情けない俺と優しい幼馴染
~夢のレストランOPEN数日前~
俺は説明を要求されていた。
「先ほどのお話……本当なんですか?」
騎士たちも含めて20人弱ほどの大所帯となってしまい、宿に戻ることができなくなった俺たちは、騎士たちの隠れ家である住宅街の空き家に移動していた。
「もちろん。俺は本気だ」
「どうやってですか?」
ツユちゃんが今日ほとんど初めて見せる積極性をもって聞いてくる。心なしか、少しの希望が目に宿っているように見える。
「思うに、ツユちゃんは国民を助けたいんだろ? それを助ければいいんじゃないか?」
「ヨウ、これはそんなに簡単に片付く問題じゃないんだよ」
渋い顔をしたチチシロが俺の発言に待ったをかける。なんか、チチシロっていつも困り顔だなあ。ということに気が付く。
「元マグン国民の人達は商人に従業員として捕まった人と、すでに購入されてる人達の大きく二つに分かれてる。商人から取り返すには莫大なお金が必要だし、すでに購入された人達には手出しできない。それこそ、戦争でもして勝たないと全員助けるのは……」
気持ちはわかるけど、諦めよう。といったニュアンスを込めてチチシロは言う。それでも、俺は諦めたくない。それに、俺には考えがあった。
「大丈夫だチチシロ。それに、あっちの用が終わるまで時間あるだろ? その間にお姫様を助けてあげようぜ」
俺が自信満々な様子を見て、何かをじっと考え始めるチチシロ。やがて、やれやれといった様子で首を縦に振ってくれる。
「……リーダーはヨウだ。これ以上は何も言わないよ。確かに予定もないし、もっとヨウを知れるチャンスだしね」
よし、チチシロの許可は得た!
「ミウは大丈夫だし、お前たちにも手伝ってもらうからな」
「ちょっと! 私まだ手伝うって言ってないけど!」
「手伝ってくれないのか?」
「そ、そんなこと言ってないけど!」
うん。お腹が満たされて通常運転のミウだな。問題は――
「だ、誰が手伝うか! 貴様の道楽に時間を割いている暇はないのだ!」
――こっちだ。
案の定、反発する騎士連中。
うーん、脅してやらせるのは簡単なんだろうけど、それだと印象良くないよなあ。
どうしようかと困っていると、ツユちゃんが手を上げる。
「みなさん。私はヨウ様にかけてみようと思います。もともと、民を見捨てて逃げるなど私の本意ではありません。そこに希望があるのならば、掴みたいのです」
「姫様……」
ツユちゃんの鶴の一声に、騎士たちもついに折れる。その中には「ツユキ様……立派に育って」とかいって涙ぐんでる爺さんも多い。
ちなみに、騎士連中はそのほとんどが年配者だ。この事からも、ツユちゃんがどれだけ大切に守られていたかが分かる。というのも、この世界では年配者になるほど職の熟練度が上がるため強くなる。一方で、肉体的には衰えていくが、うちの村長のように肉体強化の魔法やスキルで補える。よって、戦争中にこれだけの老騎士を割かれているということはそれだけの人物という事なのだ。
というか、たぶん初めて俺の名前を呼んでくれた! やった!
「で、あんな大層なこと言ってたけど、考えはあるんでしょうね?」
「お前には悪いが、ちゃんとあるんだよなあ。これが」
ミウはすぐに俺の揚げ足を取りたがる傾向にある。
「それは……?」
「ふふふ、店を、開く!」
「「「店を開く?」」」
全員が一斉に疑問形で突っ込んでくる。
「なんのお店なんですか――って、聞くまでもないですね」
「お察しの通り、料理屋だ」
「ば、バカにしとるのか!」
心底呆れたといった様子で騎士長が叫ぶ。
「料理なんぞでそんなことができるわけがないだろう!」
「いや、できる。まあまずは話を聞けって」
「じい、今は抑えて」
「姫様……ぐぅ」
ぐぅのねを上げて騎士長は黙るが、その目は早く続きを言えと雄弁に語っていた。
「えー、じゃあ、簡単に説明させてもらうぞ」
そう宣言し、俺は作戦の概要を話し出す。すっかり暗くなった室内。そんな中でロウソクの火がみんなの顔を照らす。その表情は実に様々だが、みんな俺の方を見ている。この説明でとちるわけにはいかない。
「まず、この計画は大体ひと月で完了させるものだ。今日のオークションに出る人たちの先見せ、だったか? あれは第一陣だったよな?」
「うん。そうだよ。今回はマグンの人たちが多く捕まったからね、全部の先見せが終わるまで1ヶ月ぐらいだけど、関係あるのかい?」
俺の質問にすかさずチチシロが答えてくれる。ナイスサポートだ。
ついでに言っておくと、先見せとは、オークションに出る人間をあらかじめ客に見せて、値段の判断材料にするというものらしい。今回はあまりにも人数が多いため、オークション1ヶ月前からやっているそうだ、というのをチチシロから聞いていた。俺たちのように、かなりの高額を提示できればその場で落札も可能だ。
「もちろんだ。それまでに、この町の住人から金を搾り取るぞ」
「とても勇者の発言とは思えないわね」
「う、うるさい!」
「でも、どうやってですか? 失礼ですが、料理ではどうにもできない額だと思うのですが……」
それはそうだろう。ここ最近の生活で知ったが、基本的に外の世界では一食が100円程度だ。100円というのはイモが5個ぐらい。これは外食で考えるとなので、家で食べるとなるともう少し安いらしい。
ちなみにこれは完全に余談だが、この『金』というシステム、実に画期的だ。村では各々が物々交換で食材を手に入れていたが、相手がこちらのものを欲しくなければ商談不成立だし、持ち運ぶのもかさばる。それが、この『金』はそのどちらも解決できるのだ! しかも、腐ったりしない! もう……大好き!
