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ヴァルハラ  作者: 八神あき
開戦
7/27

襲撃

 お布団は偉大だ。

 お高いホテルのベッドは寝そべると体全体が包まれる。

 床に薄いマットレスをしいただけの寝床とは大違い。


 目を閉じればすぐに眠気がやってきた。眠っていると疲れが溶け出していく。

 その安眠を妨げるものがいた。

 ずる、ずると、ざらついたものが床をこする音。


 最初に聞いた時は音も小さく、無視していたのだが、時間が経つにつれ大きくなる。

 司はなんとか目を開ける。時計を見れば、まだ四時前。

 騒音問題許すべからず。


 ベッドから這い出て顔を洗う。

 ジーンズにシャツ、運動靴、血を出すためのカッター。準備を整えた。ドアの前に立つ。

 だれが来たのかはどうでもいい。眠りを妨げるやつ殺す。


 息巻いてドアのぶに手をかけたときだ。

 無数の針がドアを突き破ってきた。

「はあ!?」

 反射的に腕で顔をかばう。流れ出した血液は形を変え、一振りの槍となる。

 ドアが割れた。

 異形の化物がいた。


 全身真っ黒。ギリシアの女神メドゥーサのように、髪は逆立ち、自在に動いている。何百本もの髪が束となって数センチのチューブとなり、先端は鋭利な棘。ドアもあれで破壊したのだろう。

 よく見れば、黒い見た目も、全身が髪で覆われているのだ。


 針状の髪が襲いかかる。

 司はそれらを槍で弾く。距離を詰め、喉元を刺す。しかし、弾かれた。全身を覆っている髪が鎧となり、攻撃が通じない。

 一旦距離をとる。


 司は目を見開いた。

 後ろからさらなる化物が現れたからだ。

 巨大な泥人形だった。

 ずるずると、歩くたびに体が壁をこすって不快な音をたてる。

 黒曜石の目が司をとらえた。真っ暗な瞳に吸い込まれそうになる。

「なんじゃこりゃ……」

 ぞっと背筋に冷たいものが走る。二体の化物はちょっときつい。


 しかし、それはすぐに方向を変える。司の隣の部屋、楓の寝ている部屋を向いた。巨大な拳が振り下ろされる。壁はなんの抵抗もなく崩れた。

 ゆっくりと、泥の怪物は楓の部屋に入り、爆音と共に吹き飛ばされた。

「なんなの! いきなり意味わかんないんだけど!!」

 楓がキレ散らかしている。元気そうでなによりだ。


 泥の怪物は楓に向かっている。なら一対一だ。

 司はもう一度槍で攻撃をしかける。

 さっきよりも血を入れ、硬度をあげている。体に塞がっていない傷があれば血の量は自在に調整可能だ。

 今度は腹に突き刺さった。

 怪物は耳障りな鳴き声をあげて髪を振り回す。


 司は舌打ちし、また距離をとる。何十とある髪の鞭をよけるなどできない。

 司が離れると、髪は一直線に襲いかかってくる。

 司はそれらを払い落とした。が、どうにも戦いにくい。いまさらながら狭い廊下で槍を出したことを後悔する。

「ロビーに行くか」


 司は槍を50センチほどの剣に変える。槍ほど得意ではないが、剣も多少は使える。

 髪の束を切り落としながら近づき、相手の目の辺りを切り付ける。


 痛がる相手の背後に周り、膝を後ろから蹴り付けた。倒れた相手の足を突き刺す。

 絶叫。

 これでしばらくは追ってこれないだろう。

 司はエレベーターに乗り、一階のボタンを押した。


 楓は一際不機嫌そうに侵入者を見据える。巨大な泥人形。ゴーレムといったところか。

 ゴーレムはのっそりと立ち上がり、楓に迫ってくる。

 ミニグレネードをぶち込まれたくせになんのダメージも食らっていない。泥の塊というのは意外と厄介だ。


 ゴーレムは拳をあげて楓に殴りかかる。楓は危なげなくかわした。マグナムを生成し、至近距離から相手の足を撃ち抜く。

 大量の泥が跳ねた。足は膝から下がちぎれ、ゴーレムは片膝をついたような姿勢になる。


 しかしゴーレムに痛覚はない。

 ダメージなど気にせず殴りかかってくる。


 遅い。

 楓は大ぶりの拳をしゃがんでやり過ごす。手榴弾を生成し、胴体に押しつけた。泥の中にうまる。

 すぐにゴーレムの背中がわに移動。同時に爆発。


 ゴーレムの腹が抉れる。もとより命のない人形、死ぬことはないが、格段に動きは遅くなる。

 楓は火炎放射を生み出した。ゴーレムの身を炎が包む。

 火災警報がなり、スプリングラーが作動するが、炎は弱まらない。


 ゴーレムの背面は乾燥し、ひび割れ、粘性を失う。

 乾き切った泥人形に、マグナムを打ち込んだ。

 割れ、砕け、崩れ落ちる。


 体はほとんど失ったというのに、ゴーレムはまだ動いている。残った手足と頭が散乱した泥の中で蠢いていた。それでももはや戦闘力はない。

 楓は悠々と部屋を出た。


 ゴーレムは人間ではない。ならば、ゴーレムを操る異能力者がいるのだろう。どの程度の距離まで操れるのかはわからないが、近くにいる可能性は高い。


 楓は考える。もし自分がゴーレム使いならどこにいる?

 ここより上の階はないだろう。退路を立たれる。なら下。異能力者同士の戦闘で建物が損害を受けることもあり得る。電気系統が故障すればエレベーターはとまる。

 楓は考えをまとめると、非常階段へと向かった。

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