真実と勇者
今回はオレイン目線で、お話の設定と世界観が少し明らかになります。
オレイン---勇者。勇者の適性値がかなり高く、二回ほどヨウ達に挑み、二回ともオルガに負けている。現在は教会復活後で宿にいる。刀を所持していて、剣術が得意。魔法もいける。能力にチート的なの多し。
サディス---チチシロと同じ、勇者をサポートするイタンヘ族の女性。勇者以外へのかなりキツイ口調が特徴。人心掌握系の魔法が得意。
フルー---職業不明の女性。以前、蜘蛛男であるズラガルドに束縛されていたのをきっかけにヨウと知り合う。ヨウの料理を食べてからドハマり。どうやら旅に出たい様子。(「町の異変」、「忘れかけていた約束。そしてフラグ」に登場)
この俺様が負けた。二度も。
「……ああああッ!」
俺はテーブルを力任せに意味もなくひっくり返す。上に乗っていたマグカップが乾いた音を立てて割れるが、一向に気は晴れない。
「勇者、様……」
「貴様……俺を、俺様をそんな目で見るなッ!」
「す、すみません……」
「クソっ、使えん奴め!」
心配そうに俺様を見てきたこの女は勇者を探しているという一族の者。今は勇者であるこの俺様の従者だ。
「あの女ァ……」
そんな事よりあの女――オルガ、魔法だけでなく剣での才も俺様より上とは、許せん……!
「だいたいイレギュラーではないか! この世界で俺より優れた存在などありえん!」
「……? それは一体どういう――」
「貴様には関係ない!」
「……すみません」
サディスは頭を下げて謝罪するが、その姿はもはや俺の眼中にはない。俺はただ、敗北というありえない理不尽に憤っていた。
何故だ……この世界でも、俺は最強のはずなのに!
『R.L』、replace life。
別世界に転生しよう!
という謳い文句の新世代試作ゲームソフトである。
自分と転生者、両方の記憶を保持したまま作中の人物に転生し、その人として、その世界での一生を過ごせるというものである。決まっているのは、初期設定だけ。転生後はプレイヤーの行動によって、システムが自動でストーリー作成を行う、という先のわからない楽しさがある。
そんな、R.Lは世界初の全身型加速仮想空間ゲーム機を使用するため、100名限定でβ版のテスターを募集した。俺――安井 太一はテスターに選ばれ、その中でも1番初めに転生者を選ぶ権利を得ていた。何故なら、俺の親父がR.Lの販売元である会社の社長だったからだ。
プレイヤーはまず、全国に100名いる勇者から転生する者を選ぶ。当然、俺は最もステータスの高い勇者を選択した。急遽欠席した1名を除く他の者達も、それぞれステータスの高い順に選んでいったようだった。つまり、総合力では俺より強い者はいないという事だ。
全員が選び終わるのを確認した俺は、専用の装置に入り、オレインと呼ばれていた15歳の少年に転生した。
その後、オレインの記憶にあるオレインの口調を真似つつ、修行を積み勇者として覚醒。魔王の城があると言うガナノに向かう途中、この女、サディスとパーティーを組んだ。
そして、今に至る。つまり、あのオルガとかいう存在は完全なるイレギュラー。魔法適性が異常に高いプレイヤーかと思ったが、剣での戦いも俺様より上。つまり、総合力で俺より上という事だ。
「……いや、神器による強化かもしれん。そうに違いない」
俺のレベル……はここでは魔物の単位か。俺の子値は上限までは行っていないとはいえ、俺はほとんど全ての時間を修行に費やしてきた。俺より勇者の子値が高いプレイヤーがいる可能性は低い、というより絶対に無い。という事は、未知のNPC。もしくはアイテムで超強化したプレイヤーに違いない。しかし、NPCで俺様より強いなんて事はないだろう。つまりプレイヤーという事になる。オルガはパーティーにいた冴えない少年が勇者とか言っていたが、あれはカモフラージュだったわけだ。俺に嘘をついた事、俺を差し置いてこんなチートじみた事をやった事、そして何より、俺より強い存在など許せるはずがない。
