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ヴァルハラ  作者: 八神あき
開戦
5/27

異能

 司は家に帰るまでの間、異能について考えていた。


 今までに見た異能力者は三人。

 一人目は支路井岬。岬は突如消えては別の場所に現れる。とすると瞬間移動だろうか。

 だが、異能を使ってこの世界に来たと言っていた。瞬間移動だとして、そんなことは可能なのだろうか。瞬間移動に近い別の能力なのか。


 二人目は司を負かした少女だ。少女は虚空からナイフや拳銃を生み出していた。武器の生成といったところか。

 だとすると厄介だ。飛び道具を使われれば司に勝ち目はない。まあ、攻撃しないと約束させられたので戦うことはないかもしれないが。

 しかし、司とて命と約束なら命をとる。もし最後の最後に、自分とあの少女が残っていたら司は少女を殺してでも、生きてもとの世界に帰るつもりだ。


 三人目は炎の男。これは単純に炎を生み出すだけ。火の玉が目視できる速度で飛んできたところでなんの脅威でもない。初見なら動揺するかもしれないが、もう手のうちは知っている。一番与し易い相手だ。


 では、自分の能力は。

 初めて力を使ったときのことを思い出す。

 突如現れたダガーの女。あちこちに傷を作りながら埠頭まで逃げた。死を悟った刹那、手に槍を持っていた。

 あのとき、足場には血溜まりができていた。手に持っていたのは赤黒い槍。

 あとは家に帰ってから実験するしかない。


 ぼろい二階建てのアパートが見えてくる。孤児院を出てから三年間、住み慣れた家。

 鍵を回し、ドアを開く。

 だれもいない空間。もとの世界と変わらない、ひとりだけの部屋。


 靴を脱ぎ散らかし、台所に向かう。包丁で指先を切った。

「いで」

 司は注射が苦手なタイプだ。喧嘩してる最中の怪我はアドレナリンで痛くないのだが、冷静なときに怪我するとすごく痛い。

 痛みを我慢して血を手のひらに落とす。念じると、槍になった。

「おお!」

 落とした血は数滴。しかし槍は3メートル以上ある。重さは5キログラムほど。質量保存の法則は消えたらしい。


 軽く振ってみた。柄も穂先も金属のような材質。固く、しならないので使い勝手は悪そうだ。

 中段でつく。柱に軽く当てると、砕け散った。

「は?」

 岬と戦ったときはこんなに脆くなかったはずだ。

「……血の量か?」

 思い当たるのはそれくらい。


 司は包丁を握り、手のひらに押し当てる。

 覚悟を決め、思い切り斬り付けた。

「いってえ! クソ!」

 痛かった。当たり前だ。

 しばらく痛い痛いとうめく。


 落ち着くと、司は改めて出した血で槍を作った。

 柱をつくと、今度は砕けることはない。やはり血の量によって硬さが変化するのだろう。


 それからも色々と試す。

 槍以外の形にもできるのか。

 血は出してから時間が経っても使えるのか。

 血そのものを操ることができるのか、などなど。


 実験が終わったころには薄明の空。

 徹夜してしまったようだ。

 司は手に絆創膏を貼り付け、毛布にくるまった。


 四時間も眠れば疲れは取れる。

 のっそり起き上がると、カッターナイフを持って家を出た。


 近場のスーパーで食べ物を漁りながら街を散策。他の能力者がいないか探す。

 日暮れまで探したがどこにも見かけない。

 岬は能力者は十人だと言っていた。この世界がどれほど広いのかわからないが、少なくとも街一つ分はある。岬以外の8人を見つけるだけでも骨が折れそうだ。


 家に帰る道すがら、気づいた。

 司はバイトをしながらの一人暮らしだ。アパートはボロいし、部屋も充実していない。生きて行くぶんには支障ないが、決して楽しい暮らしとはいえない。

 この世界に一般人はいない。

 スーパーの食材も勝手に食べた。

 なら、わざわざ自分の家にこだわる必要はないではないか。


 司は道を変える。

 線路沿いの道を行き、大通りへ。

 安っぽい住宅街から、だんだん高級な建物が多くなっていく。

 近代的な建築様式。大きなガラス窓。心なし車も黒くて高そうなものに変わる。


 北に折れると、すぐに目当ての建物が見えた。

 頭ひとつ高いビル。

 一回は清潔なロビー。庭にはコンクリートで囲まれた水場があり、LEDを受けて幻想的に輝いている。

 普通に生きていれば一生来ることがないだろう、高級ホテル。

 異世界というならこここそが異世界。


 やはり電気は通っているのだろう。司が近づくと、音もなく自動ドアがあいた。

 受付の奥を探り、適当な部屋の鍵を調達。

 エレベーターに乗り、六回へ。

 廊下に立つと、足元がふわりと柔らかいカーペットに沈み込む。

「やべえ、上流階級マジぱねえ」

「なにやってんの?」

 司が感動の声をもらすと、後ろから冷や水のような声を浴びせられた。


 声だけで誰かわかった。昨日のことを思い出し、眉間が寄る。

 舌打ちしながら振り向くと、目が合った。

「見りゃわかんだろ。泊まるんよ」

「は? わかんないから聞いたんじゃん。キモ」

 生意気な口を聞くのは司を負かした少女。

「お前こそなにやってんだよ」

「泊まってんだけど。見てわかんないの?」

 たしかに、少女の格好はラフなスウェット姿。片手にはジュースの入ったコンビニ袋。


 対する司は質の悪いtシャツにジーンズ。昨日から風呂に入っていないので、汗くさいうえ、ところどころ服は破れている。たしかにこのホテルにふさわしい装いとはいえない。

 とはいえ、服のやぶれに限ってはこの女と戦ったせいなのだが。


 少女は猫みたいに不機嫌に鼻を鳴らすと、司を押し退けて自分の部屋に入る。

 取り残された司は改めて持って来た鍵の番号を見る。

 少女の隣の部屋だった。

 今から別の鍵を持ってくるのも癪に触る。

 司は構わず自分の部屋に入った。

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