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夜空だけが知っている  作者: 李月スモモヅキ
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episode1 言葉と感情

 はじめましてこんにちは。李月です。

 恋愛感情を抱かない性別「アセクシャル」と性欲を抱かない性別「ノンセクシャル」を題材に持ち上げた作品になります。

 男の子同士のお話なのでBLですが性的な描写は全くない予定です。

 一応最終的にはハッピーエンドにしたいのですが今後の更新によって変わってくると思います。

 ちなみに不定期更新です。(1週間に1話更新があったらいいほうだと思っててください)

 幼いころからそうだった。

「ねぇ侑くん、私と付き合ってほしいの」

 放課後裏庭に呼び出されてそう告げられた経験は中学三年時点でも両手で数えられないくらい。下駄箱に宛て先のない手紙、ロッカーにきれいなラッピング包装された手作りのお菓子、顔も知らない女子生徒が、渡り廊下越しに僕ことを見ている。

「いいよ」

 僕の答えはいつも決まっていた。受け入れる理由なんてなかった。……でも、断る理由もなかった。せっかく好意を抱いてくれているのだから、それをわざわざ断るのは罪悪感があったのだ。

「おまえさ、隣のクラスのゆきちゃんに告られてた?」

 付き合ってください、うんいいよ。そんな淡白なやり取りをした日の掃除の時間、集まったクラスメイトの男子ほぼ全員に野次馬のように囲まれた。僕は正直掃除をしたかったから受け答えするのが面倒だった。

「うん」

「え……まじで? ……デマじゃねえの? ゆきちゃんと言えばさ、学校中みんなが憧れる美少女じゃん」

 僕は特に気にもせず事実で頷いただけなのに、向けられる視線は、怪訝、好奇、敵意、不満、不服、とにかく心地よい視線じゃなかったのは確かだった。僕にはそれが何なのかわからなかった。

「で、付き合うん?」

「うん」

「つーかさ、お前はよくそんなへーぜんとしてるよな。明日から全校生徒男子敵に回してもおかしくないぜ」

 ……その男子生徒の言葉を理解することはできなかった。だって、告白してきたのは彼女のほうだ。周りが何を言おうと、彼女が思いを寄せていたのは自分であって他が何をできるわけでもない。これは彼女と自分の問題だ。けれど、それを問いただせば野暮天であることくらいは、14歳のガキにだってわかるのだ。子どもだ子どもだと大人に甘やかされたって、小学校高学年程度にでもなれば空気の読み方くらいは覚える。

「ぶっちゃけどこが好きなの? やっぱ顔?」

「……好きって?」

「何って、好きでもなかったら告白なんか受けねーべ」

「……わかんない……だって、断らなきゃいけないこともないもん」

 僕が“ゆきちゃん”に対して何とも思ってないことを言えば、周りの男子の視線は一気に軽くなった。……要するに、自分に回ってくるチャンスがあるのを知って安堵したらしい。

「たしかに、女子って怖いもんなぁ。断られただけで泣くから、女子集団で集まって俺らが責められるんだぜ」

「こっちはなんもしてねーのに『泣かしたー』だの『謝れー』だの」

「こないだだってさぁ」

 すっかり僕の話題などなかったことのように男子は別の話題に移り変わっていたので、僕は輪から外れて真面目に掃除に取り掛かった。すると、さっきまで話題にあがっていた“ゆきちゃん”と廊下で鉢合わせた。

「井上さん」

「侑くん。……あの、さっきはありがとう」

 さっき、というのは、昼休みに校庭の体育館裏で受けた告白の話だろう。クラスの男子にあっという間に話が渡ったのも、たぶんこっそり見守っていた彼女の友人たちが言いふらしたからだ。ゆきちゃんこと井上幸美さんはつやつやの頬とくりっとしたまつ毛の長い瞳で赤い唇に弧を描いて僕に微笑みかけた。……確かに、男子がかわいいと騒ぐのもうなずけるかもしれない。

「どうしていいよって言ってくれたの?」

「別に……断るのも悪いかなって」

「……優しいんだね」

 優しさのつもりなんかなかったし、結局僕が彼女を泣かせて女子の敵になるのが嫌だっただけの話なのだが、それを断っても意味なんかないので黙っていると、井上さんから声をかけられた。

「侑くんってさ、騒がないし、女の子にも優しいし、それにかっこいいよね」

 要するに、美少女と噂される彼女が好きになった僕の好きなところ、ということらしい。

「ありがとう」

 とりあえず、褒められたのでお礼を言う。掃除をさっさと済ませて帰りたかった。

 僕は井上さんの気持ちがわからなかった。物静かで女の子にも優しい男の子なら、僕以外にもたくさんいるのに。読書好きの佐藤君とか親切で明るい佐々木君とか。クラスの中でも彼女が僕を好きになった条件に当てはまる男子を思い浮かべながら、井上さんから向けられた「好き」の言葉と感情の意味と考えるばかりだった。


「じゃあ、侑は井上さんと付き合うことにしたんだね」

 帰り道、幼馴染の成宮志紀に件の井上さんの話をした。志紀とは幼稚園からの付き合いで、男のくせになよなよしていると男子からいじめられがちな気の弱いやつで、僕はそんな志紀の友達でいることで志紀を守っている。

 休み時間など授業中以外は基本的によく一緒にいる志紀は、クラスが遠かったのでそのことをまだ知らないらしかった。

「井上さんかわいいもんね。俺のクラスでも人気なんだよ。侑、明日からいじめられないといいけどね」

「そうかもね」

「どうして付き合うことにしたの?」

「断って悲しませちゃうのも悪いかなって」

「それだけ?」

「それだけ」

 案の定の質問に、当然の答えを返すと、志紀はひどく悲しそうな表情だった。……クラスメイトのときは、もっとほっとしたような……まあ喜んでるような反応されたんだけど。

「……じゃあ、侑のなかでは“何も変わってない”んだね」

「……どういうこと?」

「侑は井上さんのこと、別に好きじゃないんでしょ?」

「いや好きじゃないっていうか……嫌いじゃないけど」

 ……それを一般論では“無関心”と言うのだけれど。

「女の子として特別な相手と思ってないし、意識もしない?」

「だって……顔と名前しか知らないし、どんな子なのかもわかんないんだよ」

「それでも、自分のこと特別に思ってくれてるって言われたら、嬉しいでしょ」

 僕は、ただ控えめに頷く。好意を抱いてくれること自体は素直に嬉しかったからだ。

「でも、僕は……井上さんか、いつも一緒にいる志紀かだったら、志紀のほうが好きだよ」

「……ありがとう」

 でも、そういう話じゃないでしょ。井上さんがかわいそうだよ。

 その日は、志紀にそう叱られたけど。……僕にとっては初めて会って話をして告白された美少女の井上さんより、こうして毎日隣で話を聞いてくれて話してくれる志紀のほうが、皆の言う“特別な相手”に近いのは確かだったのだ。

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