夕ご飯と新たな境地
うーむ、せっかく就活終わったのに研究が…卒論が…まあ、いいわけなんですけどね
更新ペースは落ちていますが、どんどん書いていきたいなあ
「ああもう! はいはい! 俺が全部悪かったですよ!」
ミウによる執拗な言いがかりに俺はついに非を認める。ミウの中では善悪などもはや二の次なのだ。目的は因縁をつけ、俺を屈服させる事によるストレス解消。言われる筋合いのないことを言われたので今日こそは言いくるめてやろうと思ったが、一つの事を論破しても違う非をネチネチ言ってくるので埒が明かない。和解は諦めた。
「ふん、認めればいいのよ」
「……はい」
ここで反発してもイタチごっこだ。唇を噛みしめて堪える。
なぜなら、ミウなんかと話している時間がもったいないからだ。今は少しでも早くツユちゃんと仲良くならなくては。
そう思ってツユちゃんを見ると、早速チチシロと仲良く会話しているようだった。美少女が二人並ぶと壮観だなあ。なんて、感心してる場合ではない。俺も仲良くならないと。
「あ、あの! 話してるとこ悪いんだけどさ、こっちはカタがついたし、そろそろメ――ご飯を食べに行かないか?」
「あ、うん。こっちも大丈夫だよ」
「わ、私はあなた方に従うだけですので……」
うーん、消極的。まだまだ垣根は高いか、しょうがないけど。
それより気になるのはチチシロの方。気のせいかもしれないが少しだけ名残惜しそうな顔をしている。まさか、同性に惚れたのではないだろうな?
俺が訝し気な視線を向け続けているのにも気が付かず、チチシロはそわそわとツユちゃんをチラ見している。一方で、不機嫌そうな雰囲気を漂わせながら俺を見ている奴もいたが、そちらは努めて無視した。
◇◆◇
「あ、あの……どちらへ向かっているのでしょうか?」
俺たちが当たり前のように宿を出ると、ツユちゃんが不安そうに聞いてきた。
「そっか。普通は宿で食べるんだったっけ。俺たちの場合は料理作ってるんだよ」
「……作る? 料理って作るもの……なんですか?」
例に漏れず、ツユちゃんも料理に対してここまで無知か。そうか……。ていうか、むしろ普通よりも酷い感じすらするな。
「そう。料理は人が作るんだよ。だから郊外に行ってそこで料理する」
「はあ……」
まだわかってないな、たぶん。料理の事を動詞じゃなくて名詞として理解してるんだろうなあ。
因みに、郊外へ出るのは変に注目を集めないためだ。以前、広場でオルガに料理を振舞った時は散々な目にあったし。
「でも、郊外だと怪物などが襲ってくるのではないでしょうか?」
「まあな。でも、ほら。うちのパーティーは結構強いから、安心して」
宿から少し歩けばすぐに郊外だ。それでも、日は暮れてきていて、明かりが必要になる時間まであと少しといったところか。移動は少し面倒だが、ここなら人通りもなく、思う存分料理できる。
「肉、といったら俺的にはこの料理だな」
ツユちゃんの好物を聞いた時から今日のレシピは決まっていた。それに、新技術もあるし、少し楽しみだ。
「どれよ」
「まあ、席について待っとけって――ほいっと」
指を弾くのと同時にキッチン、テーブル、イスが瞬時に準備される。
「えっ、なんですかこの魔法……」
「これはね、俺の得意魔法でこういう設備を出現する魔法なんだ」
俺が疑問に答えてあげると、ツユちゃんはしまったと言った様子で口を抑える。別に遠慮しないでいいのに。ちなみに、城での長時間労働により、俺の魔法やスキルはかなりパワーアップしている。まず、無詠唱で効果を発動する魔法やスキルがでてきた。この『何処でもキッチン』も無詠唱で発動できるものの一つだ。
「じゃあ、俺はいつも通り料理するから、後はよろしくな」
俺の要求に、チチシロとミウが無言で頷き、俺に背を向ける。
「あの、何をされるのですか?」
