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勇者にする? 魔王にする? それとも……お料理?  作者: 白米広重
勇者連合とお姫様
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ギチトの街と商店街

 新章突入!このパートでは、ヨウ達とオルガは別々に進んでいきます。

「と、ここがギチトか」

「どうにも、あの転移の感覚には慣れないわ……」

「同感だね……」


 あの後、俺たちはウルーナの『転尾』でギチトまで転移させてもらった。当然、かなり疲れるらしいのでウルーナは嫌がったが、二つの条件をこちらがのむ事で了承してくれた。

 一つ目は、俺が特製の弁当を作ること。馬鹿げてると思うが、本当にそう言われたんだからしょうがない。素直に作りました。

 二つ目は、劣勢にあるギチト戦闘地区の魔族軍を、敵味方問わず死者をできるだけ出さずに優勢にさせる事。どうやらウルーナの望む世界を作るためにどうしても必要な事らしい。6柱の連中はああ見えて結構忙しいらしく、俺たちが代わりにやってくれるならと転移させてくれたのだった。

 さて、既にお気づきだろうがここにオルガはいない。なぜなら彼女は一人で魔族領へと行ったからだ。何故か? ならばいったんよく考えてみよう。

 オルガ。強い。問答無用で強い。無問題。

 ミウ。得意とするのは即死魔法と阻害系。殺してはダメという今回の条件に合わない。

 チチシロ。得意なのは感知、逃走系など。今回のような大軍対大軍ではあまり必要ない。

 俺。言わずもがな戦力外。

 という事で、オルガ一人で魔族領へと行ったのだ。


「オルガは大丈夫かしら」

「まあ、戦闘に関しては心配の必要ないだろ。それに、こっちはこっちでやることを進めないとだしな」

「終わり次第、なんかしらの合図をくれるらしいし、それまでにやらなきゃね」


 オルガがもう大丈夫だろうと判断したら、なんかわかりやすい合図を送ってくれるらしい。それを見たらあらかじめ決めておいた場所で合流する事になっている。それまでに俺たちのやるべき事。それは情報収集だ。ニホン中で魔王城に最も近い戦闘地区を有するギチト。俺たちがいるのはその戦闘地帯に最も近い町、アシカガ。ここは最前線に近いだけあり、ニホン中のあらゆるホットな情報が集まる場所だという。今後の活動のためにも、有力な情報をここで掴みたいのだ。


「じゃあ、僕はいつも通り一人で行動するから、二人は宿を決めてからお願いね」

「あいわかった」

「チチシロないす……わかったわ!」


 チチシロは情報収集のプロだ。素人である俺たちがいない方が効率がいいのだろう。

 なにより邪魔したくないし。ミウもすんなり納得している、となれば俺たちは二人とも文句ない。


「じゃ、宿で落ち合おう」


 そういうとチチシロはスッと人混みの中に消える。ちなみに、チチシロは俺に対象追跡ターゲットサーチを使用しているので、どこにいてもあちらからはいつでも合流できる。


「さて、行くか」


 チチシロと別れてから早々に安めな宿を発見したので、情報を集めにささっと町へと繰り出せた。


「にしても、また勇者か……」

「ヨウの立つ瀬がないわね。ぷぷぷ」

「うるせー」


 この短時間で得た情報によると、どうやらここには勇者がどんどん集っているらしい。それも一人や二人ではない。魔王城に最も近い戦闘地区の名は伊達じゃないらしい。その勇者がきたせいで魔族軍は押されていると。

 てか、勇者って複数いるものだと俺は初めて知ったよ。俺の存在価値がますます薄くなっていく感じがするが、努めて無視する。


「それにしても本当に無骨な人が多いわね」

「本当にな。なんか肩身狭いわ」

 

 聞いたところによると、ここの戦いは一週間ごとに往き来する一週間ワンウィーク制度といわれるルールがあるらしい。戦線以外、つまりこの町にも常に半分以上の戦力が滞在しているため、敵も不意をついての町攻撃はできない。また、短周期の交代制にした事で長期戦に優れ、戦闘員の士気向上に役立っている。勇者という一騎当千の人材をまさに千人分として扱い、余裕を持って戦い、最終的に魔王討伐を本気で見据えている。無理も無駄もない戦法。


「他の勇者って凄いんだなあ……」


 他人事のようにそう呟くと、俺たちはやけに賑わう通りへと出た。どうやら商店街らしい。多くの屋台が立ち並び、軒先には食材やら装備品などが陳列されている。それ以外にも暖簾のれんで中が見えないような怪しげな店もあり、人々の活気も相まって独特の雰囲気をかもし出している。


「……ここの屋台の食べ物(?)って本当に不味そうね」

「見た目だけだったらいいんだけどな……オルガと歩いてる時に食わされたが、味の方も見た目に恥じない味だったぞ」

「なにそれ聞いてない」


 この世界の食べ物というと、基本は素焼き。それに塩をかけたものが一般的だ。店や屋台では作り置きが基本であり、冷えている上に焼きすぎ。それが尽きたら半生でも出してくる。恐ろしい。


「おえ……」

「ねえ? 聞いてる?」


 俺があの時の記憶を思い出して気持ち悪くなっていると、先の方がひときわ騒がしくなった。そこは高台が一つある広場で、その周りに人々が集まり騒ついている。どうやらこれから何かが始まるようだ。


