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続・迷ったら月に聞け15~再会  作者:
月の宮の神
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逢瀬

公明は、一旦は帰った控えの間を出て、桜の居る部屋を探って庭から回り込んで歩いていた。

別に忍ぼうとか思っているのではなくて、ただ直接に今日の演奏について、語り合いたかったのだ。

翠明が帰っているようだったが、もう寝室へ入って居るようで居間には灯りがついていなかった。

桜の気配がするのは、居間の、翠明の気配がする寝室の反対側のようだった。

どちらも灯りは消えていたが、まだ起きていることに賭けて、公明は窓から中を覗き込んだ。

すると、中で襦袢に袿を引っ掛けただけの、桜が座ってこちらを見て、驚いた顔をしていた。

公明は、襲われると思ってはいけないと思って、慌てて首を振った。

「違う、話そうと思うて。」公明は、窓の外から小声で話し掛けた。「演奏の感想を話したくての。」

桜は、急いで窓を開くと、言った。

「まあ、驚きましたわ。もう休もうと思うてこのような格好で。」

公明は言った。

「時は取らぬし、そのままで良いぞ。誰も居らぬし、少し歩かぬか。良い月ぞ。」

桜は、夜に抜け出すなど二年前に会っていた時依頼だとドキドキしながら、頷いた。

「はい。このようななりで良いのなら。」と、少し浮き上がって、窓から外へと出た。「参りましょう。」

二人は、頷き合ってそこから急いで宮を離れて、庭の奥へと向かった。

いつまでも宮の横で話していたら、誰かに見咎められる恐れがあるからだ。

そうして、月灯りの中、二人は庭の中を奥へ奥へと歩いて行った。


公明は、もう宮から気取るのは難しいと思われる位置まで来てから、やっと足を止めた。

「ここなら良いか。」と、桜を見た。「どうしても感想が言いたくての。主の和琴は見事であった。龍王妃の和琴は確かに素晴らしいが、主の和琴もその裏で花を添えておった。あれほどとは思うてもおらぬで。驚いたわ。」

桜は、恥ずかしそうに言った。

「あまりに維月様のお手が素晴らしいので、我など霞んでおるかと思いましたのに。そうおっしゃって頂いて、嬉しいですわ。」

公明は、首を振った。

「主旋律は目立つゆえそう聞こえるが、主の和琴が追うように流れておるからこそぞ。大変に良かった。まだ耳に残っておるほどよ。」

桜は、顔を赤らめて言った。

「公明様こそ、凛々しく優しい音なのに、どこかピリッとした感じもあって心地良い音でしたわ。あれだけの名手の中で、存在感を出されておったのはお見事だと思いました。一緒に合奏などしたら、きっと楽しいだろうなと思いましてございます。」

公明は、嬉々として言った。

「おお、誠か。」と、桜の手を握った。「桜、この二年、主と文を取り交わしておって、我は主を知ったつもりよ。主は大変にしっかりしておって、話しごたえのある女神ぞ。楽も共に楽しめる。まだ早いかと言い出せずにいたが、我の宮に来るつもりはないか。我と共に、中央の宮で生きていかぬか。」

桜は、突然のことに驚いた。

とはいえ、たまに文の端々に、もしかしてと思わせる文章はあった。

それでも何も言わないので、桜は友として接してくれているのだと思っていたのだ。

だが、公明はこんな自分と共に生きたいと言ってくれるのだ。

「…こんな我でよろしければ。」桜は、涙ぐんで言った。「何より我も、公明様と長く文を取り交わして、慕わしいかただと思っていたのです。でも何もおっしゃらぬので…友だと思うていらっしゃるのだと、思っておりました。」

公明は、首を振った。

「主がまだ、どこにも嫁ぐ気にならぬかと待っておったのよ。我は最初から、主を娶りたいと思うておった。主が良いなら、明日駿殿に直接申す。いや、翠明殿の方が良いのか。それとも箔炎殿?」

桜は、笑った。

「父で良いかと。すっかり祖父に世話になっておるのですが、箔炎様に引き取られたと言うてずっと帰っておりませぬし。」

考えたらややこしい。

公明は、顔をしかめた。

「まあ良い、皆に申すわ。帰る前に一度朝の茶に呼ばれておるし、その席でな。」

椿は、よく考えたら厄介な事になっていた自分の身の上の責任者のことで、公明に面倒を掛けるのが心苦しくて、言った。

「あの…でしたら母には申しておきますわ。我が御承諾したことを知らせておく方が良いでしょう?」

公明は、うーんと首を傾げた。

「そうは言うてももう夜中であるしな。朝はかなり早くにあちらへ参らないと箔炎殿はもう、出ておるであろうし。主の母に申すのは良いが、それで我が申し入れるのに影響があるかというと、なのでないと思う。」

そうだった。

桜は、息をついた。要領が悪かった…公明様は面倒に思われないかしら。

桜がそう思って暗い顔をしていると、公明は苦笑した。

「何を暗い顔をしておるのだ。やはり婚姻するのは否か?」

桜は、それには盛大に首を振った。

「そのような!我は二年前からお慕いしておりましたのに!」

思わず力が入ってそう、言ってしまったのに、公明は驚いた顔をしたが、クックと笑った。

「そうか、そのように思うてくれておったのか。」桜は、自分が言ってしまったことに自分で驚いて、真っ赤になって口を押えているが、公明はそんな桜を抱きしめた。「お互いに落ち着いた歳であるし、これからは平穏に暮らして参ろう。主を幸福にするゆえ、主も我を幸福にしてくれ。傍に居てくれるだけで良いから。」

