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続・迷ったら月に聞け15~再会  作者:
月の宮の神
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想定外

結局、十六夜が言って連れて来た12人のうち、受け入れが決まったのはたったの3人だった。

摩耶と夕、そして浬の三人のことだ。

摩耶はたった一人でまだ百歳ほどだったので、学校の宿舎の方へと部屋を振り分け、夕と浬は一般的な家族の屋敷である、小さ目の空き屋敷に案内された。

新参者なのは同じなので、少しは心強いかと奈河の屋敷の隣り辺りに二人を入れたらしいが、もう夜なので交流は無いだろう。

これから、あの二人は学校に通っていろいろ学んで行くことになる。

特に夕は、侍女として働けるようにいろいろ早急に学ぶ必要があったので、さっそく明日から行けるように、手配されていた。

《たった三人か。》

蒼が休もうとしていると、十六夜が声を掛けて来た。

蒼は、ジトッとした目で空を見上げた。

「ちょっと。もっとしっかり見て来いよ、全然ダメだったじゃないか。確かに悪い気はしなかったけど、みんなやる気が無さ過ぎるんだよ。楽して生きようって感じでここへ来た感じだった。いくら悪い神でなくても、怠け者は駄目だよ。他の臣下が迷惑するし、平等じゃないからな。何かの役に立とうという気持ちが無いとさあ。」

十六夜は、バツが悪そうに答えた。

《そこまでだと思わなくてさ。オレも関の房を見てたが、あれは酷いな。難しいよな、悪い命ではなくても、働きたくないのは駄目なんだしよ。》

蒼は、抗議するように言った。

「悪い命じゃないって言うけど、幹ってヤツは明らかに悪かったぞ。ちょっと嫌な気が混じってるなあって思ってたら、やっぱり妻子に暴力振るってたみたいだし。舌打ちしたりして、嘉韻に叱責されてた。ああいうのはいくら子連れでも困るんだって。だったら子供と母親だけとかにしてくれないと。」

十六夜は答えた。

《一応一緒に守って住んでたから、いいかなって思ったんだよ。子供が結構しっかりした子だったし、助けてやりたいと思ってな。浬だっけ?お前がつけた名前。》

蒼は、頷いた。

「名前をもらっただけでめちゃ喜んでて不憫だったよ。母親にも、明日から字から教えて最終的に侍女になれるようにサポートしていくよ。浬はまだ子供だし、いくらでも学べるだろう。あの子なら、きっと大丈夫だ。話し方もすぐ学んで行くと思うよ。」

十六夜は、満足したようだった。

《だったらいい。オレが本当に助けたかったのは、子供達だったからな。じゃあ頼むよ。オレは引き続き子供を探してみる。子供を見つけて少々強引でも保護して行けば、はぐれの神の数だって減るんじゃないかって最近思ってて。》

蒼は、驚いて月を見た。

「え、親諸共って、なかなか難しいんだよ、幹みたいなのは一緒に入れたくないし、母親でもみんな良い性質なわけじゃないんだからね!まさか孤児院でも作るつもりなのか?」

十六夜は、答えた。

《まあ、それでもいいかなって思ってるとこ。》蒼が抗議しようとすると、十六夜は続けた。《じゃあな、オレも忙しいんでぇ。》

「ちょっと十六夜!」

蒼が言うが、十六夜はもう答えなかった。

確かに子供の世話ぐらいいくらでもできる神員(じんいん)が居るが、無理やり子供を攫って来るんじゃないだろうな。

蒼は、ため息をついたのだった。


高湊が無事に謹慎が解けて、どこの宮の通常通りの運営されていた。

もう、龍の宮の宴の日は迫っていて、もう三日ほどで当日だ。

蒼や高瑞、上位の宮の王族たちは、当日バタバタするのが面倒だという理由で、前日に龍の宮入りすることが許されていた。

なので、実質蒼達上位の王は、あと二日で龍の宮へ向かう事になっていた。

高瑞が、事前に練習しておきたいと言うので、天媛も混じって蒼と一緒に合奏の練習をしていると、そこに奈河も緊張気味に参加していた。

そういえば、十六夜が奈河に話をしに行ってから、もう数週間だ。

あれから何も無いが、奈河はやはり八重の叔母が高瑞に何をしたのか気取ったのだと聞いている。

それを思うと、緊張するのも道理かもしれなかった。

もちろん高瑞は何も知らないのだが、奈河の緊張は分かったようで、言った。

「…このような事は初めてやもしれぬが、そんなに硬くならずで良いぞ。」高瑞は、そんな奈河に言った。「主の笛は奈津によう似ておって素晴らしい。ようそこまであのような場所で修練したものぞ。自信を持って良いのだ。」

