘンエヘンとルイナが咳払い。説明を続行。
「仮にょ?プロフィールとして、性別、身長、学歴、スーパーヒロインとしての得意技、正義か悪かを描き込むでしょ?すると、質問にない微妙なデータも自動的に蓄積されるワケ。つまり、単に外見や趣味だけじゃなく、高度なプロファイリグのアルゴリズムで完全適合のTOを選び出すシステムなの」
「そぉなの?早速、登録しなきゃ!」
「その方法論を、今回の一連のシングルマザー向けの基金に当てはめてみた。どの基金も、秋葉原でシングルマザーへの支援を目的に活動してる。活動目的を詳しく見ると、医療や食事、カウンセリングなど多様なサービスが行われてた」
「何か共通点はナイの?」
「ただ1つだけアル。全ての基金に共通していたのは、ある施設でのシングルマザー向けサービスの提供に関与していたってコト」
「その施設って?」
「パーツ通りにあった"ソロモンハウス"」
「あった?今はないの?」
「5年前に火事で全焼。シングルマザー専用の保護シェルターだった。特に10代のシングルマザーと虐待の被害者を保護してた。で、火事で失われて以来、一連の基金が業務を引き継いでる」
「つまり女ロビンフットは"ソロモンハウス"の仕事を応援スルために強盗をしてるワケ?」
「というコトは"ソロモンハウス"の卒業生か、元職員とか…」
「神田消防の放火特捜班にも問い合わせてみるわ」
ココでミユリさんのスマホが鳴動。
「フリジを尾行させてたマリレ達からょ。いよいよ、犯人にお金を払うみたい」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
フリジ代表は、神田リバー沿いのヨットハーバーにいる。
「コチラ、ヲタッキーズのエアリとマリレ。フリジ代表は、アタッシュケース持参で44桟橋8番ドックへ移動中」
「ミユリです。尾行続行。SATOの量子コンピューター衛星"シドレ"が衛星軌道から追尾中ょ。気付かれないで」
「姉様。相手もプロだから、私達が来るとわかってると思います(メイド服だしw)。代表は、桟橋の先でスマホ片手にキョロキョロしてます。女ロビンフットは、船で来る気では?」
ミユリさんは"シドレ"からの衛星画像を確認。
「現在、神田リバーに船影はナイわ。水中にはSATO海底部隊の"死海ダイバー"が潜航中」
「フリジ代表のスマホに犯人から着信!」
「逆探知!急いで!」
スマホ片手にフリジ代表が足元に視線を落とすと、海面から先端に鍵フックがついたロープが伸びている。フリジ代表は、その鍵フックにアタッシュケースのハンドルを噛ませる。
「突入!全員突入!犯人は神田リバー水中!」
メイド服のヲタッキーズ+駆けつけた万世橋の警官隊が桟橋に向けて猛ダッシュ!