桜は、驚いて胸がどきどきしたが、公明の胸に顔を埋めて、目を閉じた。そして、そっと頷いて、言った。

「はい。我はもう、幸福でありますわ。」

公明は、そんな桜をしばらく抱きしめていたが、これ以上遅くなっては寝る時間も無くなってしまう、と、桜を元居た部屋へと送り届けて、自分の控室へと戻って行ったのだった。


次の日の朝、ほとんど眠れなかった公明は、王達が集う、貴賓室用の応接室へと向かった。

ここは、貴賓室に泊まっている客が使うための場所で、皆が集まる時などに使うようにと設えられているものだ。

朝から続々と王達がそこへ向かって来ていて、公明は自分も大概早めに来たと思ったが、中へ入るともう、炎嘉と箔炎、志心が何やら話しながら座っていた。

公明がそこへと入って行くと、後ろから来た駿と高瑞が公明に声を掛けた。

「お、公明よ。主も今か。」

公明は、振り返ると、二人を認識して、頷いた。

「早めに来たと思うたのに、もうこのように。そういえば、蒼は?」

高瑞が、苦笑した。

「あれは日が高くならねば起きぬから。知っておるから誰も咎めぬのだ。」

そういえば、蒼はいつも遅くまで起きているが朝は日がそこそこ昇らないと起きないと言っていた。

公明は、頷いて適当に椅子へと座った。

「そうか。」と、駿を見た。「駿殿、主に話があっての。」

駿は、片方の眉を上げながら、公明の隣りへと腰を下ろした。

「ほう?何ぞ。」

公明は、既に座っている箔炎の方も見た。

「箔炎殿も。誰に言うたら良いのか分からぬでな。その、昨夜承諾を得たので、話を通したいのだが今は桜の責任者は誰ぞ?」

承諾?

箔炎が、答えた。

「我が一応扶養者だが、父は駿ぞ。だが、今は祖父の翠明が世話をしておるがの。」

駿が、うんうんと頷いた。

「承諾とは、婚姻か?主、あれを娶ってくれるのか。」

だとしたら、行き場が無いと案じていたが、金星なのでは。

駿が、期待に満ちた顔でそう言うと、公明は頷いた。

「我には妃が居らぬので、桜は一人の妃として入る事になるのだが…桜には良いと言うてもらったし、後は父か扶養者の承諾なのだが。」

駿は、何度も頷いた。

「我は良い。長く文通しておるとか聞いておったし、ならば娶ってくれたらと思うておったのだ。誠に良かったと思うが、今は椿の下におるし、箔炎が扶養者ぞ。どう思う。」

箔炎は、肩をすくめた。

「我はほとんど世話などしておらぬしな。一年ほどで翠明の所へ行ったきり、戻っておらぬから。あれが決めたのなら良いと思うが、一応椿に聞いてはおく。我自身は、良いと思う。」

そこへ、翠明が入って来た。

そして、公明を見て、言った。

「あ、我は良いぞ。」公明が驚いていると、翠明は続けた。「朝から桜に叩き起こされたわ。公明と婚姻したいから何とかしてくれと。誰に申したら良いのか分からずで困っておられるからとか言うて。起きぬけに話を聴かされて、綾は、訳を聞いて早う行けと我を着替えさせて追い出しおって。恐らく今は箔炎が扶養者であるが、我が祖父で今世話をしておるから、我の宮から嫁がせるわ。荷もこちらで準備する。駿も箔炎も、それで良いの?」

二人は、頷いた。

「良い。我からも一応何か準備するわ。娘であるからの。」

駿が言うのに、箔炎も頷く。

「恐らく椿が何かしたいだろうし、我も何か贈る。翠明の宮へ送れば良いな?まとめて持たせよう。」

翠明は、頷いた。

「それで良い。なので公明よ、そちらで日取りを決めるが良いぞ。こちらは準備を進めておくから。」

公明は、あっさりと決まったのに目を白黒させていたが、戸惑いながらも頷いた。

「は。では、帰って臣下に決めさせる。また書状を送らせよう。」

侍女達が、茶を持ってやって来る。

炎嘉が、言った。

「めでたいの。あれも行き場が無いのではと戻った時には皆で案じておったが、公明の所など良い縁を掴んで。これで心配ごとは無くなったのではないのか、駿。」

駿は、ハアとため息をついて、頷いた。

「誠にそうよ。よう娶ってくれたぞ、公明。あれはハキハキし過ぎて焔の所から帰った時には次は無いのではと思うておったのだが、誠に良かった。宮を回したりするのには長けておるから、役には立つと思うぞ。誠に良かった。」

志心が、言った。

「それにしても焔が二日酔いで来ておらぬでよかったの。気にはせぬと思うが、気まずい心地にはなったはずであるし。」

炎嘉が、言った。

「あれは軟弱なのだ。ちょっと明け方まで飲んだだけで寝込みおってからに。我も同じだけ付き合ったのに起きて参ったぞ?というか、寝ておらぬのだがの。」

だから早かったのか。

公明が思っていると、箔炎は苦笑した。

「明け方までここで飲んでおったものな。さすがに我と志心は帰ったが、焔と炎嘉は最後まで居ったゆえ。」

志心は、頷いた。

「さっき見て来たが頭が痛いと苦しんでおったゆえ、恐らく来ぬな。あのまま帰るであろうぞ。」と、扉の方を見た。「蒼も寝ておるだろうしいつもの事であるから来ぬのは分かるが、維心が来ぬな。どうしたのであろうの。」

炎嘉も、扉を見た。

いつもなら、維心はどんなに遅くなろうともここへはすっきりした顔をして来たものだった。

それが、今朝はまだ来ていない。

気になった炎嘉は、側の侍女に申し付けて、維心はどうしているのかと問合せをしたのだった。

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