「一食一万円で売る」
「ぶっ! ごほっごほっ!」
騎士とチチシロが思わずむせる。
「そ、そんなの無理だよ! ヨウにはまだわからないかもだけど、一万円って言うのはかなりの額だ! しかも、普通はご飯にお金をかける人なんていない! 絶対に無理だって!」
珍しくチチシロが頭ごなしに否定してくる。どうもチチシロはお金の話になると感情的になるな。それと、騎士たちは何も言わないが、たぶん同じことを考えている。そんな顔してる。
「もちろん、俺も金銭感覚がちょっとは身についたし、どれだけ無茶言ってるかはわかる」
「そ、それに、例えその値段でお客さんがバンバン来たとしよう。それでも到底すべての捕虜を買収するのは無理だ!」
その後もチチシロは俺の作戦の無理を次々に言ってくる。でも、それらは全て予想されていたものだ。
「落ち着いたか?」
「……はぁはぁ、少しは」
「よし、じゃあ今度は俺の番だな。まず、最初の疑問。俺は城での長時間労働で、相手を空腹にする魔法を手に入れた。で、この魔法を使ってまずは数人、客を捕まえる」
まあ、この魔法は空腹感を増強するものであって万能というわけではないのだが、今回のケースでは十分だ。
「驕るわけじゃないが、俺の料理を食べたら絶対にリピーターになる。その人たちから情報が流れれば、お客も自然と足を運んでくれるはずだ。値段設定も味で納得させる」
「そんなにうまくいくかしら?」
「もちろん根拠はそれだけじゃない。今日、この町を歩いてて気が付いたんだけど、この町の人たちは金の使いどころを失ってると思う。それに圧倒的に娯楽も不足してる。だから、人身売買なんていうものに手を染める」
そこを、狙う。
「逆に言えば、金を使うに値する何かを提供できれば、オークションは価値を失い、購入する額も安価になっていくんじゃないか?」
「それは……確かにそうかもしれません!」
ツユちゃんが嬉しそうに俺を見つめる。俺の話が与太話ではないと確信してくれたのかもしれない。
「……いや、この計画は必ず失敗する。ヨウとやら、少しは考えてみろ、この町の広さを。たかだか10数人でそんな革命じみたことをできるはずがない」
流石、ただ単に年をとっているわけじゃないと言わんばかりに、騎士長が痛いところを突いてくる。声には諦めをにじませながら。
「確かにな。でも、これから人を増やせるとしたら?」
「騙されんぞ。例え人数を増やせるとしても、誰もがお前のように人を魅了する料理を作れるわけじゃない」
「じゃあ、それができるとしたら?」
「……なに?」
俺がウルーナの城で手に入れた新しい力は何も『五感強化の極意』だけじゃない。
「チチシロ、前に言ったよな? 世の中には稀に、他人に自分の職能を渡すことができる人が現れることがあるって」
「え……まさか」
「ふ。どうやら、俺も選ばれしものの一人だったみたいだ」
そのような能力を持った人は、有用な職能がない人などに自分の職能を渡していき、企業と呼ばれる集団を形成する。そして、その企業の原点たる人物の事をこのように呼ぶ。
「俺、社長になった」
「まさか……! 勇者ほどではないにしろ、希少な存在だぞ? 勇者かつ社長なんて……あ、ありえん!」
「ありえん! って言われてもなったもんはなったんだからしょうがない」
まあ、その肝心の勇者の適性が低すぎるから渡したところでどうにもならないのが悲しいところだ。
「でも、これで俺の『料理人』を人に渡し、熟達してもらえばこの問題は解決だな?」
「そ、そもそもの人はどうやって集めるんだ!」
「中毒性があるとはいえ、俺の料理は高額だ。そうなると、金が足りなくなる人も出てくるだろう。そんな人に、『所有している従業員を渡してくれたらサービス』とかなんとか言って、従業員を獲得する。提供される従業員の人数に合わせてサービスのランクを上げていけば余さず回収も夢じゃない。それに、もともとツユちゃんはオークションで競り落とす手はずだったんだろ? そっちで用意してる金を使って今後の先見せの度に従業員を集める」
「なっ……これは姫様の脱出と今後の生活資金も含まれているんだぞ! そうやすやすと――」