一瞬早く、ロープは水中から巻き取られ、アタッシュケースごと水中へと消えるw
「どいて!そこから離れて!」
「うわ、うわわ?私を尾行してたのか?」
「どいて!私が追うわ!」
ナゼかホールドアップする代表を突き飛ばし、マリレがメイド服のママ神田リバーに飛び込む!潜水して10秒、20秒…
「ぷはっ!」
カチューシャの取れたマリレが水面に顔を出す。
「逃げられた!お金も消えたわw」
第4章 キャミソールは永遠に
ズブ濡れのマリレ含め、全員が捜査本部に戻る。
「神田リバーの底に、こんなモノが」
マリレがジュラルミンケースを開ける。
「中は"海底戦車"用の予備電池です。無音で川底を移動されては"死海ダイバー"も追い切れません」
「大金をせしめて楽々逃走出来たワケね」
「あと、川底にコレ見よガシに車のナンバープレートが落ちていました」
「御丁寧にビニール袋入り?意図的に犯人が置いたモノね。調べる価値があるカモ…」
ココで怒れるミユリさんが登場w
「マリレ!エアリ!いったい何やってたの?」
「完全に失敗です」
「ゴメンナサイ、姉様」
たちまちシュンとなるエアリとマリレ←
「こんなヲタッキーズ、要らないわ!解散スル?」
「ま、待ってください!姉様!」
「なら何とかして!お願いよっ!」
ラギィ警部をチラ見してから本部を出て逝くミユリさんw
その後ろ姿が見えなくなるのを待ちマリレが恨めしげに…
「何ょ。ミユリ姉様だって、テリィたんの元カノに敗北したコト、未だに引きずってるクセに」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
颯爽?と本部を出たミユリさんはギャレーでお茶してる←
「だから、早目に2人の間に入れと言ったでしょ?」
「あ。ラギィ、どうだった?御忠告に従ってガツンとやってみたけど、正直お手上げょ」
「ミユリは優しいからね。でも、結果は出さないと。最近はテリィたんもセラピーとか受けてルンでしょ?」
「最近はみんなやってるみたいね。部下を信頼しろ、とか、権限を委任しろ、とか」
「何も、抱きしめて励ませとは言ってないの。ボスは貴女。手本を示すの」
「ラギィ警部殿が部下から慕われるワケね」
「ウダウダ考えずに命令してるだけ。コレでも"新橋鮫"時代は、悩んでテリィたんに相談したりしたわ」
「え。テリィ様は何て?」
「部下の評価など気にしないで、手本になれって」
「私には、ソンなコトおっしゃらナイわ」
ココでギャレーに刑事が飛び込んで来る。
「警部!例の神田リバーに沈んでたナンバープレートですけど、調べたらオーナーはアレク・アレゴ。やたらバブリーな高級外車を乗り回して羽振りが良いけど、実は神田消防の放火犯リスト最右翼で前歴もある。札付きの放火犯です!」
「"ソロモンハウス"との関連は?」
「重要参考人リストの最右翼だけど証拠不十分で釈放w」
「コレは女ロビンフッドから私達へのメッセージだわ」
刑事は、さらに続ける。
「ヲタッキーズのマリレとエアリが家に向かいました」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ナンバープレートはどーしたの?公道を走れないわょ」
ガレージに鎮座スル高級SUVにはプレートがナイ。
エンジンを整備中の男に声をかけるヲタッキーズ。
「オヤジの車ナンだ。どーせガキのイタズラさ。消えてくれ。オヤジは警察が嫌いナンだ」
「メイドは?」
「大好き。しかもアンタ、びしょ濡れ?萌えるぜ」
次の瞬間、男はSUVのボンネットに頭を叩きつけられるw
後ろ手に手錠をかけられて、情けない声で悲鳴をあげる。
「イテ!イテテ!パパー!」
「あら情けない。ところで、私達良いコンビょね?」
「おい、メイドさん達!息子が何をした?」
銀髪の初老の男が出て来る。
「メイドをからかった現行犯ょ。乙女心を傷つけた。でも、ホントは貴方に御用なの」
「御用って何だ?美味いのか?」
「いいえ。ただ"ソロモンハウス"の焼失以降、急に金回りが良くなった人を対象に、現金で買った新車の乗り心地を聞いて回ってるワケ。お互い時間の無駄は嫌でしょ?カラクリを歌って」
すると"パパ"はアッサリ即答スル。
「わかった。では、歌おう」
拍子抜けのエアリとマリレ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室(をマジックミラー越しに見る隣室w)。
