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冒険者ギルドと冒険者登録

 試験の翌日、俺とおじさんは宿を出て、ある場所に向かって歩いていた。


 俺にはどうしても行きたい場所があり、おじさんはその道案内のためについてきてくれたのだが、当の本人は頭を押さえて不機嫌そうな顔で文句を言いながら歩いていた。その様子は怒っているというよりはいじけているというものに近い。


「ごめんって、おじさん。申し訳ないと思ってるよ。昨日道案内してほしいって言ったら、おじさん乗り気だったからさ」

「だからってこんな時間に出る必要あんのかよ…………」

「こんな時間って……………。もうとっくに日昇ってるからな………………?」


 俺は呆れた様にため息をついた。

 どうやらおじさんの二日酔いはまだ完治していないらしい。

 昨日、試験が終わった後おじさんは俺を近くの酒場に連れて行き、俺はそこで晩飯をご馳走になった。

 しかし、そこでおじさんが俺に見栄を張ったのが悪かった。おじさんは酒に強くもないのにビールを飲みまくり、自分の伝説(自称)を一方的に語った挙げ句、すぐに眠りこけてしまったのであった。

 その語りも文脈が支離滅裂で、拾えた内容も山賊退治やら竜との激闘やら一国の姫様との恋物語やら、信憑性があまりにも低すぎる物ばかりであった。

 確かにおじさんは他の人と比べても男前な方だと思うし、体も鍛えられているが、どこをどう見てもそんなことができそうな人間には見えないし、そもそもこの人ただの行商人だし。

 ともかく、嘔吐されなかっただけでもマシだが、結局背負って帰る羽目になった。

 そして今日、人の苦労も知らずに幸せそうに熟睡している意地っ張りを叩き起こし、道案内として連れて来させたのである。



 思い出してもう一度ため息をつきながら周りを見回してみると、道には歩いている人がちらほら見られる。住宅街に入ると、遊んでいる子供達やお喋りしている母親がいて、ここの平穏な雰囲気が感じ取れた。

 その穏やかな様子を見ていると、つい口が緩んでしまう。


 更に奥に進むと、眼に映る人の中に武器を背負った人が増えてきた。店も防具屋や武器屋などが混じっている。俺は目的地にはかなり近づいているんだと思った。

 自分の心の興奮が徐々に高まっていくのを感じる。今は口元のニヤつきを抑えるので精一杯だ。今まで噂だけ聞いていて、ずっと行ってみたいと思っていたのだから、無理もない。


 沸き起こる興奮を押し殺しながら歩いていると、唐突に目の前のおじさんが止まった。その顔に二日酔いの様子はない。


「おじさん?」

「―――着いたぞ。ここだ。」


 顔を上げて前を見る。そこには今も人が出入りしている、見た感じ面積の広い建物がある。ここが―――


「―――ここが、冒険者ギルド」

「ああ。ここの受付で冒険者登録をすれば、依頼を受けることができる。冒険者はEからSのランクで分けられていて、最初はEランクから始まるんだが、依頼をこなしていけばランクを上げれる。ランクが上がれば受けれる依頼も多くなるし、報酬も高くなっていく。要するに、金儲けしたいならランク上げろってことだな」


 なるほど、と俺は頷いた。つまり、俺の目的のためにはランクを上げるのが手っ取り早いということか。

 だが、理解と同時に些細な疑問も浮かぶ。その疑問は自然と俺の口から零れていた。


「………よく知ってるんだな、おじさん」


 おじさんは驚いたように目を丸くした後、何でもないことのように口を開く。


「……まあ、これでも色んなとこ行ってるからな」

「―――そっか」


 ああ確かにそうだ。おじさんは長年行商人として働いているし、少々奇妙な人脈も持っている。冒険者のことを知っているのもそのせいだろう。

 ………ただ。冒険者ギルドを見ていた時のおじさんの顔が、どこか懐かしいものを見るような表情だったから。おじさんが冒険者のことを話している時、その話に実感が込められていたような気がしたから。

 なんとなく、それが気になっただけだ。


「それより、アレス。お前なんで冒険者ギルドに行きたかったんだ?」


 お互いが黙っていた中、おじさんは話を変えた。

 その疑問に、俺は思い出したような顔をした。

 そういえば、俺はまだおじさんに理由を話していなかった。聞かれて困るものでもないので、俺は自分の目的を再確認しながら理由を話し始める。


「冒険者登録したかったからだよ。理由は簡単に言えば金儲けのため、かな。おじさんもずっとここにいるって訳じゃないから、時間をもて余すかもしれないだろ?お金は父さんと母さんが持たせてくれたけど、出費だってあるし。こういうの、あるに越したことないだろ」

「そりゃあそうだが………。他には?」

「魔法の試し撃ちとか、魔道具の材料費とか、そんなとこかな」


 俺は、今まで魔道具というものを作ったことがない。存在自体は知っていたが、作り方も材料も知らない。魔法学園に入学できれば授業で作れると思うが、それとは別で自分がやりたいように試行錯誤して、色々と作ってみたいのだ。

