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魔法学園入学試験~魔力測定~

 試験当日。おじさんの案内で、俺は魔法学園の正門前に立っている。同年代の人達が続々と学園の中に入って行く。彼らも俺と同じ学園の受験者なのだろう。ここから先は一人で向かわなければいけない。

 隣にいるおじさんが、俺に声をかける。


「頑張ってこい。アレス。………オレには確信があるぜ。お前ならできる」

「………うん。ありがとう。おじさんのおかげで、ここまで来れた。次は俺が頑張る番だ。―――――それじゃ、行ってくるよ」


 おじさんは自慢気な顔を変えず、頷いてくれた。

 気合いを入れるためか、俺の背中を叩いたおじさんの手は固くて暖かくて優しさに満ちていた。



 ☆☆☆



 試験会場には沢山の受験者が集まっていて、しばらくすると試験官が何人もやって来た。その中にフォンホルン先生はいない。他の場所の担当をしているのだろうか?

 試験は最初に魔力測定から始まり、その後筆記試験と魔物討伐試験に別れる、との説明が試験官からされた。

 魔力測定は、魔力量を量ったり、実際に魔法を使ってみるなどして、測定をするらしい。


 受験者はいくつかの列に別れ、俺も一番左の列に並ぶ。ひょいっと頭を傾けてみると、先頭の受験者の様子が見えた。その受験者は目の前の机の上にある球に向かって手を伸ばしていて、球は部屋の明かりと同じぐらい光り輝いている。

 ――――――――なるほど。あの球は魔道具で、魔力を感知すると光る仕組みらしい。あの球を使って魔力を量っているのだろう。


「…………すごいなあ。あんな上質な魔道具が何個も作られているなんて。この学園の魔法のレベルって本当に高いんだ、な………………!??」


 感動で言葉を漏らしていると、右の方向から突然強い光がやってきて視界が一瞬白一面に染まる。俺はすぐに目を腕で覆い隠したので大事に至らずに済んだが、そうはいかなかった人が何人かいたようで、目を押さえて転げ回っている人がちらほら見られる。


「今の………何だ…………!?」


 光の方向に目を向けると、薄い黄色の髪の少女がそこに立っていた。少女の手は光る球へ伸ばされているので、彼女が球を光らせたことは誰の目から見ても明らかだ。周囲のざわつきに対して少女は冷静で、魔道具を使った検査を終えると、さっさとその場を去っていった。

 あっという間の出来事だったが、今度は別の場所で同じようなことが起こり、再び視界を白が襲う。しかし、引き起こしたのは別の人物である。


「―――あぁ。大体分かってきたぞ……………」


 光が強いほど、その人の魔力量も多いということなのだろう。魔力量が多ければ、魔法も強力になるし、魔力切れを起こしにくくなるので、魔術師としては魔力が多いに越したことはない。魔力の多さがその人の魔術師としての才能に繋がるのだ。

 つまり、さっきの少女も今の人も、魔術師になる上で必要な才能が十分にあるということ。


「――――――――」


 息が詰まる。苦しいのではない。嬉しいのだ。この学園の生徒になれば、才能ある人達と関わることが可能になるのだ。その考えだけで気持ちが高ぶる。緊張なんてとっくに消え去ってしまっていた。

 そして、気付けば俺の番が来ていた。


「アレス・ウォルターさんですね。では、こちらの水晶に魔力を送ってください。少しで良いので」

「……はい」


 試験官の指示に従い、球に少しだけ魔力を送る。

 今までの努力がこの球にどのように表れるのか。

 俺の魔力が送り込まれた球は微かに揺れて―――――――


 パキンッ


 ―――――――と音を立てて、跡形もなく砕け散ってしまった。


「……………………………あれ?」

「…………………………………………」


 呆然とする俺と試験官。

 ………何故なんだ?俺は普通に魔力を送っただけなのに。壊れてたとか?

 とりあえず、試験官に声をかけてみる。


「あの、これ、どうなるんですか?」

「え、あ、すみません。すぐに新しい物を持ってきますので、少々お待ちください」


 試験官は慌てた様子で、新しい球を持ってきてくれた。そして、もう一度魔力を送ったのだが、これも同じように砕けてしまう。


「……………こちらの検査は終わりましたので、次へ進んでください」

「………………………はい」


 試験官は少し考え込んだ後、困ったような諦めたような顔で俺に次へ向かうよう促した。原因である俺はどうしようもないので、その指示に従うしかない。


 次の検査場へ向かう途中、周りから視線を感じた。   

 恐らく俺の魔力測定を見ていたのだろう。視線の方に振り向くと、どの人もサッと目をそらしてしまうので、あまり良い印象は持たれていないのかもしれない。


「…………………………なんか、理不尽だ」

  

