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続・迷ったら月に聞け15~再会  作者:
月の宮の神
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舞い2

炎嘉は、それは美しかった。

その後ろで、箔炎と焔が炎嘉に合わせてそれを補佐するように、対称に動いて舞っている。

二人は炎嘉を引き立たせるような動きであったが、三人が纏めてこうして舞うことで、場が一気に明るく華やぐ心地になった。

炎嘉の動きは、秀逸だった。

志心と維心が、炎嘉の動きをしっかりと見て、それに合わせているのも分かる。

畳の上に居る皆が、炎嘉一人を引き立たせようとしているように見えた。

…確かに、鳥族の王であられるのだわ。

維月は、それを見て思った。

炎嘉の重みと荘厳さは、その華やかで明るい気の中にもこれでもかとこちらを圧倒して来る。

皆が皆、炎嘉の動きに釘付けになっていて、時々ハッと後ろに居る箔炎と、焔の動きに気付いて二人の巧みさにも気付くぐらいだ。

そうやって、皆が息をするのも忘れて見入っている中で、炎嘉と箔炎、焔は最初に位置へと戻り扇で顔を覆って、そうして志心と維心は、演奏を終えた。

終わった途端に、皆がほうっとため息をついた。

「素晴らしい!」翠明が、声を上げて手を叩いた。「誠に何と美しく華やかなものであることか!こんなものは見たことが無い。この後に舞えと申すのは酷であるぞ?」

高湊も、先ほどまでは自信ありげだったのに、一気に暗い顔になっている。

炎嘉が、扇を下ろしてハッハと笑った。

「我ら三人は同族で繋がっておるからのう。勝とうと思うのが間違いなのだ。」と、焔と箔炎を振り返った。「のう、箔炎、焔よ。」

焔が、むっつりとした顔をした。

「主を王としておった頃のものであるから、どうしても主を引き立たせるような動きばかりで。我らは添え物ではないか。まあ、楽しかったが。」

箔炎が、ククと笑った。

「こら焔、何やら懐かしい心地になったのではないのか。我はなった。血が覚えておるのだろうの。」

焔は、面白く無さげに横を向いた。

「まあ…確かになぜか懐かしかったわ。」

炎嘉が、苦笑して言った。

「まあ良い、それは太古の昔のことぞ。我らはとっくに分化して、それぞれの道を歩いておるのだから。今は友として、こうして共に舞台に立つのだから良いではないか。」

維心が、笑って立ち上がった。

「ならば、次は我が。」炎嘉が、驚いた顔をする。維心は怪訝な顔をした。「…何ぞ?否か。舞えと申したのではないのか。」

炎嘉は、慌ててブンブンと首を振った。

「いや、あまりに素直に舞ってくれると申すから!ならば我らは戻る!」と、急いで箔炎と焔を見た。「気が変わってはならぬから!早う降りよ!」

焔と箔炎が、慌てて畳から浮き上がって自分の席へと向かう。

維心は、言った。

「こら。炎嘉は伴奏せねばならぬであろうが。主、我が舞う時弾くと言うたよの。」

炎嘉は、浮き上がっているところだったが、慌てて戻って来て、今維心が座っていた場所へと足を進めた。

「ああ、そうであった。何を舞う?なんでも良いぞ。志心もどうせ、何でもできるし。」

志心が、苦笑して頷いた。

「まあ良いわ。で?何を舞おうというのよ。」

維心は、自分の胸からスッと扇を抜き取ると、それを開いた。

「そうよなあ…婚姻の舞いはまずい事になるし、ならば地を讃える舞いを。」

え、とこちらで焔が驚いた顔をした。

「待て、あれは難しいぞ?一人で舞うのか。というか、志心と炎嘉の二人であの曲を弾けるか。」

志心が、言った。

「寂しい事になりそうぞ。誰か、共に弾かぬか。前に弾いたゆえ、少しぐらいできるであろうが。そら、そこらの楽器、どれでも良いから弾いてくれぬか。」

あれか。

蒼は、思い出していた。