奈河は、高瑞にそう言われて、少し目を潤ませた。

どうやら、高瑞を騙しているような気になって、気遣ってくれるのに堪え切れなくなっているようだった。

蒼は、言った。

「誠に良い音色だと思う。当日もオレ達の近くに座らせるようにするから、そんなに緊張する事は無いよ。」

奈河は、項垂れるように下を向いて、頷いた。

「はい、王。」

蒼は、この状態では練習も可哀そうだと思い、奈河にはもう、帰って良いと言って、その日は帰すことにした。

そんな奈河を見送った高瑞は、ため息をついて蒼を見た。

「蒼。あれは優秀とはいえ長くさすらっておったのだから、いきなりに龍の宮での王達の合奏に立ち混じるなど、恐らく荷が重いのだ。笛は我が受け持つゆえ、あれは参加させぬでも良いのではないか?」

確かに、高瑞の担当の筝は、箔炎も焔も弾くし一人ぐらい欠けても良いかもしれない。

だが、炎嘉がどう言うだろう。

多分、炎嘉の頭の中では合奏の様が綺麗に決まっているのだろうし、欠けると言うといい顔はしないだろう。

それに、奈河がああして緊張気味にしているのは、高瑞が居るせいだと思われた。

奈河は、知ってしまった事実に良心が痛んでいるのではないかと思ったのだ。

蒼は、ため息をついた。

「まあ、高瑞が案じるのも仕方がないんだが。あれも来たばかりだしいろいろあるんだ。この宴の事だけでは無くてな。だから、気にすることはない。」

そうは言っても、高瑞は気になっていた。

何しろ、自分が狂ってしまったばかりに、奈津を結界外にさすらわせることになってしまい、そこで力尽きてしまったのだ。

その息子の事は、しっかり見てやりたかった。

高瑞は、蒼と別れて一度自分の対へと筝を置いてから、離れた村にあるという奈河の屋敷に向けて、飛んだのだった。


奈河は、自分の屋敷へと戻って来た。

あれから、八重の顔をまともに見ることができない。帰ってから、八重に事の次第を話して、決して外に出てはならない、高瑞様に見られるような事があってはならないと言ってから、碌に口も利いていなかった。

八重の叔母が何をしたのか知ってしまった後から、もしかしてその叔母と似ているのか、と気になって仕方が無かったのだ。

何をしていても、八重とは関係ないのだと知っている。だが、やった事がやった事で、どうしてもその叔母を許すことができず、八重と重なってしまってどうしようもなかった。

なので、河玖と八重の二人に寝室を譲り渡し、自分は隣りの別の寝室で一人で寝ていた。

…このまま、ずっと黙っていないといけないのだろうか。

奈河は、苦悩した。高瑞は、自分を気遣ってくれているのだ。それなのに、自分の妻は高瑞を苦しめた、いや今も苦しめている女の姪。

自分があの時助けなければ、共に居ることも無かったかもしれない。

ここへ来て、妻とは愛情を持って共に居る存在なのだと知った。

自分は、ただ八重を守ってやるために、その代償として関係を持った。

はぐれの神の中で育っていたし、そんな行為を知る時にはもう父が居なかった奈河にとって、回りの神の価値観がそのまま自分の価値観だった。

なので、そんなものだと思っていたのだが、どうも普通の神世では違うようだった。

子が出来たので、その子は自分の子であるし、父が自分を育てたように育てたいと思った。

だが、妻に対しての対応だけは、よく分かっていなかった。

ここへ来て、奈河にとっての八重がどういうものなのか、分からなくなってしまっていたのだ。

ただでさえ新しい環境で毎日必死に励んでいる奈河にとって、家庭でのそういった複雑な感情は、大変な負担になっていたのだった。

屋敷へと帰って来たものの、八重は奈河が自分を避けているのを知っていたので、出迎えには出て来なかった。

それを有難く思う自分に苦笑しながら、奈河は自分の寝室へと入って、笛を置いて着物を着換えた。

すると、誰かが戸を叩く音がした。

…誰か来たのか。

奈河は、いつも八重が対応するので放置するかと思ったが、その後に聞こえた声に、椅子から飛び上がった。

「奈河?話があって参った。」

高瑞様!

奈河は、絶対に八重に会わせてはいけないと、慌てて自分の寝室を飛び出して行った。

八重が、驚いたように奈河を振り返ったが、奈河は言った。

「高瑞様ぞ!」八重は、戸へと差し伸べていた手を、何か熱いものでも触れたように弾かれるように放した。奈河は、八重を追い立てた。「早う奥へ!」

八重は、頷いて急いで今、出て来たばかりの寝室へと飛び込んで行く。

奈河は、それを確認してから息を整えて、ゆっくりと戸を開いた。

「…高瑞様。」

奈河が言うと、高瑞は言った。

「すまぬの、いきなり訪ねてしもうて。話を聞こうと思うて参ったのだ。」

奈河は、頭を下げた。

「申し訳ありませぬ。子が寝たところで。よろしければ、外を散策しながらお話を。」

高瑞は、頷いて快く道の方へと足を向けた。

「ならばそうしよう。参れ。」

奈河は、頷いて、戸惑いながら屋敷を出て、高瑞と共に夕暮れの迫る中、歩き始めたのだった。

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