試験結果と晩餐会
長い間更新できずにすみませんでした。就職活動中にてペースだだ落ち。
この状況……オレはいったいどうするのが正解なんだ?
柄にもなくオドオドしながらウルーナ様を見るが、彼女も状況を把握しきれていないようだ。
「出来たっと」
そんなこんなしてる間に少年の作業が終わってしまう。
「……まあ、驚かせるという条件しか決めていませんでしたが」
戦う気満々だったオレ達は拍子抜けだ。
「まあまあお姉様。とりあえず食べてみてはいかがですか」
「オルガ……」
こう見えて、ウルーナ様は流されやすいお人だ。
「そうですね……わかりました。まずは、食べて差し上げます」
だから、こうなることもわかっていた。
「グロムもそれでいいわよね?」
「モちろんです」
オレ達はそんな人柄にも惹かれて集まっているのだ。文句などあるはずがない。
となると、気になってくるのはメニューの方だ。好き嫌いは聞かれたが、人間と魔物。味の好みが一致するのだろうか。
そもそも目的はなんだ? 戦いを避けて敵を処理するという作戦か? 毒?
毒物のチェックが可能なルーツディッツに目を向けるも、首は横に振られる。毒でもない。
「グロム。考えても食べてみなくては始まりません。食べますよ」
「ハ、ハい」
「どうぞ、召し上がれ!」
いくら毒は無いからと言って、ウルーナ様に先に食べさせるわけにはいかない。
オレはフォークを手に取り、丸い木製のテーブルに乗った、いい匂いを放つ料理に向き合い、意を決してそれを口に運ぶ。
瞬間、口に入った料理から、芳醇な香りと旨味が舌の表面にジワリと伝わる。辛抱たまらず咀嚼――刹那、肉の旨味が口を蹂躙するッッ!
「……アむ、アむ! アむ!!」
「え? グロム?」
美味い。
もはやオレの脳は思考を停止し、この美味さを堪能することだけのみを追及している。やめられない止まらない。エンドレス・イーティング!
「グロムッ!」
「――ッ! ウ、ウルーナ様……? ア……ワれをみうしなっていた」
何たる――何たる存在だ! このオレが、敵前で意識を奪われるとは……!
「ウルーナ様」
「え? あ、はい」
「ウますぎです」
ダメだ。意識が戻っても手が止まらない。
「そんなに……大袈裟では?」
そう言いつつ、ウルーナ様も口に料理を運ぶ。
直後、ウルーナ様のどこか眠たげな眼が見開かれる。口に料理を入れてから数秒、辛うじて残像が見える速度でフォークが煌めき、気が付くと皿の上には何もない。
恐ろしく速い摂食、オレでなきゃ見逃しちゃうね。
「……次を」
口元を上品にふきふきしつつ、頬をわずかに染めるウルーナ様。
「え……あ、え? あ、え?」
一方、恐ろしく速い摂食を見逃した様子の少年。やはり、オレが感じた通り、戦闘力はほぼ皆無のようだ。
だが、この能力は……恐ろしいまでの求心力がある。それに、なんだか身体の奥底から力が湧き出てくるような……
ただの料理じゃないのか……?
「……なるほど、私も知らない力です。恐らく、何らかのスキルか魔法で食べた瞬間に私たちの味覚を強化、その上で料理自体にも恐ろしいほどの依存性を付与していますね」
いつも通りの涼しい顔つきだが、その頬には一筋の汗が伝っている。かつ、少年が運んでくる途中だった料理も秒で平らげている。さすがウルーナ様――ん、オレの分は?
「もちろん、これは毒ではありません。寧ろ、食べたものの潜在能力を限界を超えて引き出す効果も秘めています」
「クヒヒ、気が付かれましたか?」
嬉しそうにニタニタしているオルガ様がドヤ顔で近づいてくる。
て、潜在能力を上げる? それが本当なら、究極魔法や神器に匹敵する効能だが……しかも限界を超えてだと?
