表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者にする? 魔王にする? それとも……お料理?  作者: 白米広重
第二章・刀刃帝と獄炎帝
38/56

試練とチチシロ 後

推敲しすぎると投稿の間が空きすぎることに気が付いた今日この頃。これからは速度重視で最低限でいくかもしれません。

むぅ……流石、オルガ様のパーティーの一員と言ったところか。この我輩に声を荒げされるとは。


 実際、ここまでのメイドの手腕は大したものであった。最初こそ、メイドという立場の者に本気で戦いを挑んでいいのかと思ったが、開始早々この有様である。煙幕で視界は塞がれ、気配も感じられぬ……まるでルーツディッツと戦っているようだ。なにもかも同じというわけではないだろうが……あそこまでの存在が人類側にホイホイいられてはたまらない。


 しかしその後、無警戒のところに攻撃を食らった。にも関わらず、不思議なことにメイドは我輩の張っている糸に一度も触れていない。暗闇の中、正確に攻撃してきた事といい、どうやらメイドには我輩の糸や姿が見えているようだ。ルーツディッツにはない、他の力も備えているという事だろう。だが、そこが見えない。気配遮断、妨害魔法・特技……メイドとは別の他の優れた職、とやらの力か。自由に職を選べるとは……本当に厄介な。


「やれやれ、メイドですらこのレベルとは……確か、メイドとオルガ様含め、四人だったはず。全く、恐ろしいパーティーであるな」


 だが、この煙にもメリットがないわけでもない。煙のおかげでメイドの顔を見なくて済む。すなわち、我輩は全力のスピードで戦えるという事。問題は、メイドの居場所が掴めない事だ。それさえわかれば勝負は一瞬で決まる……といいんだが。

 と、分析ここまでにして、そろそろ打開策を講じなければなるまい。といっても、この状況で我輩自身が闇雲に動くのは危険か、ならば――


「[眷属召喚・子蜘蛛]」


 四つん這い――ではなく八つん這いの状態で子蜘蛛を生産、解き放つ。


「散れ!」


 我輩は今、この部屋の真ん中あたりに位置している。そこから、子蜘蛛たちを全方向に円が広がるように進ませる。いわゆるローラー作戦である。加えて、蜘蛛たちは進みつつ臀部から糸を出しているので、蜘蛛をジャンプでやり過ごすことも不可能だ。


「まずはあぶり出すところから――と」


 反応があった。しかし蜘蛛からではない、既に索敵が済んでいる糸に突然反応は出た。蜘蛛達も動きを止め、指示を待っている。

 ううむ……どうすべきか、反応はまだ出続けている。罠? だとしたら何のために?


「……ダメだ、わからん」


 わからないが、我輩自ら確認には行きたくない。とりあえず、付近の子蜘蛛達を向かわせ、他の蜘蛛達には索敵を続けさせる。

 ……むう、煙のせいで眷属との視覚共有が意味を成さん! 本当は触らせたくなかったが、触覚共有の感覚からすると、小型の棒型の何か……おそらくナイフか何かだろう。


 だとしても、この行為に何の意味が?


 謎が積み重なるまま、索敵のほとんどは完了する。後は、ナイフの確認に行かせ、索敵が遅れた扉付近一箇所のみ。――ん? まさか、


「これが、狙い?」


 この状況を狙っていたのか? 考えすぎかもしれないが……。あのまま索敵を続けていたら、この状況はなかった。普通に考えれば、索敵が終わっていないのが一箇所であるならば、敵の居場所もそこということになる。が……しかし、なんだこの違和感は。

 この状態でのメイドのメリットとは……時間稼ぎ、一箇所への注意の集中?


 いや、待てよ……。


 今や子蜘蛛達は扉前を囲むように集結しており、我輩の守りはない。そして、確かメイドという職業は暗殺技に長けている、という話を聞いたことがある。完全なる意識外から、あれほどのメイドの、文字通り必殺の技を受けたら……? 例えば、そう。ナイフの落ちて来た上からとか――


「ま、まずい! 戻れ!」


 まさかとは思っていたが、このメイドもルーツディッツと同じく、空を飛べるのか? 空中にも糸は張り巡らされているから、避けながら飛ぶのはルーツディッツでも不可能であろうが……メイドがルーツディッツに対し、その点で勝る存在だとしたら、我輩は殺されてしまう。

 そう考えるとなるほど、初めからこれが狙いであったのかと合点がいく。これまでの行動は空を飛ぶという切り札を生かすための布石だったということ。……だがしかし、残念であったな。我輩の仲間に、たまたま同じような力の持ち主がいたおかげで気が付くことができた。

 子蜘蛛達が戻る間に我輩は周囲に糸をさらに張り巡らせる。これで我輩自身も動くことは適わなくなったが、隙間を通り抜けて攻撃することは不可能。一瞬でも確かな位置が分かれば我輩の速さが勝つ! すでに蜘蛛達は準備を整え、それぞれが定位置につき迎撃態勢をとっている。まさに、飛んで火にいる夏の虫とは今のメイドの事。一瞬の隙を突く作戦を看破されたのだ。他に大した策もあるまい! 加えて、時間が経てば経つほど、この邪魔な煙はわずかな空気孔から抜けていく……姿さえ見ることができれば、我輩の勝ちは固い! 今は守りを固め、メイドがぼろを出すのを待つのが最善!

