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立ち合い

皇子達は、維明と維斗が主催の立ち合いに興じていた。

序列はいくらも変わらないので、年齢が上の者から順に、立ち合おうということになり、最初から維明を相手に、まずは維斗が立ち合い、軽く遊ぶ程度に動いた。

二人が下りて来ると、見上げていたもの達は、その速さに目を丸くしていたが、維明は言った。

「相手により、我らも手加減するゆえ案じるでないぞ。これは遊びなのだ。常の鍛練ではないゆえに、気軽に向かって来るが良い。」

そうは言っても、維明相手など敷居が高い。

なので、維斗が言った。

「まずは、主らの中で立ち合って体を暖めれば良いぞ。とはいえ、烙はかなりの腕前なのは知っておるし、そうよな…歳から言うて騮と立ち合ってはどうか?騮もかなりの腕ぞ。」

烙は、頷いた。

「では、我は騮と。」

維明が、皆を見回して言った。

「では、炎月は紫翠で、炎託は…志夕でどうか?箔遥は、腕前を知らぬからなあ。誰が良い?」

箔遥は、言われて残った者達を見て、困った顔をした。

何しろ、他は誰が誰かもまだ分かっていない状態なのだ。

「我は…知らぬので。決めて頂いた方がよろしいかと。」

納弥が、言う。

「ならば我が。この中で、知っておるのは我だけであろう?箔遥。」

箔遥は、ホッとして頷いた。

「では、それで。」

納弥はコンドルの母が居るので、鷹と同族になるので、頻繁に鷹の宮へも通っていて、箔遥とも仲が良い。

維斗が、それに顔をしかめた。

「誠にそれで良いのか?常立ち合っておる相手では、己の腕を見極められぬのではないのか。」

言われてみたらそうなのだが、ただでさえ緊張している箔遥は、どうしようと納弥を見た。

納弥は、維斗とも維明とも幼い頃から面識があるので、落ち着いて箔遥を元気付けるように頷いて、言った。

「では、高彰殿と立ち合ってはどうか?箔遥。我は煌殿と立ち合うゆえ。我でよろしいか?煌殿。」

煌は、頷いて納弥を見た。

「では、よろしくお頼み申す。」

維斗は、残った維黎を見た。

「では、維黎は我と。主、我らと立ち合いたいと申しておったよの。」

維黎は、顔を輝かせて頷いた。

「十六夜や嘉韻とばかりで退屈しておったから。望むところよ。」

維明が、頷いた。

「では、始めるか。」

そうして、皆広い訓練場のあちこちに散って、軽く立ち合い始めた。


維明は、皆の立ち合いを広く見渡していたのだが、やはり烙と騮は他よりグッとレベルが上で、恐らく他では相手にならないと思われた。

とはいえ、炎月も紫翠といい感じに立ち合っていて、本気で烙達と立ち合ったとしても、無様な結果にはならないようにも見える。

炎託は、筋が良くて志夕は年上であるのに押され気味で、維明は血は争えないものだな、と思った。

その筋は、炎嘉に良く似ているのだ。

恐らくは、炎嘉が教えているからだろうが、同じ環境で励んでいるだろう炎月よりもむしろ、炎託の方が似ているのには驚くばかりだった。

だが、もっと驚いたのは、維黎だった。

「ぐ…!!」

キン、と音がしたと思うと、維斗の刀は宙を舞った。

クルクルと回って自分の目の前に突き刺さった刀を見て、維明はそれを引き抜いた。

「…兄上、申し訳ありませぬ。」

維斗が、急いでこちらへ刀を追って飛んで来る。

その後ろを、維黎がついて来て、維明の前へと着地した。

「維黎、我と立ち合え。」維明は、維斗へと刀を返しながら、言った。「主、知らなんだがかなりの腕よな。十六夜と立ち合って勝ったことはあるか。」

維黎は、頷いた。

「あれは油断することがあるので。それを突いたら勝てるのだが…。」

やはり、天黎の子。

維明は、鋭い目で維黎を見た。恐らくは、見たままそれを模倣して、己のものにしてしまう。

天黎も、一度訓練場へ来たことがあると蒼が言っていたが、その時は誰も敵ではなかったらしい。

その一度きりで、確かにおもしろい遊びであるが、こんな方法で相手を倒すのは我の流儀に合わぬ、と言って、二度と立ち合うことはなかったそうだ。

そもそもが天黎にとっては、この地上の命は全てが自分の守るべき存在であって、誰を倒す必要もないのだからそうなるだろう。

だが、維黎はこれを、遊びとして楽しんでいる。

意識の違いなのだろう。

維黎は、頷いた。

「では、維明と。」