「オルガ……これがあなたの計画の核、ですか」
ウルーナ様の問いに、オルガ様は笑みで答える。
「……確かに、この力があればお母様の望む世界を作れるかもですね」
「でしょう? まあもちろん、わたくしはこの能力ではなく、あくまでヨウさんに惚れているわけですが」
その言葉を聞き、ウルーナ様は眉間に指をあて、何かを考え込んでいるようだ。
「……はあ、いいでしょう。あなたの考えは認めます。しかし、保険として私も私で策を進めますが」
「クヒヒ、邪魔してこないのであれば何でもいいですわ」
「あ、あの……俺の試験は?」
おずおずと、少年が魔王と魔王の会話に割って入る。
たいした勇気だと、オレは少し感心した。
「ヨウさん。あなたも合格です。旅のお邪魔をして悪かったですね」
「ええ!? いや……そんな」
「あなたの能力は世界を変えるかもしれませんね。……どうでしょう、私達は少しやることがありますし、今晩の夕食をヨウさんに作って頂きたいのですが」
「え……も、もちろん、光栄です!」
「ふふ、ありがとう。ではオルガ、あちらで」
「ええ。ヨウさん! また後で!」
ウルーナ様は俺たちに簡単な指示を飛ばし、この場を後にする。
「~~~~ヨウ! 無事で良かった~!」
「本当だよ! 一時はどうなる事かと……」
「ミウ! チチシロ!」
解放された少年に飛びつく仲間たち。随分と慕われてるようだ。
グルオオオ……
まあ感動の再開はここまでにしてもらって、早く料理を作ってもらわないと俺の腹がまずい。とりあえず厨房に案内するか。さっきの量では俺の腹1分目にも満たない。
◇◆◇
「で、オルガ。これからどうするつもりなの?」
オルガ達がヨウと別れてから少し後、ウルーナは自室に入るなり、ピンク色のベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。しかも、そのままの状態で会話を始める。
「そうですわね。とりあえずはアマツチ姉様に会ってこようかと」
しかし、オルガはその様子を見ても動じない。ウルーナの本質が怠け者だと知っているからだ。
「寧ろ、わたくしはあなたの計画を知りたいですわ」
「……まあ、いいですか。私は勇者を探しています」
「勇者……それでヨウさんを?」
「はい」
オルガは語気に若干の殺気を込めたが、ウルーナは気にすることなく続ける。
「勇者を手に入れた私は勇者を洗脳でも何でもいいので手懐け、お母様から任された地を支配し、人も魔族も圧政下に置く予定です」
「……? それではお母様の意志に背くことになりますが?」
彼女たちの母親である現魔王、封印帝イオランテの真の望み。それは人族と魔族の友好関係の構築、そして、人と魔族を娯楽のために争わせ、間接的に父である魔王を殺した聖界連中の駆逐だ。
「ええ。そこで、勇者を手に入れておき、水面下で私に反発する魔族――ズラガルド達と結託させます。そして、人の代表である勇者と、元魔王軍幹部である魔族が協力し、私という魔王を打ち倒す。というのがおおまかなシナリオです」
「なるほど……敵の敵は仲間、というわけですか」
「そういう事です。もちろん、最終的に私は公衆の前で処刑されるわけですが、そこはルーツディッツにでも頼んで幻術をかけてもらいます。勇者も寝返った幹部達も私の仲間、まずバレないでしょう。その後は何処かの田舎にでも隠居して、人と魔族間の友好関係強化を陰からサポートする予定です」
枕を通しているのでくぐもっている説明が終わる。説明を聞いていたオルガはしばし思案した後、納得したように顔を上げる。
彼女は内心で流石だと感心していた。母であるイオランテの言いつけを守りつつ、表に立つ機会を最小限に、自分は早々に裏舞台へとフェードアウト。という如何にも彼女らしい計画だな、と半ば呆れながらではあるが。
当の本人は、ああ、早くフェードアウトしてのんびり田舎暮らししたい~とベッドでジタバタしながらぼやいている。
「なるほど……それで、わたくしの近くの森の御神木をスライムが倒しに来たのは?」
「御神木? ……ああ、人と魔族が結託するのに、魔族のみに作用するアレは邪魔でしたので――って、じゃあエドヴィル……スライムを倒したのはやはりあなたでしたか」
ニッコリと微笑むオルガ。その顔に反省の色は微塵もない。雰囲気で答えを察したウルーナも9割がた気が付いていたので、それについてとやかく言う事はない。
「では、蜘蛛男が町を襲いに来たのは?」
「エドヴィルを倒した者の正体が知りたかったのと、魔王としての悪評を広めたかったからです」
ウルーナは枕に埋もれた顔を上げ、今度はこちらの番とばかりに質問を投げかける。
「私の話はこれでいいでしょう。ではオルガ、あなたの構想を聞かせて頂戴」
◇◆◇
俺はなんでこんな事をやっているのだろうか?
ふとそんな疑問を抱くが、あまりの忙しさに思考は忙殺される。
いったん、状況を整理しよう。試験に合格した俺。案内されたキッチン。うまい具合におだてられてやると言った俺。判明した城員の数、その数およそ数千。いつもはガラガラだという食堂には長蛇の列。以上回想終わり。
「て、ちょっと待てーい! 流石にこの数を一人では無理です!」
何とか10人前までやったところで判明。挙手して報告。一人で千人前とか不可能だから! しかもその10人が無駄に叫んで列がますます伸びてるし!
