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解決

月の宮で気を揉んでいた、蒼がハッと顔を上げた。

…この気配…!維月か?!

と思ったら、遠く南西の方から十六夜が打ち上がって行くのが見えた。

その光は見た目一つだったが、気配は二人分、つまりは維月を抱えて十六夜が月へと戻って行ったのだと分かった。

「見付かったのか…!やった、膜から解放されたんだ!」

無事に…。

蒼は、ホッと肩の力を抜いた。

空の端は白み始めているのだが、まだ島は真っ暗な闇の中だ。

この一日と少しの間、眠る事もなくじっと様子を見守っていたが、これでやっと維月の危機は脱した事になる。

だが、まだ犯人のことがある。

蒼は、そそくさと仕度を始めると、皆が集っているだろう、龍の宮へと向かう事にしたのだった。


その頃、龍の宮の維明も、他の上位の王達と共に十六夜が月へと帰って行くのを見ていた。

箔炎が、言った。

「…二つ気配があったぞ。維月が戻ったか。」

維明は、頷いて肩の力を抜いた。

「どうやらそのようよ。」と、他の王達を見た。「これで当面の心配はなくなった。だが、犯神ぞ。父上からまだ知らせがないところをみると、あちらはまだ犯神を全て捕らえられておらぬのだろう。」

焔が息をついた。

「白虎が連れて来たアマゾネスの二人は既に志心に記憶の玉を取られて廃神であったからの。どっちか一人でも残してくれておったらこっちでも記憶を見て情報がいくらか知れたのに。全く、あちらはどうなっておるのだ。」

駿が、なだめるように言った。

「我らに応援の要請が無いということは、そう大層なことになっておらぬということぞ。それだけでも良かったのだ。そのうちに戻ろう…待つしかない。」

すると、そこへ白虎の筆頭である、夕凪が入って来て、頭を下げた。

「我が王の命によりご報告に参りました。」

焔は、イライラと振り返る。

箔炎が、言った。

「そら、志心は気遣いできる奴であるから。きちんと途中経過を知らせて参ったのだ。」と、夕凪を見た。「して、どうなった。」

夕凪は、焔の機嫌が悪いのに戸惑っていたが、答えた。

「は。維月様は無事に発見され、十六夜と共に月へと戻られました。只今は、王の見た記憶の中から潜んでいる場所を特定し、軍神達がアマゾネスの残党を捕らえてこちらへ輸送している最中でありまする。維月様を連れて逃げていた二人を、只今捜索中でありまして、王がおっしゃるにはそれで最後であるとの事。捕らえ次第戻られるかと思いまする。」

箔炎は、頷いた。

「ならばもう、そう待たずで良いな。」と、焔を見た。「そのように。イライラするでない、主はせっかちであるから。真相が志心から語られるであろうて。それまで待つが良いぞ。」

焔は、フッと息をついた。

「…分かっておるわ。こう蚊帳の外にされておるのに慣れぬだけぞ。我だって行っても良かったのに、結局残っておっても何も無かったではないか。」

駿が、脇から言った。

「だから何かあったら困るのだ。落ち着いたのだし面倒が増えぬで良かったではないか?まだまだ…宮へ戻ったらまた政務があるのだし。」

維心が戻らぬ限り、続く多くの処理だ。

そっちが大変なので、これ以上何かを抱え込みたくないのは、どこの宮でも同じだった。

特に焔はいくらやればできる子とはいえ、つらいのは確かだろう。

なので、渋々頷いた。

「まあ…確かにそうだが。」

夕凪は、居心地悪げにそれを聞いていたが、維明がそれに気付いて、言った。

「ご苦労だったの、夕凪よ。戻って後処理を手伝って参れ。志心殿には、できたら手が空きそうなら先に戻って話を聞かせてもらえれば、とだけ伝えてくれぬか。」

イライラしている王も居るし、とは維明は言わなかった。

だが、夕凪は、頭を下げて答えた。

「は!王にはそのようにお伝え致します。」

居残りは居残りで大変なのだ。

夕凪はそう思いながら、そこを出て行ったのだった。


その頃、維心は頭の中にある術の記憶の中から、かつて鳥の反乱の時に知り得た気を遮断する膜のある無しを見る術を使って広域に探り、さっさとアマゾネス達の居場所を特定して自分の気が明々と照らす中、二人を追い詰めていた。