どこの宮だったか、そこで地を讃える曲を皆で合奏した。

確か、鳥の宮だったように思う。

蒼は、その時筝を弾いたのだ。

「…それなら、オレ、筝なら弾けますよ。」と立ち上がった。「鳥の宮の楽の宴で弾いたでしょう。」

駿が、ああ、と立ち上がった。

「あれで良かったら我も。」と、翠明を見た。「翠明も。できるだろうが。」

翠明は、仕方なく立ち上がった。

「ああ、あれか。公明、主だって今なら弾けるだろうが。行こうぞ。維心殿の舞いが目の前で見れる機会はそうそうないし、ここは花を添えようぞ。」

公明は、頷いて立ち上がる。

そうなって来ると、残っている王は高湊と樹伊ぐらいのものだ。

箔炎と焔は、今舞っていたので、遠慮しているようだった。

だが、維心も言っていたが、やりたい者だけやればいいのだ。

なので、蒼は気軽に言った。

「地を讃える舞いは初めて見ます。維心様、少々お待ちくださいね。こちらでパートを振り分けますので。」

維心は、頷く。

「いくらでも待つぞ。というか、十七弦は維月に弾かせたらどうだ。我の演奏を真側で聞いておったから、できるのではないか。」

維月は、ぎくりと肩を震わせた。

そんなの、確かに弾けるけど一回も合奏した事ない曲なのに、何をおっしゃるのかしら維心様ったら。

だが、炎嘉がパッと明るい顔をした。

「そうよ、維月よ。主なら維心の代わりができようが。参れ。」

いやいや、できませんって。

維月は心の中で思って、言った。

「まあ、そのような。我では役不足ではないかと。」

だが、炎嘉はそれを謙遜だと思ったようで、笑って首を振った。

「またまた。主しか維心の演奏を模倣などできぬしな。参れ。」

まじかよ。

維月は思ったが、綾もキラキラとした目で自分を見ていて、とても断れそうにない。

維月は、維心様ったら何を言い出されるのかしらと内心少し憤ったが、ここで逃げては宮の恥なので、表向きは頷いて、しおらしく立ち上がった。

「我などでお役に立ちますなら。」

マジで嫌だけど。

維月は言いながら、テーブルの端へと渋々回り込んで、畳の方へと上がった。

すると、炎嘉が十七弦を押して、言った。

「さあ、爪はこれ。もう几帳も良いな。皆知っておる者達ばかりであるし、この際気にするでない。」

もう慣れて来てしまって、礼儀もへったくれもなくなって来ているのだ。

維月は、仕方なく頷いた。

「これ以上狭くなっては、王も動きづらくなってしまわれましょうし。では、このままで。」

志心が、向こうから言った。

「では、維月はこっち。蒼はここ、翠明、駿、炎嘉と…分かるの?この位置がそのまま己のパートぞ。」

音の出方で位置が決まるので、それで皆は頷いた。

維月は、主旋律かあ、とたった一つの十七弦なので諦めて、維心を見た。

「王、いつなり良い時をおっしゃってくださいませ。」

維心は、前で機嫌よく頷いた。

「では、主が良い時に始めてくれてよい。」と、前を向いて、扇を構えた。「いつでも良いぞ。」

維月は頷いて、じっと琴を見つめた。

そうして、グッと構えると、傍らの志心を見つめて、頷いた。

そして、一気に聞き覚えている、地を讃える曲を弾き始めた。


それは、皆が聞き慣れた旋律だった。

それでも、維月が弾くそれは、維心をしっかりと踏襲していながら、やはり女なので艶のある、また違った音だった。

それを追って、他の楽器も一斉にかき鳴らされ始め、維心が足を進めて、それはこれ以上になく正しく、そして見たこともないほどに美しかった。

「まあ…。」

綾が、思わずため息をつく。

すると、何やら地が震え始めて、ゴゴゴゴと地の底から、大きな力が這い上がって来るのを感じた。

「え…!」

焔が、維心の舞いに気を取られながらも、その這い上がって来る力の大きさに思わず声を上げて床を見る。

隣りの箔炎も、思わず腰を浮かせてキョロキョロと見ているが、その這い上がって来る力は、どんどんと近付いて来るようだった。

