↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続・迷ったら月に聞け15~再会  作者: 環
月の宮の神
97/158

精査

李心と奈河は、じっと到着口横の控えの間で高瑞を待っていた。

来る前から時が掛かるだろうと思っていたが、やはり高瑞はいくら待っても戻って来ない。

だが、待つのも任務なので、二人はただじっと待っていた。

奈河はというと、ここがあの父が仕えていた宮かとあまりの大きさに辟易していたが、それでも最初に月の宮を見た時の事を思えばマシだった。

月の宮もそれは美しく大きな宮なので、それに慣れ始めていたのだ。

感慨深くじっと座っていると、急に外が騒がしくなった。

もう夕刻で日はとっくに沈んでいて、こんな時間からこんなに騒がしくなるのはおかしい。

まさか高瑞に何かあったのではと李心と奈河が慌てて外へと出て行くと、大勢の軍神達が宮の中で動き回っており、何やらまた大勢の神達を、一定の方向へと誘導しているのが見える。

二人が困惑していると、軍神の一人が近付いて来て、言った。

「騒がしゅうてすまぬの。」振り返ると、それはこの宮の次席軍神である、大伊だった。「王より軍神以外の臣下を全て謁見の間へ集めるようにと指示があっての。高瑞様は王と共に居られるので、問題ない。案じるでないぞ。」

奈河はホッとしたが、李心は言った。

「このような時間に臣下を集めるなど…高瑞様をお守りするのが、我らが王から賜った命ぞ。お側に控える事はできるか。」

大伊は少し困ったような顔をしたが、どこも王からの命が絶対であるのは同じ。

恐らく同じ命令を受けていたら、大伊も同じ事を言ったと思い、頷いた。

「では、こちらへ。高瑞様がおわす壇上の仕切り布の間に控えられるように話を付けようぞ。だが、我らが必ずお守りするがの。この宮の中で、狼藉など許さぬわ。」

大伊は言って、二人を伴ってバタバタと謁見の間へ追い立てられる臣下達の間を、奥の方へと案内して行った。


その夜半、維心は居間に気配を感じて目を開いた。

横の維月はよく寝ている。

まだ夜中なので、寝付きの良い維月が目覚めることは、朝まであり得ないだろう。

維心は、維月の額に唇を当ててから、寝台を抜け出して袿を羽織り、奥の間から出て居間へと向かった。

思った通り、義心が膝をついて待っていた。

「…どうであった。」

維心が問うと、義心は顔を上げた。

「は。高瑞様は高湊様を裏で補佐することをご決断されました。高湊様も誇りを捨てるかという高瑞様からの問いに宮のためにとお覚悟なされた。これよりは、高彰様に王座を譲るまでの間、高瑞様が裏で指示をすることになったようです。」

維心は、ホッと肩の力を抜いた。

「そうか。やはり高瑞は違うの。狂うたのが残念であるわ。誠に優秀な奴なのに、あんなことさえなければの。」

義心は、頷いた。

「は。それから、こちらへは高湊様に指示をされて書状を書かせておりました。明日の朝、それを持って高瑞様がこちらへ申し開きに参られる予定です。」

維心は、ふうとため息をついた。

「何事も卒がない。ならばそれで謹慎を解こうぞ。あれなら納得が行く内容を書かせたであろう?」

義心は、頷いた。

「は。聞いておりましたら、こちらへは燈子様が喜久に指示をして知らせを送らせる予定であったのに、喜久がゴタゴタしていて忘れたということに。高湊様はそれをご存知ありませんでしたが、なので、本来問題はなかったのだと。喜久は罰して処刑と。」

それを聞いた、維心は眉をはね上げた。

重臣筆頭を処刑?

「…待て、それで臣下は納得するのか。事実高湊はそんな指示をしておらぬし、燈子もぞ。冤罪で処刑と?こちらはそれで構わぬが、あちらは後にまずいことにならぬか。」

義心は、険しい顔で言った。

「最初は、謹慎処分と書くように指示をされました。ですが、その後状況が変わりました。王におかれましては、蒼様より最近に受け入れたはぐれの神のことはお聞き及びになられておられまするか。」

維心は、頷いた。

「十六夜が言うておったの。高瑞の軍神であった男の子が、拾われたのだとか。それと関係があるのか。」

義心は、頷いた。

「はい。奈河というのがその軍神で、その父の奈津は高瑞様付きの軍神の子であって、胸に病を持つ、しかし優秀な神であったようです。高瑞様は奈津がさすらう事になった理由を探っておられました。高湊様には、失踪したのだと言うておられましたが、事実は違いました。喜久他重臣が、あまりにも発作の回数が多いからと、勝手に宮を出たらと圧力を掛けていたようで。奈津はそれで居場所を失い、さすらう事になっていたようです。」