「……サディス。教会に行くぞ」
「え……失礼ですが、何をされに?」
「そんな事、決まっている。教会を抜け、旅人組合に登録する」
「な、でも――」
「文句は認めん」
今はとにかく、あのイレギュラーを倒す事を最優先にしなければならん。
足早に教会に辿り着いた俺様は一方的に信者登録を抹消した。教会の連中は何か色々と御託を並べて俺様を引き止めようとしてきたが、そんな事は無視だ。
「行くぞサディ――」
「ドーン!」
撤収しようとした矢先、教会の無駄に厳かな扉アホなセリフと共にが蹴り開けられる。俺を取り巻いていた神父達も口を開けてそちらに見入っている。ドアを開けたのはどこか間の抜けた顔の女だった。
うるさい奴。
そんな最悪に近い第一印象もあり、俺は神経を逆撫でする無神経な声に顔を顰める。関わりたくないのでさっさと出口に向かうが、そいつは一直線にこっちへ向かってくる。その顔があまりにウザかったので、思わず俺は自分から話しかける。
「……なんだ貴様、俺様は今、かなり機嫌が悪い――」
「オレインさん、オルガ――さんに興味はありませんか?」
「…………なに?」
俺は予想外の言葉に、思わず食いついてしまう。それを見て脈ありと判断されたのか、女は続けて話を続ける。
「私はオルガさんの行き先、旅の目的、パーティーメンバーの情報を持っています」
「ほ、本当か?」
「もちろん。ここでは何ですし、進みながら話しましょう?」
女はそう言って微笑み、俺を外へと促す。
なんというか……怪しさ満点だ。
「勇者様……」
当然、サディスが辞めた方がいいと言わんばかりに声をかけてくる。が、
「……仕方あるまい。どちらにせよ、情報が必要だ」
そう。例え怪しさの塊であったとしても、手を突っ込まざるを得ない。俺様はどうしても、オルガに一矢報いたいのだ。
◇◆◇
「勇者が……男?」
「ええ、そうです」
人気のない路地裏に連れられた俺は、この女から衝撃の事実を伝えられる。因みに嘘の気配はない。
俺は柄にもなく、動揺を隠す事も忘れて片手で顔を覆う。
馬鹿な……オルガが勇者じゃないのか? NPCであの強さだというのか?
「バカな……それではあの女――オルガは何なのだ?」
「オルガさんですね? ふふ、話すのは構いませんが、一つだけお願いがあります」
つい漏れてしまった心の声に、女が嬉々として情報をちらつかせてくる。交換条件を添えて。
……まあ、当然そうくるか。
予想通りの展開に俺は警戒を緩め、少し安心する。流石の俺も、最初から無条件だとは考えてはいない。むしろ、無条件で情報を持ってくる方が怪しい。
俺はジッと女の顔を見つめる。
それにしてもこの女、俺の観察眼を持ってしても内心が計り知れない。見たところそこらの村娘とさして変わらない服装だが、仮面のように張り付いた笑顔が本心を隠し、異質さを醸し出している。言いたい事を先読みしてやろうと思ったが……どうやら無理そうだ。
俺は観念して続きを促す。
「ふん、条件は?」
「私をパーティーに加えてください」
「……はあ?」
予想もしていなかった答えにおもわず変な声が出てしまう。俺は咳払いで誤魔化し、この女の意図について考えるが、全く想像すらできない。いったい、俺はなんどこの女に驚かされれば気が済むのか。
パーティーに加えろだ? 何の脈絡があって加入フラグがたったのだ?