「これは…またまずい事になるのではないのか…?」

箔炎が言う。

碧黎が本気で演奏した初日、宮ではいろいろな神がバッタバッタと倒れてしまい、大騒ぎだった。

もしかして、二の舞になるのではと、皆慌てていた。

だが、畳の上では全員が演奏と舞踏に必死で、こちらの様子に気付かない。

維心の様子は、その華やかでいて荘厳な演奏に引っ張られるように、それは美しくて目を奪われる様だった。

ふと、維月は琴を弾きながらも、碧黎の気が自分達を捕らえようと這い上がって来るのを感じて、手元を見るのも忘れて、その感覚に集中した。

碧黎の気は、どんどんと上がって来て維心や維月が居る畳の上へと遂には到達し、皆を包んでまるで宙へと押し上げるような感覚がした。

「あ…!」

維月は、手が勝手に曲を奏で続けるのに戸惑いながらも、その心地良い気が自分の全身を通って行くのを恍惚とした顔で感じた。

その気は、歓喜のような、労わりのような、癒しのような気で、どうやら碧黎が、この演奏と維心の舞いに、大変に喜んでいるのだろうと維月には感じ取れた。

珍しいこと…。

維月は、思った。

碧黎は、我を忘れて喜んでいる。

そんな風に感じながら、維月と志心、炎嘉、蒼、駿、翠明、公明の楽器はスッと演奏を終え、目の前では維心が、元の位置へと戻ってまた、扇で顔を隠した状態へと戻っていた。

なんて心地良い時間だったことかしら…。

維月が思って、ホッと顔を上げると、維心が振り返って、微笑んだ。

「良い音であった。皆、よう励んでくれたの。」

なかなかに微笑むようなことが無い維心が、これほど素直に微笑むのを見るのは、皆初めてだった。

…やっぱり、維心様は生まれ変わった時にお育ちになった環境が違うから。

維月は思ったが、炎嘉が思わずその顔に見とれていたようで、ハッとしたように慌てて言った。

「…なんぞ、臣下のように。主が我の舞いの時に弾いてくれたから、そのお返しぞ。だが…確かに美しい舞いであったわ。」

志心が、微笑んで頷いた。

「誠にの。途中からは、まるで己が手が己の物ではないかのようであった。勝手に手が動いて、音を奏でておったもの。その時に、維心があまりにも美しいので、思わず見とれてしもうたわ。」と、ハッとテーブルの方を見た。「なに?!何と、倒れておるではないか!」

え、と維月が今の熱を冷まそうとしていたのも忘れて見ると、確かにテーブルに突っ伏して、玉貴や桜、杏奈、燈子の四人が気を失っていた。

椿と綾は、何とか踏ん張っているものの、赤い顔をしてそれを扇で必死に隠して元に戻そうとしていた。

「大変!」維月は、立ち上がった。「きっと、お父様の気が突き上がって参ったからですわ。とても濃いものでありましたし、慣れぬと昨夜のお父様の演奏の時のように、こうして。」

維心が、慌てて維月の手を取って、畳から下しながら言った。

「蒼、部屋へ帰すか。これではこれらもたまったものではないの。」

蒼は、頷いて立ち上がった。

「碧黎様の気に当てられただけですから、きっとすぐに気がつくんですけど、部屋へと連れて参ります。」と、公明と見た。「公明も、桜殿を連れて参った方が良いのでは。」

樹伊が、言った。

「我も玉貴を一度、部屋へと連れて参って来るゆえ。」と、玉貴を抱いて、立ち上がった。「高湊もであろう?燈子殿をこのままにしておけぬし。」

高湊は、うんざりしたように頷いた。

「仕方がない。我も気に当てられて少しフラフラするが、連れて参るか。」

焔が、言った。

「すぐに戻って参れよ。主も舞いを良くするのだろう?見てみたいしの。」

高湊は、燈子を抱き上げて歩き出しながら、苦笑した。

「まあ、できるだけ早う戻るようにする。」

だが、高湊はその夜、戻って来ることはなかったのだった。

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