つくづく、維心の記憶さえあれば簡単に、だいたいの場所さえ分かればもっと早くに見付けられていたのだと、皆が思った。

事情を知らない軍神達は、どうして始めから龍王が出て来なかったのだろうと訝しんだが、今は話すわけには行かなかった。

維心は、炎嘉と共にその二人を見下ろして宙に浮かび、蔑む声で言った。

「…ようも我が妃をあのような目にあわせてくれたものよ。どうしてくれようかの。」

軍神達が、二重三重にも囲んでいて、二人は身動きできない状態だった。

その上で、維心と炎嘉という気の半端なく大きな神に睨まれて、蛇に睨まれた蛙のように、ただじっとそこに膝をついて項垂れていた。

…実行犯だが、こんなことを策すほどの気概は無い様子。

炎嘉は、それを見て思った。

恐らくは、まだ戦場も知らぬ、本当の命のやり取りを経験したことの無い神だろう。

「…気持ちは分かるが落ち着け維心。これらは誰かの命に従った軍神ぞ。志心が記憶の玉を持っておるから、恐らく内情は知っておろう。あやつしか見ておらぬから、あちらへ居場所を知らせに戻ったが、捕らえたら龍の宮へ行くと言っておった。そこで真相を聞くまでは、こやつらの処分は待つのだ。いつでも殺せる…殺したら戻せぬから、後で後悔しても遅いのだからの。」

維心は、それを聞いてギリギリ歯を食い縛っていたが、吐き捨てるように言った。

「…我は許すつもりはない。だが、我が不在の間主らには迷惑を掛けておったし、此度も世話になっておる。主が言うなら、それに従おうぞ。」と、側の明蓮に言った。「捕らえよ。地下牢最下層に放り込め。」

あの宮の最下層はキツいの。

炎嘉は思ったが、何も言わなかった。

ここで反対したら、いきなり二人を殺すかもしれないからだ。

「は!」

明蓮は頭を下げて、そうして軍神達に頷き掛け、気の拘束を掛けさせた。

二人もこちらの空気が伝わるのか、もはや抵抗することもなくぐるぐると気に巻かれている。

炎嘉は、戻って来たら来たで面倒な奴だと内心大きなため息をついていた。


その頃、碧黎はハッと地中で目覚めた。

…眠っていた…?!

慌てて地上を探るが、維月の気配はない。

そんな…!天黎にしてやられたのか…!

碧黎が焦って地を飛び出すと、もう朝日が昇り始めていた。

空から十六夜の声がした。

《親父?目が覚めたのか!あのな、天黎が親父を…、》

碧黎は、それを遮って叫んだ。

「維月は?!地上に気配が無い!」と、月を見上げて、絶句した。「え…維月?!」

十六夜は、呆れたように答えた。

《だから説明しようと思ったのによ。維月は助かった。すぐに月に連れて来たから、今は安定して眠ってるよ。戻ってすぐに一度目覚めたんだが、ほんとはもうとっくに消滅してたらしい。》

碧黎は、頷いた。

「…だろうの。あの時助けに行かねばまずい状況だった。間に合ったのだろう?」

十六夜は、首を振ったようだった。

《いや、だから間に合ってなかったんでぇ。ついさっき戻ったんだぞ?つまりは、夜明け前。》

…ならば全く間に合っていない。

碧黎は、言った。

「どういうことぞ?!何か特殊な事情でも?」

十六夜は、渋い声で言った。

《んー、まあ特殊と言えばそうだ。維月が言うには、天黎の空間に居たんだと。つまりは、あー、天黎が見つかるまで囲ってたってことだ。》

碧黎は、ますます意味が分からなかった。

自分に手を出させぬように考えたから地に放り込んだのではないのか。

「何故にあやつがそのような。我にこんなことをしたのは手を出させまいとしたからではないのか。」

十六夜は答えた。

《なんか親父に言われて腹が立ったけど、よく考えたら自分のせいだって思ったらしいぞ。だから今回だけ、それとわからないように手助けするって。だから、誰も彼もみんな間に合ったんだと思ってたんでぇ。オレだってそうだ。でも、天黎がそう見えるように、ご丁寧に見つかる直前に膜まで戻して元居た場所へ返したみたいだ。だから、誰にも言うなって。これが最後だってよ。だから親父も言うなよ。》

碧黎は、あの時天黎を罵倒したことが、意外にも天黎に考える材料を与えて、そのお陰で維月が助かったのだと分かった。

「…言うてみるものよ。」碧黎は、もはや落ち着いて言った。「あの時は、己が思うたことをそのまま申しただけだったのに。」

《やっぱ話さなきゃ分からねぇ事もあるって事だな。》十六夜は言った。《じゃあ、維心も元に戻ったし、最後の二人を捕らえたところだ。龍の宮に戻るみてぇだから、オレは経緯を聞くよ。じゃあな。》

そうして、十六夜は黙った。

十六夜はいくつもの場所を同時に見ることができないので、龍の宮の方へ意識を向けたのだろう。

碧黎は、自分もあれらの調べたことを見ておこうと、龍の宮の様子を窺ったのだった。

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