「まあ……構わんが」
「ゆ、勇者様! よろしいのですか?」
「別に構わんだろう」
実際、女がパーティーに加入しようがしまいが、俺様にデメリットはない、はずだ。
しかし、俺様の言葉を聞いた瞬間、女が怪しく微笑む。
「ふふふ、知っていますよ。先週からパーティーメンバー募集をかけているのに、一人も応募してこなかった事」
「な、なんでそれを?」
「別に難しい事ではないですよ。あなたの態度、募集条件の高さを鑑みたならば」
募集条件の高さ? 別に難しい要求を書いた覚えはないが……
「何のことかわからない、と言った顔ですね。教えてあげますけど、ある程度以上の強さの人は最前線に行って魔族と戦っているので、こんなところであの条件を満たす人はいませんよ」
「そんなバカな……そんな事は教会の奴らは言っていなかったぞ!」
そもそも、あの条件は教会の連中が、これぐらいなければ、と言って設定したものだ。
「そうでしょうね。仲間が出来たらあなたが旅立ってしまう可能性が高くなりますから」
「なっ……」
なんて……なんて汚い! ここはゲームの世界ではないのか? 現実並みに思惑が交差している――
俺はそこまで考えてようやく気がつく。
……ゲームのコンセプト、別世界に転生しよう、か。確かにそうだ、ここはゲームとはいえ異世界なのだ。俺はどこかでゲームだと、軽く考えていたのかもしれん。
俺は一度目を閉じ、心を落ち着かせる。
「……はあ。それで、教会の奴らが俺様を手放したくない理由は魔族への牽制もあるが、1番は他組織への圧力のためか?」
「え、はい。あれ? どうしたんですかいきなり?」
「うるさい。……でもまあ、考えを改めるきっかけをくれたのは事実。素直に礼は言っておこう」
「……はあ」
女は訝しむような表情で俺をジッと見つめる。
どうやら俺の事を単なるポンコツだとでも思っていたのだろう。俺だって自分の弱さや改善点を受け入れられないわけじゃない。自分で納得すれば受け入れられる。それに、よく考えたら自分より強い相手がいて何が悪いのだろうか? むしろ、それを攻略する楽しさがあるじゃないか。最初から最強なんてつまらない。
俺はようやく、本当の意味でこのゲームを楽しみ始めた。荒れていた心もいつの間にか落ち着いている。そこで、俺はようやく辺りの状況に気が付く。
「俺様は人に操られるのは嫌いだ。さっさとこの街を出る。……まあしかし、やはりこのままただでは返してくれないようだな。出てこい」
「勇者様……それはどういう?」
サディスの問いの答えは、物陰から音もなく現れた。
「な、なによあんた達は!」
気がつけば、外套に身を包んでいる者数名が俺たちを取り囲んでいる。目視できるのは4名だが、見えないところにはその倍はいる。
「なっ、対応が早すぎます」
俺達をここに誘導した女が驚いている。という事は、
「ほう、お前の差し金ではないのだな」
「……この状況で疑うなと言っても説得力ないですけど、あえて言っときます。私の話した目的は事実ですから」
どうやら本当にこの女の差し金ではない様子。しかも旅に同行したいというのも嘘ではなさそうだ。
「ふん、信じてやるさ」
「勇者様、こいつらは一体?」
現れた直後こそ動揺していたサディスも、ようやく普段の落ち着きを取り戻したようだ。
「おそらく、教会の飼っている暗殺者だろう。俺様が人知れず死ねば、他の組織は教会は勇者というカードを持っている、と錯覚させられるからな」
自由に動かせない手駒は処分するという事か。教会のジジイ供は気が短いようだ。
「おい、女――」
「フルー。私はフルーです」
女は顔を暗殺者に顔を向けながら訂正する。
「――フルー。どれぐらい戦える?」
「言っときますけど、戦力にはなりませんよ」
「……マジか」
この展開で新しい仲間が戦力にならないってどうなんだ、ゲームとして!
もともとゲーム脳である俺は、この理不尽に文句を垂れたい気持ちをグッと飲み込む。しょうがないじゃないか! 仕様なんだから! と己に言い聞かせて。
「ちっ、サディス! 見えないところにまだたくさんいる! 気をつけろ!」
「かしこまりました」
正直、俺はサディスがどこまで戦えるか知らない。というのも、サディスとパーティーを組んでからというもの、出会う魔族は全て俺が斬り伏せたし、先日のオルガ戦ではサディスの方を見る余裕など無かった。
つまり、これが始めて見るサディスの戦いという事になる。普段のヘコヘコ具合からして、めちゃ不安だ。
そして、ジリジリと距離を取りつつゆっくりと後退していくと、やがて道は行き止まり、これ以上の後退は不可能となる。
「サテ、勇者サマ。これで逃げられませんが、お覚悟」
暗殺者の一人がシミターの切っ先をこちらに向け、そう宣言する。和平の余地なしと言わんばかりに。
……袋小路に追い詰められたという事は、完全に地の利は相手にある。無理に突破して逃げても追い付かれ、結局は無駄に終わる可能性が非常に高い。
となれば、やはり戦うしかない。それに、背後が壁なのは逆に言えば襲われる心配もなく、好都合でもある。
「ふん、この勇者に逆らった事を後悔させてやる」
賛否が分かれる展開だと思いますが、勘弁して下さると助かります(-_-;)
もう一話オレインの話を挟んで、本編に入ります。
内定が出ません。