「じい。私は構いません」
ツユちゃんに諭されて黙るじいさんズ。この光景ももう定番になりつつある。
もちろん、お気に入りの従業員を手放さないという輩も出てくるだろうが、それはおいおい考えていけばいい。
「ともあれ、これで大多数の帝国民を奪還することが可能なんじゃないか? それだけじゃない。民を奪還した後についても考えがある」
「民を安全に逃がせる手段があるというのですか?」
「ある。今は言えないけどな」
民を救出した後は、オルガに頼んでウルーナに話を付けてもらう予定だ。ウルーナの計画を聞く限り、彼女は人類を滅ぼすために動いていない、それどころか人類との共存を願っている。マグン帝国と裏でつながっておくことはウルーナにとっても悪い話じゃないはずだ。それに、最悪の場合は料理をだしに使う。
「さて、ここまでで反論がなければ早速作業に取り掛かりたいんだけど?」
そういいつつ皆の顔を一瞥する。各々なにか言いたいことはありそうだが、特に反論は上がらない。心なしか、ツユちゃんだけがほんのわずかに笑っているような気がした。
「じゃあ、まずはこの場所をセッティングして立派な店にするぞ。ここを町で一番の繁盛店にしてやる」
俺は、おそらく人生で最も大きな責任感に少しだけ武者震いした。
◇◆◇
~夢のレストランOPENから一週間~
「想像以上に、客が来ない」
OPENまでに店の内装を整え、食事するのには最高の空間は作れたつもりだ。空腹の魔法も使って起爆剤となってくれるはずのお客も捕まえた。しかし、一度この店に来てくれた人はそれこそ毎日通ってくれているが、他の新規客は来ない。別の客を連れてきてくれたとしても一人か二人で、それ以上にいかない。
「これはちょっと、僕も想定外だったよ」
チチシロも少し困り顔だ。本来の作戦ではシミズの町でのように、噂が噂を呼び、客がバンバンくる予定だったのだが……
「なあ、チチシロはどう考える?」
このままでは流石にやばいので、俺は情けなさをかみ殺してチチシロに教えを乞う。
「……そうだね、僕ももとは旅の民族だから確かなことは言えないけど、今この町は戦いの真っ最中だよね? そんな空気の中で食事なんかに現を抜かしてるやつ、っていう風に思われたくないっていう感じじゃないかな」
「えと……もうちょいわかりやすくお願いします」
「ええとね……例えば、ヨウの村が魔族の襲来を受けている最中だとする」
「うん」
「村の外では男たちが魔族と戦っている。もちろん、ずっと戦えるわけないから交代制で途中で村に帰って英気を養うよね?」
「養うな」
「それでいざ守ってる村に帰ったら、村に残った衛兵たちが呑気に昼寝してる。さて、どう思う?」
「凄くムカつくな」
なんで仲間が命を懸けて戦ってるのに、守られてる側はのんびり昼寝なんてしてるんだよ。せめて緊張感ぐらい持ってほしい。
「この町の人にとって、この店に来るのはそれと同じ感覚なんだと思うよ」
「……あ、理解した」
なるほど、言われてみれば確かにそうだ。
シミズの町では何もしなくても噂で散々追っかけまわされたから、こっちでもきっと同じだろうと思ってたけど……甘かったか。
「つまり、本当はみんなに広めたいけど、そうすると怠け者的な烙印を押される可能性があると」
「うーん、そもそも皆に教えたいって思うのかな?」
「え?」
「だって、教えても店が混むだけだし、自分がこういう店に通ってるって知られる可能性も高まるわけだから。むしろ、自分だけの秘密の店にしたいと考えるんじゃないかな」
いよいよガガーンって感じだ。どうりで客数が伸びないわけだ。
現状、店先でチチシロやミウ達が引き留めた客をこっそり魔法で空腹にして、ようやく一人ゲットっていう流れだ。あまりに効率が悪すぎる。俺が料理をすると空腹にできなくて新規客の獲得は止まるわけだし。
「どうしたら……」
想像してたより状況は数倍酷い。あんなに大見得切っといて、まさかできませんでした。なんてありえない。
「ヨウ様……すみません。私も誠心誠意を込めて呼びかけてはいるのですが……」
