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勇者にする? 魔王にする? それとも……お料理?  作者: 白米広重
第二章・刀刃帝と獄炎帝
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試練とオルガ 後

 向き合うわたくし達は、お互いの情報を少しでも得ようとまだ会話を続けていた。


「僕はあんまり遊んでいたくはないけどね」

「あら、そしたら何がお望みですの?」


 わたくしの質問に、少年は年相応の笑みを浮かべる。


「そうだな~……蹂躙、とかかな」


 ま、その笑みとセリフとのギャップは半端ないですが。でも、その気持ちは――


「クッヒヒ! わかります!」


 結局、大した情報を得る前にわたくし達の戦いは始まった。お互い、我慢は苦手なようだ。


「【消失バニッシュ】」

「あら……消えてしまいました」


 魔法の発動と共に、少年の姿は一瞬にして見えなくなってしまう。消えた場所中心に気配を探ってみたけれど、感じられるものはない。


「さぁて、どうしましょうか――っと!」


 背中にいきなり光る球が迫る。これは……火球か。いきなり現れたので回避することもできず、それはわたくしに直撃する――が、


「……わたくしにそっち系の魔法は効果ないですの」


 どこからともなく声が響く。


『炎系無効……そうか、君は人じゃないんだね』


 ……声の出どころから居場所を割り出すつもりでしたが、流石そこら辺の対策もバッチリというわけですのね。

 少々落胆したが、それを悟られぬよう会話を続ける。


「あらら、もう気づかれてしまったんですのね」

『事前情報だと君は人間と聞いていたけど、なぜ人間の味方をする?』


 事前情報? なるほど、やはりこの状況はお姉様が――だとすると、ヨウさん達も一応は無事であるはず。

 でも、おそらくわたくしと同じような状況下にあると考えられますわね……これは、本格的に急いだほうがいいかもしれないですの。


「さあ? わたくしは常にわたくしのしたいことをしているだけですわ」

『……君、名は?』

「オルガ、オルガ=プリンシィプス・ザングィスと申します」

『え――ざ、ザングィス!?』


 流石にお姉様の側近、ザングィスの名の意味することは理解できるようですわね。


「さて、こちらが名乗ったのですから、当然あなたも名乗って下さるのですよね?」


 正直、こちらの状況を鑑みるに、わたくしの名で引いてくれるならばそれはそれでありがたいですが――


『う、うっはは! まさか! こんなところで王族と手合わせできるなんてね!』


 まあ、そうですわよね。なんたって、


「わたくしと同族の匂いがしますものね!」


 ……もし、別の出会い方をしていれば気の合ういい友達になれたかもしれないと、ふと思う。でも、今はそのことを残念に思っている場合ではない。

 笑い声は少しの間響いていたが、それも止む。そして、わたくしの質問を思い出したのか、ようやく意味のある声が響いてくる。


『あぁ、申し遅れたね! 僕はルーツディッツ。もうバレてるようだから言うけど、刀刃帝配下の六柱が一柱、魔力を担当するものさ』


 六柱……確か、あのエドヴィルとかいうスライムと、ズラガルドなる蜘蛛男もそうだったはず。最初からわたくし達はお姉様の掌の上だった、ということですか。

 まあ、それは後ほどじっっくりとお話しするとしましょう。今は現状の打破が先ですの。

 わたくしは先程までの展開を思い出す。ルーツディッツの力……部屋の景色を変え、姿を消した。そして火球。まあ、火球は本筋から派生した魔法でしょう……本命の力は景色を変えた事と姿を消した方のはず。

 この二つに共通すること……それは視覚に影響を及ぼすものだったということ。となれば幻覚の類でしょうか?

 思い立ったが吉日。わたくしは掌を眼前で祈るように合わせ、気合いを入れる!


