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22/25

日陰の氷はいつまでも

 医務室には多くのベッドが用意されているとのことで、杖持ちを背負ってエリスと共に医務室に来た。

 男はただ気絶しているだけなので、ベッドに転がしておけば問題は無いだろう。


 ……ヴォイドとの決闘でかなり時間をかけてしまった。

 早いとこ教室に入っておかないと。


 人を背負っている俺に代わり、エリスがドアを押す。


「失礼します」


 エリスの凛とした声に続き、部屋に入る。


 横に長い医務室には通路を挟むようにベッドが並んでいた。

 木の骨子に白いシーツがよく映える。シワも汚れも目立つものは無く、気合の入った手入れを感じた。


 入ってすぐの正面には、鮮やかな色合いのポーションがたくさん置かれた机。

 一人用の大きさなので医務室の先生が使っているのだろうけど……座っている者はいない。


「……外出中なのかな?」

「珍しいですね。いつもはあそこにいるのですが」

「うーん……」


 参ったなぁ。

 待つというのもあまりできないし、かといって勝手に寝かせておくのも――それはそれで申し訳ないというか。

 奥とかには……いない、よな。


 ちょっと覗き込んでみたりする。

 通路には窓から差し込む日光が燦々と。昼と呼ぶにはまだ早いこの時間、日向は通路を横切って縞模様を描いている。


「…………うん?」

「どうかしました、アレスくん?」

「あ、いや」


 何だろう。


 部屋の奥に、何か――淀み?


 渦を巻いた魔力を感じる。

 人のモノのような、また別の何かのモノのような。


 どこか中途半端なソレはベッド一つ分の大きさしかないが、秘められた濃度は半端じゃない。

 元々大きいものを縮めに縮めたような印象だ。


 かの魔法学園の医務室にこんな不思議スポットがあるとは。いや、ここだからこそのモノだったりして。

 ……せっかくだ。ちょっと見に行ってみよう。


 ベッドに挟まれた通路を奥に進む。

 窓から覗く日光に度々目が眩み、行き着いたのは日陰に佇む一つのベッドだった。


 渦巻いた魔力は最奥のベッド、カーテンの仕切りの中でとどまっている。


「……よし、いくぞ」


 カーテンに左手を掛ける。

 好奇心を胸に、横に引っ張った。


 遮る物が取り払われ、中に見えたのは――どこか見覚えのある、薄黄色の髪をした少女だった。


 端正な顔立ちが最初に目に留まったが、それ以上に注目せざるを得ないのは彼女自身を取り巻く空気だ。


 仰向けに眠る少女は寝息も立てず、血色の薄い肌には生気すら宿していない。

 これを生き物の休息と呼ぶにはあまりにも静か過ぎる。


 また、先程から続く濃密な魔力。

 ソレは守るように少女を包んでおり、胴長の獣を想起させた。


 そして、食らいつかんと俺を狙う殺気。

 本能に通ずる眼光は魔力の繭から首を伸ばし。


「オォォ――――!!!」


 暴風の如き唸りを上げて、飛びかかってきた。


 魔力で形を成しているのだろう。姿はおぼろげだが、尖りのある頭で突撃を仕掛けているのは分かる。


 即座に屈んで躱す。


「《ライトナックル》」


 左手から光の拳を生成し、振り向きざまに撃ち放った。


 ハンマーの如し拳が鈍い音を立てる。

 殺気の主は窓の外へ吹っ飛び、やがて気配が霧散した。


「あ、あっぶね……」


 な、何だったんだ今の。思いっきり殴っちゃった。

 学園よりはこの少女に関係したものに思えたけど……。


「どうかしましたか、アレス君?」


 と、不思議そうな顔をしたエリスがやって来た。


「たった今先生が戻ってきたんですが……外に何かありました?」

「あー、いや」


 外、よりは内、というか。

 ベッドの少女の様子は……特に変化なしか。


 さっきのやつを殴ったからといって、この少女が大事に至ることはなさそうだ。

 気には掛かるけど、今は安静にしておくべきか。


「特に何も。……ところでさ。ここって、いきなり頭突き食らうトラップとか、ある?」

「?」

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