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勇者にする? 魔王にする? それとも……お料理?  作者: 白米広重
勇者連合とお姫様
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プロローグ

 我々がギチトに赴き、魔王軍を退け続けて数ヶ月。こちらに圧倒的な戦力(勇者)が複数いるという事もあり、継続的に、無理なく、着実に進行は続いていた。アイツがいなかった、今さっきまでは。


「なんですか……あの化け物は」

「お、オレ達が最強なんじゃなかったのかよ!」


 慌てふためく仲間達。その動揺はこの世界(・・・・)の住人よりも酷い。


「落ち着け。慌てても燃費は良くならない」

「おいリルン! 対策はあるんだろうなぁ!」


 俺は冷や汗を垂らしつつ、必死に解答を模索する。冷静に振舞ってはいるが、俺だって焦っている。

 いきなり後退を始めた敵軍の中から、単身でこちらに向かってきた仮面をつけた女の魔物。アイツは今までの敵とは桁が違う。


「……緊急転移ゲートがある。伝令が行くまでおそらく、十五分。それまでアイツからゲートを守るしかない」


 転移ゲート。急にボス的な敵が現れた際、町に控えている他の勇者を召喚するための場だ。


「十五分……? 本気で言ってるのか?」

「……やるしかない。どのみち、ゲートが壊されれば俺たちに勝機はな――」

「そうじゃねえ! ゲートでオレ達が逃げるって選択肢もあるだろ!」

「パルミ……それは――」

「アラキ、お前が勝てねえ敵なんだ。町の勇者で勝てるやつなんかいねえ!」


 正直なところ、パルミの意見が正しい。俺たちのチームメイトであるアラキ、彼女は勇者連合の中で一番強い。その彼女が勝てないのだから、必然、他の勇者は勝てない。

 だが、転移ゲートは勇者しか使えない。となると、俺たちの後ろに控えているギチトの王国軍、そして俺たち個人のパーティーメンバーであるこの世界の者達は逃げられない。


「……確かに、アラキ一人では無理だろう。でも、力を合わせれば撤退させる事ぐらいはできるかもしれない」

「リルン! お前まだそんな――」


 俺は意思の込めた目でパルミを睨みつける。狙い通りに怯んだパルミは一瞬だけおし黙る。そこに言葉を紡ぐ。


「俺たちが逃げたら誰が後ろの者達を守る? 後ろの者達を見殺した俺たちに誰がついてくる? 俺たちの目的はなんだ? ……やるしか、ないんだ」


 最終的な目的を達成するのに、王国軍の助けと救国の英雄という肩書きは必須だ。これらを手にするためには今ここで撤退するのは愚策。


「……俺たちは死んでもどうせ生き返る。後ろのやつらを逃すぞ。全力で」


 勇者の能力で死んだとしても教会で復活できるのだ。ならば、後ろの者達を逃すのが最優先だ。


「パルミ、やりましょう」

「アラキ……くそっ! やるよ、やりゃあいいんだろ!」


 クソがぁー! と叫びつつ、パルミもやってくれるらしい。根っこのところでは悪いやつではないのだ。


「シュツマ、聞いていたな?」

「……ウィッス」


 何もないところに、一人の男が現れる。透明化できる魔法を使える、俺の優秀な仲間だ。


「お前が先導して軍と冒険者を逃せ」

「リルン……様は?」

「じゃあ、教会でな」


 案に早くしろと伝えつつ、俺はパルミとアラキを連れて前へと進む。この話し合いの間、ヤツを抑えていてくれたのは王国軍の精鋭達だ。彼らは防御系に優れてはいるが、相手が相手だ。死んでいないといいが……


「かっ……! た、隊長! リルン殿が!」

「きてくれたか……よし、お前ら! 撤た――」


 俺たちが駆けつけた時、彼らはボロボロになってはいたものの死者は一人もいないようだった。


「あら、交代の方ですの? では――【脱力する灯(ウィークネスファイア)】」


 ホッとしたのも束の間。俺たちが彼らを視界に入れた途端に精鋭部隊は青い炎に包まれる。


「メルト隊長! 【氷の小屋(アイステント)】!」


 アラキが氷の防御膜を張り、炎を無理やりたち消す。


「かっは……ぐっ、すまない! お前たち! 逃げるぞ!」


 炎から解放されたのにも関わらずメルト達の表情は険しいままであったが、なんとか自力で逃げられる体力は残っていそうだ。メルトはチラリと申し訳なさそうな顔を俺に向けるが、すぐに元の顔に戻り、そのまま隊員達を叱咤して満身創痍といった様子で後方へと下がる。それを横目に、仮面の化け物は嬉しそうに笑う。


「あらあら、新手の方は少し強そうですわねえ。クヒヒ!」


 追撃をするつもりはないのか、メルト達を追っていた視線はゆっくりと俺たちに向けられる。

 仮面越しにもわかる紅く燃えるような瞳……その目の奥ではいったい何を考えているのか。


「【立ち昇る炎の精霊ライジング・イフリート】!」


 閃光。目の前の少女は天へと延びる巨大な炎に包まれる。


「う、おおおぉぉぉらあぁ!」


 技を出した主であるパルミは、気合の咆哮を上げ火力を増していく。


「クッヒヒひヒひ! ぬるいですわねえ?」


 その燃え盛る炎の中から、聞こえてくるはずのない声が響く。


「ば、バカな……」


 呟いたのは俺かパルミか。


「これが効かない……?」


 アラキでさえも驚きを隠せないようだ。


「ここからだと、誰がこの技を出したかわかりませんわねえ」


 この声に肩をビクつかせるのはパルミ。それもそのはず、まずはお前からだと宣告されたようなものだ。


 ……こんな序盤で仲間を失うわけにはいかない。


「アラキ、合図で五番! パルミ、聞こえてたな!」

「了解よ」

「あ、ああ!」


 両者ともに俺の声に頷く。相手が個の強さを誇るなら、こちらは連携の強さだ。

 三、二、一。の合図とともに、パルミの魔法は解かれ、アラキが魔法を繰り出す。


「【凍てつく鎖(フリージングチェーン)】」

「と、あら?」


 手足を氷の鎖で繋がれ、動きが制限される女。しかし、繋がれた瞬間から鎖は蒸気を上げ、あと数秒もしないうちに溶けきるだろう。だが、その数秒があれば十分だ。


「【見えざる大砲(インビジブルキャノン)】」


 前に突き出した両の手の平から、圧縮された不可視の空気の弾が発射され、少女へと真っ直ぐ進んでいく。


「あらぁ? 今、何かしましたわよねえ? いったい何を――」

「ぶっ飛べ、【解放レリーズ】」


 弾が少女の腹部にぶつかるのを見計らい、圧縮された空気を解放させる。風船で言えば、女の方向に穴を開けた感じだ。解放された空気は空いた穴から全威力を少女へと出力させ、空中できりもみさせながら後方へと吹っ飛ばす。斜め上に吹き飛んだ女は、重力に従って徐々に下降していき、鈍い音を立てて地面へと落下した。


「やったか!」


 やれているわけがないのにそのセリフ、死亡フラグがすぐそばで立ってしまうのを感じる。


「くっひヒヒひヒヒヒヒッ!」


 そのフラグを回収する笑い声が遠くから響く。


「走って前線をあげるぞ」

「……行きたくねぇな」

「文句言わない!」


 俺たちは震えを抑えつつ、少女が吹き飛ばされた方へと駆けた。

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