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勇者にする? 魔王にする? それとも……お料理?  作者: 白米広重
第二章・刀刃帝と獄炎帝
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魔王と勇者

〜前回のあらすじ〜

 なんだかんだでウルーナの試練に全員合格したヨウ達。その後、ウルーナの申し出で城の兵達に料理を振る舞ったヨウ。ウルーナや6柱を含む兵達は、初めて食べる圧倒的美味さに放心状態となった。

 周囲に圧倒的な満腹感漂う中、俺は一人微妙な心境にあった。


「料理ーーコレが俺の力……!」


 なんかーーなんかこう……! ……違うくね? 果てしなく、微妙じゃね……?

 周りの反応を見る限り、有用な能力である事は確かだろう。でもーーでも! なんか……勇者っぽさ、ゼロじゃね? そんな疑念が付いて回る。


「ヨウさん」

「……オルガか」


 あまりの美味さ(?)に放心状態の者が多い中、流石にオルガは自我を保っていた。


「お前は俺の能力(料理)について知ってたんだよな? 何で教えてくれなかったんだよ」


 俺は素直に疑問をぶつける。そんなに有用な能力なら早く知りたかった。例え、戦闘向きのアレでなくても。


「……まあ、判明した時には人目につきすぎていたという事。それに、その能力は今後の展開に確実に必要とされる能力です。少しでも情報の漏えいを避けたいと思いましたので」

「今後の展開?」

「そうですわね……そろそろヨウさんにはお話してもいい頃合ですの」


 オルガは俺を見ながらそう呟くが、何を言っているのかサッパリ分からない。実に面白くない。


「ウルーナ姉様」

「んあ?」


 発言に対して追求しようとした時、オルガは口と目を半開きにしつつヨダレを垂らして寝ていたウルーナを起こす。なんちゅう有様だ。


「わたくしとヨウさんをお母様のところへ。もちろん、お姉様も一緒に」

「ええ〜、面倒くさいですから嫌です」


 アッサリと要求を断られたオルガはチラリとこちらを振り向き、ウインクを俺に送ってくる。


「ヨウさんの料理、もう一度味わいたくはないですか?」


 まてまて、勝手に俺を交渉に使うな。


「ぐっ……し、仕方ありませんね」


 しかし、俺が想像している以上に魅力的な交渉材料だったらしく、渋々ながらもウルーナは要件を了承する。


「って、ちょっと待て! お母様(・・・)のところへ……ってまさか」

「はい。封印帝ーーイオランテ母様のところ、ですわ」


 それはつまり、旅の最終目的地へGO! って事だが、こんな棚からぼたもち的に行ってもいいものなのだろうか……


「あの……それに僕も同行してもいいかな?」

「私も!」


 俺が答えあぐねていると、近くから二つの声が上がる。もちろん、チチシロとミウだ。彼女らも普段から俺の料理を食べているだけあって、俺の本気料理でも放心状態にはなっていなかったっぽい。


「ええ〜、人数増えると凄く怠いんですが……」

「それでしたら、あちらに着いてからヨウさんの真の力をご覧に入れますので、心配なさらなくていいですわよ」

「だから、俺の料理を勝手に……まあいいか」


 よく考えたら、俺の利用価値なんてそこしかないし。コレを出し惜しみしてたら俺ってただの足手まといじゃん。という事に気がついてしまった俺。泣きたい。


「まあ……そういう事なら」


 それで納得するウルーナもどうかと思うが、あえてツッコミは入れない。

 ウルーナの返答に満足したのか、オルガはひとしきりウンウンと頷いた後、それではお願いしますわ。と言わんばかりの笑みを浮かべる。


「……では皆さん、出来るだけまとまっていただけますか? 離れてると、ダルいので」


 『転尾』と呟くと、ウルーナのスカートから一振りのぼやけて見える尾刀が姿を見せる。


「なあ、ウルーナ……さん」

「呼び捨てで構いませんよ」


 いいのか……


 まあ、一応とはいえ勇者だし、当然と言えば当然――なのか? と思いつつ、何故か恐ろしいほど分不相応な感じがしてしまうのはなぜ?

