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皇子達

維黎と箔遥が、二人で外宮を歩いて内宮へと向かっていると、後ろから声を掛けられた。

「維黎?来たのか。」

振り返ると、そこには維斗が甲冑姿で立っていた。

箔遥は誰だろうと緊張した顔をしたが、維黎が会釈した。

「維斗。宮の中を箔遥に案内しようと思うておって。」

箔遥は、維斗という名に、覚えがあった。

この龍の宮の、第二皇子だ。

慌てて会釈をして、言った。

「箔炎の第一皇子、箔遥でありまする。初めてお目にかかる。」

維斗は、笑った。

「おお、主が。父上から聞いて知っておる。会うてみたいと思うておった。主らは、夕刻からの訓練場には来ぬのか?」

維黎は、え、と維斗を見つめた。

「皆集まるのか?」

維斗は、頷いた。

「集まろうぞ。とはいえ、蒼は主に言うておらなんだのだの。ということは、他の王達も己の事ではないゆえ、伝えておらぬやもしれぬな。これは探して一人ずつ知らせて参った方が良いか。」

維黎は、最近十六夜と共に訓練場で立ち合うのがおもしろくて、毎日十六夜を呼んでは立ち合っていた。

だが、十六夜も面倒がるので、最近では降りて来てくれない事が多く、そうなると嘉韻ぐらいしか相手にならないのに、嘉韻は嘉韻で仕事があって、維黎の相手ばかりをしてもいられない。

そんなわけで、立ち合いの相手に飢えていた。

どうやら維黎は筋が破壊的に良いらしく、全ての動きが見えてそれに対応することが出来た。

なので、もっと強い相手と立ち合いたいと、いつも思っていたのだ。

だが、龍の宮で維明や維斗に相手をしてくれとは、なかなか言えなかった。

何しろ二人は、龍王の維心の子であって、維心の許しが無いと何も出来ない。

維黎は、どうも維心は苦手だった。

なので、立ち合えずに居たのだ。

「我は是非に参りたい。だが…知らぬで来たから、甲冑を持って来なかったのだ。」

維黎が残念そうに言うと、維斗はクックと笑った。

「そのような。案じる事は無いぞ、こちらの物をいくらでも貸すゆえ。箔遥はどうか?主、宮で立ち合ったりはしておるのか。」

箔遥は、まだ緊張気味にしていたが、頷いた。

「宮では叔父上の箔真や、父上と立ち合いはしておりますが、まだ未熟で。龍の皇子などと立ち合えるほどの腕ではございませぬが…。」

維黎も箔遥も、まだ姿は人で言う所の高校生ぐらいなのだ。

まだ若いので、同じ皇子でも歳がかなり上の維斗や維明相手では、それは気が退けるだろう。

ただ、維黎は幼い頃から天黎や碧黎の側で育っているので、この限りではないだけだった。

維斗は、首を振った。

「本日は声をかけておる宮では、炎月、炎託、騮、志夕、烙、煌、納弥、紫翠、高彰と主らと歳が近い者も多い。同じ頃に生まれておるのは、炎託、煌、高彰ではないか?敵わなくとも、交流するのは大切ぞ。見知っておいた方が良い。一度参ってはどうか?」

箔遥は、炎託と煌、納弥とは何度か会ったことがあった。同族なので、父の行き来が多いので、それについて皇子も行き来することが多いからだ。

二人が来るなら、気詰まりなこともないか、と箔遥は頷いた。

「は。では、我も一度参ってみます。」

維黎は、何度も頷いた。

「このような機会はなかなかないぞ。宴の席などで会っても、訓練場が使えることが少ないゆえな。我も、維斗や維明と立ち合えると思うと、胸が沸くもの。」

維斗は、クックと笑った。

「主はかなりの腕だと聞く。我らも一度立ち合ってみたいとは思うておったが、忙しゅうて機会がなくてな。そういえば、将維も来ると申しておったな。あれは月の宮とこちらを行き来しておって忙しいとこぼしておったが、これは見過ごせぬようで。」

維黎は、言った。

「将維とは月の宮で何度か立ち合った。あれもなかなかのものだと父上が申しておったが、我は勝てぬで。」

維斗は、頷いて踵を返した。

「まあ、将維は前世の記憶もあるしの。では、我は他の皇子にも知っておるか声をかけて参るわ。兄上が出席者が分からぬと申しておったから、確認に参っておるのよ。ではな、維黎、箔遥。甲冑は控えに届けさせておくゆえ。また後での。」

そうして、維斗はそこを離れて行った。

維黎は、それを見送って、興奮気味に言った。

「箔遥殿、こんな機会はないぞ!我は、幾度も維斗と維明と立ち合いたいと思うておったのに、維心殿に問い合わせるのが気詰まりで、なかなか言えぬでおったのだ。主も、見るだけでも学びになると思うぞ。」

