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おかしな病院

作者: 戯画葉異図

 階段から落ちて足の骨を折り、おまけに頭を強く打ったので、私は、今は患者として、ここ、某大病院にて入院中である。病院の名前は、仮にエイチ病院としておこう。


 入院生活は、思ったほど悪いものでもなかった。出される飯は美味しいし、スタッフは親切で有能である。同じ部屋で同じく入院中の他の人たちも、気さくで話しやすい。むしろ、話していて楽しいくらいに、皆愉快な人間だ。おかげで、何も暇つぶしの道具を持たない私でも、退屈に腐るようなことはなかった。あまり立ち歩いたりしない分、療養中の足は、療養中であるにも関わらず腐ってしまいそうだが。


 私に宛がわれた部屋には、私の他に五人の患者がいる。一人は男児。一人は女児。一人は青年。一人は老婆。もう一人も老婆。最後に、私。


 病院の雰囲気は明るい。そして清潔だ。私の暮らす家よりも清潔なので、これは、退院したた時に感覚的苦労を伴いそうである。退院して、帰ったら、まず掃除しよう。そう決めた。


 私が言い渡されたのはおよそ一月の入院であったが、その間の生活様式も説明しておこう。


 朝。目覚める。すぐに朝食が出る。白米。味噌汁。目玉焼き。オレンジ。サラダ。お好みでマヨネーズ。サラダに入るトマトの赤がひと際目立つ。


 朝食を終えたら、歯磨き。そして、スタッフが身体の状態を尋ねてくるので、それに応える。ここからは、昼まで空き時間。つまり、一時の同居人との会話の時間。


 昼。程よい季節なので暖かい。少し眠くなってしまう。そんな中、昼食。白米。味噌汁。サラダ。オムレツ。オムレツにはケチャップがかかっている。朝食に引き続き、また赤い。


 昼食を終えたら、再び空き時間。やはり、同居人との会話の時間。


 夕方。少しだけ寒くなってくる。そんな中、夕食。白米。味噌汁。豚肉の生姜焼き。サラダ。またサラダだ。そして、また赤だ。この病院は赤が好きらしい。


 一日も終わり。この時間になると、同居人の中でも就寝に入る者がちらほらいる。まだ元気な者もいる。年齢による差異をこの一室で観察することができる。


 夜。私もそろそろ寝よう。今日もまた、楽しい会話ができた。消灯。良い夢が見れそうである。


 ……。


 …………。


 ………………。


 夢の中で、私はこんなことを考える。この病院は、どこかおかしい。指摘されるべき点はいくつもあるのだが、まず第一に気になるのは、部屋の外の、長い廊下から、何者かが部屋の中をじっと見つめている点だ。しかも、一日中。顔の半分だけを突き出して、片目でこちらの様子を窺っている。男とも女とも取れるような顔だ。その誰とも知れぬ者は、特に私の方を見ているような気がする。


 私の思い違いだろうか? そうとは思えないのだが……ううむ……。


 ………………。


 …………。


 ……。


 朝。目覚めると、何者かが私の眠るベッドの横に立っていた。いや、こいつを私は知っている。いつも廊下から見ていたやつだ。


 あ! こいつ、足が無い。お化けだ。お化けが真横で私のことを見ている。病院で死んだ人間の霊だろうか? 私はがバッと起き上がり、叫んだ。お前なんか、怖くないぞ!


 すると、お化けは言った。


「生きている人間が、こんな捨てられた病院で、なぜさも当然というような顔で生活しているんだ。気味が悪いったらありゃしない。お前、頭おかしいんじゃねえのか?」

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