 でもまあ、そんな劣等感は慣れっこなのでそこらへんに置いといた。


「じゃあウルーナ。この尻尾がウルーナの力なんだよな? 何個ぐらいあるんだ?」


 興味が湧いたのでなんとなく聞いてみた質問だったが、言い終わる終わらないのうちに6柱の面々が一斉にコッチを見る。

 あ……やっぱダメだった?


「ええと、九尾と言われる九つ、それと零の計十の力を持った尻尾を持ってます」


 今度はウルーナを一斉に見る6柱の面々。忙しそうだな……。


「え? なんですか?」

「う、ウルーナ様……そんな簡単に――」

「え〜、面倒いですね」


 呟きとともに景色が変わる。だだっ広い空間。白を基調とした真四角の部屋、置いてある銀色の器具もほぼ真四角。

 この人……言い訳が面倒だからって逃げた!


「えっ、今ので転移……したってことなの?」

「お姉様……相変わらずですわね」


 女性陣もあんまりにもあんまりな転移に戸惑っている。


「ていうか、ここって――厨房?」


 どうりでやたらと落ち着くな〜って感じるわけだ。銀の鍋に調理器具、広々とした調理空間に大きな流し台。流石に現役魔王城ともなると設備が段違いだ。

 俺以外はこの素晴らしさに気がついていないみたいだが、その中でも特に一人。あからさまにおかしい人がいる。ウルーナである。


「どしたんだ? なんか、ナメクジみたいになってるけど」

「……この人数をまとめて長距離転移させたのですよ? 魔力枯渇で眠くなるに決まってるじゃないですか……」


 ウルーナは、ぺちょり……という擬音がぴったりなほど床に溶けだしており、トレードマークのポニーテールもいつにも増して力なく、しおしおしている。


「ヨウさん。今のお姉様をみて何か感じたりしませんか?」

「なんだそれ? ……あれ、なんか――」

「見えましたわよね?」


 訝しげにウルーナを注視すると、なんだか心に浮かび上がってくるものがある。


 これは――トマトとチーズ?


「なんで? え、なんで?」

「クヒ! わたくしの(強欲)の一環で、知りたいと望むモノの事を少しだけ知る事ができるんですの」


 いゃん! と身体をくねくねしながは何故かすごく嬉しそうに答えるオルガ。

 いや、知りたいのはなんで知ってるかの方じゃないんだけど?


「ちなみに、それは『食生活アドバイザー』のPスキルらしいですの。その人に不足している、またはその人に与えたいと思う要素を見抜き、それに必要な素材がわかるのですわ!」


 とか思っていたら、知りたい方の補足も入った。

 食生活アドバイザー……って、確かまだ詳細な事が分かってないってチチシロが言ってた俺の職の事か。つまり、これも戦闘向けの職ではないと……そう言う事なのか……。


「な、なんでもいいので早く……」

「ああもう! わかったよ! どうせ俺なんて……ぐすん――『何処でもキッチン』!」


 ちょっと目頭が熱くなり、声がどうしても震えてしまうほどには泣きたくなったが、早く料理を作ってやらないとウルーナが割とガチ目にヤバそうなので我慢する。


「ヨウさん? わざわざソレ(何処でもキッチン)を出さなくても設備は整ってますのに……」

「……いつも使ってるコレの方が使いやすい。それに、一人前だし」

「「「え」」」


 え、じゃないよ。さっき食べたでしょ。

 凄まじく残念そうな顔をする三人を放っておき、俺は一人前の料理に取り掛かる。

 とにかくウルーナがヤバそうなので、ササッと出来るものが良いな。考えつつ、適当にトマトを半分にしてから切り口を上にして1cmに半月スライス。耐熱皿に敷き詰め、その上にレモンの輪切りを二枚ほどのせる。さらにその上からチーズを好きなだけ。最後に軽くオリーブオイルを回しかけ、味付けとして塩胡椒をパラパラと。それをトースターに入れてからチーズに軽く焦げ目がつくまで、だいたい8分ほど加熱して完成。


