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反撃のゴーレム

「話は終わりだ。俺のゴーレムとお前のゴーレム。どっちが強いのか、答え合わせをしよう」

「―――違う。俺は負けてなんかいない。こんな奴に、最下位なんかに劣っているわけがねぇ。絶対に、絶対に、そんなことがあってたまるかよぉ……!!」


 思い詰めた表情でヴォイドは叫び、その声に呼応したゴーレム達がこちらに走り寄ってくる。俺は後ろに下がり、俺に代わるようにゴーレムが前に出た。

 ゴーレムを生み出すことには成功したが、それを操って戦うとなれば話は変わってくる。その部分においてはヴォイドに一日の長があるので、油断は禁物である。

 ゴーレム達の距離が縮まっていく中、ヴォイドは遠くに立っている俺を、親の仇でも見るかのように鬼の形相で睨んでいる。俺がゴーレムを造ったことが彼の自尊心を傷つけているのだろう。

 ヴォイドからの刺すような視線を感じながらも、すぐそこまで来ている決着へ意識を向け、俺はゴーレムの制御に専心した。


 区別のためにヴォイドのゴーレムを、ゴーレムA、ゴーレムB、ゴーレムC、俺のゴーレムを『ロアルド』と呼称しよう。蛇足だが、名前にこれといった意味は無い。


 ロアルドはゴーレムAが振り下ろした拳を躱し、がら空きの胴体に左腕を打ち込む。ロアルドの左腕はゴーレムAの腹部にめり込み、その腹にぽっかりと凹みが出来ていた。

 それを見て、俺は確信する。

 巨体故に動きがロアルドに比べて遅く、その身体も頑丈さに欠けている。これがたったの三体ならば、勝てる確率は非常に高い。

 ロアルドの手がゴーレムAの腕を掴み、思い切り投げ飛ばす。宙に飛ばされたゴーレムAが地面に背中を打ちつけられると同時に、ゴーレムBがロアルドに回し蹴りを放った。ゴーレムAを投げ飛ばしたことで足元を疎かにしていたロアルドはそれをまともに食らって大きく吹っ飛んだが、受け身をとって減速し、鉤爪で停止する。

 ロアルドを軽く動かしてみるが、破損は無いようだ。しかし例え一撃でも、受けてしまうのはよろしくない。これでは相手に自信を与えてしまう。ちらりと目をやると、ヴォイドは少し安心した表情になってしまっていた。誰にも気づかれないように、俺は心の中で舌打ちをする。


 ………ああくそぅ。本当にとんでもないミスだ。あいつには気休めすら与えてはならないというのに。自信を取り戻されると戦況がひっくり返る恐れがある。それに、これでは俺の目的が果たせないのだ。


「油断禁物だな。―――さて、次はどうしようかな」


 一応言ってみた。だが、そんなものは決まり切っている。彼の洗練されたらしいゴーレムを見た瞬間に、俺はどうするべきか、もう思いついていた。

 より丁寧に、より美しく、より大胆に、より圧倒的に、――――


 ――――ゴーレム(彼等)をぶち壊す………!!!


 ロアルドが駆け、先程の蹴りを放ったゴーレムBに飛びかかる。その勢いのまま、ゴーレムBの身体を地面に張り倒した。すかさずゴーレムCが掴みかかりに来るが、すれ違うようにロアルドはゴーレムCの胴体に接近して鉤爪で張り付き、胸に拳を素早く何度も叩きこむ。

 連撃を食らったゴーレムの胸はボロボロになり、半分以上が深く削れた。そこから剥きだしになっている球を抉り取り、握り潰す。

 すると、ゴーレムCは動かなくなり、徐々にその身体も崩壊していった。やはり、中心部(コア)を潰されると機能が停止するらしい。


 ようやく起き上がったゴーレムBの足を鉤爪で引っかけて再び転倒させ、その身体を踏み台にゴーレムAの元へ跳ぶ。ゴーレムAの拳を躱し、躱した右腕を横から掴んで力を籠めて引きちぎり、ちぎれた腕でゴーレムAの頭を強く殴った。

 自らの腕で強打されたゴーレムAの頭部が吹っ飛ぶが、身体は崩壊しない。


 それもそうだろう。このゴーレムの核は胸部の球だ。人間ではないのだから、頭が消えたところで行動が停止する道理は無い。だが、それでこちらが困る要素も特に無い。弱点は明確。ならばさっきと同じように、そこに攻撃を与えれば良いのだ。


 ゴーレムAに向かって走りながら持っていた腕を投げつけ、ゴーレムAの片側、腕が無い右側へ回り込むように接近した。その途中、ロアルドの左腕を脇腹に添えさせ、構えた姿勢で左腕に魔力を集中させる。