 我輩は思わず笑みをこぼす。


 さあ……いつでもかかってきたまえ!



◇◆◇



 まずいまずい、どうしよう……このまま発見されるのは危険すぎる。とにかく、今は少しでも時間をかせがなきゃ……そうだ。

 僕は腰の短剣の一つを手に取り、前に高く放り投げる。短剣は恐らく、大きく弧を描きながら垂直に地面へと切っ先を向けるはず、これで角度から居場所が割れることはないだろう。やがて、金属と石畳の衝突による甲高い音が響く。それとともに、蜘蛛達の進行は一度止まり、様子を見ているのか動き出す気配はない。……よかった、一応は成功したみたいだ。この間に次の一手を講じなければ。

 しかし、ここからが本当の考えどころだ。次手は大きく二つ。戦うか、このまま解錠するかだ。どちらを選ぼうにも時間がない。しかし、オルガさんが詰め切れなかった相手に僕が適うだろうか? ……いや、悩んでいる時点で無理なんだ。きっと。


「【解錠ピッキング】」


 覚悟を決め、最小ボリュームで魔法を唱えて解錠を始める。あとはズラガルド次第だ。先ほどの一手は切羽詰まり、何とかしようとした苦肉の策だったけど、今考えると好手だったかもしれない。

 僕のメイン職、『ストーカー』のPスキルには[疑心暗鬼]というものがあり、【標的追跡ターゲットサーチ】の対象に、不安とか焦燥の感情を抱かせやすくなるという効果がある。おそらく、ズラガルドは無意識に、あらゆる可能性に考えを巡らせているだろう。これがうまくいけばかなりの時間をかせげるはずだ。


 ……うん、いい感じだ。


 ズラガルドはナイフの確認に付近の蜘蛛、つまり自分ではなく僕のいるドア付近の蜘蛛をつかった。それも警戒しているのか一匹ではなく複数で。僕を量り切れていない証拠だ。しかも、僕を早く見つけたいという焦りからか、それ以外の蜘蛛達には索敵を続行させている。これで大方予想通り。あとはここからどれぐらい時間をかせげるか、だ。

 壁まで索敵が済んだ蜘蛛と、短剣の確認作業が終わった蜘蛛達、つまり全ての蜘蛛が僕のいるドアの前に一定の距離を保って止まる。いよいよタイムオーバーの時間が目前だ。……なのに、このドアの鍵が古いタイプのくせにやけに粘る。まだ解錠できない。このまま、ズラガルドが子蜘蛛達にGOサインをだせばそこで僕は負けるっていうのに!


 あとちょっとなのに……!


 来ないでくれと、汗がかなり滲んできたころ。奇跡が起こった。


 ――え?


 何を思ったか、蜘蛛達は猛スピードで引き返していった。一体ズラガルドが何を思ってこの命令を出したかは不明だが、これは大きい! 

 そしてついに福音が響く。


 ――カチャリ。


 あ……開いた! 間に合った!


 ようやく解錠ピッキングが終わり、鍵の解かれる音がする。バレてはしないかとズラガルドに意識を集中するも動く気配はしない――ん? 糸を張ってる? 何のため? ……警戒を強めるか。


「【防音室サウンドプルーフルーム】」


 このドアは金属製かつ鈍重そうだ。ここで音が響いてバレてしまっては元も子もない。念には念を入れた僕は、音が出ないことをいいことに、思いっきりドアに力を込めて押す。

 ちなみに、静寂サイレントは常に僕を中心に音を消すけど、防音室サウンドプルーフルームは唱えた位置を中心に発動する。動き回るなら静寂、一か所の音を消したいなら防音室が有効だ。……それに、さっきは静寂のせいで肝を冷やしたのもある。部屋を出たらすぐに魔法を使える状態が好ましい。


 よいしょ……重! なにこのドア! 使いづらすぎる!


 本来ならゴゴゴ、とか、ギギギ、とか鳴りそうなほど重いドアを、ゆっくりながらも確実に開いていく。そしてついに、人一人が通り抜けられそうなぐらいには隙間が開く。


 これで……ようやく!


 と、すぐには飛び出さず、トラップなどがないか一応確認し、ズラガルドが動いていないことももちろん意識しながら、僕はこの部屋を脱出することに成功した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