「アレが神田消防がマークしてる連続放火犯のアレク・アレゴ?オフのサンタクロースかと思ったw」
「取引する気ね。きっと自分までロビンフット気取りなのょ。自白と後悔を滔々と語る儀式の始まりだわ」
「しっ!始まる」
ところが、取調室はアッサリ自供から始まる。
「俺は"ソロモンハウス"への放火を請け負った。キッチンの床にパイプ爆弾が仕掛けられてた」
「え。マジか?お前の雇い主は?」
「フリジ・エバス」
「ホントにマジか?東秋葉原レタス銀行代表の?」
「YES。証拠もアル」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部。
「フリジ・エバスは以前、不動産会社を経営してパーツ通りに複合施設"アキバコンプレックス"を立地、20億円で売却して、ソレを元手に銀行を始めました。しかし、予定地に"ソロモンハウス"があって立ち退きには応じズ、当初計画は難航」
「うーんシェルターって、立ち退かせるのは難しそうね」
「だからって灰にしちゃダメでしょ?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
東秋葉原レタス銀行。
「何の真似です?!」
既にフリジ・エバスは後手に手錠をかけられてる。
手錠をかけたエアリがICレコーダーの録音を流すw
「…前金で半分だ…わかった。住所はパーツ通り4011の"ソロモンハウス"だ…」
フリジ・エバスの顔色がみるみる青くなる。
「あのね。プロの放火の実行犯って、保身のためにビジネストークは記録するモノらしいわ。連行します」
呆然と見送る銀行員達。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。ルイナのラボ。
「テリィたん。コレで犯人の貸金庫室内の経路予測シミュレーションはホボ完成ょ」
「お疲れ。ルイナ」
「でもね。まだ筋が通ってないんだ。犯人は、先ずココを開けてから、ワザワザ逆戻りしてる」
「つまり、効率性を無視した動きをしてるってコト?普通なら、先ず高価なモノから狙うょね。犯行が短時間なほど効率が優先されるべきだ」
「ホラ、コレを見て。最初の貸金庫に付着したアセトンは微量。多分、中身を知ってたのね。しかも、必ず開けられるとわかってたみたい」
「ソンなコトがわかるのは…銀行の代表だけだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
さらに同時刻。万世橋の捜査本部。
「異次元人総領事館からです。ピィナの本名は、スティ・バクリ。特殊偵察コマンドって何かしら?」
「"リアルの裂け目"の向こう側の組織で、特殊作戦総局のエリート監視チームです。偵察コマンドなら金庫破りナンかは朝飯前ですょ警部」
「じゃスティ・バクリが金庫に押し入って、フリジ・エバスを脅迫し、さらに放火の罪で逮捕させたワケ?何のために?」
「しかも、アレク・アルゴの自供を何で知ってたの?」
疑問の答えは財務省からやって来る。
「官邸経由で、財務省に犯人がフリジから奪っ1000万ドルを追跡させました。金の行方は、上海セントラル銀行。BDPシンガポール銀行。セイシェルアイランズです」
ココでラギィがアレク・アルゴの自供録音を流す。
「…ソレが何だ?俺には関係ナイだろう」
「大アリょ。3行合わせて〆て1000万ドルあるわ。こんな大金をどーしたの?」
「子供の頃からコツコツ貯めた」
「あのね。刑務所と言っても色々アルの。穴蔵みたいな懲罰房に入りたい?」
「俺の倅を見たか?倅はどうしようもない出来損ないだ。俺の老後の面倒なんかとても無理だ」
「お気の毒」
「そんな時、誰に放火を頼まれたか歌えば50万ドル、ウソの自供で5〜6年臭い飯を食えばで950万ドルと言われたら…ねぇアンタならどーする?女警部さんょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
カレーメイドカフェ"キャミソ・アイ"。
「いらっしゃいませ。あ、テリィたん?ミユリさんも」
「やぁ。リリィにルルゥ」
「どーしたの?ソンな怖い顔をして?」
リリィ&ルルゥの姉妹は、ヲタクに人気のインド系で、褐色の肌に目鼻立ちがクッキリしたニュータイプ系の美少女だ。
「本名がわかれば簡単だった。君達にはお姉さんがいたんだね。でも"ソロモンハウス"の火事で亡くなった。ICPOにデータがあったょ」