「解ッ! はあああああっ!」


 ……しかし、相変わらずルーツディッツの姿は見えない。

 まあ、そもそもわたくし、幻術の解き方なんて知らないですし。


『……プッ! うはははは! げ、幻術じゃないし!』


 どこからともなく大きな笑い声が響く。

 ……こ、これで奴の力が幻術でないのは確定ですね。たた、多少の恥は……まあいいでしょう。

 となればその力は――


『っと、そろそろ時間切れだよーっと!』


 再び、全く無警戒のところからいきなりいくつもの何かが飛んでくる。あれは――水の球か。


「流石に、じっくり考えさせてくれるほど甘くはないですわよね。で・も」


 突然のことにわたくしは体制を崩してしまう。

 ――けれど


『えっ、本当!?』


 飛んできた水弾は、おそらく大砲の弾ほどの大きさもあったが、わたくしに触れる触れないのうちに全てが蒸発する。


「クッヒヒ! “水”なんて所詮、0℃から99℃でしょう? 戦闘モードのわたくしの前には意味を成しませんわよ?」

『いくら王族だからって……水と炎の二属性無効は反則でしょ!』

「加えて、ある程度の物理攻撃も無効ですわよ?」

『なんでドヤ顔!?』


 なんて、ツッコミを入れている間にも、ルーツディッツは攻撃手段を水から、より高位の魔法である氷属性に切り替えている。いくらわたくしといえど、いきなり予想外の場所から来る超低温の氷を、一瞬で気化させる事は不可能だ。

 わたくしの本来の力、『ウロボロス』の藍炎ラピスラズリであれば可能でしょうが……分身であるわたくしには関係ありません。


「全く……都合よく魔法を唱える声だけ消すなんて、随分とまあ器用ですわね」

『まあね~?』


 攻撃を避けることに集中していても、完全に防ぐことはできない。時間が経つにつれ、わたくしはじわじわとダメージを蓄積してしまう。実は残存魔力もそろそろ心もとない。このまま姿が視認できないカラクリを攻略できなければ、そう長くは持ちそうにない。

 かと言って、こちらの魔力が尽きかけている事を知られるのは愚策でしょう。


「【ファイアーボール】!」


 ハッタリとして、威力はともかく、消費魔力の割に大きさだけはある炎の球を適当に放つ。


「あら……?」


 なんでしょう……炎の周りの景色が歪むのはいつもの事ですが、どことなく違和感が……

 しかし、感じた違和の正体が判明する前に、火球はたまたま扉に衝突して消える。


『無駄無駄。そのドアは特別製で、ありとあらゆる攻撃を無効にする~っていう優れものだから』


 ……扉に衝突したのは紛れも無い偶然なのですが。そうですか、そのドア()、ね。

 想定はしていたが、確証が得られた事でわたくしの口角が無意識のうちに吊り上がる。これで……おそらく脱出できる!


「そうですか、それは残念です」

『……の割には、ものすっごい笑顔だけど?』

「ええまあ。でも、残念なのは本当ですの。今のわたくしではあなたには勝てないので」

『ますますわからないな、僕に勝てなきゃここから出れないよ?』

「まあ、普通ならそうでしょう。でも……わたくしは特別なんですの!」

『何を――』

「【立ち昇る炎(フレイムピラー)】」


 