 あんな変な結果になってしまったのは多分俺だけだと思うが、光らずに壊れてしまうなんて、一体誰が予想できるというのか。

 幸先が悪いせいで少し足が重いが、気を取り直して次へ向かわなければ。さっきのがダメだったとしても、次で挽回すれば良いのだ。




 次の検査場は広場にあり、実際に魔法を使って測定を行うらしい。そういえば、ここでもフォンホルン先生の顔は見えない。魔力量を量った場所でも見なかったので、筆記試験の担当だと思えば納得はいくが、その場合俺の様子をどうやって見に来るのだろうか。


「―――――いや、今はそんなことを考えている場合じゃないよな……………」


 適当に頭を振って、思考を切り換える。

 今重要なのはこの試験だ。他のことに気を取られて、受験に落ちましたじゃ話にならない。

 試験官が今からやることの説明を始めたので、そちらへ耳を傾ける。


「最初に説明があったと思いますが、今から受験者の皆さんには実際に魔法を使ってもらいます。―――――《アースウォール》」


 試験官の詠唱に応えるように、いくつもの土の壁が地面から姿を現す。壁は分厚く、多少の衝撃では簡単には壊れなさそうである。


「この壁に向かって魔法を撃ってください。一人一発ずつで、壁の破損具合によって点を決めます。遠慮せずに壊してもらって構いません。ただし、魔物討伐試験がある人は後のことも考えるように。それでは、頑張ってください」


 実技の試験が開始され、試験官に名前を呼ばれた受験者は次々と前に出て魔法を撃っていくが、壁を傷つけたりヒビを入れたりすることはあれど、完全に壊すことはまだできていなかった。

 やはりあの壁、かなり丈夫に造られている。魔法は魔力を込めれば込めるほどその威力、効力が強くなるが、それとは別に、修練でその魔法の練度を高めてより強力にすることもできる。試験官が造った土壁は後者だ。あの壁には無駄な魔力が含まれていないので、より堅い壁を多く造ることが可能になっている。


「――――――ふ」


 口元の笑みが抑えられない。楽しみすぎる。この壁相手に俺の魔法がどれだけ通じるのか、今すぐに試したくなる。

 今度はすぐに名前を呼ばれたので、そう長くは待たなかった。今の自分にはそれが救いだ。


 指定された位置に立ち、目の前の土壁()を見据える。無論、目標は完全破壊。

 右腕に魔力を集中させ、風の力を纏わせる。周りに強風が吹き、あちこちで悲鳴が上がった。


「抉れ………!《ウィンドカッター》!」


 詠唱とともに腕を振るうと、無数の風の刃が土壁に襲いかかった。風は直線状に土壁を地面ごとゴリゴリと削っていく。

 風が通り過ぎた後、土壁があったであろう場所には何もなく、地面には何かによって削られた痕だけが残っていた。

 場はシーンと静まり返り、周りの人達の視線は俺か土壁があった場所に向けられている。


「……………しまったぁ」


 静寂の中、俺は一人呟いた。理由なんて言うまでもない。


 ――――――――やり過ぎた…………!!


 そう。威力を出し過ぎたのだ。俺の魔法はたしかに土壁に当たり、土壁は木っ端微塵になった。ここまでは良い。しかし問題はここからだ。俺が放った風の刃は俺から土壁までの数メートルの地面までゴッソリ削り取り、しかもそこから先の地面にも亀裂を入れてしまっている。

 やらかした。後の事もあるのに、心が高ぶって魔力を制御しきれなかった。本来ならもっと小さい範囲の攻撃ができたはずだ。あそこまで大きなものものは要らなかった。

 周りの視線を受ける中、試験官の女性がこちらへ走ってきた。何を言われるかわからないので、冷や汗が流れてしまう。


「……ウォルターさん。今の、魔法は」

「………?《ウィンドカッター》ですが、それが何か?」


 試験官の言葉はただの疑問だった。失格になったり追い出されたりするか心配だったので、一安心だ。

 何の魔法を使ったかなんて大したことない内容なのであっさりと答えたのだが、それを聞いた試験官はあり得ないものを見るような顔をしている。そう驚くようなことではないと思うのだが、試験官は俺が削った地面を見ながら益々混乱していた。


「《ウィンドカッター》でここまでの威力が………」

「別に大したことないですよ。それより、地面ボコボコにしちゃって、申し訳無いです。《リペア》」

「え?大したことないってそんなわけが…………ってあれ!?地面がほとんど直ってる!?」


 修復魔法である程度地面を直したのだが、これにも驚かれてしまう。できることなら全部直したいのだが、魔物討伐試験のために魔力の消費量を最低限にしたいので、細かいところは任せるしかない。


「俺が直したんですが、大雑把ですみません。後はお願いできますか?」

「な、直した………分かりました。次へ行っても大丈夫です。後はこちらでやるので………」


 試験官は何かを諦めたように答えて再び地面の方へ顔を向け、「こっちが直すところほとんど無いんだけど………何なのあの子…………」と頭を抱えていた。


「―――――――本当に、大したことじゃないんだけどなぁ」





 

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