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続・迷ったら月に聞け15~再会  作者:
月の宮の神
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庭にて

維月は碧黎と共に、庭を歩いていた。

いつもの碧黎なのだが、着物が違うだけで印象がガラッと変わる。

維月は、この正装した碧黎の、凛々しい様もとても好きだった。

月明かりの下、維月の手を取って歩く碧黎の横顔に見とれていると、碧黎はフフと口もとに笑いを浮かべて維月をチラと見た。

「…誠に。我に隠れて我を見られると思うておるのか?主はこの着物を着てからよう我を見るの。どうやら好ましいと思うておるようよ。」

維月は、バレていたのかと赤い顔をして横を向いた。

「もう、おひとがお悪いですわ。だったらもう見ませんから。」

碧黎は、ふうと息をついて、呆れたように維月の前に立った。

「何を言うておるのだ、今更。いくらでも見れば良い。この姿が好ましいのであろう?ならばいつでもこの姿になっても良いぞ。主は正直であるな、分かりやすいことよ。」

維月は、不貞腐れた顔のままだったが、碧黎の頬に触れた。

「お父様は意地悪ですわ。そのように面と向かって申されたら恥ずかしいのに。もう。」

碧黎は、頬に触れる手を握って言った。

「今さら恥ずかしいとは何ぞ。我らの間にそんなものはない。のう…命を繋ぐか。」

今から?!

維月は、別に良かったのだが、それでもこんな場所で二人で爆睡していたらさすがにおかしいだろう。

「お父様、ここではダメですわ。あの、また月の宮へ里帰り致しますから。その時にでも。」

碧黎は、維月の肩を抱いた。

「別に時は取らぬし。主だって今、我が慕わしいのだろう?」

そうだけど、場所も時間も悪い。そんな後ろめたいことをするのでもないだが、夜の庭で二人並んで寝てるのは、何もしていないくてもまずいのだ。

すると、十六夜が言った。

《待てっての。親父、場所が悪いぞ。明日にしろ、明日に!昼間なら誰もおかしいとは思わねぇからよ。夜は別の事を勘繰って皆がうるせぇんだっての。それより維月、良い感じだったな。聞いてたぞ。》

維月は、渡りに船と空を見上げた。

「そうでしょ!昨日お父様に教えていただいたの。十六夜も来たら良かったのに。」

碧黎は、邪魔されたのはムッとしたようだったが、すぐにそんなことは無かったように空を見上げた。

「そうだぞ、十六夜よ。主も加わったらもっと良かったやもしれぬ。」

十六夜の声が、ククと笑った。

《親父と維心が居るのによー、オーバーキルになるじゃねぇか。維月達は勝ち負けを気にしてたろ?女達は維月以外は普通の神だし、そりゃ不公平だ。だから行かなかったんだよ。行くなら維月のところに入ってらあ。オレ達が対で弾いたら負けなしだっただろうしな。》

言われてみたらそうかもしれない。

維月は、それを聞いてそう思った。

「…だったら、十六夜に来てもらったら良かったわ。だって、あちらはお父様が加わってそれは素晴らしかったの。あちらこそズルいわよね。」

十六夜は、ハッハと笑った。

《親父が行くって知ってたら行ってたけど、お前らの演奏が終わってからだったからよ。仕方ねぇなあ。次はやってもいいよ。でもな、女楽なのにオレが入っていいのか?別に女の格好しろってならそれでもいいが。》

維月は、確かに、と顔をしかめた。

「そこまでするのもね。もし次もお父様が入られるなら、無理やり十六夜を入れちゃうわ。」

碧黎は、笑った。

「我はもう入らぬわ。今夜は興が乗ったゆえ加わっただけ。これからはあのようなことはせぬよ。」

維月は、それはそれで残念な気持ちになった。

碧黎が本気で弾くのをもっと聴いてみたい。

「お父様の本気の琴をもっと聴きたいですわ。だからあれが最後では残念な心地です。」

碧黎は、驚いた顔をした。

「主、あれが我の本気と?」

維月こそ、驚いた。あれが本気じゃないの?

「え、だって素晴らしい音で。」

碧黎は、苦笑して首を振った。

「無い。あれは維心の音に合わせて弾いただけよ。我が本気で弾いたら、もっと地の気が突き上がって来るわ。前も申したように、あの場に居た神の内、何人が我の演奏を聴く権利があるのだ?上位の王達だけなら良いが、他はそこまでではない。そこまでしてやる謂れはないからの。」