「ん? ああ、俺は料理するんだけど、ここ郊外だから魔族が出現するんだよ。そこで、料理中は二人がそれらを退治してくれてるってわけ」
まあ正直、そんなに頻度は高くないけど、料理中は二人も暇なので暇つぶしにやってるって感じだ。
「二人で務まるものなんですか?」
「ああ見えて、あの二人はかなり強いんだよ。チチシロは索敵に長けていて、ミウは殲滅力に長けてる。まあ、ちょっと見ててごらん」
俺の言葉を疑うことなく、素直に二人をジッと見つめ始めるツユちゃん。
するとタイミングよく、早速チチシロの索敵に敵が引っかかる。
「敵、右から、三匹」
「【死】」
間髪入れず、ミウが魔法を唱え、俺にもうっすら見えかけていた赤い光が墜落、消滅する。
「な、なんなんですか今の魔法!」
「あれ? 言ってなかったっけ。ミウは職業が『死神』って言って、殺すことに関してはエキスパートなんだよ。今のは死を与える魔法らしいよ」
まあ、殺さないで倒す、というのが逆に苦手なわけだけど。
「……ん? この反応、人? それにこんなに大勢」
知らない魔法にツユちゃんが驚愕している間に、珍しく連続でチチシロの索敵に何かが引っかかったみたいだ。しかし、少し様子がおかしい。
「旅人かしら?」
「いや、気が付いたら僕たちを囲むように索敵にひっかかったんだ。しかも、だんだん接近されてる……まず間違いなく、狙いは僕たちだね。そろそろ見えるよ」
チチシロの言葉通り、ランタンの光が届く範囲に人影が見え始める。
「あなた方は……盗賊ってわけでもなさそうだけど」
見えた人影の姿は盗賊のようなものではなく、やけに立派な鎧を身に着けていた。
「答える必要はない」
「私達になんのようかしら? こっちは食事前でおなか減ってるし、イライラしてるんだけど?」
「我々の要求はただ一つ。何も言わずにツユ様を引き渡して欲しい」
騎士を名乗る男が言ったのは予想もしていなかったものだ。
ツユちゃんを渡せ? 意味が分からない。
「……まあ少しは危惧してたけど、まさか本当に来るなんてね」
「どうだろう。我々もできれば手荒な真似をしたくない」
口ではああいっているが、騎士たちはもう見るからに臨戦態勢をとっている。
「ヨウ、どうする? ああいってくれているけど」
「いやいや、あり得ないだろ」
正直に言って、何を言ってるのか理解に苦しむレベルだ。いきなり表れて、恐喝まがいの言動。素直に応じる人なんているのだろうか。
が、ここでとある予感が脳裏をよぎる。戦闘にもつれ込むとしても、戦うのはミウとチチシロだ。しかし、ミウがツユちゃんを気に入っていない。もしかしたら戦ってくれないんじゃ……
ゴクリと唾を飲み込みゆっくりとミウの方を見る。
「……何よ」
「いや、その」
「……はあ。いいわよそんなに心配そうな顔しなくて。確かにまだその女のことは好きじゃないけど、見ず知らずのこいつらに指図されることの方がよっぽどムカつくから」
「そ、そうか……ありがとう」
どうやら戦ってもらえるみたいだ。ちょっと見直した。
「じゃあ悪いけど、二人とも頼んだ」
「うん」
「言われるまでもないわ」
二人も自分の武器を取り出し、敵となった騎士たちと相対する。
「戦力差も把握できない猿であったか。ならばなおさらツユ様を渡したままには出来んな」
「戦力差?」
「我々は個人でも君たちより強いうえに、人数でも勝っているのだぞ?」
「ふぅん、そう。じゃあ、まずは頭数を減らさなきゃね――【|蟻地獄】」
ミウの魔法により、騎士の足元にすり鉢状の砂地が出現。
「な、なんだこれは!」
瞬時に飛び退けず、蟻地獄から逃れられなかった騎士たちはどうにか出ようともがくが、逆にずぶずぶと砂に体が埋まっていく。
「ほら、これで四対二になった」
「これだけの魔法をピンポイントで人数分だと? 職業はいったい……!」
「ふふ、そんなに動きにくそうな格好しちゃって、大丈夫なのかしら?」