それには、維心も眉を寄せた。

重臣が、王の許可なくそんなことをするなど、あり得ないからだ。

何しろ軍神は王の持ち物で、重臣達も同じ立場であるのに、それをどうにかする権限など、重臣にはない。

それなのにそんなことをしていた事実は、許せるものではなかった。

「…ならば処刑も道理。ゆえに処刑と書き換えて利用することにしたのだの。高湊も気付かなんだか…まあ、気付かぬわな。まだ王座について間なしの事であろうし。」

義心は、神妙な顔で頷いた。

「はい。ゆえに、此度夕刻であるにも関わらず、高瑞様の命により、謁見の間に軍神以外の臣下が全て集められ、精査をされることになりました。高瑞様は、高彰様の代になってもこのような事がないように、今から宮の中を正して行かれようとしておられます。今頃は、何人かが処刑を言い渡されておるのでは。」

大規模な粛清か。

維心は、高瑞らしい、と思った。

これで宮の中を綺麗に整えて、高彰の世に備えようというのだ。

「…誠に惜しいことぞ。」維心は、言った。「高瑞があのまま王座にあったら、子はできぬでも高湊をその間に育て、臣下を見張り、少しはマシな宮になっておったであろうに。しかしこうなったからには仕方がない。明日、久方ぶりにあれと話すのを楽しみにしておる。主はもう休んで良い。」

義心は、頭を下げた。

「は!」

そうして、そこを出て行った。

維心は、まだ暗い外に奥へと戻って行きながら、何事も上手く行かないものだとため息をついていたのだった。


高瑞は、古くからの重臣達を徹底的に精査し、必要なら記憶の玉まで取って調べ、次々に裁いて行った。

軍神達は、沙汰を下された臣下を一人ずつ牢に繋いだり、訓練場へと引き出して処刑したりと、粛々と処理して行く。

高湊、高瑞、高彰の三人に睨まれた臣下達は、大抵が全て吐いて記憶の玉まで取る必要はなかったが、古参の者達は老獪な者達が多く、嘘を貫き通そうとして高瑞に記憶を取られ、中を見られて真実が晒されて行った。

そんな高瑞に、高湊が言った。

「我には、記憶の玉を取ることができませぬ。恐らくできるのでしょうが、加減が難しいのです。」

高瑞は、頷いた。

「確かにこれは難しい術ぞ。我でも気を抜いたら廃神にしてしまうゆえ、慎重にやる必要があるが、今はどちらでも良いから適当にやっておる。しかし主は少し気が我より小さいゆえ、主自身に無理が掛からぬとも限らぬし、無理はせぬで良い。」と、脇の高彰を見た。「主も、この機会に試してみるが良いぞ。やっておいて損はない。次に面倒なヤツが居たら、やってみよ。主ならできそうぞ。」

高彰は、頷いた。

「は。では、次は我が。」

そんな風にサクサクと処理して行って、気が付くと夜明けとなって、謁見の間に集められた臣下の数も減って来た。

下位になるに従って、皆若く何も知らない様子であったし、上位の者でも肩身の狭い思いをしながらも真っ当に務めていた者も居たので、思ったほどの大粛清にはならなかった。

高瑞は、高湊を見た。

「…我は行かねばならぬ。夜明けには出るつもりであったしの。」と、立ち上がった。「後は問題ないとは思うが、主らで処理せよ。沢。」

沢が、進み出て膝をついた。

「御前に。」

高瑞は、沢を見下ろした。

「喜久は確かに処刑したの。」

沢は、頷いた。

「は。我がこの手で留めを差しました。間違いありませぬ。」

高瑞はそれを聞いて、頷いた。

「ならば良い。では、書状をこれへ。この宮の軍神が居ては、あちらは追い返そうとするだろう。ゆえ、李心と奈河と共に行って参る。また戻るゆえ、それまでに全て終わらせておけ。分かったの。」

沢は、頭を下げた。

「は!」

高瑞は、そこに李心と奈河が居るのを知っていたようで、仕切り布の方へと向いた。

「では、参るぞ二人共。蒼には主らを借りて申し訳ないが、今しばらく我に付き合ってもらいたい。共に参れ。龍の宮ぞ。」

二人は、頭を下げた。

「は!」

龍の宮…この神世の中心である最大の宮。

奈河は、高瑞に従いながら、そう思っていた。宴で行くのだと思っていたが、思いもかけずもう、その宮を見ることができるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。