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勇者にする? 魔王にする? それとも……お料理?  作者: 白米広重
第二章・刀刃帝と獄炎帝
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試練とヨウ 後

 夢を、見ていた。そこはかつてオレが住んでいた素晴らしき地。川はせせらぎ、森は風になびき、鳥はさえずっていた。

 そんな素晴らしき地で、オレは英雄と呼ばれていた。一度だけ、どうやらオレたちの住む地に迷い込んだらしき人間を、人里まで案内したのがキッカケだった。もちろん、それだけでなく、仲間内では力も知力も素早さも、全てにおいてオレは優れていた。それでオレは、奢っていた。己の能力を過信し、住処の範囲を拡大していった。そして、リザードマンと昔から敵対していた種族、エルフと刃を交えるときが来たのだ――


 ガシャ――ン‼︎


「ふごっ!」


 頭が覚醒した。しかし、まだ体温が上がっておらず、身体の反応は鈍い。ゆっくりと首を音のした方へ向ける。そこには見慣れない扉が鎮座していた――あっ、


「シまった!」


 そうだ、思い出した。ここは試練の間、オレはズラガルドの説明を受けてからすぐ、強敵と交えるのが楽しみで、寝ずにここで待っていたのだ。それがいつの間にか寝てしまっていたらしい。のんびり夢なんて見ている場合ではなかった。オレは先ほどまでの情景を頭から追い出す。

 挑戦者は、まだ来ていないのか? ん? じゃあさっきの音は……まさか! に、逃げられたのか?

 慌ててオレの槍に付いている鍵を確認する。付いている。ということは、まだ逃げてはいない? でも、そうなるとさっきの音はいったい……

 この部屋には余計な作りはなく、すなわち身を隠すほどのスペースはない。となると、魔法で隠れているのか?


「【温度感知サーモスアイ】」


 もし隠れていても、この目から逃れるのはあのルーツディッツですら不可能だ――ん? あれ、おかしいな……。

 殺風景な部屋を見渡してみるが、異常はなんら見られない。

 もたもたしていると、じょじょに血液が巡り、身体の感覚が鋭敏になっていく。


「ふんふん」


 オレは匂いを辿ることにする。て、あれ? 知らない匂いが確かに……扉の方まで……なんてことだ。

 先ほどまで、この空間に誰かがいたのは間違いない。匂いがそれを示している。その匂いはオレの近くから扉前まで続き、扉を境に途切れている。すなわち、その何者かが扉を出たと匂いが語っていた。


「ドうやって……」


 いや、今は理由の探求などしている場合ではない。寝起きでまだ血が巡りきっていないのか、いつもより少しだけ重い身体を動かし、オレは扉を開ける。

 この扉は無駄に重く、大きい。オレにとってはなんでもないが。しかし、扉を開けると重く音が反響するため、これを開けられたらいくらオレでも起きられそうなものだが……

 扉を開けきり、続く廊下に入る――と、扉は自動で閉まる。不思議なものだ。扉が閉じたのを確認し、再び匂いを辿る。


「ふんふん――ん?」


 ……確かに、僅かではあるが、ここにも知らない匂いが漂っている。だが、奥からはいくつもの知らない匂いや知っている匂いが届いて来ている。


 他のところはすでに終わっているのか……


 オレは、薄暗く狭い一本道の廊下を進み、光ある大広間へ出る。

 光量の差に、思わず目を細めながら部屋を確認する。


「出てきたようであるな」

「ちょっと、グロム遅すぎ〜」

「……なんだか、君にしては戦闘した形跡がないようだが?」


 そこにはオレと同じ、六柱のズラガルドやルーツディッツ、ロクサム。


「で、でか!」

「大きいですわねえ〜」

「ヨウは⁉︎ ヨウは⁉︎」


 そして、人間が3人(なんか、一人がやたら纏わり付いて喚いている)と、


「お疲れ様〜」


 オレの主人、ウルーナ様がいた。


「おや? グロムデュラム。お前の所の人間はどうしたんですか?」


 そうだ。オレもそれが知りたかったんだ。


「ア、ソれが、オレもわからない」

「わからない?」

「ちょっと! どういうことよ!」


 なんなんだこの人間は、さっきからやたらうるさいな……。


「む? グロムデュラムよ、その背中の、なんなのだ?」

「セなか?」


 オレは背中に手をやり、何かに触れる。


「アれ⁉︎」


 それをむんずと掴み、正面に持ってくる。


「よ、ヨウ!」


 それは人間であった。


「バかな!」

「……バカは君だよ、グロムデュラム」

「うはははは! 相変わらずグロム面白すぎ!」


 青みがかった黒髪に、茶系の服装。持ち上げるのが簡単すぎるほど軽い身体。覇気のない出で立ちの少年がそこにぶら下がっていた。こんなのがいつのまに――?


