個別の武器を語る前に・・・
いつになったら武器の説明に入るんだよ……と思っている方もいるとは思いますが、複数の武器を語る上での基礎的な考えを
まず、武器のダメージ特性。主に斬る、刺す、殴るです。
『斬る』……一番メジャーで物語でも数多く登場するであろう攻撃方法。刃の鋭さで斬るタイプと、武器自体の重さで叩き切るタイプ(斧等もこのタイプ)に分かれる。
【刃の鋭さで斬る場合】
柔らかいモノには抜群の威力を発揮するが、敵が堅ければ堅いほどダメージを与えられない。
使用する際の技術が難しい(刃を立てて斬らないとダメージが当たらない為)半面で力自体は他に比べるとさほど要らない。また、武器の強度が低く、多人数相手の戦いにも不向き(血や脂、刃の欠け等で切れ味が悪くなる為)
刃の切れ味と強度をそれなりにしようとすると、鋳造では難しい為、生産性も低い。逆に言うと、製作者の腕次第で出来栄えが天と地ほど変わるので、制作秘話などを作りやすい武器でもある。
【剣の自重で叩き切る場合】
刃の鋭さで斬るよりも、堅いモノにダメージを与えやすい。
使用する際の技術も若干下がる(刃は立っていた方が良いが、どんな当たり方でもそれ自体の重みでそれなりにダメージが入る)が、逆に力は必要になる(性質上重い方が良い為)強度は様々だが、刃が無くなっても鈍器として十分使える為、高いと言える。
鋳造品でもそれなりの威力を出せるので、刃タイプ程生産性は低くない。
どちらのタイプも技か力かの違いはあるが、使い手を選ぶ武器である。
『刺す』……力学上もっとも効率の良い攻撃方法。突き刺すタイプ(槍や刺突剣等)と、振り刺すタイプ(戦闘用ピック等)に二分され、矢も突き刺すタイプに分類されます。
どちらのタイプも堅いモノでもそれなりにダメージが入り、技術面的にも扱い易く、力もさほど必要のない武器が多い。
【突き刺す場合】
攻撃速度が速いのが特徴。通常の攻撃が、振り上げて振り下ろす動作で行なわれるのに対し、持っている武器を前に突き出すだけで行なえる。攻撃点の到達速度の速さは他の武器に比べ、圧倒的なアドバンテージ。
【振り刺す場合】
振る事によって、遠心力や武器の自重を攻撃力に乗せる事ができる。半面、突き刺す時の様な攻撃速度は失われる。
どちらのタイプも力が一点に掛かる為、非力な者にも扱い易く、リングメイル(鎖帷子)等の鎧への攻撃力も高い。
また、刃の部分が小さくとも機能する為(斬る武器の様に刃渡りの長さが必要無い)全体的に生産コストの低いモノが多いのも特徴。同じ理由で長物にしても重量が軽く済む。
『殴る』……最も原始的な攻撃方法。形状も原始的なモノが多く、基本的に武器の重量がそのまま攻撃力に直結する。
扱う為の技術は殆ど要らない代わりに、重量を扱える筋力が絶対不可欠になる。剣等の武器を女性が持てず、殴り用の武器しか持てないゲーム等がたまにあるが(特にレトロゲーに多い)、理由が甚だ疑問である。ただ、怪力の女性をアピールするには、逆に有効だろう。
どの様な形状(防御力)へも一定のダメージを与えられ、特に堅い的には抜群の威力を発揮する。中世にみられる金属鎧等には鈍器で殴るのが一番効果的。
モーニングスターの様な突起物を付けたモノや、フレイルの様に遠心力を攻撃力に足すモノなど、様々な形状が存在する。
また、敵を威圧する為にわざと巨大な鈍器を持っていた武将も歴史上存在する。これは、斬る刺す等のダメージよりも、殴るといった原始的なダメージの方が想像がし易く、視覚的効果が高い為と思われる。
次に、武器の基礎スペックについてですが、射程距離、重量、扱い難易度、刃の鋭さ、耐久力、生産性、そして材質です。
『射程距離』……無手で剣を持つ者を相手にするには三倍の段、剣を持って薙刀を持つ者を相手にするには倍の段が必要といわれるほど、射程距離が長いというのは、それだけで戦いの主導権を握れる重要な要素の一つです。
射程が長いと、当然取り回しが難しくなります。間合いの内側に入ってしまえば長物の方が不利……という描写がありますが、実際はその間合いの内側に入るのが非常に難しいのです。1の距離でしか戦えない者と、2~5の距離で戦える者とでは、戦術の幅が段違いですからね。
『重量』……鈍器などの殴る系の武器や、武器の自重で叩き切るタイプの剣などに於いては、重量はそのまま攻撃力となります。また、重量が有るという事は、基本的に密度が高い素材(ファンタジー素材を除く)を使っているという事でもあり、耐久性も高い事が多い。
しかし、重くなればなるほど、取り回しが困難になり、使い手を選ぶモノになってしまします。どんなに協力無比な武器でも、扱える者がいなければ只の置物です(冗談の様な超重量武器というのは、実際の歴史上でも幾つかみられます)。
