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出発

初投稿です。

 物心ついたときには、『ソレ』をなんとなくだが認識していた。自分の体を流れる『ソレ』は自分だけではなく、父さんや母さん、動物、植物にも流れていた。俺が『ソレ』を魔力だと理解できたのは、確か五歳の頃だったと思う。

母さんが俺に読み聞かせてくれた、魔法の初歩中の初歩が書かれているだいぶ昔の本。あれに書かれていた単語の内の一つに『魔力』というのがあり、その説明も少しだけ書いてあったからだ。


 俺が生まれ育った村は超が付くほどの田舎らしく、俺以外で魔法が使える人はこの村にはおらず、村の外の出ることもなかったので、その本以外で魔法について知ることは出来ず、結果的に自分で色々と実験して探っていく羽目になった。

 他で魔法について知っていることは、精々が、魔法は世界中に存在していること。魔法は体内に一定量の魔力がある人間ならば、魔力を消費すれば誰でも使えること。魔法は様々な種類で向き不向きがあり、それは個人によって違うこと、などといった一般常識程度だった。

 もしも、魔法についてもっと知る機会があるのなら、魔法を上手く扱える人に出会えるのなら、それはどんなに良いことだろうか。


 それを願い、魔法の試行錯誤を繰り返し続けて幾年が過ぎ、気付けば、俺はもう十五歳になっていた。






「おーい、アレス! オレ、やったぞ! おまえさん、街へ行けるぞ!」


 ある日、暇つぶしに作った氷の玉をくるくる回して遊んでいると、近所に住んでいるザウロおじさんが急いだ様子で俺の名前を呼びながらこちらに走ってきた。

おじさんは村の野菜や果物を街へ売りに行くことがしばしばある。魔法のことが書かれているあの本も、元々はおじさんが何処かで貰った物だったらしい。しかし、時期的にちょうど今帰ってきたばかりのはずだが、いったい何があったのだろうか?

 俺は、膝に手をついて肩を上下させているおじさんへ気遣いながら訊いた。


「どうしたんだ、おじさん。俺が街へ行けるって、どういうこと?」

「……ふぅ。あー、えっとな。オレ最近街で知り合った人がいて、結構仲良くさせてもらってるんだけどよ。実はその人な、魔法学園ってとこの先生でよ。アレス、お前、魔法のこともっと知りてぇって言ってただろ。だからよ、試しに先生に頼んでみたんだよ。そしたら先生、そんなに言うんなら今年の魔法学園の試験を受けさせて、それに合格したら、特別に入学させるって言ってくれたんだよ! どうだ、行きてぇか?」

「――――――」


 言葉が詰まる。驚きと嬉しさで頭の中がいっぱいになった。ずっと夢見ていたものの、心のどこかで無理なのでないかと諦めかけていたもの。方法はわからなかったけれど、いつかこの手でつかみたいと思っていたもの。その夢に一歩近づけるのなら、行く以外の選択肢はない。俺は逸る気持ちを落ち着かせ、決意の言葉を口に出した。


「……行くよ。おじさん、俺街に行くよ。行って、魔法学園に入学したい!」

「おう! アレスならそう言うって思ってたぜ! そんじゃあ、早速出発の準備だ。お前も早くしろよ」


 おじさんは元気な笑顔でそう言って、また大急ぎで走っていった。

 そのかっこいい背中をしばらく見つめた後、俺も準備に取り掛かった。


他の村人達の協力もあって準備は予想以上に早く終わり、俺は村の人達に見送られながら出発することになった。

母さんが泣きそうな顔で俺を抱き締め、父さんはそれを優しい眼差しで見守っている。


「気を付けてね、アレス。お母さんにはこれぐらいしか出来ないけど、いつも貴方を想っているわ」

「うん。ありがとう、母さん。母さんも身体には気を付けてね」

「父さんも母さんと同じだ。向こうで夢を叶えてきなさい。きっと、アレスにとって思い出深いことがたくさん待っているだろうから。ああそれと、――――」

「周りの人達への感謝は忘れずに、だろ?ちゃんとわかってるよ」

「――そうか。なら、いいんだ。……頑張れよ」


 俺は力強く頷き、おじさんの馬車に乗り込んだ。


 出発の時間になり、馬車は動き出す。

 俺の乗った馬車は村の人たちの激励の言葉に包まれながら、村を後にした。

 周りの景色が緑色の木々と山々で埋め尽くされている道の途中、自分にかけられた、祝福と応援の言葉を思い出す。

 …………俺は今、自分の心に熱が灯っているのを感じている。勿論、自分の夢に手を伸ばせることはすごく嬉しい。でも、それと同じぐらい、いや、もしかするとそれ以上に、俺を応援してくれる人達がいるという事実が、俺の心を奮い立たせていた。


「……頑張らないとな」



☆☆☆



 景色は次第に移り変わっていく。山を越えると、青い空と緑の平野に分かれた場所に出て、夜はそこで綺麗に輝いている星空を眺めることができた。

 そして、さらに道を行き、村を出発してからおよそ三日が経った日の朝、馬車はついに目的地へと到達した。

馬車から降りて、目の前の門を見つめる。そのまま門を通ると、賑わっている街の姿が目に映った。

 そして、想像以上だったその光景に思わず唖然とした。人が多い。建物も多い。しかも大きいし。もっと向こうには、本でよく見る城のような建造物まである。…………いや、城のような、じゃない。あれ、城じゃん。


「………うわぁ、なんだ、あれ」

「ハハハッ。やっぱお前もそうなるよな。………っと。んじゃまぁ、気を取り直して。ようこそ、アレス」


 驚きのあまり、口をポカンと開けて周りを幼児のようにキョロキョロと見まわす俺に、おじさんは笑いながら大袈裟に手を広げて、言った。


「ここがこの馬車の目的地、イカした城、バカみてぇに広い街、大勢の冒険者がいる冒険者ギルド、お前が行くことになるかもしれねえ魔法学園、そいつらが全部揃っている場所、オレ達の国ウィンディアの中心都市、アルカディアだ」

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