「と……」

「何? ヨウ、どうかしたの?」


 何か言いたげな少年に、さっきからうるさい女が話しかける。少年の顔は青ざめており、今にも死んでしまいそうだ。


「トイレ――」


 ギュルウウウ……


「えっ」

「もう、限界――」

「! 『転尾』!」


 ウルーナ様が一息の間に少年を切り裂き、どこかへと転移させてしまう。と同時に、オレの手から少年が消える。

 巨大なシャンデリアが照らす豪華な広間は、しばらく静寂に支配されることとなった。



◇◆◇



「……ただいま」

「ヨウ……おかえり」


 かわやへ迎えに行ったオレとともに、少年が広間へと帰還する。本人ももちろん気まずそうだが、仲間もどう反応すればいいのか悩んでいるようであった。


「……まあ、何はともあれ、オルガのパーティーは全員試練を合格した、というわけですわね」


 ウルーナ様が仕切り直すように咳払いする。


「うはっははは! 寝過ごすとか……グロムヤバすぎ」

「ウっ……す、スまない」


 事情は少年がトイレに行っている間に話した。我ながら、なんと愚かだったことか……


「わたくし()、ではありませんわ」


 そんな弛緩した空気を読まず、ウルーナ様に物申す声あり。双子の片割れだ。


「んん? どういうことかしら?」

「ヨウさん()、パーティーですの」

「えっ! 君がリーダーじゃないの⁉︎」


 なぜかルーツディッツが驚いている。珍しいな……。それにしても、ヨウというのは、この少年のことか? なんだか身悶えしている様子だが……


「そ、そうだよ! なんと言っても、ヨウが“勇者”なんだし」

「ほう……その者が」


 少年は顔をそらしている。


「わ、私だって、ヨウがいるからついて来てるんだからね!」

「あなたほどの人が、彼に?」


 少年は顔を覆っている。

 そんな少年に注目し始めたのは六柱の面々。ここにいるということはすなわち、彼らはそれぞれの相手に負けた、という事だが……自分を負かした相手が従う相手となると、意識せざるを得ないか。かく言うオレもこの少年に興味が湧き始めていた。


「……ふうん、なるほど。あなた方の言い分は理解しました。でも、そうなると試練合格とは言い難くなりますわね」

「なんですの? ケチつける気ですの?」

「簡潔に言うと、そうなりますね。それに、勇者となると、話が変わって来ますわ」


 にわかに、双子の両方が殺気を放ち始める。


「や、やめておきなさい。ウルーナ様はとてもお強い、あなたが本気を出しても勝てるとは思えません」


 ロクサムが目つきの鋭い方の双子を説得する。


「――ちっ、わかったわよ。まずは話を聞こうじゃない。……それに、あんな醜い姿をヨウに見られるわけにはいかないしね」


 見たまんましぶしぶとその片割れの怒りは収まる。最後に何かつぶやいていたが、小さすぎてオレには聞こえなかった。しかし、問題なのはもう片方だ。


「お姉様……返答によってはわたくし、全力で暴れますわよ?」

「それは望ましくないですね」

「オルガ様過激〜。……でも、今はちょっと落ち着こうか――【目眩ディジー】」

「なっ――くっ」


 ルーツディッツが隙を生み出し、それを生かしてウルーナ様の尾が片割れの喉元に突き立てられる。

 待て、あの片割れ……お姉様? というか、今ルーツディッツはオルガ様と言ったか⁉︎ オルガ様ってあの⁉︎


「……一人だけ、何処か知らない場所に行くのは嫌でしょう?」

「うはっは……流石ウルーナ様だ」


 魔法の副作用でルーツディッツも軽い目眩に襲われているようだが、ふらふらしながらも満足気にニヤニヤしている。


「……で、話の続きですね。ヨウさん。あなたがそれだけの人物だと言うならば、ただ後ろにくっついて扉を出て来た――というのは少々、実力を示すには物足りないかと」


 実妹であるオルガ様に刃を突き立てながら、ウルーナ様は続ける。


「そこで、あなたにはもう一つ試練を受けていただこうかと思いますの」

「そんなふざけた事……そもそも試練なんて何様――くっ」

「ふふ、さあどうします? 受けます?」


 文句を言いたげなオルガ様に、刃先をツンツンする事で黙らせる。なんだかウルーナ様、楽しそうだ。


「な、内容次第だな。ちなみに、断ったらどうなる?」

「あなたには私の計画に協力してもらいます。もちろん、旅を中断してもらってね」


 オレはこのヨウという少年は強そうだとは思えないが、少年の配下であるという他の3人からはそれぞれ異なる力を感じる。特に、オルガ様が従っているという事が信じられない。それはすなわち、この少年はこの3人を凌ぐ才能の持ち主という事だが……脳ある鷹はなんとやら――なのだろうか?