炎柱が、わたくし(・・・・)を中心に燃え上がる。


『……なんだ、その技で現状を変えられるって?』


 わたくしの行動を見て、あからさまに声に安堵の気持ちが現れる。 それがいつまでもつのか楽しみですわ……


「クヒッ! あなたは、この部屋の景色は変えられても材質までは変えられない」

『それは――そうだけど、それが?』

「床、壁、天井。この部屋は全て石造りですの」

『何が、言いたい?』

「あなたは言いました。ドアは攻撃を無効にする、と。では、その他は?」

『ん? えっ……まさか』

「クヒっひひヒ! この天井の耐熱性はいかほどでしょうね! 【燃えろ(バーンアップ)】!」


 わたくしの強化魔法により、炎柱は勢いを少しだけ増す。


『なんだ……心配し――』

「さあ、お楽しみはここからですの――【燃えろ(バーンアップ)】」


 もちろん、勝負といっても、わたくしと部屋との、ですけど。

 この魔法フレイムピラーのいいところ、それはに入ると敵の攻撃を概ね無効にできるところ。

 しばらくそこで指を咥えて待っていて下さい。


『か、重ねがけ!? くっ!』


 氷の粒手がいくつも飛んで来るが、炎に弾かれわたくしに届くことはない。


「【燃えろ(バーンアップ)】【燃えろ(バーンアップ)】【燃えろ(バーンアップ)】!!」


 炎はわたくしの周りから、円を描きつつ上へと登り、ユニコーンの角のように頂点で合流する。このような立ち登り方のため、例え一瞬のうちに氷を気化されられずとも、その熱風で弾き返す事ができる。


「【燃えろ(バーンアップ)】!」

『えっえっ、ちょっとちょっと!』


 少しずつとはいえ、炎柱は確実に威力を増している。そして、ついに赤い塊がわたくしの近くに落ち始める。


「くひっ! まだまだ――【燃えろ(バーンアップ)】【燃えろ(バーンアップ)】【燃えろ(バーンアァップ)】!!」


 ボトボトと、もともと天井であった赤い塊はどんどん落ちてきて、固まり、そして積み上がる。

 炎柱は先端部が最も温度が高く、下に行くほど低い。このわずかな温度差で岩石は液体から固体へと変化する。

 まあ、調節はその分かーなーり、シビアですけどね。そこは、流石わたくし。

 そして、溶けて再び固まった岩石を登って行く。ルーツディッツみたく空を飛べれば楽なのだが……いくらなんでもそれは高望みだろう。


「クヒ! では、確実に一歩一歩登っていきましょうか――【燃えろ(バーンアップ)】」


 先程までお喋りだったルーツディッツも今や黙ってしまっている。それもそのはず。今や、炎の壁には氷やら風らしきものやら岩やらがひっきりなしに襲いかかっている。魔法を唱えることで手一杯なのだろう。

 でも、今やわたくしの壁は厚く、精強。果たしてあなたに攻略できるでしょうか?


「なんて、意地悪する暇もなくゴールですわね」


 炎は天井を貫き、別の空間と繋がったことを示す光が射しこむ。


『……ま、まさか、こんな力任せのゴリ押しで攻略されちゃうなんて』

「悪いですわね、お先に失礼いたしますわ」

『……いいの? 倒して行かなくて』


 声に悔しさを隠しきれていない。もしかしたら、精神は見た目通りの年齢なのかもしれない。


「この炎柱はわたくしがいなくなっても、しばらくは燃え続けますの」


 追撃したければご自由に、という意味を込めてそう告げる。見えはしないが、ルーツディッツの悔しげな顔が眼に浮かぶ。


『…………ああくそっ! 次は、負けないから!』

「クッヒひひヒ! そうですわね。なかなか楽しかったですわ。それでは、御機嫌よう」


 溶けた岩石を登りながら思う。

 実際のところ、このルーツディッツという者はかなり強かった。魔力が残り少なかったとはいえ、このわたくしが勝ち越せなかったのだから。それに、結局消えたカラクリも解明できなかった。

 もし、わたくしの予想通り、ヨウさんたちも同じような状況下に置かれているとしたら、かなりまずい。いや、もしかしたら……もうすでに――


「い、いやいや! そんなことあるはずがありませんの!」


 万が一の結果から目を逸らしつつ、岩石を登って穴までたどり着くと、狭い穴をヤモリのようによじ登る。

 それに、もし仮にそうだとしても、今のわたくしでは援護に向かっても役に立てそうにない。それほどあの戦いは綱渡りだった。だから、わたくしにできることは信じることくらい……。


「どうか、みなさんご無事で……」

オルガだけで4000文字超えるとは想定外

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