いつの間にか、近くに来ていたツユちゃんに謝られてしまう。しまったな、今の話を聞かれちゃったか。
「いや、ツユちゃんは何も悪くない。俺の見通しが悪いのがいけないんだ。気にしないでくれ」
なるべく気負わせないように空元気で笑って見せるが上手くいかない。それどころかますますツユちゃんに心配をかけてしまったようだ。
はあ、と思わずダメな自分に溜息をついてしまう。
せっかく、せっかく俺の力がメインで誰かを助けられると思ったのに、勇者として初めて何かを成せると思ったのに、結果がこれだ。俺は、本当に何もできない奴なんだな……。
「ごめん、ごめんな」
「ヨウ様?」
謝罪してどうにかなるわけではないが、俺は半分無意識に謝っていた。もう、心のどこかでは無理だと思ってしまっているのかもしれない。
「酷い有様ね。ヨウ」
「ミウか……」
店先で呼び込みしていたはずのミウまでバックヤードに来ている。店内に満ちる重苦しい空気でも感じ取ったのだろうか。
「このままじゃお姫様を助けるどころじゃないわね」
「なんだよ、バカにしに来たのか? それとも笑いものにするつもりか?」
「そのどっちもよ」
ただでさえ落ち込んでいるのに、この女は悪魔か。
「悪いけど、今はお前に付き合ってる暇は――」
「ヨウ、いいこと教えてあげる。あなたの周りには超絶可愛くて頭のいい幼馴染がいるのよ?」
あまりに予想外の発言に俺は言おうとしていた言葉を見失う。
「――え? え? 誰それ?」
「んふ!」
ピンと伸ばした人差し指を思いっきり自分に向けるミウ。こちらが気持ちよくなるほどのドヤ顔で。おそらく、自分がその超絶可愛くて頭のいい幼馴染と言いたいのだろうが、その発言と顔からはそうは思い難い。
……で、それを聞かされた俺にどうしろと?
無言でチチシロをチラと確認するが、デフォルトなのだろう困り顔をしているだけで助け舟は出してくれない。
仕方ないので自分で発言の意図を問う。
「で、その超絶可愛くて頭のいい幼馴染がどうかしたのか?」
「はあ。鈍いわね。いい? 近くに超絶可愛くて頭のいい完璧で神々しい幼馴染がいるのよ?」
完璧と神々しさが加えられているが、努めて無視し、続きを促す。
「それが?」
「……ちょっとは頼ってくれたっていいじゃない」
「ん?」
なぜか急にボリュームが小さくなったが、私を頼れと言っているのか? あのミウが?
「だ、だから、私が助けてあげるって言ってるの!」
俺が反応に困っているのをみて聞こえなかったと勘違いしたのか、だいぶつっけんどんな言い方に変えてミウが叫ぶ。
「あの……え? いいのか?」
普段のミウならここで笑い散らかして俺の精神をズタボロにし、村まで引きずり帰るぐらいはしそうだが……助けてくれる?
「だって、最近のヨウ、私じゃなくてチチシロとかオルガに頼ってばっかなんだもの……それに加えてツユキとか言う女まで出てきて、このままじゃ私の立つ瀬、ないじゃない」
「なんだ?」
「ううん、なんでもないわ」
ミウは俯いて何かぶつぶつ言ってたが、教えてはくれなさそうだ。
「それにしてもなんで? どういう風の吹き回しなんだよ?」
「ふんっ、このままあんたの言う通りにして、全く知らない奴に声をかけるのが嫌なだけよ」
プイっとそっぽを向きながらミウが理由を答える。確かに、ミウは大の他人嫌いだった。それなら少しは納得できる。
でも、そうか、ミウが助けるって言ってくれるなんて、その、なんだ。少しだけ、嬉しい。
「……じゃあ、頼むよミウ。俺を助けてくれ」
柄にもなく少し涙ぐみそうになるのを誤魔化すため、そう言ってからミウの前に手を差し出す。
その手を見て、ミウは少し驚いたように俺の手を見る。
「……仕方ないわね。助けてあげるわよ」
ミウがその手を握り、お互いにお互いの顔を見てニヤッとする。昔から、二人で何か悪戯する時に必ずやっていた儀式みたいなものだ。今思えばもう何年もやってなかった。
「あんたを助けるのは、昔から私の役目なんだからね!」
ようやっと、マネー獲得編(?)に突入だ!
この勢いで書いていきたい。