しかも、自分の拠点(街)の中や近場だけが活動の場なら問題はないですが、普通は冒険者でも軍隊でも、移動する距離も考慮しなければなりません。重い武器を担ぎ、現地に付いたら疲れ切っているようでは、折角の武器も役に立ちません。
重量(攻撃力)と使い易さの試行錯誤は、武器の歴史の中で何度も試行錯誤される問題の一つです。
『扱い難易度』……英雄譚ではあまり考えなくていい要素だとは思いますが、軍隊など多数の人間が在籍する組織に於いては、非常に重要な要素となります。
特に、昔の軍隊は軍事専門者は、中枢部分だけであることが多く、雑兵は農民などの寄せ集めである事が一般的でした。通常時から訓練を受けていない者にとって、武器の扱い易さというのは生死を分ける要素でした。(軍隊の大部分を占める槍などを持った近接戦用の歩兵は臨時兵で構成され、騎馬や弓など専門性の高い部隊は軍事専門の者で構成される事が多く、騎馬隊や弓隊にダメージを受けると、人数以上に打撃を受けた)
『刃の鋭さ』……刃の鋭さで斬るタイプや刺すタイプには重要な要素。鋭さが必要なタイプは、重量を必要としないモノが多い。
刃の鋭さは非常にデリケートなステータスです。鋭さは脆さと表裏一体でもあります。鋭くするという事は、言い換えると薄くするという事であり、当然ながら薄く研いだ刃は非常に脆くなります。
また、血や脂で切れ味は落ち、骨に当たる事で欠けていきます。折れず曲がらず切れ味が落ちないが旨の日本刀でさえ、人を数名斬ると刃はボロボロになったらしいです。
刃の鋭さと耐久力は、造り手にとっても使い手にとっても悩ましい問題です。
『耐久力』……上の鋭さでも少し触れましたが、耐久力は武器の生命力と言っていいでしょう。壊れた武器は本来の威力を発揮できず、戦いに身を置くものにとっては、それだけで命に関わります。
耐久力を上げるには、質量の高い(重い)素材を使い、継ぎ目を少なくし、多少形状が変化しても攻撃力が落ちない攻撃方法が出来る様にすることです。
密度の高い金属製の鈍器などが上記に当てはまります。ちなみに、よくダイヤモンドは堅いといわれますが、あれは摩擦強度(モース硬度)であり、衝撃強度(靭性)はそれほど高くなく、熱にも弱いので武器や防具には向きません。
武器とは以上の項目のバランスが重要になってきます。
鋭さを追及すると耐久力が落ちる。耐久力を上げると重くなる……用途や持ち手のイメージから上手にバランスをとる事が重要になります。
逆にいえば、敢えてバランスの悪い武器を持たせる事で、キャラを強調する事もできます。
例えば、刃こぼれの酷い剣を持つ敵……過去多くの人を斬ってそうですよね……
例えば、耐久力を捨て、切れ味を極限まで高めた剣を使いこなす剣士……腕前が伝わって来ます……
例えば、男でも持つのがやっとな重量の武器を振り回す少女……異常なパワーが際立ちます……
最後に、武器の性能とは少し離れますが……
『素材』……重さや耐久力に関わる項目であり、ファンタジーにおいては作者の腕の見せ所でもある重要な要素。
また、用途によっても重要になる場合があります。例えば、熱伝導の関係で、鉄製の武具は熱や冷気と相性が悪く、局地では木製や生態素材(骨や革等)の武具の方が使い勝手がいいでしょうし、金属武具は移動時の音鳴りも大きいので、隠密行動とも相性が悪いでしょう。
しかし、ここがファンタジーの腕の見せ所です。軽くて強度の高い素材や、劣化し難い素材(ミスリルやオリハルコン等)。生態素材でありながら、金属よりも強度の高い素材(ドラゴンの鱗等)。エネルギー(魔力や生命力)を吸って鋭さを増したり、強度を上げる素材等。
無暗に使い過ぎると、作品を台無しにしてしまいますが、適度に使えば良いアクセントになります。
あくまで武器性能の基礎は物理法則に沿って決まっていきます。人類がこれまで歩んできた戦いの歴史の中で、試行錯誤され研鑽と淘汰を繰り返し、一定の形になってきました。
しかし、あくまで移り行く戦闘スタイルや基本戦術によって、その時々によって変化してきただけで、最後まで残っていた武器が最強であるとはいえません。
そもそも、現実世界の武器は、対人戦を想定して造られたモノですし、現実世界に存在する素材でしか造られていません。
つまり、繊細に調理された武器という名の料理に、ファンタジーという名のスパイスをどれ程入れるか……という事になります。
入れすぎれば味を壊してしまうし、少ないと物足りない……何事もバランスが大切です。
まあ、武器に限らず、崩壊寸前の調整に過剰なスパイスをぶち込み、逆に最適なバランスに仕上げる……いわゆるそんな天才的な作家さんもいるんですが……私の様な凡人には真似できません。
したがって、過度なスパイス投入や、間違った方向に調理しない様に、武器本来の特性を知っておくのは重要であると私は考えています。