はじまりの日
美しいものを見た
好奇心に弾んだ瞳。煌めく紅。
ほつれひとつ見当たらない白いレースはさらさらと地を滑り、あしらわれた瑠璃がころころと涼しげな音をたてる。
私の姉は今日、その人生において最も美しい姿を見せつけた。
大衆の目線がスポットライトのようにその肌を照らし、恐れを知らない微笑みが彼女の盾となった。
ここ、アデスラトナ国のクインストン伯爵家には至宝がある。
それこそが、今日純白のドレスを纏った花嫁、サリナ・クインストン伯爵令嬢である。
永遠の少女と呼ばれる愛嬌を身に纏い、王太子の心を掴んで離さないその振る舞いは、ついには国民の心をも射止めたようだ。
花びらが舞い、歓声が躍るその広場には太陽の光がきらきらと降り注いだ。
その広場を見渡せる位置に陣取りながら、引き攣った微笑みを浮かべる少女が一人。
クインストン家には至宝がある。
…そして、そうでないものもあるのだ。
至宝でない方。そう、つまりそれこそが今、広場の片隅でぱんぱんに浮腫んだ足を小さいヒールに押し込め、苦笑いしている私、ルメナ・クインストンである。
美しい姉の前では、どんな人間もジャガイモ同然というのは皆の共通認識だが、その“ジャガイモになる”という呪いを一心に受けた人間は、国中探しても私以外にいないだろう。
そう。私はジャガイモ。
生まれたときからずっと、凹凸のある物体としか認識されてこなかった、哀れな少女である。