もともと10人ほどいた騎士はその半数強が砂に埋もれてしまっている。あれでは戦闘には参加できないだろう。
「チチシロ。一人を相手しててもらっていいかしら?」
「善処するよ」
動揺していた様子の騎士達は、ミウの言葉に我を取り戻したようだ。
「女、一人で我ら三人を相手する気か?」
「ええ」
「……後悔するなよ」
最初はこちらを軽んじていた印象を受けたが、今では本気になった様子。
これは、少し長引くかもな。
◇◆◇
「で、君たちはいったい何者なのかな?」
予想に反し、案外あっさりと捕まってしまった鎧集団。どうやら鎧が重くて拘束系の魔法耐性が低かったのが敗因みたいだ。拘束魔法で動きを封じたのち、チチシロがどこからか取り出した縄で縛ってある。
以外にも、兜を脱がせると年寄りが多かった。
「ふん、何も言うことはない」
「ツユさんがどうとか言っていたけど?」
「知らん」
チチシロの尋問にも頑なにして答えようとしない。
「答えないなら、このままここに放置するけど……いいの?」
「くどい。それに、そんなことをすれば怪物を利用してこの縄を解いてやる」
この様子では、並大抵の尋問拷問では口を割らないだろう。最も、さっきから焦ったさにイライラしているミウに拷問を任せるつもりはない。任せたらおそらく目も当てられないようなことをするだろうし。
「そう……じゃあツユさんはどう? 話せない?」
「……私は」
チチシロの様子から察するに、どうやらツユちゃんはこの連中と知り合いらしい。でも、何か事情があるらしく、俺たちに打ち明けてくれなさそうだ。
「まあ、とにかくチチシロもツユちゃんも落ち着けって。お互いに平常心じゃないし。とりあえず、ここは俺に任せろ。時間も時間だし」
ここに来た時にはオレンジ色だった空は、気がつけば深い青へと変わっている。流石にこの時間だと吹き付ける風が少し冷たい。
ぐうぅ……と、チチシロの腹が悲鳴をあげる。よほど興奮していたのか時間も空腹も忘れていたみたいだ。
「ほらミウも。食べてから考えよう」
「……そうね」
イライラしていたとしても、ミウは食欲には勝てない。憤怒より暴食優先だ。
「ツユちゃんも、食べよう」
「こ、こんな時に食事など――」
「【嗅覚強化】」
「な、なんですか!」
未知の魔法をかけられたことに驚いた様子のツユちゃん。実はツユちゃんだけでなく、騎士たちにもかけている。予想してた使い方とは違ったが、そろそろ俺の新能力をお披露目するころあいだろう。
「すぐにわかるよ――」
チチシロとミウが戦闘している間、俺はチラ見しつつもずっと手は止めずに料理をしていた。
玉ねぎのみじん切り、ひき肉、といた卵に軽く塩胡椒で味付けしたものを用意し、あまりこねないようにまぜ、低温に保ったままで成形したものを密かにフライパンで焼いていたのだ。
フライパンの中と外とを隔てているその蓋を、今、開けた。
「なっ――」
「んがっ――」
そこに鎮座しているのは、他の料理に使えないような細かい肉や固い肉を食べるために開発されたという料理。この料理が伝承されたという地名になぞらえて名付けられたその名は――
「ハンバーグ・ステーキ、完成だ」
蓋を開けた瞬間から脂が熱によって弾ける音が鼓膜を刺激する。そして、それ以上に肉が焼けた時に発せられる独特の芳ばしい香りが鼻腔を蹂躙する――!
「くっ!」
両手が自由なツユちゃんは思わず口を覆う。見えはしなかったが、唾液が過剰分泌され溢れそうになったのだろう。現に、俺の魔法に同じくかかった鎧集団の口からは唾液がとめど溢れている。手を拘束されているため拭うことができないのだろう。
しかし、唾液のことに気を取られている者はツユちゃんだけだ。鎧集団は茫然自失とし、ただただ俺のフライパンを見つめるのみだ。
俺はあらかじめ熱しておいた鉄板皿にハンバーグを移し、トドメとばかりに特製のタレを上からかける。
ジュジュジューー!