 俺の理由を聞いたおじさんは、安心したように笑いながら、俺の背中を軽く叩く。


「そうか。そりゃあ良かったぜ。ここで、試験落ちたときの保険、とか言ってたらぶっ飛ばすとこだったからな」


 さらりと怖いことを言う。

 しかし、俺も保険という考えは論外だ。俺もニヤリと笑いながら言葉を返す。


「まさか。そんなこと、落ちたときに考えるよ」


 試験とは自分の力が試されるもの。しかし正直なところ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ならば、怯えずにどっしりと構えておくべきだ。


 もっとも、落ちた時の保険を落ちた時に考えて何とかなるのかと思ってしまうのだが。


「だよな。やっぱそーゆー考えになるよなぁオレ達」


 俺の返しに、おじさんはうんうんと頷いている。

 しかし、その顔は段々共感から疑問に染まっていく。


「しかしだな。アレス、お前―――――」


 何かを確認するようにおじさんは言葉を発した。

 その様子に、俺は何?といった顔を返す。

 おじさんは何度も言葉を飲み込み、少しの間止まった後、躊躇うように―――――


「―――――普通、休みの日は友達と遊ぶもんじゃねぇのか?」


 ―――――という、俺の休みの日の在り方を真っ向否定する発言をした。


「―――あ」


 言葉が漏れた。

 気付かなかったことに気付いた瞬間、俺の体に凄まじい衝撃が走る。

 友達と遊ぶ。そのことが全く頭の中に無かった。

 しかし今ここでそれがおじさんにバレてしまうのはマズイ。学校の内外で繰り広げられる美しき青春というものが脳味噌にこれっぽっちも無い、色んな意味で残念なぼっち思考の男だと思われるのは良くない。


 体に走る衝撃が外に出ないよう抑え込み、あくまでも冷静を保ち、おじさんに言葉を返す。


「…………考えてるよ、それも」

「さては考えてなかったな?」

「ぐぅ」


 いかん。敗北の言葉が口から零れてしまった。

 思わず顔を逸らすが、おじさんの視線が突き刺さるのを肌で感じる。

 良くない。これは良くない。

 危険を悟った俺はその場から逃げるように、冒険者ギルドへと足を進めた。


 冒険者ギルドは見た目通りその面積はかなり広く、建物の中には武器を持ちその身を防具で包んでいる人達が沢山いる。彼らが冒険者だということは一目瞭然だ。

 二人以上で集まっている冒険者達が多いのは、彼らがパーティーを組んでいるからだとおじさんは言った。パーティーを組んで協力すれば、報酬は山分けとなる代わりに依頼をより安全に達成できる。なので、強力な魔物や数が多い魔物を討伐する場合は多人数でパーティーを組んで協力して挑むのが常套手段らしい。


 おじさんは俺にそのことを教えた後、「帰って寝る。後は一人で頑張れ」と言って足早に去っていってしまった。

 そもそも二日酔いしている人を連れ回していたのでそれも仕方ないとあっさり見切りをつけ、俺は冒険者登録をする場所を探す。

 すると、『冒険者登録はこちら』という看板の傍に受付台(カウンター)があるのを見つけた。俺は周りの人にぶつからないよう、注意しながらそこへ向かう。

 受付台の女性は俺が来ていることが分かったのか読んでいた本を閉じ、こちらに目を向けた。女性の腕は何かを探すように動く。


「あのーすいません。俺、冒険者登録したいんですが………」


 人の間を通り、受付台に辿り着いた俺は女性に声をかけた。女性は台の下から一枚の紙を出す。女性が探していたのはこれのようだ。


「承知しました。こちらにお名前と性別、年齢をお書きください。登録の際、一万ゴールド頂きますがよろしいでしょうか?」


 女性の問いに、はいと頷いて先に一万ゴールドを差し出し、紙に自分の情報を書いていく。


「アレス・ウォルターさんですね。冒険者カードを作成するので、しばしお待ちください」


 書き終わった紙を受け取った女性は紙に軽く目を通して、奥へと消えていった。


 一分程待った後、先程の女性が奥から現れる。その手には角が丸い長方形のカードが握られている。


「お待たせ致しました。こちらをどうぞ」


 女性の手からそれを受け取る。

 なるほど、これが冒険者カードか。大きく書かれているEというのは多分俺のランクだ。

 珍しい物を見るように冒険者カードを色んな角度から見つめていると、目の前の女性から微笑ましい視線を感じた。

 俺はハッと気付き、恥ずかしくなる。

 恐らく、今の自分はまるで新しい玩具を貰った子供のような顔をしていただろう。


「ところで、冒険者のシステムはご存じでしょうか?」


 気まずい顔をしている俺を見て、話を変えようとしてくれていることに気付いた。別の質問をしてくれた女性に感謝し、それに答える。


「ランクや報酬のことは大体知ってます。―――それと、パーティーのことも」

「でしたら、大丈夫です。向こうのクエストカウンターで依頼を受けることができるので、御用の際はそちらに」

「分かりました。ありがとうございます」


 教えてくれた女性に礼を言い、クエストカウンターの方に身体を向ける。

 先程の恥ずかしい気持ちは、初めての依頼という単語に対するワクワクで消え去った。

 さて。最初の依頼は何を受けようか――――――

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