「ほら、できたぞ」

「…………。」


 スプーンとともに料理を渡すも、ウルーナはこちらを見上げて口を開くだけで何もアクションを起こさない。まあ、以前に味わったあの集団転移の時と同じような状態なら、まだ起きてるだけで奇跡みたいなもんだ。

 しゃーないな、といいつつ料理を口へと運んでやる。ふんわりと口を閉じたのを確認し、スプーンを引き抜く。もにゅ……もにゅ……と口を動かし、やがてゴクンと飲み込むウルーナ。すると、突如ウルーナの身体が発光し始め――


「――とは、流石にならないのか」

「なんの話ですの?」


 みんなの反応からして、それくらいの事は起きるかと思っていたんだが……ウルーナは相変わらずだるだるしながら次を待ってるし、回復しているような気配はない。


 ……本当に俺の能力って役に立つのか?


 最近、常に暗雲が立ち込めている俺の脳内。そろそろ晴れてもバチは当たらないと思います。

 晴れない表情のまま、俺は料理を全てウルーナに食べさせる。最後の一口を食べた途端にウルーナは眠りにつく。


「さて、そしたら行きましょうか」


 最後の一口を凄く恨めしそうに見ていたオルガが、気持ちを切り替えるように立ち上がる。


「そういやまだ目的とか聞いてないんだけど」

「それはですね、久しぶりにお母様へ挨拶しに行くのともう一つ――」



◇◆◇



 ウルーナに料理を食べさせた後、俺たちは回廊を進み、イオランテの居るという部屋の前まで来ていた。


「ここに――封印帝が……」


 そこは現魔王が居る部屋とは思えない普通のドアで出入りするいかにも普通な一室。魔王とはいえ普段から王座にいるわけじゃないとはなんとなく予想できてたけど、いざ目の当たりにすると拍子抜けだな……

 しかし、問題はそんな事ではない。普通に考えてラスボスに会うにはタイミング早すぎるところだ。まあ、イオランテがラスボスになるならないはまだ不明なんだけど。


「じゃあ、開けますわよ?」


 オルガが戸を開ける。ちなみに、ウルーナは話し合いに必要らしいのでミウが背負っている。なんで男性陣が背負わないかって? そんなの、ミウが俺たちのパーティーで最もパワーがあるからである。俺とチチシロの両手と、ミウの右手だけで腕相撲しても勝てないんだからなぁ……

 再び自らに軽く失望している間に、良い作りなのかドアは無音で開かれる。

 空いた隙間から見える室内は、暗めの照明で照らされておりベッドに小さい棚があるだけで随分とシンプルな、別の言い方をすると寂しい部屋という印象を受ける。

 そのどこか物悲しい部屋のベッドに、その人は横たわっていた。


「お母様、ただいま戻りましたわ」


 ベッドの主はオルガの声にピクリと肩を動かす。


「その声は……オルちゃんよね?」

「ええ。ウルーナ姉様もいるわ」

「あら、珍しいわね」


 ここでようやくイオランテは振り返る。その動きはどこか、ウルーナを連想させた。


「あら? お客様?」

「ええ、わたくしのパートナーのヨウさんですの」

「オルちゃんのパートナー? 最近の子は手が早いわね〜」


 よっこいしょ、と言いながらイオランテはベッドから立ち上がり、天幕に隠れていた姿があらわになる。どこか幼さを残しつつも、纏っている気怠げな雰囲気からか妙に色っぽく見えた。


「それで、誰がオルちゃんのパートナーなの?」

「嫌ですわね、この中に殿方は一人だけですわよ」

「ああ、その人ですか」


 まだ眠いのか、半開きの瞼から覗く瞳に見つめられる。魔王だけあって、威圧感は半端ではない。まあもしかしたら、単に俺がビビリなだけかもしれないが。……ていうかなんかずっと見られてるけど、そっちからアクションを起こしてくれるわけじゃないのか……このままだと流石にきまずい。とりあえず挨拶してみるか。


「……あの、こんにちは。初めまして。ヨウ、です」

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