ならば本当にあれは手遊(てすさ)びであったのだ。

十六夜が言った。

《だったら月の宮で弾いてやれよ。みんな聴きたいんだろうしな。維月もそうだろ?》

維月は、何度も頷いた。

「さっきから言ってるように、聴きたいわ!」

碧黎は、苦笑して維月の頭を撫でた。

「仕方のない奴よ。ならば皆が月の宮に集う事があったら、一度弾いてやろうの。だが、そうそう弾かぬぞ。」

維月は、パアッと顔を輝かせた。

「はい!まあ楽しみですこと。十六夜もその時は弾いてね。」

十六夜は苦笑して答えた。

《ああ、お前もな。》

するとそこへ、維心の声が割り込んだ。

「維月!」

維月は、もう終わったのか、とびっくりして振り返った。

「え、維心様?もう宴は終わりましたの?」

出て来る時は、まだまだな感じだったのに。

維月がそう思っていると、維心がズンズンと寄って来て維月の手を握った。

「抜けて参った。主らが帰っておるのに気付いて。」

ということは、皆を置いて出て来たのか。

主催の維心が出て来たのだから、今頃は上位の王達も出て行ったのではないだろうか。

そう思うともう少し居たら良かったかと思ったが、碧黎が言った。

「また主は。どうせ我が居らぬのに気付いて、維月が共に出て行ったのではとか思うて追って来たのではないのか。」

図星だったが、維心は言った。

「妃が居らぬと案じるではないか。まして居間に居らぬと、探しもする。我に無断で他の男と庭を歩いておるとなると尚更にの。」

維月は、困ったように維心を見た。

「あの、では戻りましょう。前も申し上げましたけれど、父は維心様が案じられるような事は絶対にしませんわ。取り決めがありますから。」

碧黎は、維心をじっと無表情で見ている。

維心は言った。

「分かっておる。だが案じられただけぞ。こちらへ参れ。」

碧黎は、言った。

「…分からぬぞ。」維月が驚いて碧黎を振り返ると、碧黎は維心を睨むように見て、続けた。「主がやるかもしれぬと我を信じておらぬのだから、ならば別にやっても良いな。やるかもしれぬとは、やって当然と思うて案じておるのであろう?ならばその期待に応えても良いぞ。」

碧黎からは少し、憤りを感じた。

今まで一度も約したことを違えたことも無いのに、維心があまりに煩いので腹が立って来たのだろう。

維心は、首を振った。

「そんな事は無い!主が正装などしておるから、維月が流されるのではないかと思うて案じたのだ!」

「そら、それぞ。」碧黎は、言った。「だから流されて体の関係をなど思うておるのだろうが。無いわ。何度も申しておるが、我は約したことは違えぬのだ。仮に維月から迫られたとしても、我は手を出さぬ。それが取り決めであるし、守られるからこそ意味があると思うておるからぞ。だが、主は煩い。取り決めでそれ以外は口を出さぬと決めておるのに、こうして割り込んで参っては難癖つけおって。大概我慢も限界ぞ。いい加減にせぬか。我とてならば、いくらでも取り決めなど破ってみせるわ。」

維心は、碧黎が怒っているのを見て、まずい、と思った。

碧黎は大概寛容だが、怒るとかなり頑固だ。

そして力の制限があまりないので、大概が面倒な事になる。

「割り込んだのは悪かったと思う。ここは我の宮であるし、我が優先されても良いではないか。それを主張したかっただけぞ。」

だが、碧黎はフンと横を向いた。

「もう良い、話すだけ無駄ぞ。」と、スッと浮いた。「帰る。」

このまま帰したらまずい。

「お父様!」

維月が思って呼んだが、碧黎はパッと消えてその場から居なくなった。

…せっかくご機嫌が良かったのに…。

維月が困って維心を見上げると、維心は碧黎が消えた場所を苦々し気に見ていた。

十六夜の声が、言った。

《…あーあ。》維月が空を見上げると、十六夜は続けた。《怒ったぞぉ。月の宮にも戻ってねぇしな。どこへ行ったのか知らねぇが、あれはかなり怒ったぞ。あのな維心、お前分かってたのによ。どうしたんでぇ、転生したからか?そういやお前の体、見た目は大きいけど中身はどうなんでぇ?もしかして若い龍とか言わねぇだろうな。だとしたら、成人するまで二百年あるぞ。その二百年、親父がこのままキレずに我慢できるとは思えねぇ。やたらと感情的なのが気に掛かる。》

言われてみたらそうだ。

維月は、前の転生の時の維心を思い出していた。

確かに、一度維月と婚姻したが、あまりにも感情が激し過ぎてそれを抑え切れておらず、維月を傷つける可能性があると、落ち着くまで記憶を封じて引き離した。

その後、維心は努力して己を抑えられるようになったが、あの時はもう、成人していた。

今回もそうだとしたら、十六夜が言う通り、維心が抑え切れるようになるまで二百年以上掛かる事になるのだ。

維心は、それを驚くでもなく聞いて、下を向いた。

どうやら、それを先に気付いて維心も懸念していたようだった。

「…分からぬのよ。ゆえ、碧黎に己がどうなっておるのか聞いておこうと思うたのに、ここへ来て維月が碧黎と並んでおるのを見ると、ついあのように。己を制御する方法は、記憶の中にあるゆえそれを扱えるようになるまでそう、時を取らぬと思う。だが、確かに十六夜が言うように、我も時々己の感情に飲まれておるような気がする。もしかして、と、我も薄々思うておったところなのだ。」

維月が、慌てて庇うように言った。

「ですが維心様、前のように極端に憤られるわけでもありませぬし、暴力的なわけでもありませぬわ。仮にまだ体の中身が成長しておらぬとしても、ある程度は抑えられておるのでは。」

それを聞いた維心は、維月を見たが首を振った。

「まだ、赤子であるから。」維心は、言ってため息をついた。「恐らくはそう。龍としての我は、まだ全くの赤子なのだ。二歳ほどなのだぞ?確かに気が大きいゆえ回りを巻き込む事はあったが、感情的にはまだそこまでではない。つまりはもし見た目だけの体なら、これから満ちて来て抑えきれぬ事になるのではないかと案じられてならぬ。二百年…懸念しながら生きねばならぬかと今から案じてならぬのよ。どうしたら良いのか、碧黎に聞かねばならなかったのに。我は…それなのにあんなことを碧黎に言うほど、己を抑えきれておらぬ。死ぬ前に一度、これで難儀した記憶があるにも関わらず。」

維月は、言われてみたら、と困惑した。

どうしたら良いのか、確かに碧黎に聞くのが一番だったが、それもできなくなった。

どうしたものかと、維月は十六夜の居る月を見上げて、沈黙する十六夜と悩んだのだった。

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