「あ、じゃあ手伝おうか?」
「え、いや……チチシロはちょっと。ミウ、頼めるか?」
「ええ、まかして!」
腕まくりしてやる気をアピールしてくるミウ。一緒に料理とか久しぶりだ。チチシロはなぜか盛大に落ち込んでしまったようだが、今は気にしてられない。
「おっと、そういう事なら僕達も手伝ってあげるよ。ね」「うむ。もちろん」
「当然ですね」
「マかせろ」
ルーツディッツをはじめとする六柱のズラガルドとロクサム、グロムデュラムも手伝ってくれるらしい。
でも――
「心配ありませんよ。我々はそこそこ料理の腕もあるのです。なにせ平民出身の者ばかりですから」
……本当に考えたことに対して返答された。ミウの言ってた通りだ。これがミウの相手だったロクサム、か。見たところ黒くて綺麗な翼が生えている以外は普通の人間と変わらない。でかいけど。
「助かる……ます」
「いいよ、君は特別な存在だからね。敬語じゃなくて普段通りで」
「そう……か。うん。ありがとう。で――」
「大丈夫です。他の者もこう見えて意外にできますから。ルーツディッツ、グロムデュラム、ズラガルド」
ロクサムの目くばせに各々が頷き、俺がやる予定だった料理の下処理をテキパキと進めてくれる。俺の相手だったリザードマンのグロムデュラムは、見た目通りのパワーで牛の肉塊を豪快に、けれど的確に部位ごとに使いやすいよう切り分けてくれている。ふわふわと中を漂うルーツディッツは、細かな呪文を唱え、野菜を次々に切り分けている。そして、町では敵だったズラガルドも、持ち前のスピードで肉に衣をつけたり、生地を練ったりと忙しなく動いてくれている。
「ほえ~、俺とミウがやる事ないじゃん。ていうか、どうして俺のしたい事が?」
「私の力で君の動きを先読みし、それを念を通して彼らに伝えているのです。君は最終工程を、ミウさんは盛り付けを。あと、そこの落ち込んでいる人間も盛り付けなら大丈夫でしょう」
流石、六柱の司令塔。あっという間にキッチンの主導権を握られてしまった。
◇◆◇
こうして、俺達は六柱の手も借りて何とか場内の全ての腹を満たした。城というだけあって、厨房もかなり大きく、見たことがなかった凄く大きい鍋などにも助けられた。
グルオオオ……
いや、まだ満たしてない腹があった。
「よし、ひとまず終わったし、俺たちの分に取り掛かろうか」
俺がそう言うと、この場にいる全員の表情がパッと明るくなる。
「待ってたよ~」
「ハやくつくってくれ」
六柱という少し前まで敵だった人(?)達に料理を振舞うなんて、世の中なにがあるかなんてわからないなあ。とか考えつつ、俺はウルーナ様に出したものと同じレシピに取り掛かる。
まず、鶏むね肉を真ん中の筋に沿って二つに切り分ける。
そして、塊になったものの筋に逆らう向きで、刺身を切るような要領で薄くスライスしていく。大きいものは一口大に。
スライスしたものは袋かなんかに入れていき、その袋に焼肉のタレという調味料、ハチミツ、料理酒を入れる。辛いのが好きならば、ここに鷹の爪を入れてもいい。
これを軽くもみ、30分以上寝かせれば完成。袋でなくても、今回のように大量に作る場合は鍋にぼんぼん入れていくのでもいい。冷蔵庫なら3日、冷凍庫なら1週間は持つ。ただし、冷凍する時はタレを取り除いてからだ。
これを熱したフライパンにタレごと開け、カットしたキャベツやモヤシなどの野菜とともに炒める。これで、簡単焼肉炒めの完成だ。もちろん、タレ漬け肉はそのまま焼肉として網で焼いても超美味い。
「ほら、できたぞ」
テーブルには、ドリンクとしてヨーグルト、牛乳、砂糖、レモン汁で作ったお手製のなんちゃってラッシー。サラダには、レタスの上に薄くスライスした人参を乗せたもの。こうするだけでちょっと高級感。そして、もちろん、日本人類の英知、ほかほかご飯だ。
バクバクいける炒め物にほかほかご飯。少し甘い休憩用ドリンクに食感の違いを楽しめるサラダ。これだけあれば満足だろう。炒め物だけで何十キロ作った事か……
「頂きます!」
以外にも、魔族の面々も頂き物に感謝を捧げてから食事に入っていた。ミウやチチシロ、そして六柱の面々、さらにはいつの間にか席についていたオルガとウルーナ様も「美味いぃ……」と呟きながら泣いているのが凄く不気味だった。
因みに、作中レシピは近いうちに活動報告にでもあげておきます。




