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来世も同じ趣味を持ちたいという話

作者: 薩摩路快速

 時折、世界の終焉に立ち会う夢を見る。世界の終焉の原因は様々で、大体の場合においてその原因は知り得ないのだが、夢の中の私はなんとなく生の終わりを察する。それが大体の流れだ。




 さて、今回の終わりはなんだ?

 例によって理由は分からない。が、しかし世界中のすべての人間が、世界の終わりを受け入れている。


 地球が滅亡するわけではないので、体力のある人間はそれなりに生き続けることが可能だ。しかし、彼らも死から逃れることはできない。


 世界中の人々は仕事から解放され、学校は休校となり、残された時間をそれぞれで過ごすことが許されている。そのタイミングから、夢は始まった。


 さて、ここは実家である。実家には母がいて、妹がいる。父はこの場にいない。全員が仕事から解放されるとはいっても、そうもいかない業種だってある。父がまさに、そういう仕事に従事している。


 私たち家族は落ち着いていた。


 なぜなら、私たちが死ぬタイミングはまだ分かっていないからだ。分かっているのは、「これから人類は滅びるのだ」という漠然とした知識だけ。幸いなことに、現世に踏ん切りをつける時間はある。


 部屋は明るかった。電気や水道などのインフラは自動化されているので、水は手に入るし、冷蔵庫は動く。一つ問題なのはレンジが壊れていることだが、実家には母がいるので料理には困らない。少なくとも冷蔵庫の中身があるうちは。


 その母は、居間で洗濯物を畳んでいた。

 これから人類が滅びるというのに、やけに冷静だった。いや、冷静でいようとしていたのかもしれない。子供の前で発狂するわけにはいかないというプライドを持って。


 そして妹は、終始友だちと電話をしていた。もしかすると、最期は家族とよりも友だちと過ごしたかったのかもしれない。それでもいいと思う。


 私は、母と同じく居間にいて、ぼんやりと考えごとをしていた。


 私は、死に直面する度にやることがある。(もちろん夢の中での話であって、実際に死に直面したことは物心ついて以来ないのだが)


 それは、来世について考えることだ。


 来世はどんな生を送るのだろうか。そもそも次に生まれるのはこの世界なのだろうか。

 仮にこの世界だったとして、種族は人間? いや、現世で徳を積まなかった私は、来世はカマキリとかが相応しいかもな。できれば人間がいいが。

 そして仮に人間として生まれた時、どんな人間なのだろうか。

 是非とも美少女でお願いしたいが、多分そうもいかないだろう。趣味とかは、どうなるのだろうか。同じ魂を流用しているのなら、現世と同じ趣味を持ってもおかしくはない。


 しかし、それを確かめる術がないのが怖いところだ。


 転生したという自覚があり、前世の記憶を持っているという人はそうそういないからだ。


 私は、現世(いま)の趣味を失うのが怖いと思った。


 ラノベを読みながら自分でも書いて、動画を見ながら自分でも作って、お金が貯まったら鉄道で旅行する。そういう趣味に傾倒していない自分が想像できない。


 もしも来世の自分が違う趣味を持ったとしたら、それは非常にもったいないことである。いや、趣味は比べられるものではないので、本当は来世の自分を尊重するべきなのかもはしれないが、それでも現世の私から見たら、ラノベも動画も鉄道も好きでない自分というのは、どうも自分じゃないような気がして怖いのだ。


 人々の記憶に残るようなものが残せていないうちに自分という存在が消えてしまうことが、怖くて怖くて仕方がないのだ。




 仏教では、輪廻転生という考え方がある。しかし、どうもその認識は、人によって異なる気がする。恐らく宗派の違いだろうと思うが、私は仏教に詳しくないので、そこは流してほしい。


 私が知る輪廻転生は、留年のようなものである。


 天国と地獄。現世で徳を積んだ者は死後に天国に行き、罪を犯した者は地獄に落ちる。


 どのような宗教にもあるような考え方だが、私の知る天国とは仏になるということであり、地獄とは人間の住まう世界のことである。


 簡単に言えば、「現世で一定以上徳を積んだら仏に昇格し、そうでないなら徳を積むまで現世にいなさい」ということだ。


 つまり、私の信じるところによると、現世で大して徳を積んでいない私は来世があることがほぼ確定している。そして、私はそれでいいと思う。




 さて、夢の中の私は、今からこの世界に痕跡を──私が生きていた痕跡を残すにはどうすればいいか考えた。


 確かに人類は滅ぶ。しかし、現生人類が滅んだとして、長い長い年月のうちに、新たな知性体が台頭するタイミングはあるだろう。


 彼らのうちのせめて一人に、願わくは私の来世に、私の遺志を託さなければならない。


 そう思って、私は夢の中で書き置きを残すことにした。


 その内容は、かなり利己的なものだった。


 私は無念の死を遂げる。

 これを見た者は、私の欲望のために動いてほしい。

 この書き置きを書いた覚えのある者は、私のことを思い出してほしい。


 そういう内容だ。


 そこまで書いたところで、私は目を覚ました。


 時刻は午前の5時。


 まだ外は暗い。


 夢の中の私は、あれからどのように果てたのだろうか。


 夢の中の私の来世は、私の書き置きを見つけられたのだろうか。


 どこか夢の中の出来事を他人事に思いながらも、内の私が警鐘を鳴らす。


 今のままの生活を続けていればああなるぞ、と。





 世界の終焉に立ち会う夢を見る度に、これから私はどう生きていけばいいのだろうかと考える。


 そうして、それから数日間はかなり活発に活動するようになる。


 しかし、それも長くは続かない。


 考え続け、動き続けるのは疲れるものだ。


 そうしてしばらく休んで、休み過ぎたことに気づかないでいる時に、そういう夢を見る。


 そして、また私は頑張ろうと思う。


 来世でまた同じ場所を目指すようになるとは限らないからだ。

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