「どうやら、俺に拒否権はないみたいだな……」

「話が早くて助かりますわ」

「ヨウさん! ダメで――くっ!」

「それで? 試練ってなんだ?」


 オルガ様の忠告を無視し、話を進める少年。どうやら腹を括った様子。確かに、リーダーの資質、判断力はあるようだが……。


「私とそこのグロムデュラムを驚愕させる、という事でどうでしょうか? グロムデュラムもそれでいいですよね?」

「エ……ハい。オレはかまいませんが……」


 大丈夫だろうか? ウルーナ様は昔、ここらを治めるため戦いに明け暮れ、数々の強敵を撃破して来た武人だ。かく言うオレですら齢100近く、歴戦の猛者であると自負している。そんなオレたちを驚かせるなんて、相当の実力が必要だ。それこそ、オレたちを倒せるぐらいの。


「驚かせればいいのか?」

「ええ、手段は問いません。やりますか?」

「だって……やるしかないんだろう?」


 オレも少年の目をみるが、そこに不安はあれど、戸惑いや躊躇はない。覚悟は決まっているようだ。


「ふふ、それでは今この場で始めましょう。ああ、それと、仲間の協力は無しですわよ? 勇者であるならば、数の不利ぐらいはどうにかしてもらわないと」

「そんなの――くぅ……」

「ふふふふ、オルガも大人しくしていて下さいね。でないと、ヨウさんの無事は保証しかねます」


 刃が押し迫り、首を限界まで反り上げたオルガ様が憎々し気に言葉を漏らす。


「……そうなったら、一生あなたを許しませんわ」

「なら、そうならないよう、あなたが分をわきまえなさい」


 それを一蹴し、ウルーナ様はオルガ様を解放する。


「ズラガルド、ルーツディッツ、ロクサム。邪魔しないよう見張ってなさい」「御意」

「はいはーい」

「わかりました」


 三者三様の返事に、いつになく満足気な様子のウルーナ様は頷く。


「ふふ! それでは試練……スタートです」


 唐突な合図とともに、さっと距離をとるウルーナ様。オレも少年から距離を置き、まずは様子を見る。少年の仲間はなぜかすごく心配しているようで、見ているこっちが不安になる。

 なんだ? リーダーなのに信頼されていないのか?

 若干の違和感を覚えつつ、オレは意識を戦いへと戻す。

 まあいいか……さて、どう動いてくる?


「すぅー……、はぁー……。よし」


 深呼吸して精神を整えた様子の少年の目に強い覚悟が宿る。


 ――来る!


 まずは小手調べといったところか、少年は魔法か特技を使うべく口を開く――


「ウルーナさん、それにグロムデュラム」


 ――わけではなく、なんの目的か、少年はオレたちに語りかけてきた。


「……なんですか?」


 すでに集中モードらしいウルーナ様が返答する。それを確認してからオレも返事する。


「ナんだ?」

「いや、好きな食べ物とか、嫌いな食べ物教えてくれ」


 ……………………ん? どういう事だ? 精神攻撃の一環か?

 オレが返答に困っていると、ウルーナ様は正直に答える。


「私は肉が好きです。嫌いなものはありません」

「……オレは、ニくとサかながすきだ。キらいなのは、キのこだ」


 この質問に何の意味があるのか? それがわからないからこそ、オレも素直に答えた。


「わかった。なら……アレだな。――【何処でもキッチン】」


 ピンッと緊張の糸が張る。少年が何やら聞いたことのない魔法を使い、建造物を召喚したからだ。

 見る限り、中に入れるようだが……中にはどう使うのか見当もつかない、むしろ武器なのかどうか不明な道具の数々や、やけに四角い箱、銀色の台など、謎の設備が満載である。何がなんなのかサッパリ不明なため、近づくに近づけない。


「さて、ちょっと待っててな!」


 少年は、身の丈と同じぐらいの四角く白い箱を開き、中から何かを取り出す。……それは、遠巻きに見ても、明らかに肉であった。


「ン?」

「は?」


 少年は……料理を始めていた。

 次回、ようやく足りてなかった料理成分を補充できる……

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