「え。何のコト?」
「君達は、美術品専門の三姉妹美女強盗団"キャミソ・アイ"だ。フランスとロシアで指名手配されてる。ICPOにデータがあった」
僕が投げた古い新聞記事のコピーは"シングルマザー施設の火事でスーパーヒロイン死亡"とある。
自分自身がシングルマザーだったスーパーヒロインは、子供達を避難誘導して、煙に巻かれたのだ。
「そうょ!でも、そのおかげでフリジは億万長者。なのに姉は肺がアスベストまみれで死亡」
「アキバ地裁に訴えて敗訴、だから、彼の東秋葉原レタス銀行を襲うコトにした。君達のスーパーパワーは、サイコバイブ。地下道の壁を周期的な微振動で破壊するコトが出来る」
「評判のカレーを食べに、フリジ代表も傭兵も故買屋も売人も全員やって来て、カレー皿やコップに指紋を残して逝ったのね。あ、あくまで全部、仮に、の話だから」
ミユリさんの穏やかな口調に心を開くインド系姉妹。
「あくまで例えば、だけど…私達が犯人なら手元には1銭も残さない。全てはフリジ・エバス逮捕のためょ」
「あくまで例えば"ソロモンハウス"は?」
「あくまで例えば、だけど…姉は命を賭けた。その志を継ぐのが供養ょ。どーせ私達スーパーヒロインは、普通じゃない。家庭など持てないし、人並みに平凡な人生など望むべくもナイ。施設の子供達が私達の家族」
僕とミユリさんはうなずく。
「今夜、恐らく"リアルの裂け目"が開く。その時に"裂け目"を渡ルンだ…そして、2度と秋葉原に戻るな」
「ねぇテリィたん。眠れない雨の夜、真夜中にかかる黒い虹を見たコトがアル?今宵、もしもソレが見えたなら、ソレが私達の渡る"リアルの裂け目"」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あーあ姉様とテリィたん、強盗姉妹を見逃す気だわw」
「だって、確たる証拠がアル?ナイでしょ?でも、SATOやら何やらからは、エラい責められそー」
「でも…またまた、あの2人が好きになっちゃった」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ルイナ。この前の話だけど良い解決策がアルの」
「え。なぁに?スピア」
「双方のパパ同士を会わせるのはどうかしら?」
「え。怒りのビッグバンが起きそうょ」
「大丈夫」
「あら何で?」
「だって、推しはTOに弱いってわかってルンだもん」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
最後に捜査本部。
エアリとマリレの周りに人だかりが出来て盛り上がってる。
「ミユリ。またまたヲタッキーズが復活したみたいね」
「うん。エアリもマリレも良くやってくれたわ」
「そっか。ミユリの言う通りだったね」
「私は、あの2人とは友達のようでいたいのょ」
「そっか。ソレがミユリのやり方なのね。ま、私みたいのが2人もいちゃ困るし」
「ソレがラギィの答え?…あら?出掛けるの?」
エアリとマリレがギャレーに顔を出す。
「タマには地下アイドル通りのメイドバーとか行きませんか?マリレのおごりなんで高いカクテルを飲もうと思います」
「そーなの?ラギィ大警部補が興味津々ょ?」
「おごりのスコッチは格別ょね!」
「あ。警部は自腹でお願いします」
みんな大笑い。
「みんなで御帰宅スルのは久しぶりねー」
「今後はもっとアチコチ御帰宅したいな。ノルマンディ上陸作戦が成功したのはアンフェタミンのお陰らしいょ」
「ドサクサ紛れにテリィ様。この浮気者の御主人様」
そして、テレる僕に、ミユリさんは背伸びしてキス。
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"ロビンフット"をテーマに、キャミソール強盗団、プライベートバンク代表、カレーショップの美人姉妹、ヤバい貸金庫オーナーの傭兵、故買商、麻薬シンジケートの黒幕、老放火魔とその息子、銀行強盗を追う超天才とその親友のハッカー、敏腕警部などが登場しました。
さらに、元カノに敗北したヒロインの心情や仲間同士の葛藤、スーパーパワーを持つ故の悩みなどもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、ジワリとコロナ感染者が増えつつある秋葉原に当てはめて、展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。