玉ねぎと醤油、柑橘の果汁を配合したサッパリとした味のタレは、熱々の鉄板の上で荒れ狂い、大気へと爆発するように立ち昇る。
しかも、蒸発後はその暴力的な香りが熱によっていっそう引き立たされ、当然、ツユちゃんや鎧集団に襲いかかる。
「ああ、ああ……!」
もはや鎧の男たちは言語すらままならない。拘束されていることすら忘れてこちらへと這い寄ろうとして、縄をピンと張らせて止まる。
「な、なん……これ、すごーー!」
「おお、凄い」
驚いたことに、ツユちゃんはまだギリギリ正気を保っているようだ。
「まあまあ、とりあえず席につこう」
「よ、ヨウ。これは?」
「ハンバーグっていうひき肉料理。ツユちゃんが肉好きって言ってたからーー」
「じゃなくて、あの人達だよ! どうしちゃったの?」
「ああ、そっちな。簡単に言うと、俺の魔法で嗅覚を凄く鋭くさせた。その状態でこの料理の匂いを嗅いだからな。いい匂いすぎて頭の容量が足りてないんだろ」
今では口から唾液を垂れ流しながら、芋虫のように地面を這っているだけの集団になっている。
「あ、あぐ……そんな、ことを……!」
ガクガクと足は子鹿のようになり、口は相変わらず大洪水中。しかし、そんな状態でもツユちゃんだけは意識を保っている。なんて精神力だと、俺は内心で結構驚く。
「まあ、今は食べよう。ほら、ツユちゃんも」
俺はパンパンに膨張している肉にナイフを入れる。
柔らかくはあるが、その弾力の抵抗は激しく、少し力を入れないと切るのは難しい。
また、切り口からは芳醇な香りを含む水蒸気が溢れ出るが、肉汁が溢れてこない。これが、今回のワンポイントだ。
ひき肉をこねる工程を軽くやることにより、肉の細胞を壊さずに成形した。本来なら切った先から溢れてしまい皿に溜まる肉汁は、口に入れて噛んだ瞬間に100%の威力を発揮できる。
俺はそんな特製のハンバーグを切り分け、ツユちゃんの口元に近づける。
「んー!」
なんとか頑張って口を押さえて顔を背けているが、目だけはフォークに刺さる肉から離せないツユちゃん。
そんなツユちゃんの手をそっとどかし(ほとんど抵抗はなかった)、無意識のうちに開いているのであろう口へとハンバーグを置き、同時に魔法を一つ。
「【味覚強化】」
間も無くして、味という名の電気信号がツユちゃんの脳へと伝わる。
「ぁ」
あ、の一文字を呟いた口は瞬く間に閉じられ、即咀嚼が始まる。
味覚では、ハンバーグの持つ圧倒的な旨味を味わい、
聴覚では、肉とタレが弾ける音、ハンバーグを咀嚼しているときの音の二つを内外から聴き、
視覚では、もうもうと立ち昇る湯気と、タレとわずかに出た肉汁が鉄板の上で弾ける様を見て、
嗅覚では、肉の焼ける香り、タレが発する芳ばしくも爽やかな香りを堪能し、
触覚では、肉の弾力、舌触り、喉ごし、さらに言えばフォークでハンバーグを刺した時の感触。
これら五つの情報を統合して美味しさに結びつけるという発想。
俺がウルーナの城で手に入れた技術の到達点の一つ、五感強化の極意。実は味覚や嗅覚以外の五感も強化可能だが、この二つ以外は整った場所でないと色々問題があるので使わない。
ツユちゃんは仲間なので最初に食べさせたが、鎧集団は違う。今でも脳死状態で料理を求めている。この状態こそ、次のステージ。感覚強化に加え、美味しい料理、そして、強制的に空腹状態(今回の場合は目の前で食べること)にした後でお預けを食らわせる。それによって相手を脳死状態にすること。これこそ、俺の究極奥義、『暴食の支配』。
「さて、質問を開始しよう」
「あぁあぅ」
「質問に答えてくれたやつにはアレを食べさせてやる」
俺の言葉に鎧の男たちは半分正気を取り戻す。
「じゃあ、お前たちは何者なんだ?」
「……は、はひ! マグン帝国の姫殿下護衛隊のもので御座います!」
まるで、発声のやり方を忘れていたような拙い言葉で一人が答える。
うん。どうやら成功みたいだな。
「成功した。これでどの質問にも答えてくれるはずだ」
この技術は今回が初だし、ツユちゃんには何故か効き目が薄かったけど、鎧連中にはバッチリ効いたみたいだ。
「よ、ヨウ……君はーーううん。わかった」
「さて、じゃあ話を聞こうか」