「おい、何か始まりそうだぞ。行こうぜ」


 そろそろ追求がめんどくさくなってきたので、ミウの手をとって群衆へと混ざる。


「な、何すんのよ! も、もう!」


 予想通り、ミウはしどろもどろになって追求がストップする。最近になって、ミウのこの不思議な特性を学んだので多用しているが、まだまだ効力を発揮してくれそうだ。

 しかし、混ざっては見たものの、これが何の集まりなのか全くわからない。なんだか妙にそわそわしている人が多いが……


「はーい皆様! お待たせしましたー! これから先見せを行いまーす!」


 いつの間にか壇上に上がっていた紳士風の男が声を張り上げる。先見せってなんだ?


「何か始まるらしいな」

「なんなのかしらね?」

「ところで、もう手を離したいんだけど」

「……さあ、あれなんなのかしらね?」


 握った手は強く握り返されており、こちらから振りほどくのは不可能。これが力の差……。実害はないからほっとくか。


「まずは、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)! 力仕事ならお任せを! タケシです!」


 紹介とともに、一人の男が壇上に上がる。紳士風に比べて表情が暗く、ダボダボのズボンを履いている。


「彼の有用職業は『大工』! 家の簡単な修理から日用品の作製まで、近所に一人いると嬉しい! もちろん、戦闘もこなします! 最低落札価格は10万から!」


 紳士風はよく響く声で男のアピールポイントをまくし立てる。


「最低落札価格ってなんだ――って、うおっ」


 男が話し終わると同時に、周りの人たちは一斉にメモに何やら書き始めた。


「今、この時に十倍の値段を出すならば即落札です! 誰かいらっしゃいませんか?」

「あ、じゃあ……」


 紳士風の呼びかけに、俺の隣の人が手をあげる。それをみた紳士風はニンマリと口角を吊り上げる。


「……おめでとうございまーす! 見事! タケシを落札されました! 手続きがありますので、こちらへどうぞー!」


 挙手した男性はおずおずと前に行き、ほったて小屋に入っていった。


「……なんだ、あれ?」

「なんなのかしら……なんか、嫌な感じがするわ」


 着飾った紳士風の男に、笑顔のないすすけた服装の男。そして値段という言葉……これは、噂に聞く人身売買ではないだろうか。


 その後も進行は着々と進んでいき、数人の男女が出てきたが、最初の人以降はそのまま紹介されるだけで、落札される事はなかった。


「さて、お次が最後となります。女の子のツユちゃん、メイン職は『主婦』で力は見た目通りです!」


 女の子で、力が見た目通り。という不思議なワードに惹かれ、なんとなく見たくなくて、背けていた顔をふとあげてみた。


「あっ……」


 向けた視線は一人の少女に吸い込まれていった。

 燻んだ黄色の髪の毛、やけに貧相な服装。光を失った瞳は下に向けられ、やけに不幸オーラを撒き散らしている。


「あの子……すっごい悲劇のヒロインオーラ出てるわね」

「……いい」

「は?」


 気がつけば、俺の右手は自然に上がっていた。この時点で、俺の脳みそは来るべくしてくる災難に備えてフル回転を始める。


「えっ……」

「えっ!」

「……!」


 俺の行動に驚いたのはミウと壇上の紳士風。それに、ずっと顔を伏せていた少女もだ。なんという事だ……可愛い。


「よ、よろしいのですか? この子の落札価格は50万の十倍……500万ですが?」


 もう引けない、引きたくない。このまま――いく。


「うん」

「うん⁉︎ ……お支払いは今すぐになりますが」

「構いません」

「かっ――」

「ちょ、ちょっと!」


 想定通り、ここでミウのチャチャが入る。


「どうしたのよ! 何考えてるの!」

「いや、この町の情報を得るのに効率いいかと思って」

「……それに! そんなお金がどこにあるのよ?」

「この前、ウルーナのご飯作った時にちょっとな」

「ちょっと! まだ話は――」


 とりあえず、まずは強引に紳士風と接触を図る。フル回転を始めた俺の脳みその判断に狂いはない。ここで話を切るのがベスト。


「お、お客様? 本当に宜しいので? 彼女のメイン職は『主婦』なんですが……」

「わかっている」

「そ、それに! 見てくださいこの手足! 当然、力仕事もままなりませんよ?」


 何故か必死にアンアピールポイントを言ってくる紳士風。

 なんだ? さっきまであんなにニコニコしていたのに、今は顔が引きつっている。


「わかった。じゃあこれ。500万。」


 魔法のアイテム、【厚手の財布(ウォレット)】。無限に金銭が入る不思議な袋だ。金銭以外は入らない。


「ぐっ……し、しかし――」


 なんでこいつはこんなに渋るのか……


「金銭は足りてるんだし、文句ないだろ?」

「あっ……あの……はい」

「交渉、成立だな」


 ササっと書類とやらをまとめ、俺たちは三人・・で宿に戻った。


「くっ……様。すぐに……迎え……」


 小屋を出る際に紳士風が少女を見つめながら何か呟いているようだったが、周りの騒めきにかき消され、何を言っているのかは分からなかった。

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