 そして、ゴーレムAの死角に入ったタイミングで魔力の籠った腕が躍動した。

 魔力で強化された拳が錐のように身体を捻ったロアルドから放たれ、ゴーレムの装甲を突き破り、貫通、粉砕した。側面が砕け散ったゴーレムAの身体が直立したまま崩壊を始める。ロアルドが放った攻撃は中心部(コア)である球をも砕いたらしい。

 崩れていくゴーレムAの身体から腕を抜くと、ロアルドの拳は前腕の真ん中から先が無くなっていた。無くなっていた、というより欠けていた、破損していた、という表現の方が適切かもしれない。

 ぶっつけ本番でゴーレムの腕を強化してみたのだが、どうやら威力を高めすぎて腕がもたなかったようだ。せっかく作った籠手(ガントレット)も砕け散って跡形もなくなっている。いきなりやったにしては上出来だとは思うけどな。


「――――残り、一体」


 とにかく、片腕は失くしたがロアルドはまだ動ける。一対一(サシ)で戦えば恐らく圧勝できるだろう。

 しかしヴォイドがまだ魔道具の球を持っている可能性は高い。ここから新しいゴーレムを更に二体造られてしまえば勝ち目は半々、といったところか。

 ロアルドを修復できるかどうかは分からないが、今のままでいるのは少々危険だ。やってみる価値はあるだろう。

 そう考え、ロアルドを下げようとしたとき。


「なあ、この試合、一旦止めないか? 少し話し合おうぜ」

「……何?」


 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。俺にはヴォイドが突然声を張り、話し合いを持ち掛けてきたように聞こえた。

 幻聴だと言って聞き流そうとする頭を返答することでかろうじて食い止め、相手の言葉を幾度も反芻し、内容に間違いが無いか確かめる。そこまでしてようやく、言っていることを飲み込めた。

 信じがたいことだがこの男、本当に話し合いに来たらしい。俺にはヴォイドの考えが分からないが、長い距離をゆっくりと歩いて詰めてくるその笑顔が愛想笑いで出来ていることだけは容易に想像できる。

 ついさっきまで怒り散らしていた奴がこの豹変だ。疑ってかかるのも無理はない話だと思う。


「どういうつもりだ?」

「いや、今の俺じゃお前には勝てないんじゃないか、って思ってな。このままやっても結果は明らかだろ? だから話し合いに来たんだ。ほら、そんなトコに突っ立てないでさ、こっち来て話そうぜ。大丈夫だよ、何もしないって。……な?」

「……………」


 さて、どうしようか?

 怪しい雰囲気を放ちまくっているが、降参しに来たと考えても良いのだろうか。見たところヴォイドは負けを認めることに何の抵抗も示していない。あの、傲慢で意地の悪い男が、である。

 だが、向こうが無防備に話し合いに来ているのだ。攻撃の意思がない相手に危害を加えるのはなんとなく気が引ける。それに、愛想笑いをしているからといってこちらに害意がある、と決めつけるのは早急だ。俺に悪い印象を与えないための顔かもしれないからな。

 変な雰囲気を感じるのは俺の気のせいで、ヴォイドが本気で降参するという可能性もないとは限らない。一応決闘は受けてくれたし、たまにはこの男のことを信じても罰は当たらないだろう。

 ………少し、物足りないというか、残念ではあるが。ま、別にいっか。


「分かった。その話し合い、応じるよ。すぐそっちに行くから、待っててくれ」

「おお、ありがとうな! お前、やっぱ善い奴だなー」


 ゴーレムBの足元に立っているヴォイドは、俺が話し合いに賛同すると喜色満面の笑みで手を振っている。その表情に裏はないように感じた。俺とヴォイドの元に来ることを本心で喜ばしい出来事だと思ってくれているらしい。嬉しそうなヴォイドの様子を見て、俺は心の底から安心した。俺の心の飢えは、手を振っているヴォイドを見た途端に消え去ったのだから。

 ヴォイドの元へ向かう前に、俺はロアルドを土に還すことに決め、《ゴーレム》の魔法を解く。ついさっきまでロアルドだったものが表面からどんどん削れ落ち、土の山となって間を置かずに、風に流されて散っていった。

 自分が丹精込めて造ったものなので解体するのは少し心苦しいが、残念ながらもう用事は無くなってしまった。俺としては造って良かったと思えた上に俺自身の目的にとても役立ってくれたので、またいつか機会があったら造ってみよう。


「……ありがとな」


 今はもういない、初めて造ったゴーレムに別れを告げ、まだ手を振っているヴォイドに小走りで近付く。

 その途中、視界の端に安心した表情で微笑んでいるエリスの姿が映った。エリスは優しい人間なので、俺のようにヴォイドを疑うことはしなかったのかもしれない。胸の辺りで小さく握り拳を作って勝利を伝えてくれているエリスに、俺も笑みと頷きで返す。

 そして。


「―――死ね、バカがァ!」


 ヴォイドの手に合わせるように振り下ろされたゴーレムBの拳に、叩き潰された。

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