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勇者にする? 魔王にする? それとも……お料理?  作者: 白米広重
第二章・刀刃帝と獄炎帝
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魔王家族と忘れ物

ちょい短めとなりました。

 声をかけてからも返答が返って来ることはなく、俺はただただ見つめ続けられていた。

 ボヤッと光っているようにも見えるこちらを見透かすような目。それがジッとこちらを見て来るのだからたまらない。


「あの――」

「しっ! ヨウさん、今は少し……」


 たまらず声をかけ直そうとするも、オルガに静止されてしまう。

 仕方ないのでしばらくそのまま耐え続ける。


「体力、魔力、筋力、その他ステータス――特質すべき点有り。でも、これは……低い方で?」


 その間ブツブツと呟き続けるイオランテ様。やだ、すごく怖い。


「それに、お連れの方々もなかなか面白い……ふふ、オルガ。随分と面白い人を選びましたね」


 やがて、ニコリと微笑む。なんだかわからないが、何かされるわけではなさそうだ。


「そうでしょう?」

「それで? まさかこのためだけに来たわけじゃないのでしょう?」

「もちろん。良い機会でしたので、忘れ物(・・・)を回収しに参りましたの」

「忘れ物……ああ、道理でその身体なんですね」


 オルガの忘れ物……そんな話は聞いていなかったが、魔王の武器とか防具とかそこら辺だろうか? でも、それだと文脈に合わないよなあ。


「あら、これでも気に入ってますのよ? ……まあ、元気な顔も見れた事ですし、そろそろ行ってきますの」

「はい。ではまた」


 オルガと話していたイオランテがこちらに向き直る。


「では、皆さんもお元気で。オルちゃんのこと、よろしくお願いしますね」


 俺たちは笑顔のイオランテに見送られつつ、部屋を後にした。



◇◆◇



 そのあとしばらく歩き続け、オルガはようやく一つのドアの前で立ち止まる。赤くて大きいそのドアは、中心に『オルガ』と書かれたプレートがぶら下がっている。まあ、確実にオルガの部屋だろう。


「ここに忘れ物があるのか?」

「そうですの。ではミウさん、そろそろお姉様を起こしてください」

「わかったわ」


 言われるがままにミウはウルーナを背中から下ろし、肩をしっかりと掴み、残像が見えるほどの猛烈な勢いで前後に揺さぶり始める――


「――ってバカ! お前バカ! もっと優しくやれよ!」


 なんつー事してんだ! 普通の人間なら死んでもおかしくなかったぞ!


「えっ……ごめんなさい――って、これって強いわけ?」


 コイツは昔から懲りもせず……そろそろ力加減を覚えて欲しい。割とガチ目に。当の本人に自覚があるならまだしも、この力加減を普通と思っているのだからタチが悪い。

 今回の被害者であるウルーナは「あっ……あぅ……」とか漏らしながら最悪の目覚めを迎えている。しばらくそっとしておいてやるか……


「……まあ、どうぞお入り下さい」


 流石に可哀想と感じたのか、なんとも言えない表情でオルガは俺たちを自室へと促す。オルガの手でドアノブが捻られる。コトリ、と不思議な音がなってドアが開く。


「じゃあ……お邪魔します」

「……お邪魔……します……」


 野蛮なミウは置いておき、俺とすっかり空気になっていたチチシロとは先に部屋に入る。どうやらチチシロさん、この世界に詳しいだけあって大御所達との面会にかなり精神が摩耗しているようだ。もともとキモが大きいわけではなかったろうが、その焦燥具合からして世間での魔王一派の存在の大きさが伺える。ていうか、顔死んでるし。こっちもこっちで可哀想になるな……。

 そんなチチシロとともに入った部屋は一言で言い表すと、何もかもが止まったような部屋だった。

 家具はなく、音はなく、香りなく、色もない。生活感があるとかないとか、そんな次元にはないほどの殺風景。先ほどのイオランテの部屋でも感じたが、ここはその比じゃない。まるで――


「――ここだけ切り取られて、時間が止まってるみたいだ……」

「あそこですわ」


 時の流れが止まった部屋。何も無い部屋。そう思っていたが、一つだけ、ポツンと佇む家具があった。それはベッド。天幕が張られて中は見えないが、どうやらオルガの目的はあそこみたいだ。