維黎は、刀を構えた。

そうして、維明は宙へと浮き上がり、維黎と対峙し始めた。


炎月は、ひと息ついて、地上へと降り立った。

「疲れたの。」と、紫翠を見て、言った。「そろそろ他の相手とも試合ってみたいものだが…。」

ふと回りを見ると、皆が皆、空を見上げて立ち尽くしているのが見える。

何事かと炎月も空を見上げると、そこでは物凄い速さで立ち合う、維明と維黎の二人が見えた。

「何ぞ?!どうなっておる…」

目で追うのがやっとだ。

炎月は、とてもじゃないがあれには敵わない、と舌を巻いた。

維明のスピードもそうだが、維黎がそれにぴったりとついて対応しているのが、奇跡のように見えた。

寄って来た志夕が、炎月に言う。

「維斗殿は勝てなんだそうぞ。月の宮で十六夜と嘉韻とばかり立ち合っておったらしいのに、あの腕よ。あの若さで…驚くばかりよな。」

烙が、食い入るようにそれを見つめて、言った。

「維明殿が本気に近い力を出すのは初めて見た。楽しんでおるのだ…薄っすら笑っておるだろう?」

言われて、皆、目を凝らして維明を見た。

確かに維明は、常は見せた事が無いほど楽し気に立ち合っていた。

納弥が、言った。

「あやつはいつもああよ。我だって、勝てた試しがないからの。月の宮では、維黎と立ち合うのは十六夜と嘉韻と決まっておるから。」

納弥は月の宮で維黎を毎日見ているのだろう。

「…終いぞ。」

維明の声が、微かに聞こえた。

かと思うと、キンと音がして、刀が宙を飛んで行くのが見えた。

「…兄上か。」

維斗が、フッと肩の力を抜いた。維斗には、維明が負ける未来があると思ったのかと、皆が驚いた。

維明は、降りて来て言った。

「誠に久方ぶりに楽しめたわ。こやつ、長く立ち合えば立ち合うほどこちらの動きを吸収して対応して来よるのよ。面白いヤツよ。」

維斗は、言った。

「ですが、あの速さで学ばれると時を稼がれたらまさか兄上がと肝を冷やしました。」

維明は、項垂れている維黎を横に、苦笑しながら言った。

「まあ、いつでも終わらせられたのだが、面白いゆえ付き合うてしもうたわ。」と、維黎を見た。「維黎、良いではないか、また励む目標が出来たのだ。主はいくらでも伸びるヤツよ。また他の者とも立ち合って、その技を学んで行けば良いではないか。我は次の龍王であるし、簡単には主に負けるわけには行かぬのよ。」

そうは言っても、維明に敵わなかったのは、維黎には衝撃だったらしい。

何しろ、今まで敵なしで、十六夜ですら隙を見て一本取れた。

それなのに、維明には太刀打ちできなかったのだ。

維斗が、回りを囲む皆を見た。

「主ら、何を棒立ちしておるのだ。もう終わりか?ならば炎月、我と立ち合うか?」

炎月は、ハッと我に返って、慌てて頷いた。

「お手合わせ頂けるか。」

維明は頷いて、他の皇子達にも言った。

「主らも、時が惜しいぞ。こんな機会はそう無いのだから、適当に組んで立ち合えば良い。これは遊びぞ。誰か勝っただ負けただないのだ。何かを学んで宮へ帰るのが目的ぞ。父王達に、新しい技を見せたいであろう?」

言われて、箔遥も慌てて納弥を見た。

「納弥、立ち合うか。」

納弥は、頷いた。

「良いぞ。では、主らも適当にな。」

言われて、高彰と志夕が話しを始めて、どうやら立ち合うらしく向こうへと歩き出す。

そこへ、慌てた様子の将維が飛んで来た。

「やっと時が出来たわ。もう終わったのか。」

維明が、将維を見上げて言う。

「まだこれからぞ。なんだ、時が掛かったの。あちらで碧黎と力の加減がどうのというておったのではないのか。」

将維は、頷いた。

「兄上。もう終わり申した。我の相手は?」

維明は、うーんと見回して、お、と維黎を指した。

「維黎が空いておる。」

将維は、フッと笑った。

「維黎か。知っておるぞ?主は結構な手練れなのに我に勝てぬと闇雲に立ち合っておったそうだの。十六夜が愚痴っておったからの。」

維黎は、将維を見上げて言った。

「将維。主に勝ちたいのだ。十六夜には勝てるのに、なぜに主に勝てぬ。」

将維は、ハッハと笑った。

「であろうな。あれは油断しよるからの。我はそうはいかぬ。」

皆が皆、そうやって相手を変えて、また立ち合いながら、時を忘れて過ごしたのだった。

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