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背中越しの恋  作者: 野本さとみ
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予兆

「ギリギリセーフ!」


亮が部室のドアを勢いよく開ければ、目が今にも飛び出そうなほど大きく見開いた秋田の顔が飛び込んできた。

「お前!心臓に悪いと何度言ったらわかるんだ!!」

秋田か唾を飛ばしながら叫ぶ。

あまりの音量に両手で耳を塞ぎ顔を歪め

「毎回毎回、うるせぇぞ」

と、亮は呻いた。

「煩いと思うなら、静かに開けろ!!それに、今日はギリギリアウトだ!!」

そういって、秋田が指をさす。


え?と、秋田の指差す方向を見れば、亮より頭半分背の高い部長が佇んでいた。眼鏡の奥の切れの目から殺意むき出しの鋭い眼光が亮を見下ろす。

さすがの迫力に亮は、はは…と、苦笑いを浮かべ、こめかみから冷や汗が流れ落ちた。



「遅刻は厳禁だと何度も言っているはずだぞ」

部長の黒眼鏡が、ギラリと光った。

「どうも……すみません」

亮は、素直に謝る。

反論したところで、火に油を注ぐだけだということは重々承知。

今日は、どんな罰を吹っ掛けてくるのか予測してみる。

テニスコートの整備。球拾い。部室の清掃

どれも、経験済みだ。

なら、次はなんだ?

荷物持ちか?1日付き人か?

部長は一歩前に出ると、腕組みをして亮を見下ろした。

「まぁいい。今日だけは許してやる」


へ?肩透かしをくらって、自分でも驚くほど間抜けな声が漏れる。

遅刻で、雷が落ちないなんて、前代未聞だ。


「今日からしばらく放課後練習は、山川高校と合同試合を行うことになった。昨日、部長と話をつけた。」

亮は、首を傾げた。

山川高校?

最近どっかで聞いた気がする。記憶を辿ろうとすると、部長の声に遮られた。

「山川高校には優秀な選手が多数いる。そんな相手と対戦できるのは大きな収穫だ。早く準備して出てこい。」

部長はそう亮と秋田に言い放つと、部長は他の部員達が集まるテニスコートへと向かった。



「山川高校の女子テニス部といえば、部長のお気に入り女子がいるところだぜ!たまには、部長もやるな!お目当ての女子に会うために必死に交渉したんだろうな!」

秋田が興奮したようにいう。

なるほど。

だから、機嫌がよかったという訳か。

それだけじゃないぜ!秋田は続ける。


「あそこの女子にテニス部には、福島美咲ちゃんっていう、かわいい子がいるんだぜ!この前、県大会出場してんだよ!あの時、俺は美咲ちゃんにに一目惚れしたんだ!」


秋田は身ぶり手振りを激しくし右往左往しながら。

そして、力強く語り続けた。


「あのくりくりした目の中に、気の強そうな光が見て隠れしてて、何かオーラみたいなのがあって。俺には彼女が聖母マリアに見えたぜ…。」


両手を合わせて、うっとりとしたように秋田はいった。

その横で、亮は顎に手を当てた。

福島美咲…。

山川高校…。



「あ!!」

思い切り叫べば、秋田の肩がバネのように飛び上がった。

「お、お、お前!!ふざけてんのか!?俺を

驚かすようなことをするなと、何度言ったらわかるんだ!!わざとやってんのかよ!!」

秋田は亮の胸ぐらをつかんで、唾を飛ばす。

「ついつい」

頭をかいて、亮は軽く謝ると、秋田は手を離して、自分の荷物をとりにロッカーの扉を開けた。

「で?無駄にでかい声を出して俺の心臓を怖がらせた理由はなんだ?」

ごそごそ手を動かしながら、秋田は亮に問いかけた。

亮も荷物をロッカーに置いてラケットを取り出し

「いや、この前ファミレスで会ったのを思い出しただけ」



「そうか。お前、それだけであんなバカみたいな声出したのかよ…。ったく…いつもいつも…」

そこまで秋田がいうと、ピタリと声も動作も止めて

「って、美咲ちゃん知ってるのかよ!?」

秋田は顔を亮にぐいっと近づけた。

生ぬるい息が顔にかかり、亮は顔をしかめながら答える。

「知ってる…というか…。この前ファミレスに行ったとき、バイトしてたんだよ。で、かくかくしかじか…」


「お前・・・。本当に、ふざけんなよ?俺が目を付けた子みーんなお前が持っていくって、どういう了見だ!?いい加減にしろよ?お前には、唯ちゃんという可愛い彼女がいるんだから他の女の子には、手を出すなっ!!」



秋田は、身を引いて亮をギロリと睨んだ。

亮は、思わずため息をついた。

謂れのないことで、敵視されたりするのは慣れっこではあるが、正直なところいい加減にしてほしい。


「手なんか出してねぇし、不可抗力だ。って言うか、合同試合って言っても、女子関係ないだろ?」

「同じテニス部なんだから、応援しに来るに決まってんだろ。紹介しろよ。んじゃ、よろしくな!」


秋田は突き放すようにそういうと、さっさと部室から出て行った。

バタンと閉じられたドアを見つめて、亮は再度深いため息をついた。

この時は、面倒だ。くらいにしか思っていなかった。

どうせ、秋田のことだ。

すぐに冷めて、ネタにでもするんだろう。

軽くそんなことを考えながら、ラケットを手に取り、部室を出た。


だが。

もう、この時すでに当たり前だった日常の歯車が狂い始めていることを、今の亮には知る由もなかった。



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