「ここに何が?」

「ふふ、わたくし(・・・・)ですわ」

「わたく――!」


 オルガが天幕を捲り、中が露わになる。そこには、一人の少女が横たわっていた。


「……なあ、なんなんだこの子は?」


 眠っているのか、瞼を閉じたままの少女を起こさぬよう、俺は小声でオルガに問う。


「安心してください。これはわたくしなんですの」

「……! …………? いや、やっぱ意味わからんが」


 わかった風のリアクションをとってからよく考えたが、やはりわからんかった。


「ええとですね……わたくしは、ミウさんに『強欲』の力で取り憑きました。その際、肉体は置いてけぼりになるわけですの」


 オルガの力は炎と強欲、ミウにはその内の強欲の能力で取り憑いていたんだっけか。そしてその際に肉体は置いてけぼりになると……って事は――

 俺はもう一度よく少女を見てみる。少女は一切動かずに横たわっている。口元も、腹部も。つまり、呼吸をしていない。


「コレが、わたくしの本来の身体ですの」

「本来の身体って……取り憑いたのはミウが子供の頃なんだろ? 肉体なんてとっくに朽ちてるはずじゃ?」

「取り憑いた後、この部屋を時間ごとお母様に封印してもらったんですの」


 脳の処理能力が現実に追いつかない。なるほど、確かにこの子のお母さんは封印帝イオランテなわけだが、なんていうか、チート家族というか……


「あ、じゃあ忘れ物っていうのは」

「ええ。この身体ですわ」

「……なるほど。で? どうすんだ?」


 答えはわかったが、まさかそのまま持ち帰るわけでもないだろう……な? いや、まさかな。


「そこで、お姉様(ウルーナ)の出番ってわけですわ」


 ミウに介抱されつつ、ようやくベッドのところまで歩いてきたウルーナに抱きつくオルガ。


「おえ……やめて」

「お姉様、『纏尾てんび』をお願いしますの」

「わかったから……わかったからお願いぃ……」


 いやいやながらも、これ以上抱きつかれてはたまらないとウルーナは集中モードに入る。哀れ!


「はぁ……『纏尾』」


 例に漏れず、ウルーナのスカートの下から尾刃が――って、あれ?


「なんだこれは……糸?」


 出てきたのは尾刃ではなく、何本もの細い糸だった。


「これは『纏尾』。お姉様の力は『絶尾』『速尾』『無尾』『盾尾』『影尾』『毒尾』『飛尾』『転尾』、そして『纏尾』の計九の力があり、コレらが『九尾』であるお姉様の力ですの。その中でも、最も強力である第九の尾、『纏尾』。コレは異なるものを一つに纏め上げる力。丁度、螺旋のように」


 どうしよう。多分、かなり丁寧に説明してくれたんだろうけど、よくわからないや! とりあえず、頷いておいた。


「まあ、見てればわかるかもですの。じゃあ、お姉様」

「はいはい」


 返事したウルーナの尾の糸が動き始める。二つに分かれたそれは、一つはオルガの方へ、もう一つはベッドの少女の方へ――って、両方オルガなんだけど。


「……オルガ。ミウさんの中にいるあなたは纏めなくていいんですか?」

「ええ、それはまたの機会にお願いしますわ」

「ええ……なんでよ?」

「ふふ、勝負はギリギリもまた一興ですのよ? それに、いざとなったら……」


 不服そうなミウをよくわからない理由で説得したオルガ。当然、言っている意味は俺にもわからない。


「まあ、いいならいいですけど。じゃあ、纏めますね」


 気合のこもったフンッ! という声と共に、ウルーナの身体が強張る。それと同時に柔らかく双方に巻きついていた糸が膨らみを残してキュッと縄状しまり、オルガもオルガ本体も糸に包まれる。その塊同士がグルグルとこれまた縄状――いや、螺旋状に編まれていき、やがて一本の尾となった。


「え、消えたけど……?」

「今ッ……纏め中ッ……ですッ!」


 あ、悪い事したな。

 よほど力を込めているのか、ウルーナはプルプルと震えながらも身体中に力をみなぎらせている。

 そして、


「……ふぅ! 終わりました……やっぱり、自分の尾以外を纏めるのは骨が折れますね」

「終わったって、まだオルガいないけど?」

「ああ、出すの忘れてました」


 パリ、という音でいつのまにか膨らんでいた尾が裂ける。そこから一人の少女が這い出てくる。

 その子の姿は先程までベッドにいた彼女だった。


「ふう、どうやらうまくいったみたいですの。流石、お姉様ですわね」

「当たり前です。でも本当に疲れました。さっさと料理をぷりーず」


 ミウの見た目のオルガはもうおらず、そこにいるのはオルガの口調、声の女の子だった。


「お前……本当にオルガ?」

「そうですわよ、ヨウさん。この姿ではお初にお目にかかりますわね」


 未だ寝間着のままで立ち振る舞うオルガは行動もオルガである。つまり、オルガであった。


「……えと、つまりどうなったんだ? 結局」


 一応、表面で理解できても脳では理解できていない。


「では手短に説明いたしましょう。わたくしの能力でできた肉体と、本物の肉体を融合させた。といったところですわね」

「それが、私の能力ですので……それより早く料理を」


 わかったような、わからないような……まあ、とりあえず料理を作ってあげた。なんだろう、普段からしてる事をすると妙に落ち着くわ。

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