箔遥は、言われて確かに、と思った。

父の箔炎は、自分より手練れの王がたくさん居るのだと言っていた。特に維心など、何度転生しても勝てる気がせぬと半ば諦めているようだった。

そんな維心の皇子達の動きを、見るだけでもかなりの学びになるはずだった。

箔遥も、最近は立ち合いがおもしろくなって来ている最中で、出来たら知らぬ皆の中で、立ち合ってみたかった。

なので、頷いた。

「我も参りたい。とはいえ、我も甲冑を持って来ておらぬから、借りねばならぬの。」

維黎は、嬉しそうに頷いて、足を東の方へと向けた。

「ならば見学などしておる場合ではないの。控えへ戻って準備をしようぞ。維斗が甲冑を届けてくれると申しておったし、主の分もくれるだろう。さあ、こっちぞ。」

箔遥は頷いて、こうなってみると楽しみで胸が沸いて来て、まるで撥ねるような足取りで維黎と控えの間へと向かったのだった。


それから、維斗がいちいち一人ずつ探して確認して行った結果、最初から知っていたのは炎月と炎託だけで、後は二人からまた聞きして知っている、という事だった。

つまりは、甲冑を持って来ていたのはこの二人だけで、他の者達は来ると言ったものの、甲冑がないので軒並み貸し与えることになった。

つくづく、王というのはいい加減なものだ、と維斗は思った。

皇子の楽しみのために、しっかり伝えてやろうという気概がないのだ。

戻って維明に伝えると、維明も呆れていたが、そんなものだと諦めたように言っていた。

維明が言うには、王とはやる事、考える事が多岐に渡っており、皇子など、身内の事は後回しになるのだという。

なので、今回の事もあり得ることだと言うのだ。

それでも、炎嘉はきちんと炎月たちに伝えてあったのだから、他の王達が皇子の事を考えていないということではないだろうか。

父の維心でも、あれで皇子に伝えるべきことはしっかり伝えてくれるので、維斗には他の王がただ怠惰なだけに見えたのだ。

とはいえ、父は多くの事を考えて処理する能力があるので、出来るだけなのかもしれない。

維斗は、つまりは己の処理能力の低さを知らしめているようなものなのだな、と納得することにした。


裏でそんなことが進んでいるとは知らず、維心達上位の王は、騒がしく会合の宮で集まる客とは離れて、本宮内宮の東応接間に集まって、茶を飲んでいた。

談笑する中、炎嘉が言った。

「何と申した?主ら、皇子に立ち合いの事を言うておらなんだのか?」

焔が、言った。

「忘れておったわ。誰を連れて行くとそればかりで、烙と煌は最初から連れて参るつもりであったが、綾がの。最初から、皇子達は連れて行くと言っておいたゆえ、伝えたものだと勘違いしておったが、よう考えたら言うておらなんだ。」

志心も、言った。

「我も此度はいろいろ領地内で演習などしておる時期だったので、忙しゅうてな。臣下が言うておるものだと思うておったが、志夕は知らぬとか行きの輿の中で言い出して。まあ、甲冑を借りたら出来るし良いではないか。」

炎嘉は、息をついた。

「しっかりせよ。次の王になる者を育てておかねば、主らだっていつまで生きるのか分からぬのに。我は真っ先に言うたわ。だからあやつらは、そのつもりでせっせと鍛錬して今日に備えておったのに。主らは己の皇子が馬鹿にされても良いのか。」

その通りなので、同じように伝えていなかった駿も翠明も高湊も言葉もない。

維心が、言った。

「まあ、良いではないか。甲冑ぐらいいくらでもある。維斗が準備させておるだろう。だが、まあ、次からは言うておいてやった方が皇子達には親切ぞ。主らも少しは、己が退位した後の事を考えて皇子を育てよ。箔炎も、主は戦国を体験しておるのに、おっとりし過ぎであるぞ。」

箔炎は煩そうに頷きながらも、話題を変えようと言った。

「だが焔、主は己の姪に振り回されておるのか?連れて参るか連れて参らぬかなど、主が決めたら良いのでは。」

焔は、息をついた。

「まあ…綾は良いのだ。我が連れて参らぬでも烙が妹であるのだから世話もする。幼い頃から七夕には来たいと言うておったし、連れて参るかと思うたのだがの、桜も来たいらしいとか、侍女が言うて参って。あれは妃であるから、連れて参ったら我が連れて歩かねばならぬだろう。我は、そんなために娶ったわけでは無いし、それはあれも知っておる。主従関係で居るから、妃として置いておるのだしの。ゆえ、どうしたものかともめてな。綾は連れて参るのに桜は否とは言えぬしな。そうしたら、烙が綾の面倒は己が見るゆえ連れて参ると言って。どうやら綾が烙に泣きついたらしくての。まあ、だから綾だけ来ておるのだ。」

駿は、何か聞いているのか、渋い顔をしながらも黙っている。

炎嘉が、駿を見た。

「…娘の事であるし、気にならぬのか、駿。」

駿は、話題を振って欲しくなかったのか、息をついた。

「知っておった。というか、最初皆の前で取り決めたことではなかったか。こんな宴の席で、あれも焔に心など求めておらぬし、焔もそうだという事で、お互いに宮を守るために婚姻となるのだと。ゆえ、焔から見たら桜は妃と申すより臣下という心地で、あれも臣下のように仕えるつもりで嫁いだのだ。お互いに、納得してそうなったはず。なので、焔がこんな遊びに連れて来ぬと、文句など言う謂れはないのよ。」

言われてみたらそうだった。

皆は、その時の事を思い出していた。

あの時は、色好い感じもなかったし、ただ桜は、誰かに必要とされて役に立ちたいと思っているようだった。

だが、あれから見ていないので、桜が今、どういう心地でいるのか分からない。

そもそも、他の宮の王が、他の宮の王の妃の心地など、知らぬでも良いので関心も無いのが普通だった。

なので、維心が言った。

「…宮の奥の事に口出しするのは父と王だけと決まっておる。我らが外からとやかく言うものではない。駿がこのように申しておるのに、我らが何某か言う権利などないのだ。主らも、もうこの事は申すでないぞ。そも、維月の耳にでも入ったら煩いのだから、重々申すぞ。」

皆は、顔を見合わせた。

確かに桜の心地がどうなのだとか、維月が言い出したら面倒な事になる。

なので、維心の言葉に全員がウンウンと頷き、そうして暮れて来る空に、そろそろ宴の席へ行く準備をするかと、立ち上がったのだった。

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